エピローグ
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──私と左記子の物語はひとまずここで終了とする。
やりたかった創作活動の一環として、私と左記子の夜の駅にまつわる一連の体験を纏めようと思い立ってから完成するまで、予想よりかなり時間がかかってしまった。自分の心はともかく、左記子の細やかな感情の機微を聞き出し文章化するというのは思った以上に骨の折れる作業だった。
けれど、これは創作するという意味だけに留まらず、いずれ必要不可欠になる作業だったのだろうと思う。
私達は永遠に同じ空間のなかで共に過ごす。だとしたら、互いが互いのことをよく理解し合っていなければならないからだ。
左記子は相も変わらず、遠藤の趣味の古めかしいデザインの制服を着込んで、この私鉄に迷い込んだ乗客相手に車内販売をしている。私の方も無事遠藤に雇われて、ポストカードに必要な写真を日々撮り溜めている。様々な場所を訪れることの出来るこの列車からは魅力的な情景をさまざまな角度から切り取ることが出来て心愉しい。
写真家になろうと志したのはあの夜、十七歳の夏休みに左記子と色彩について話したことがきっかけだということは、彼女にはまだ秘密にしている。
必要なものはごく限られたものでいい。それは写真の色彩に限ったことではなく、全てに於いて。私、梅渓ハツには左記子と遠藤と、遠藤の研究結果であるATTによって動く電車があれば、それでいい。
今でも、夜に特別な気持ちを抱いている。
今夜も左記子と隣町銀河を眺める。
私と左記子に纏わる手記が完成したことを告げると、彼女はそうなんだ、おめでとうと驚き、よくやり遂げたねえと溜め息混じりに少し笑って脚を揺らした。
「でもタイトルが決まってないんだ」
「そうなの? ハツが直感的に思う言葉で良いんじゃない 」
「じゃあ」
くすりと笑いがこみ上げる。
「──じゃあ、『隣町銀河』とかどう? 」
そう提案したら、幾らなんでもそのまま過ぎじゃない──と、左記子は頰を緩めた。
〈了〉




