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龍と謎と前世  作者: 夏蜜柑/甘楽
第1章。黒夜は前世の記憶を思い出す。
8/27

短編。 元S級冒険者ヴィダンの過去。

今回はヴィダンの過去編です!


本編にはちょっとしか出てこないので飛ばしてもらっても構いません。

ですが少しでも興味があるなら是非読んでください。

一括りにヴィダンが悪いとは言えなくなりますので。盗賊にもいろいろあるのです!私はそう信じています!!


少し長くなりましたが、短編と言っても必ず黒夜が絡んできますので、黒夜目線になってしまいます。そこはご了承ください(ぺこり)。

では楽しんでください!

(ちなみにこれからきっと出るであろう番外編は黒夜目線ではないと思いますので、黒夜以外の目線で見たい方はそれまで待って頂けると幸いです!)

 これは俺がマリアさんと行った貴族のパーティーから半月ぐらいたってある日にやっと知ったことだ。俺はその頃、この世界の書物を読み漁っていたのだ。そんな中、他のS級冒険者については書かれているのに、ヴィダンに対しては『極悪非道の盗賊。元S級冒険者のヴィダン』としか書かれて居ないのだ。その為、本当にそうなのかとすごく気になり、ヴィダンが居た村に行ってみて、話を聞いたのだ。

 まあ今度会った時に謝ろう。俺がものすごく無神経に言葉を放っていたこと。



 ーーーーー

 ヴィダンは元々好青年だった。

 剣の才能があり、人一倍の努力をして、それに溺れず怠らなかった。そうして気がつけばS級第38位になっていた。



 彼は、ネバーレフィス王国の南西部にある農業地帯の村シュレーネで産まれた農家の長男だった。

 両親とも、ヴィダンは長男なため家を継ぐと思い、色々なことを教え育てた。それはもう色々と、農作物の特徴とか農具の使い方とか農業に必要な知識を。けどそれだけで済まさず、剣術などを村の衛士に頼み教えてもらっていた。


 そんな、両親の思いを全て受け取って育ったヴィダンは、誰にでも優しく困っている人をすぐ助けるような17歳の青年に育っていた。

 彼は村人達から好かれ、妹や弟達からも頼られるようになっていたある日、彼は1人の行き倒れていた同い年ぐらいの少女を助ける。その少女は何も話さず名前しか言わなかった。名前はリィナと、最低限会話しかしなかった。



 そんな彼女を信じずに罵倒し、追求して挙句に追放までしようとし始めた。そんな村人達からリィナを守り、説得した。

 けれども、やはり納得しない村人はいて、好きあらば追い出そうとするため、基本四六時中一緒にいて守っていたのだ。

 しかしそんなこと知らないし気がついてないリィナには、ヴィダンはストーカーにしか見えず、ずっと信じずにいた。


 勿論そんなのは長く続かない。だってずっと気を張っているだなんて、常人には不可能なことだ。

 生憎、ヴィダンは剣術を学んでいたし、すぐ近くに森があるため警戒もしていた。それが長年続いたため気を張り続けることに慣れてしまっていたのだ。


 そんなこととは知らずに1週間経ったある日、夜に差し掛かった時刻、リィナはヴィダンの目を盗んで逃げ出した。


 そして、それを陰から見ていた村人達も動き出した。



 ヴィダンは晩御飯のためリィナを呼びに来て気がついた。村人達の嫌な目線がないことや、部屋から返事がないことが。


 急いで部屋をこじ開けたところ、やはりリィナは居らず、ヴィダンは最悪を考えて護身用の片手長剣だけ携えて家を出た。


 その日は雨上がりの日だったため土がドロドロで泥濘んでいたため、リィナの足跡や複数の4、5人くらいの村人達の足跡も確認できた。

 その後を追いながらヴィダンは夜の森に入っていた。

 それが運命の第一起点だとは気づかずに。



 森の魔物は、一般に出る魔物よりも危険だと言われる。


 理由は三つある。


 まず一つ目は、集団で戦闘をするため魔物が連携を行ってくるのだ。

 その為、1人パーティーの冒険者やE級以下の冒険者は特例がない限り入るのを注意している。一様禁止はしていない。入ったとしても厳重注意程度で収まる。

 死んでも自己責任ということだ。


 二つ目は、森の魔物は基本上位種と呼ばれる魔物が跋扈している。その為一般的な魔物と戦う感覚でやると、すぐさま返り討ちにあう羽目になるのだ。運が悪いと帰ってこないらしい。


 そして三つ目が、夜だ。基本魔物は昼も夜も変わらない。ずっと起きて蔓延り、人を襲う。が、森の魔物は違う。奴らは夜寝るのだ。理由はわからないが。

 そしてこの夜が危険度をグーンとあげる。

 何もしなければ寝ているが、刺激したり騒いだり、攻撃すれば激昂して特攻してくる。その状態の魔物は力も速さも尋常じゃなく上がる。


 そして今が夜は夜だ。武器も持たずにどうにかなる場所ではない。嫌な予感がしてヴィダンは足を速める。



 やはりと言うか案の定と言うか、村人達も一緒に魔物に囲まれていた。しかもかなりの魔物の数に。きっとリィナが叫んだんだろう。その声に反応して起きて襲ってきたんだろう。


 だが生憎にもこの時にはヴィダンの才覚は現れていた。10体以上の魔物にもおじけず。魔法と自己流の剣術で上手く敵をしのぎながら、リィナだけではなく村人達も一緒に守る。そしてゆっくりと交代しながら、森で泊まり込んでいた冒険者達のところまで誘導して、一網打尽にする。


 実は冒険者達に事前に話しておいたのだ。しかし冒険者達はそんなことできるわけないだろうと半信半疑だったのだが、本当に連れてきたから口が閉まらなかったらしい。まあ普通は人を守りながら、複数の魔物を誘導するなんてのは無理ゲーだ。その為それをしたヴィダンはあっという間に村の一番近くの町にまで話が行き、気がつけばヴィダンは冒険者になっていた。


 一部の村人達も、もうリィナを襲うことはなくなり、より一層ヴィダンの言うことを聞くようになったらしい。

 そしてそれはリィナも同じだった。襲ってきた村人達に捕まって、しかも何十体もの魔物に囲まれて、死ぬと思っていたところに助けられたのだ。自然と恋心を向けてしまうだろう。


 だが一番変わったのは、実はヴィダンだった。

 村人達と一緒に村に帰ってきた後、リィナは自分の気持ちをはっきりさせる為に頬にキスをして確信したのだが、それによりヴィダンも気づいたのだ。


 最初は哀れみや、同情心で良くしていたが、既にその気持ちが恋心に変わっていた事に。意識してしまっていた事に。


 そしてそれがわかれば急激に関係は変わる。元々同じ家で暮らしていることも相まって、どんどん距離が縮まり、気がつけば2人は付き合っていた。



 ヴィダンはリィナと付き合ってから冒険者行に力を入れていた。

 少しでも強くなり、リィナをどんな状況からでも、どんな場所でも助けられるようにと。まさに愛のなせる技である。


 ヴィダンは幼い頃から農作業をしていた為、筋力や体力、足腰などもかなりできていた。

 そして何より、彼は剣術の才能があった。彼の性格上、やることはとことんやるし、手加減というものを知らない。

 そんな彼が農作業をして冒険者業をして、毎日筋トレと走り込みに剣の素振りと型作り……なんて濃いことを1年以上続けていたらとんでもない筋力と脚力、そして普通ではない体力ができてしまう。


 その鍛え上げられた肉体はムキムキのゴリマッチョではなく、19歳の一般男性よりは多少ガタイがいい程度で収まった。

 元々、ガタイがいい方ではないヴィダンが此処まで鍛えればさすがに肩幅も大きくはなる。

 そしてその特性のおかげでヴィダンは圧縮された、頑丈で硬く衝撃に強い筋肉が出来上がり、遂に荒れ狂う風魔法を剣にで力任せに振り切る事により、斬撃を飛ばす技が完成した。

 それからは魔法の練習もして剣に乗せるだけではなく、纏わすという高度な技を練習もしていた。

 ヴィダンは風魔法に特性があり、中級魔法までなら使えた為、必死に練習してかなり使えるものになるようにした。

 そうしてやっと剣に纏わせ流事に成功する。



 これはさらに1年を要したが。この自己流剣技[不動詰風]によりS級冒険者になるのはそう時間がかからなかった。

 

 さらにもう一年が経ち、21歳の時彼はS級冒険者の試験を見事クリアしてその名を轟かせることになる。ヴィダンはグランさんがS級になるまで最速のS級昇格の記録持ちだったのだ。それほど冒険者を始めて10年以内でS級まで上り詰めるのは大変なのだ。それをたった3年で達成した為、自然と有名になっていたのだ。


 そしてそんな彼とずっと一緒にいる女性、リィナの事も自然と人たちに知られてしまう。



 ヴィダンがS級冒険者になってから1年ぐらいたったある日、王都の上級貴族、メイヤーシア・ガバジーディンの部下達が来たのだ。


 部下達はリィナが目的で、彼女を連れていこうとしたのだ。


 メイヤーシア・ガバジーディンは上級貴族の中でもかなり権力が強く、厄介なものとして扱われていたのだ。そしてメイヤーシアはネバーレフィス王国でも珍しい “嫌な貴族” で、けれど地位が高いため追放できないという状態なのだ。


 それをいいことに、メイヤーシアは美しい女性を見つけては屋敷に招き。強い権力を振りかぶり無理やりに汚し、要らなくなったらすぐに捨てるという暴虐を繰り返していたのだ。本当に見事な愚図だと思った。今では既にヴィダンにより潰されていて、ネバーレフィス王国にはガバジーディンの名を持つものは居ない。


 これは意外と貴族の中では有名な話で、リィナもこの話を知っていたため上級貴族が住むあたりには行かずにしていたのに、ある日、偶然にもメイヤーシアの目に写ってしまったのだ。貴族の中でもかなり可愛く街でもその可愛らしさと誰にでも笑顔を向けるその姿から人気が高かったリィナの姿を。



 リィナは怖くてでもどうしようも無くて、自殺をする勇気もなかったため、逃げることにしたのだ。自分が死んだように偽装して。

  もし自分が逃げたとわかったら両親に迷惑がかかる。そうなれば確実に殺されてしまうだろう。それだけは絶対に嫌だったのだ。自分の事を大事に、しかしちゃんと育ててくれた良心を見捨てるのだけは我慢出来なかったのだ。

 この時ヴィダンは納得していた。無理矢理にでも捕まえようとする部下達がペラペラと饒舌に話してくれたおかげで。それはヴィダンがずっと気になりながらも怖くて聞かなかったこと。どうして初めてあった時、リィナは倒れていたのか、と。

 そんな事を考えていたせいで、動くのが遅くなってしまったのだが。



 リィナは震えながらもなんとか逃げ出した、けれど部下達が逃がすわけもなく、更に男と女では捕まるのも時間の問題だった。

 事実、リィナは1分経たずに追い詰められてしまった。もし5年前だったらこれで捕まっておしまいであったが、今ではヴィダンが居るのだ。当然ヴィダンは護るように前に出る。その時はたまたま訓練に行こうとしていたため件を持っていたのだ。けれどそれが仇になった。


 それはリィナも護身用の短剣を持っていたのだ。


 ヴィダンは当然ながらリィナを護る気でいた。つまりそれはリィナは自分の仲間だと思っていたのだ。その為、一切リィナには不信感を持っていなかった。それは部下達が発した言葉によってリィナがひどく狼狽したのにも気が付かないほどに。


 リィナはその言葉に一瞬揺れるだけだったがすぐに理解した。その言葉の意味を。

 その言葉とは『家族のことが心配じゃないのかい』だった。そして意味を理解した瞬間に浮かべた悲壮な顔を部下達は見捨てなかった。

 そしてそんな状態のリィナにこんな言葉までかけた『逃げた事を罪だと思っているなら、その目の前の餓鬼を殺せ』と。リィナにはもう我慢出来なかった。確かにヴィダンは大切な人だし、実際にとても愛していた。けれどさっきの言葉は言い換えれば『家族の身柄はこっちで預かってる。だから此方に来い』

 と取れるのだ。


 そんな言葉を言われてはもう止まれない。言われるがままヴィダンを背中から短剣で刺し

 、部下達と一緒に行ってしまった。

 リィナはちゃんと死なない様に刺したし、ヴィダンはS級冒険者の名の通り、魔法の扱いにも慣れていた。その為、一命は取り留めたが、ヴィダンは酷く落ち込んでしまった。


 それは仕方がないだろう。彼は最愛の女性を護るように立ちはだかったのに、後ろから刺したのだ。ひどい裏切り行為だろう。

 そのためか、いつもなら気づくであろうことにも気が付かなかったのだ。


 そしてそんな状態である伝達書が出された。

 それは『元S級冒険者のヴィダンは極悪非道な盗賊』というものだった。

 これによりヴィダンは完全に裏切られたと決めつけてしまった。もう冷静な判断はできなかった。


 このままでは村の人たちにまで迷惑をかけてしまうと考えたヴィダンは家を出ることにする。村人達はヴィダンがそんなことをするはずが無いと。どうせ、今この場にリィナとかいう女の原因だろ、と。しかしそんなセリフに苦笑いを返して彼は去っていた。しかし彼の噂は隣国まで広がりS級冒険者だったこともあり顔が知れ渡っていたのだ。

 そのため、なし崩しに盗賊になり今に至るということらしい。


 ちなみにその伝令を出したのはメイヤーシアだ。彼はつくづく屑であった。


 ーーーーーー


 ここまで話せば気がついた人はいるかもしれないが、実は俺村人以外にも話を聞いていたのだ。まあ言わずともわかると思うがリィナ・エルフィンだ。

 彼女はこの前の貴族パーティーに参加していたらしい。まあ剣を交えた感じ、ヴィダンは気づいていなかったぽいけど。


 そんなリィナは今では毎日のようにヴィダンの元へ会いに行っているそうだ。



 俺はこの話を同じ剣士として名誉挽回ぐらいさせて上げてもいいかなと、本にすることに決める。

 この前こっそり前世の知識を使って活版印刷機を作っておいてよかった〜。


 まあそんなことはどうでもいいのだ。



 本のことをリィナに伝えた結果、もし入れるならこの言葉をつけておいてと言われた。

 俺はそれに対してもちろんと答えた。


 ちなみに、この前の貴族パーティーに乱入したヴィダンは俺が倒したことになっていて、騎士団にすごく感謝もされ、何故か街で有名になってしまった。


 きっと、そんな俺が書く本だ。きっとみんな信じてくれるだろう。

 もちろん大量に印刷するからみんながお手軽にリーズナブルな金額で買えるだろう。そうすればあっという間に広がりヴィダンも出所が速まるだろう。だが、何よりもヴィダンについての印象が変わるだろう。そうすればもう1度、真っ当に剣を持ち、降る日が来るだろう。俺はそれを願って本を書いた。



 リィナが最後に書いてほしいと言った言葉は、まあ当たり前の言葉だった。言われなくても多分で書いたと思う。そのセリフとは。


『私は今でもずっとヴィダンを愛している』



「そんなのは、話を聞いていれば誰でもわかるよ。痛いぐらいに伝わったから。」



 俺はその言葉を思い出してそう呟き、筆を滑らせるのであった。




どうでしたでしょうか。


初めての短編ということで、上手くかけませんでしたけど面白かったでしょうか。


これを読めばきっとヴィダンのイメージが変わると信じております!

私のヴィダン像が皆さんにも伝わればいいなと思います。


今回も最後まで読んでくださりありがとうごさいました!


ちなみに裏話はありません!

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