第1話 フリンゼカグヤの目覚め
予定よりかなりかかってしまいました(汗
月にニ度は掲載したいと思ってます。第2話も頑張って書きますのでどうぞ宜しくお願いしますm(_ _)m
……話は少し前まで遡る。惑星ハルマからやってきたヤルマルティアの某銀河級突撃バカが某ホエホエフリンゼを追いかけて回廊に突っ込もうとするころだろう。ある、フリュが母や妹とともにそこへ訪れていた
〜レントゥーラ総合医療センター〜
この病院の病棟には数千人にも及ぶ精死病患者が『入院』している。
……いや入院というのはあくまで私のむなしい抵抗に過ぎない。実態は『収容』だ。『退院』の見込みなどないのだから。
マルマと妹それに私の三人でファルンの『入院』している病棟に向かう。
世間はヤルマルティアからの特使で盛り上がっているところだけど私たちには関係ない。
「あなた、アレクタル……今日も来たわ」
マルマがカプセルから出てきた赤毛のデルン―ファルン・アレクタル―にやさしく声をかける。
60周期—外見年齢30歳―を少し過ぎたばかりにしか見えないファルン、ダストール人とのハーフであるということを除けばどこにでもいるデルンだ。だが私のファルンというよりは年の離れた兄か年の近い叔父にしか見えない。
私はもう五十周期を過ぎた。あと十周期と少しもすればファルンの年に追いついてしまう
「ファルン今日もおねむですかー? 早く起きないとクリーヌちゃんも姉さまもミィアールしちゃいますよー?」
脳天気な声で楽しそうに語り掛ける妹―クリーヌ―に内心ため息をつく。深刻な顔で塞ぎこまれるよりはいいだろうがこれはこれでどうなのかとも思う。
ファルンが目を覚まさなくなったのはこの子がまだ8周期かそこらの時。物心がついたばかりのころに脳エミュレーションデータがファルンに置き換わってしまった。幸か不幸か最後に仮想人格を更新したのが倒れる数日前だったこともあり、幼い妹は倒れる前にしていたおしゃべりの続きをプログラム相手に行っていた。それが私の虚無感を一層強いものにした
もちろん妹も成長し、家のファルンは作り物だとわかってはいるがそれでも毎日仮想人格に語り掛ける。そしてそれを聞いているという前提で本物のファルンにも話をする。
たとえそれがファルンに届いていないとしても
「今フリンゼとヤルマルティアのファーダが頑張ってくれてますよ。もしかしたらファルンも起きれるようになるかもしれないって!」
そんな夢物語を話す妹
「そんなことあるわけないじゃない」
思わず口をついて出てしまうと妹がキッとにらむ
「そういうことを言ってはダメですよ姉さま!! ナヨクァラグヤ様が目を覚ましたようにファルンだって目を覚ますかもしれないじゃないですか!!」
「でもナヨクァラグヤ様以来1000周期もの間一人も目を覚ましていないじゃない。そんなのなにもないのと一緒よ」
「一人でも前例は前例です!」
そのまま姉妹喧嘩になりそうなのをマルマが止める
「やめなさい二人とも。アレクタルの前で騒がないで頂戴。自分のせいで喧嘩したなんて悲しむでしょう」
その言葉に二人とも力なく止める
「「ごめんなさい」」
私だってほんとは妹のいう通りになってほしいと思ってる。妹だってそれがすごく低い確率だってわかってる。
おとぎ話の世界ヤルマルティア。それは私達ティ連人の前にアマノガワ銀河太陽系第三惑星地球地域国家ニホンという形で突如出現する。
ノクタル創世記をはじめ物語が大好きなファルン。私達を膝に乗せて読んでいた時も私達以上にのめり込んでいたのを覚えている。
だったら今ごろヤルマルティアの大使が来てると聞いたらきっと大興奮で時事情報データバンクにかぶりつきだっただろう。ヤルバーンに応募する。落ちたら密航するなんて言い出したかもしれなかった。
ほかの家の子のように家族でファーダ・カシワギ―もしかしたらエルダラ・カシワギになるかもしれない人―の来訪を旗降って家族総出で出迎えに行ってたかもしれない
そんな些細な事が私達には夢物語なのだ。
だけどそんな小さな願いを叶える事が出来るようになるのかもしれない。
カグヤの帰還作戦に期待する人々は多かった。マルマも妹も、それに……
突如として院内に警報が鳴り響く。
「な、何⁉︎」
いきなりの事に意識が現実に引き戻される。ヴァルメのビーム一本で消せる火事ぐらいでこんな全館に鳴り響く様な大袈裟な警報を作動させるとは思えないし、まさかガーグ・デーラでも襲ってきたのか!? などと不吉な考えが頭をよぎる
「いやいやガーグが惑星に来たことなんて一度もないですよ姉様」
呑気に口から漏れてたらしい私の心の声に突っ込む妹。
普通の施設なら逃げようとする人が右往左往するだろうがほとんどの人はカプセル内の家族に引っ付いて離れようとしない。たまにいてもその人達はカプセルから家族を引きずり出して背負って逃げようとしていた。
そしてマルマは…
「私はアレクタルと一緒にいるわ。あなた達は外に出なさい」
当然の様にファルンの手を抱きしめて運命を共にするつもりだった。 マルマは私達の前では絶対弱音を吐かないけど精死病になったファルンに縋りつくようにハラハラと涙を零していた事を覚えてる。 昼は私達の育児に夜はファルンの見舞いと、倒れて親戚一同に止められるまで止めようとしなかった。 そんなマルマがファルンを見捨てるなんてそれこそ宇宙が滅びてもあり得ない。あり得ないが……
「ちょ、マルマはどうするんですか!?」
絶句してしまった私の代わりに妹が尋ねた
「私はここにいる。アレクタル・フェデル・ダーハウスの元に。今も前の因果も次の因果でも。だけどあなた達は違う。今あなた達はまだこれから一人のフリュとしてのストーリーを紡がなくてはいけないんだから」
もうマルマも疲れてしまったのかもしれなかった。精死病患者をナヨクァラグ様の事故と同じ状況におくという前代未聞の発案者の正気と脳の構造を疑う実験に立候補しようとして妹を除く親戚友人全員から反対されたが、もし成功したら…という希望もまたあった。その矢先にこの警報である。
心が折れてしまったのかもしれなかった。だがだからと言って置いていくという選択肢もないわけで
「寝言は寝てから言ってくださいマルマ! それならファルンを連れて行けばいいだけです! だいたいマルマ達を見捨てて仮装ファルンになんて言い訳すればいいんですか!?」
そういってサポーターを造成して反対の腕を掴んでファルンを抱えようとする妹。だが足手まといになると止めるマルマ。家族愛故の美しい争いであるが……
「……二人とも、もう警報はとっくになりやんでるわよ?」
「「ファッ!?」」
まもなく〝システムに急な負荷がかかった故の誤作動であり安心してほしい〝、と放送が流れ、家族を背負って逃げ出した人も顔をピンクに染めて気まずそうに戻って来ていた。
その様子に二人とも顔をピンクに染めて俯いてしまった。
「全くクリーヌの言う通り早くファルンが目を覚まさないから二人が早とちりをするのよ。フリンゼが戻って来たら叩き起こして貰いなさい」
そう言ってクリーヌが掴んでいたファルンの腕にそっと触れる。クリーヌの体温が移ったのか少し温かい。普段は仮装造成されたゼル通信の相手のように温もりもなければ冷たくもないのだが
「あら?」
「あれ?」
二人が怪訝な声をあげる。
「どうしたの二人とも?」
そう尋ねたら周りもざわつき始めたのに気づく
「ん?」
「マルマ?」
「あ…?」
「え…」
「なんで?」
家族によりそっていたり、カプセルに寝かせようとしていた人達が声をあげている
「ファルンの手があったかいような……」
クリーヌの呟きに思わずぽかんとしてしまうがすぐに突っ込む
「いや、何言ってるのあなたの体温がうつっただけでしょう」
その言葉に被せるようにマルマも言う
「いえ触ってたところだけじゃないわ、他のところもちょっといつもと違う気が……」
マルマまでそんなことを……。私はため息をつく
「ちょっと二人ともやめてよ。さっきの騒ぎで手に汗でもかいてたんでしょう。だいたいフリンゼやファーダ・カシワギがなにかしてたとしてもお二人はハルマにいるのよ。そう簡単にホイホイ起きれるわけが…」
そんなことを言ってるとバタバタどやどやと医療スタッフが大挙して押し寄せる。皆様々な器具を持ち鬼気迫る表情で目を血走らせている。
その様子に病棟内にいた見舞い客は唖然とし、幼い子が怯えて泣き出していたり。
そんな物々しい彼等はたまたまカプセルが開いていた中で一番近かった私達のもとへやって来る。余りの気迫にマルマはサッとファルンや私達を隠すように立ちはだかった
「私の家族になんの御用ですか」
「ケラー、ご主人の容態を少し見せていただきたい」
「では、先に何をするのか教えて下さ……」
「ファ、ファルン⁉︎ ファルン!」
何やら険悪な空気をクリーヌの叫びで吹き飛んでしまう。その余りの切迫した声に私もマルマもスタッフも妹に注目する。
「な、何?」
「どうしたの!?」
「どうされました!?」
三者三様に迫られてたじろぐ妹だが直ぐに気を取り直してファルンを指差す。
「ファルンの胸が一瞬動いたの!」
あり得ない言葉に全員目を剥いてファルンを凝視する。が、特に何も起きない。別に瞼がピクリと動いたとかそんなこともない。
「またもう! 人騒がせは止しなさいって言ったでしょう!」
「でも、でも! 本当に少しだったけど確かに上下してた!」
また言い争いになりそうな私達にスタッフが割り込んだ
「落ち着いてくださいお嬢さんがた。私達はそれの確認の為に来たのです」
「あなた達まで!」
「クロレーヌ! 話は最後まで聞きなさい!」
マルマにピシャリと言われて渋々引き下がる。マルマもさっきまで一触即発だったのに……。
「先程の警報が鳴った時、突如として大量のデータがシステムに一斉送信されてきました。その出所はこの病棟の脳ニューロン及びバイタルデータでした……」
その言葉に私達はもちろん周りにいた精死病患者の家族達は完全に石化した。
諦めきれない家族が時々蘇生処置を施して呼びもどそうとする試みは何度も行われているが当然脳ニューロンデータは取れないし、一時間も経たない内に心臓は再び停止しまた時が止まってしまう。子供の時に何回か試して貰ってスタッフに八つ当たりした事もあるから分かる。あり得ない。そんな事は
ギギギギ……とファルンの方に顔を向けたその時、私の目に
微かに上に動いた胸部が映った。
「う、嘘……」
その場にへたり込むわたし。スタッフがファルンのカプセルについていた生命維持装置を弄り出す。そこに表示されていたデータを見て彼は息を飲んだ。
「ケラー・アレクタルのデータ……。呼吸極めて微弱……脈拍も極めて微弱……新陳代謝機能も極めて微弱……。微弱です。微弱ですが……。脳ニューロンデータも取れます……。間違いありません。生きてます。……もはやケラー・アレクタルは精死病患者ではありません!!」
その言葉を聞いてマルマとクリーヌまでがヘナヘナと腰を抜かしてしまった。
暫し沈黙する一同。が、次の瞬間爆発するような歓声と共に病棟中の家族が押し寄せた。
「じゃあ! じゃあ! 私の娘も目を覚ますんですね!?」
「良かった!これでマルマも…!」
「ケラー! 兄を見てください」
「いやいやうちの婿が先です!」
「いーや妹が先だ!」
たちまちスタッフが家族に取り囲まれ、引っ張り合いになり、あちこちで順番を巡って喧嘩になっていた。だがその顔は喜びと期待に満ちた生のあるものであり、数時間前までの亡者のような悲壮な顔とは大違いであった。
「あなた、あなた。アレクタル……。良かった……。良かった……。あなたあああああぁぁぁ……!」
私達の前でファルンに縋り付き、涙を流すマルマ。だがあの時の哀しみの涙ではない、我慢する必要の無い涙だった。
クリーヌも横でぐしゅぐしゅと顔をクシャクシャにして涙を流していた
「うぅ……。マルマ、良かったですよぉ」
「あはは、クリーヌあんた酷い顔よ」
「ね、姉様だって顔が滝のようじゃないですかぁ!」
そう言われて手を頬に当てると熱い液体が途切れる事なく流れているのに気がついた。全く気付かなかった。もはや枯れ果てて流れる物などないと思ってたのに。
「姉様綺麗です」
「な、なによぅ。あんたに負けず劣らず泣きブスでしょうが」
「いいえ。凄く素敵な顔です。姉様今まで例え笑っててもどこか影がありました。とても、とても、綺麗な顔。上手く言えないけど何だかクアの殻が取れたような、そんな顔です」
そう言われて気付いた。そうか、私は何とか心の折り合いをつけたと思っていた。悲しみが深すぎて、涙を流すという防衛反応すらできないほどに心が追い詰められていたんだ。
だからヤルマルティア計画とかカグヤの帰還作戦とかの情報もどこか他人事のように捉えていたんだ。ダメだった時に心が壊れないよう最初から期待しないように。クリーヌの希望を感じる言葉に噛み付いていたのもそのためだったんだ。
ワタシナンテ醜イふりゅナノ……
少しでも明るくしようとする実の妹に黒い感情をぶつけていたなんて……!
「ごめん。……ごめんね!」
「わっ!?姉様どうしたんですか」
「私、お姉ちゃんなのに…! あなたに酷い事、何度も…!」
「大丈夫、大丈夫ですよー。私だって色々無神経な事言ってましたし……」
「クリーヌ……!ごめんね、……ごめんなさい……うわあああああん……」
「うん、うん。……姉様、泣いて泣いて泣き止んだら、どうか自分を許してあげて下さいね…」
妹に縋り付いてわんわん泣いてしまった私はやがて泣き疲れて眠ってしまった。
間も無く『入院』患者全てがバイタルを確認出来ると家族もスタッフも喜び涙を流し抱き締めあい喜びを分かち合った。とはいえそう簡単に何千人も一度に蘇生処置が出来るわけもなく、まずはその日病棟を訪れていた人の家族から始める事になった。
またその前後に起きた家族同士の喧嘩やパニックもあったことから間も無く時事情報データバンクを見て押し寄せるであろう精死病患者の家族の群れに対する対策が大急ぎで取られる事になった。
ここは間に合ったが他の施設だと間に合わずに数百人の家族にスタッフが飲み込まれて急遽出動した治安組織に制圧された医療センターもいくつかあったらしい。
時事情報データバンクによると、あの警報がなる少し前に実験に参加していた精死病患者のバイタルが復活し、そのデータにナヨクァラグヤ様のデータが反応してあの騒ぎになったらしい。
あのファーダ・カシワギはたった数日の滞在で私達家族の三十周期以上もの悲願を……いや、違う。ティエルクマスカ銀河共和連合の一万周期来の悲願を呆気なく解決してしまった。
伝説の国ヤルマルティア。最初作戦を聞いた時は正気を疑ったが流石はナヨクァラグヤの聖地。私達には想像も付かない賢者の集まりなのかもしれない。
そして今私達はファルンの目覚めをここで待っている。やがてさっきの医療スタッフがこちらにやってきた。
「お待たせしました。ケラー・アレクタルへの面会許可が降りました」
「「「!!!!」」」
「そ、それで夫は……アレクタルはどうですか?」
「目覚められた当初は相当な狂乱をされていましたが、今は落ち着いて記憶の整理をされております。ご自分が精死病だったことも概ね理解されたようです。ともあれ、まずは顔を見せてあげて下さい。さあ、どうぞこちらへ」
小声で誘われる。そこから部屋までの時間は一瞬のようにも数時間のようにも感じられたフワフワとした感覚的な記憶しかない。そして、ついにたどりついてしまう。
誰がそのドアを開けるか目線でマルマとクリーヌに相談する。喧々郭嘉の議論に医療スタッフに汗マークをかかせたのちようやくマルマに決まる。その部屋の入り口を震える手で開ける。
シュン、と扉が開くとそこにはPVMCGで何かを必死で記録している若い…といっても青年というには年のいった赤毛のデルンがそこにいた。だがそんな感想を抱いたのもほんの一瞬。
彼の姿を見た瞬間……私は手で口を覆った。ファルンだ。間違いなくファルンだ。家で仕事をしてる時あんな風に使っていない方の手の指をトントンと叩きつつ読んだり記録したりしていた。コップを手に取っても掴むだけでなかなか口に運ぼうとしなかったり、眉間に皺を寄せて目をぎゅっと瞑ったり……。そんな忘れていたファルンの癖一つ一つが懐かしくて、信じられなくて。
隣のクリーヌが息を飲んだ音にピタリと動きを止めた。
「スミマセン。今チョット手ガ離セナイノデ後ニシテクレルト助カ……リ……マ………?………………!?」
その気配に気づいたのかこちらを振り返ったややダストール風の面立ち。私たちの姿を目にした瞬間。ポカンと口を開けて固まってしまう。そうそう、ダストール人にもイゼイラ人にも見えるから「ダストール人が敬語しゃべってる!?」とか「イゼイラ人なのに羽髪じゃない!?」とか時々驚かれてたなあ。
暫し呆然と私達を写していたその優しい瞳。その紅い瞳の私達の像が滲み出しやがて雫となって溢れ出した。
「ラーシャ……クロレーヌ……クリーヌ……」
「あなた!!」「ファルン!!」「ファルン~~~!!」
もう私達は我慢出来なかった、私は、私達はファルンの元に駆け出す。その胸に飛び込むや否や、その太く硬い腕で潰されそうな勢いで抱きすくめられた。
その温もりも、力強さも、匂いも何もかもが懐かしく、何十周期の時を経ても変わっていなかった。
「ミンナ……ミンナ。オオオオオォ……三人トモココニイルンダネ? 夢ジャナインダネ?」
その掠れた低い声すらも懐かしくて、嬉しくて、涙が止まらなくて、言いたいことが一日あっても足りない程なのに嗚咽しか出なくて。
ファルンの腕がますますきつくしめられるのに苦しくなかった。乱暴に髪がクシャクシャと撫でられる。ああもうやめてよ。ファルンと違って私達の羽根髪はそんなグシャグシャにされたら直すの大変だって何時も言ってるでしょ。なのに、なのにどうしてこんなに嬉しいのよ私は。あんなに子供の頃は嫌だったのに。
ファルンがまだ何かモゴモゴ言ってるけどもうどうだっていい。だってファルンが帰ってきた。それで充分じゃない。
覚えているのはそこまででやがてまた泣き疲れて眠ってしまった。クリーヌに抱き枕にされて椅子で眠る。願わくばコレが夢じゃありませんように。
その日コッソリ様子を見守っていた医療スタッフでさえ涙が止まらなくなる光景がこの施設の記念すべき第一号患者であった。この施設でこの日だけで数百、イゼイラ全体で数万の涙無しに語れぬ再会劇の一つに過ぎない。
第二病棟患者No.0000721アレクタル・フェデル・ダーハウス。当時六十四歳。精死病発症後三十四.二周期を経て生還を果たす。