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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
2nd Stage
9/40

和馬

~和馬Side~



入学初日



電話で職員室に来るよう言われていた俺は、職員室に向かった。



「失礼します」



若い女の先生って聞いてたけど、誰だ?



「渡辺先生の机って、どこですか?」



近くにいた先生らしき人に、尋ねてみる。



「もしかして、川越君?」



「はい」



どうやら尋ねた先生が、渡辺先生だったようだ。



教育実習に来た大学生かと思った。



それぐらい教師のオーラがない。



「あたしが担任の渡辺陽菜です。1年間よろしくね」



「はい」



「何か聞きたいこととか、あるかな?」



「特に無いです」



「そうよね。まだ授業受けてないし、なんとも言えないわよね…」



キーンコーンカーンコーン



予鈴らしきものが鳴った。



「とりあえず予鈴が鳴ったし、教室に行こうか。3階まで階段で登るから、着いてきてね」



「はい」



しばらく歩いた後、教室に着いた。



「準備出来たら呼ぶから、教室に入ってきてね」



「はい」




そう言うと、渡辺先生は教室に入って行った。



しばらく廊下で待っていると…



「それじゃあ、川越君、入って来て」



ガラガラ



教室に、足を踏み入れる。



「かっこいい!」



「めっちゃワイルド!」



これだから女は嫌いだ。



人を見た目だけで判断して、キャーキャー叫ぶ。



今日初めて会ったばかりなのに、俺の何がわかるんだよ。



大半の女子が歓声を挙げたり、目を輝かせている中、キョロキョロしながら、百面相している女を見つけた。



どうやら、友人の様子を観察しているようだが…



変な女…



それが坂本友菜に対する、俺の第一印象だった。



「川越君は、親御さんの都合で、東京からこっちに引っ越してきたので、色々と教えてあげてくださいね。それじゃあ川越君、軽く自己紹介してください」



「川越和馬です。よろしく」



「それじゃあ、神崎君の席は、1番廊下側の1番後ろの、坂本さんの隣の席です」



「はい」



どうやら、例の変な女の隣の席のようだ。



坂本と言うらしい。



席に着く。



色んな所から、視線を浴びるのを感じる。



ダルい…



その中で、坂本もこっちをちらちら見て、何か言いたそうにしていた。



「あたし、坂本優愛。せっかく隣の席になったんだし、仲良くしようね」



坂本が声を掛けて来た。



特別な意味は無くて、社交辞令のような物だと思う。



でも坂本も"女"なんだと認識した瞬間、坂本への興味を無くしてしまった。



「……」



「分かんないことあったら、なんでも聞いてね」



「……ああ」



これ以上無視すると、話し続けられそうな気がしたから、適当に返事をする。



その後、坂本は話しかけようとはしてこなかった。



渡辺先生の話が終わり、HRが終わる。



その瞬間、クラスの女子がすごい勢いで集まってきた。



めんどくせえ…



「背高いね。身長何cm?」



「どこに住んでるの?」



はぁ…



公立高校に来たら、少しはましになるかと思ったけど、どこに行っても女は一緒だな…



「ねえねえ?川越君って、今彼女いる?」



なおも質問が続く。



「……いる。うぜえから、話かけてくんな」



「何よ~感じ悪い」



1人また1人と、俺の周りから人がいなくなって行く。



うぜえ…



HRが終わり、授業が始まった。



レベル低いな…



開始1分で授業に興味がなくなり、外に視線を移す。



緑一色の景色が飛び込んで来た。



田舎だとは聞いていたが、まさかここまで田舎だとは思わなかった。



つい最近まで東京のど真中で生活していた俺には、どうもなじめそうにはねえな。



初日ぐらいは、ちゃんと授業受けようかと思ってたけど、サボっちまおう。



教室から出ていくために、席を立った。



その時、前のドアから、坂本が教室に戻ってくるのが見えた。



あいつに見つかると、めんどくさそうだな…



坂本に見つからないように、教室の外に出た。



「勇気、野球部には興味ねえか?」



「野球を見るのは好きなんですけど、吹奏楽部に入ってるんで…」



「吹奏楽?昔はどっちかって言うと運動が好きなタイプだと思ってたけど…」



「昔とは違うんですよ。夏の大会応援に行くんで、頑張ってくださいね」



「ああ」



そんな会話を聞きながら、歩いて行った。



とりあえず階段のところまで歩いて来た。



どうすっかな…



ふと上を見上げると、教室は3階までしかないにもかかわらず、まだ階段が続いていた。



まさかこの学校、屋上まで行けるのか?



暇だし行ってみるか。



階段を上っていく。



4階まで到着すると、鉄製の重そうなドアがあった。



まあ危ねえし、普通は入れるわけねえよな。



ダメもとで、ドアに手を掛けてみる。



ギギッ



予想に反して、さびた鉄の鈍い音とともにゆっくりとドアは開かれた。



マジかよ…



でもこれで心置きなく昼寝が出来るから、ラッキーだな。



そんな事を思いながら、中に入った。



中に入るとすでに先客がいたようで、昼寝をしている男子生徒の姿が目に飛び込んできた。



向こうもドアが開いたことにより、俺のことに気付いたようで、身を起こすとこっちに振り向いた。



そして立ち上がり、俺の方に向かって歩いてくる。



小柄な男だ。



なぜか俺を見てにやにやしている。



なんだこいつ…



「お~俺のクラスに来た転校生君じゃん。なになに初日からサボり?」



「まあな」



「昼寝日和なのに、授業なんて出てらんねえよね~」



「そうだな」



ていうか何で俺こいつと普通に話してんだ?



「川越君だっけ?いきなりだけど、俺と友達になってくれない?」



「はぁ?」



いきなり意味不明なことを言い出した。



「この学校さ、まじめなやつが多くて、あんまり気が合うやついないんだよね。でも川越君とならいい友達になれそうな気がするし。別にいいでしょ?減るものじゃないし?」



「別にいいけど…その前にあんた誰?」



「ひどいよ川越君~同じクラスの石原健斗だよ」



「知らねえよ…」



今日転校してきたんだし…



「これから親友になる予定なんだから、ちゃんと名前覚えてよね。そういえば川越君、下の名前はなんて言うの?」



「和馬」



「和馬か~いい名前だね。これからは和馬って呼ぶから、和馬も俺のこと健斗って呼んでね」



「もう勝手にしてくれ…」



こうして石原に押し切られ、不本意ながら友達になってしまった。



「ていうかおまえ、どうやって屋上に入ったんだ?」



「聞いて驚くなよ~実は俺、屋上のカギ持ってるんだ」



「そんなもの生徒が持っててもいいのかよ…」



「わかんない。俺も卒業した先輩にもらったし」



「……」



大丈夫か?この学校。



「和馬はクラスの女子で気に入った子いた?」



「いきなりなんだよ?」



「親友の好きなタイプを把握しておこうと思って」



もう親友になってるし…



「今日転校してきたばっかなのに、まだわかんねえよ」



「かわいいとか思った子もいなかったの?」



「いねえよ。女なんてめんどくせえだけだから」



「え~和馬イケメンなのにもったいないよ。女がめんどくさいとか、人生を無駄にしてるよね」



「別にいいだろ」



「じゃあ今まで彼女いたことないの?」



「今はいねえよ」



「"今は"ねえ~じゃあ過去にはいたんだ」



思いだしたくもねえな…



"あいつ"のことなんて…



「おまえはクラスに好きなやついねえのか?」



「少しは俺に興味持ってくれたの?嬉しいな」



「別にいいだろ?早く答えろよ」



「俺、渡辺先生が好きなんだよね」



「はっ?渡辺先生?」



「小動物みたいで可愛いじゃん」



「教師は色んな意味で問題があるだろ…」



「ちょっと困らせたくなるような、おとなしい感じがたまんないんだよね。うちのクラスの女は、気が強い奴が多いから」



「年上が好きなのか?」



「女はやっぱ年上でしょ。でも同級生なら坂本が1番かな。美人だけど、お高く止まって無いし、いじったら反応が面白いし。でも彼女はちょっとな…毎日お節介焼かれると、だんだん疲れてきそう。近所のお姉さん的ポジションが一番いいかも」



"近所のお姉さん"ね…



そう考えると教室に入って真っ先に坂本に目が行ってしまった理由が、なんとなく分かった気がする。



たぶん坂本は"あいつ"に似ているんだ…



顔とかじゃなくて、柔らかそうな雰囲気とか、落ち着き無く、コロコロと表情を変える姿が…



最悪だ…



俺の中で"あいつ"のことは、当の昔に吹っ切れたはずなのに…



無意識って怖いな…



「どうしたの、和馬?ボーっとして」



石原が俺の顔を覗き込んで、手を上下に振っている。



「何でもねえよ」



「ふぅ~ん」



「久々にいっぱい喋ったから疲れたな。少し昼寝しよっと」



そう言うと、石原は横になり、寝る体制を整え始めた。



「ほらほら、和馬も」



「まだ眠くねえ」



「いいじゃん。一緒に寝ようよ」



「気持ち悪い…」



「ひどいよ。和馬」



「フッ」



「あっ!和馬が笑った」



「笑ってねえ」



「笑ったよ。やった~」



「そういうことにしといてやるよ。ほら寝るんだろ」



「うん。お休み~」



そう言うと10秒もしない内に、寝息が聞こえて来た。



寝付き良すぎだろ…



不服だが、俺も石原の横に寝転がった。



これからこいつに振り回されるんだろうな…



そんなことを思いながら、俺も意識を手放した。



……



ピーンポーン



「心音、遊びに来たぜ」



「こら和君、心音お姉ちゃんって呼びなさいって、何回も言ってるでしょ」



「だって、心音は心音だろ」



「も~ホント和君は言うこと聞かなくて、世話の掛かる子なんだから」



「はいはい。そんなことどうでもいいから、早く遊びに行こうぜ」



「ちょっと和君、待ってってば~」



……



キーンコーンカーンコーン



チャイムの鳴る音で、意識を取り戻す。



夢か…



隣にいた石原も、目を覚ましたようだ。



「う~ん、良く寝た。和馬、今何時か分かる?」



「分かんねえ」



「あっ!弁当持って、中庭に行く生徒がいる。てことは今のチャイムは4時間目の終わりのチャイムか。和馬、弁当持ってきてるの?」



「持ってきてねえ」



「俺もだよ。それじゃあ、一緒に食堂行こうぜ」



「はっ?この学校公立高校なのに、食堂あるのか?」



「あるよ~公立高校をなめちゃいかんね」



「……」



「和馬の通ってた高校は、食堂がなかったのか?」



「あったけど、俺の学校私立だし」



「何ていう高校?」



「T大付属」



「……」



「……」



「もしかして、和馬って頭いいの?」



「そうかもな」



「和馬の家ってもしかしてお金持ちだったりする?」



「一応」



「そうか…」



「おまえ、何で落ち込んでんだ?」



「和馬とは、住む世界が違うのかなと思って…」



「ふ~ん…じゃあ、友達辞めるか?」



「それは無い。和馬は和馬だし。ちょっとびっくりしただけ。じゃあ何でこんな田舎の公立高校に来たんだ?」



「先生も言ってただろ。親の事情だよ。それよりほら早く行かねえと、食堂混むんじゃねえの?」



「そうだ!新入生が入ってきて食堂に来るやつが増えたから、早く行かないと席が無くなるんだった。急ぐよ、和馬」



「ああ」



こうして、2人で屋上を後にした。



階段を下りて、1階まで降りて来る。



しばらく奥に進んでいくと、食堂があった。



石原の予想通り、すでに中は人で溢れ返っている。



「ちくしょう、出遅れたか~俺が飯買ってくるから、和馬は席取っといて」



「わかった」



「それで、和馬は何にする?」



「丼って何があるんだ?」



「親子丼とかつ丼、それとチキマヨ丼もあるよ」



「チキマヨ丼?」



「そのまんまだよ。ご飯の上にマヨネーズのかかった唐揚げが乗ってる」



「ふ~ん…じゃあそれでいいや」



「わかった。それじゃあ買いに行ってくるから、和馬は水を汲んでおいて。セルフサービスだから」



「おう」



「それじゃあ、行ってくるよ」



石原は、人混みの中へと姿を消した。



2人分の席を確保した後、水を汲みに行く。



その間、俺の方をちらちら見ながら噂話をしている女子生徒がたくさんいた。



ホント噂って、広まるの早いよな…



当然それを完全無視しながら、自分の席に戻った。



しばらくすると、石原が帰って来た。



その手には、チキマヨ丼が2つある。



腹が減ったし、食うか。



チキマヨ丼とやらに口を付ける。



甘い…



唐揚げの上にかかっている、あんかけらしきものが、おそらく甘さの原因だろう。



さすが公立高校クオリティ…



「どう?チキマヨ丼おいしいでしょ~この甘辛い感じが癖になるんだよね」



「甘いとは思うけど、どう考えても辛くはねえだろ…しかも別にうまくねえし」



「このおいしさが分かんないなんて、和馬は子供だね」



「うまいか、これ?」



「うまいよ~チキマヨ丼を考えた人は、天才だね」



「……」



俺にはもう石原に返す言葉が、見つからなかった。



ピーンポーンパーンポーン



[3年3組石原君、川越君、今すぐ職員室の渡辺の所まで来てください]



「昼休みに呼びだされるとか、かわいそうな人達だね」



「……」



「俺達やないか~いって、突っ込んでよ…」



「意味不明…」



「渡辺先生に呼びだされるなんて、俺達ラッキーだと思わない?」



「どうせサボりについて、説教されるだけだろ」



「[石原君、授業サボっちゃだめっだよ]て言われながら、頭叩かれたりしたら、たまんないよね」



「おまえ、頭大丈夫か?」



「チッチッ、和馬にも、いつか優しく叱られることの良さが分かる日が来るよ」



「来ねえよ…」



やっぱりこいつの考えにはついていけねえ…



「それで、和馬どうする?」



「どうするって?」



「職員室に行くのか、行かないのか」



「1人で行って来いよ。どうせたいした用件じゃねえだろうし。俺がいない方が先生と長く話せるだろ?」



「そうか、和馬が来なかったら、渡辺先生と2人きりなんだ。緊張するな。どうしよ…何話せばいいかな?」



「知らねえよ…て言うか周りに他の先生がいるんだから、あまり変な話はしない方がいいと思うんだが…」



「そんなの気にしたら終わりだよ。なかなか無いチャンスなんだから、プライベートのこととか色々聞いておかないと。じゃあ行ってくるから」



「ああ」



「終わったら屋上行くから、先に行っといて」



「わかった」



こうして石原は職員室に、俺は屋上に向かって歩き始めた。




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