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ミモザ

作者初の連載。とはいえ視点が変わっているだけの同じ話なので短編と何も変わりません。文字数も少ないので、軽く読んでいって下さい。

 ミモザの鮮やかな黄色を見ると彼女のことを思い出す。

 黒髪に焦げ茶の目。白くて彫りの深い顔立ち、高い身長に長い脚。

 彼女は所謂ハーフで、フランス人と日本人の夫婦の間に生まれた。

 フランス育ちで、フランス語に日本語、英語を流暢に話すことができ、母親の影響で花が好きな優しい子だった。

 ハーフということに引け目を感じていたらしく、引っ込み思案でもあった。

 そんな彼女が父親の仕事の都合で僕の学校に来たのは高校二年生の時だった。




 高校二年生の九月に転入してきた彼女は浮きまくっていた。

 元々日本人な父親、社交性があって日本語ペラペラな母親はあっさり周りに受け入れられたが、彼女は遠巻きに見られていた。

 というのは、ハーフで美人な転入生にテンションが上がった僕らが大勢で取り囲んで質問責めしたり、しつこく構ったからだ。

 人見知りだった彼女は何も答えず応えられず、ただ俯くだけだった。

 それに転入してきた時期も悪かった。文化祭がこれからという時期で、僕らは準備に忙しかったのだ。

 段々僕らは黙ったままの彼女を持て余し、転入から数日後、とうとう彼女は一人になった。

 そんなことになると、彼女に対してあることないこと噂が飛び交ってさらに彼女は孤立した。

 そのうち僕らは彼女のことを気にも止めず、文化祭の準備に取り掛かっていた。




 準備も順調なある日の帰り道、僕は公園の花壇の横にしゃがみ込んでいる彼女を見かけた。

 何をしているんだろうと彼女を見て、思わず立ち止まった。

 彼女は花に微笑んでいたのだ。

 初めて見た、彼女の笑顔だった。

 僕はこの時になって、彼女が学校で笑ったことがないことに気が付いた。

 もしかしたら笑っていたかもしれないが、見ていなかった。

 彼女の笑顔はとても綺麗で、でもどこか寂しそうで、痛々しかった。

 僕らは彼女の何を見て何をしていたのだろうか。

 僕はその場を逃げ出すことしかできなかった。




 その日から彼女を見るようになった。

 事務的なことで話しかけられて、それでも嬉しそうな彼女。

 休み時間、騒ぐクラスメイトを寂しそうに見つめる彼女。

 僕は彼女に心から笑ってほしいと思うようになった。




 文化祭が近づく放課後、準備でクラスのほとんどが残っていた。

 準備に彼女は関わっていなくて、なんとなく彼女の話になった。

  ハーフで近寄りがたい。

  綺麗だけどプライドが高そう。

  話しかけても素っ気ない。

 身勝手に彼女をイメージで話すクラスメイト。

 これを変えないと彼女は笑わないままだ。

 そう思うと、口は勝手に動いていた。

 この時自分が何を言ったのか、正直よく覚えていない。

 だけど、クラスの皆がすっきりとした顔をしていたから、多分皆が心の中で思っていたことを言っただけなんだと思う。




 次の日、僕らは彼女に謝った。

 よく知らないのに勝手なイメージを作ってしまったこと。

 今まで一人にしていたこと。

 そしてこれからは仲良くなりたいと話した。

 彼女は驚いたようだったが、嬉しそうに笑ってくれた。

 それから彼女の周りは変わった。

 僕らは彼女に合わせてゆっくり距離を縮め、準備に彼女が関わるようになると、いつの間にか仲良くなっていた。

 文化祭の写真には僕が見たかった彼女がいた。




 クラスに馴染んだ彼女は学校生活を満喫していた。

 体育祭では、足が速かった彼女はリレーのアンカーを努め、見事に一位をとった。

 定期テストでは、クラスで勉強会を開いた。彼女は僕らに英語と世界史を教え、僕らは彼女に現代文と日本史を教えた。勉強会のお陰でクラスの皆の成績が上がり、先生が褒めてくれた。




 時々お互いの常識に驚かされながら、僕たちは同じ時間を過ごした。

 でも、それは二年生の終わりまでだった。

 最初から彼女が通うのは三月までと決まっていたのだ。

 だから、僕たちはたくさん思い出を作った。

 遊園地やカラオケに行ったり、下校時間まで喋って先生に怒られたり。

 何をしても楽しくて、別れが来なければいいのにと何度も考えた。




 三学期の終業式が彼女と過ごす最後の日だった。

 その日のうちに飛行機に乗って帰ってしまうという彼女は、最後にクラス一人一人に花束を手渡した。

 小さくて丸い、黄色い花が枝いっぱいに咲いて、素朴で可愛らしい花だった。

「これはミモザという花で、花言葉は『友情』。私はこのクラスで過ごせて、色々なことがあったけど皆と友達になれて、本当に楽しかった。半年だけだったけど皆と過ごした思い出は忘れません。今までありがとう」

 彼女も僕らも皆泣いて、それでも笑顔でさよならを告げた。

 それからの彼女は知らない。




 今になって思うと、僕は彼女が好きだったんだと思う。

 あの日、花に微笑む彼女に一目惚れしていた。

 心から笑ってほしくなったのも、一緒の時間が楽しかったのも、別れが悲しかったのも全て、彼女のことが好きだったから。

 でももう昔の話。

「友情、だったよな。ミモザの花言葉って」

 そもそも彼女にとって僕は友達でしかなかったから。

 たとえ気付いていても実ることはなかった。そんな甘酸っぱい恋だった。




 ぼんやりとミモザを眺めていると、店の中から店員が花を買うのかと伺っていた。

 僕は止めていた足を動かし、花屋から離れた。

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