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十一話 魔導剣士系アスカ2 ~making of rune knight~

 ゆっくりと大地に降り立った飛鳥は、堅く握りしめていた拳を解き、額の汗を拭って大きく息を吐く。

 風魔法を駆使しての空中戦。

 この世界に来て――そして、生まれてから――まだ二回目の戦闘だというのに、かなりアクロバティックな戦い方を披露してしまった。


 それでも危うげなく成功する辺り、やはりこの身体は魔力の扱いに長けているのだ。

 飛鳥は、ワイバーンが息絶えているのを改めて確認すると、剣に薄くこびり付いた血糊を振り払って鞘へと納める。


「――大丈夫!?」


 すると、バッツの運転する馬車がこちらへとやって来て、完全に静止するのを待たずにミリーが飛び降りた。


 所詮(・・)、ワイバーンはモンスターレベル7程度(・・)

 邪神の魂を宿した魔導剣士(ルーンナイト)たるイナンナにとっては格下(・・)でしかなく、遠く離れた位置でも気配を察知したことからも明らかだ。


 ……実のところ、転生直前に真一に見せたのはダミーデータなのである。


 『ヴェルダー』の面々と同格のNPCが加入した場合、プレイヤーはメタ読みから警戒するだろう。

 小神(マイナーゴッド)の神官が伝説的な冒険者と引けを取らない実力を持っているなんて、どう考えても説明がつかないからだ。

 

 かといって、実際に低レベルのキャラクターでは、同行した際に足手まといとなってしまう。

 ――それだけならまだいい。

 プレイするのはレベル9を前提にしたシナリオのため、肝心のラスボスが不慮の事故で死亡する可能性がある。

 もしそうなってしまえば、出落ちを越えた何かであり、シナリオ崩壊は避けられない。


 TRPGの魅力とは自由度の高さとサイコロによる何が起こるかわからないランダム性なのだが、それ故に常時アクシデントが付きまとうのだ。


 その解決のため、飛鳥はイナンナのステータスをレベルと共に偽った。

 いや、正確には邪神を宿す前のデータを見せたというべきか。


 兎も角、飛鳥は勝利を確信してワイバーンへと立ち向かったのである。


 だが、一切の事情を知らないミリーたちにとってはどうだろう?


 飛鳥は、彼らが自分のことを下級職の魔道士だと勘違いしていることに気が付いていた。

 その上で面倒事を避けるため実力を秘匿しておいたのだが、却って彼らに心配をかけてしまう結果に終わったらしい。


 血相を変えたミリーの表情を見てようやく気付き、申し訳ない気持ちがふつふつと湧いてくる。


「はい。怪我一つありません」


 だから、少しでも不安を払拭できればと手を振って応えた。

 にっこりと微笑むことも忘れない。


 だというのに、飛鳥はミリーに力強く抱きすくめられてしまった。


「無茶するんだから……!」

「あ、あの……」


 困惑する飛鳥。

 飛鳥は家庭環境ゆえ、年上の――もっとも、同年代でも年下でも同じだが――女性というものに慣れていない。


 ふんわりとした優しい香りと皮鎧越しでも伝わる柔らかい感触に、不謹慎だがドキマギしてしまう。


「わりぃな。だが、こいつも本気でアスカのことを心配してんだよ。たった一日でも寝食を共にした仲だからな」

「……はい」


 少し遅れてバッツが声をかける。

 どうやら、翼竜の脅威を目の当たりにした馬車馬が怯えてしまい、宥めるのにしばしの時間を要したようだった。


「……まさか、アスカが魔導剣士(ルーンナイト)だったとはな」

「黙っていてごめんなさい」


 しゅんとした顔で飛鳥。

 決して悪意をもってではないのだが、隠していた以上、バレてしまえば後ろめたい気分になる。


「いや、驚いただけであって文句を言ってるわけじゃねえさ。勝手にこっちが思い込んでいただけだし、おかげで命が助かったわけだからな」

「それにしても、なんでこんなところに翼竜がいたのかしら……?」


 温もりを堪能して落ち着いたらしく、飛鳥から離れてミリーが呟いた。


「……それも、ごめんなさい」

「……? 別にアスカは関係ないと思うわよ?」


 ミリーが訝しむのだが、飛鳥は原因を知っているからこそ謝罪する。


 昨晩の時点で「強い魔物(・・・・)」と示唆していた通り、彼女はこの襲撃をある程度予測していた。


 ただ神殿に向かうのもメリハリに欠ける。

 そう考え、神殿周辺で魔物と遭遇するイベントを組み込んだ本人なのだから当然だ。


 ワイバーンとの遭遇はその中でも最悪――ピンゾロを振った場合のパターンであり、いわば大当たり(・・・・)


 ――まさか、神殿から十二分に距離を取っていても遭遇するとは思わなかったけど……。


 とりあえず、大きな被害がなかったのがせめてもの救いか。

 飛鳥はイベントで魔物が襲ってくる理由づけとして「強大な気配に反応して」という設定を作っており、故に関係のない馬車が襲われたりはしていないはずだった。


「誰も怪我はしなかったんだし、そんなに謝らなくても……」


 困り顔のミリーとは異なり、バッツの視線はワイバーンの死体へと向いている。

 魔力を失って大地に叩きつけられ、大部分がひしゃげてしまっている体躯。

 だが、上半分の損傷はほとんど見受けられない。


「……まあ、すまねえと思うならちょっと協力してもらってもいいか?」


 そして、それだけ言うとバッツは飛鳥に対しニヤリと笑うのだった。

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