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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
1st Stage
5/40

光太

~光太Side~






俺と友菜は幼なじみで、物心がついた時には、すでに俺の隣には友菜がいた。






いつからかと言われると、正直はっきりとは覚えていない。






でも俺は、昔から友菜のことが好きだ。






しかし友菜は、俺のことを幼なじみ以上には見ていないと思う。






それでもいいと思っている自分と、これ以上の関係に進みたいという願望の狭間で、行ったり来たりしているのが現状だ。






実は小学校3年生の時に、告白したことがある。






「僕、友菜ちゃんのことが好きだよ」






「ほんと~!あたしも好き~」






そう言って軽く返されたことを、今でも鮮明に覚えている。






もちろん、俺の好きと友菜の好きは違う。






それは、この後の会話が物語っている。






「本当?」






「うん。お父さんもお母さんも光ちゃんも、皆大好き~」






こうして人生初告白は、無残に砕け散ったのである。





とにかく、昔から友菜には、振り回されっぱなしだ。






あれは確か、中学3年生の時だった。






ある日、家に帰ってくると、友菜の靴があった。






俺の部屋にいるのかと思って、2階に行ってドアを開けてみるが、友菜の姿はない。






しかしベットを見ると、不自然に膨れ上がっている。






まさかと思いながら布団をめくると、そこにはスヤスヤと寝息を立てて寝ている、友菜の姿があった。






布団をはぎとる。






「友菜、起きろ!」






理性を必死に保ちながら、声をかける。






「う~ん…」






起きない…






男の部屋で無防備に寝てるとか、襲われても文句言えないぞ…






しばらくして、友菜はようやく目を覚ました。






「あれ?ここどこ?」






「俺の部屋」






「光ちゃんの部屋?そっか、寝ちゃったんだ…」






大きく伸びをする友菜。






寝相が悪かったのか、スカートが少し乱れている。






おいおい、気付けよ…






そう思っても、鈍感な友菜が気付くはずがなかった。






「何で友菜は、俺の部屋にいるんだよ?」






「今日、うちの家が鍋だから、光ちゃんを誘って来てってお母さんに言われたの。でも光ちゃんがなかなか帰って来ないから、寝ちゃった」






「そんなこと、メールで伝えられるだろ?」






「いいじゃん。家が隣なんだし、それに、光ちゃんにも会いたかったし」






他意が無いことは、分かっている。






でも何で、そんなことをさらっと言うかな…






「ごちそうになるって、美雪さんに伝えといて」






美雪さんとは、友菜の母親のことだ。






おばさんと言うと怒られるので、そう呼んでいる。






「わかった。じゃあ、またご飯の時にね」






そう言って、友菜は去っていった。






この後、友菜に俺の部屋で寝るの禁止令が出たのは、言うまでもない。






始業式当日。






目を覚ましたら、友菜が俺の上に乗っていた。






布団がはぎとられているので、友菜の体温が直接伝わってくる。






「おはよう、光ちゃん」






「おはようじゃね~よ。早くどけろって」






「光ちゃんが起きてくれるまで、どけないもん!」






「分かった。起きるからどけろ」






「しょうがないな~」






「部屋に入って来るなって、いつも言ってるだろ」






言っても無駄だと思うけど、言わずにはいられない。






「光ちゃんが、起きないのが悪いんじゃん」






「じゃあ、外から声を掛ければいいだろ?」






「声を掛けたけど、起きなかったから、入ったの」






「まあいいや。まったく…無防備すぎんだろ…」






「んっ?なんか言った?」






「何も言ってねえよ。制服に着替えるから外出てろ」






「二度寝しちゃだめだよ?」






「分かってるっての」






制服に着替え、外に出る。






「下、行くぞ」






「ちょっと待ってよ~」






俺は寝起きが悪くて、目覚ましではほぼ起きないので、母さんには、毎朝起こしに来るように頼んである。






しかし、母さんは、俺が友菜のことが好きなことを知っているため、わざわざ友菜に起こしに来させるのだ。






家を出て、学校に向かう。






どうやら、友菜と一緒のクラスになることができたようだ。






友菜の手前かっこつけたが、シンプルに嬉しい。






今年はいろんな意味で、勝負の年になりそうだ。






HRが終わり、放課後になる。






智紀と部室に向かっていると、野球部の後輩達を見つけた。






何か話をしている。






「お前、何か妙に機嫌いいな」






「聞いてくれよ。さっき廊下で人とぶつかってさ、誰だよと思って見たら、坂本先輩だったんだよ」






「ああ」






「大丈夫?って声かけてくれてさ、初めて至近距離で見たけど、めっちゃ美人だったぜ」






「いいな~」






「しかも、俺が野球部の部員ってこと知ってくれてて、超嬉しかったし。距離が近くて目が合わせられないし、テンパって逃げてきちまったけど」






「もしかして坂本先輩に惚れた?」






「そりゃ、あんな美人に優しくされたら、誰だって好きになるって。でも坂本先輩の彼女だし、見てるだけで満足って感じだな」






「別に友菜は、俺の彼女じゃねえよ」






思わず、後輩の話に口を挟んでしまった。






「光太先輩、今の話聞いてましたか?」






「ああ」






「さっきも言った通り、俺達は坂本先輩に憧れてるって感じなので、気にしないでくださいね」






「そうか。ほら無駄話してないで、部室行くぞ」






「「わかりました」」






友菜は、自分がモテないと思っている。






それはなぜか知らないけど、友菜は俺の彼女っていううわさが学校中に流れていて、告白されないからだ。






後輩も言っていたように、幼馴染の贔屓目無しに見ても、この学校でトップクラスの美人だと思う。






昔から美人だと思っていたが、最近ますます磨きがかかってきているような気がする。






もちろん本人は、全く自覚していないけど…






「はぁ~」






「光太く~ん、何ため息ついてんの?」






智紀が俺の腕をつつきながら、話しかけて来る。






「友菜だよ、友菜。いったい、いつまで俺を振り回せば気が済むんだろな…」






「さっきの話?」






「それもあるけどさ、今日なんて朝起きたら、俺の上に馬乗りになってたんだぜ」






「うらやましいぜ~この野郎!でも、友菜ちゃんらしいな。ホント面白い」






「こっちの気持ちも、少しは考えろっての」






「それも含めて、友菜ちゃんなんだから。惚れたほうが負けってことだな」






「まあな」






練習が始まった。






野球は、チームスポーツだ。






俺1人が頑張っても、勝てるものではない。






私立を蹴ってここを選んだのは、地元の仲間達と野球がしたかったからで、ここに来たことを、まったく後悔していない。






このメンバーで甲子園に行くために、俺は頑張りたいと思う。






「集合~」






部員を集め、ミーティングを始める。






「今日から学校も始まって、勉強もしなきゃならないから大変だろうけど、新たな気持ちで、甲子園目指して、一緒に頑張っていこうな。それじゃ、解散!」






うちの野球部は、3年生にしか部室が無くて、ユニホームのまま帰る部員が多い。






その習慣が染みついてしまったのか、今でも俺は、ユニホーム姿で帰路につくことがほとんどだ。






友菜の奴、もう来てるかな?






そう思って、周りを見渡そうとした時…






「光太先輩!お疲れ様です!」






横から声がかかる。






またこいつか…






野球部のマネージャー、清水飛鳥は、練習が終わると、毎日のように話しかけてくるのだ。






俺は友菜ほど鈍感じゃないから、清水が好意を持ってくれていることは、うすうす感づいている。






だから、そろそろはっきり言わねえといけないと思う。






友菜が好きだって。






「何の用だ?」






「野球のルールでわからないことがあるんですけど…」






出来れば避けたいのだが、避けられない理由がある。






清水は、本気で野球に興味があるらしく、野球のことについてよく質問をされる。






これは野球人としては、無下に出来ないことだから、避けることが出来ないのだ。






しばらく真面目に野球のことについて話をした。






「じゃあ、俺はこれで」






立ち去ろうとすると、清水に腕を掴まれた。






「あたしの話は、まだ終わってませんよ。今週の日曜日なんですけど、光太先輩の予定は空いてますか?」






そして、こうやって変な方向に持っていかれてしまう。






「お~い、光太君~」






今日はどうやって清水をかわそうか考えていた時、唯香ちゃんの声が聞こえてきた。






「悪い。呼ばれてるから、その話はまた今度な」






「ちょっと待ってくださいよ~」






何とか、清水から逃げ出すことができた。






「光ちゃん、お疲れ様~話の途中みたいだったけど、良かったの?」






「別にたいした話じゃねえから」






そう言ったものの、友菜は何か言いたそうにこちらを見ている。






帰り道






いつもの場所で、唯香ちゃんと智紀と別れ、今は2人きりだ。






「そういえば、会計の奴は、どうだった?」






そう聞いた瞬間、友菜の表情が、まるで花が咲いたようにパッと明るくなった。






「聞いてよ~昔近所に、松島勇気君っていたでしょ?」






「松島勇気?ああ良く一緒に遊んでたな」






「なんとその勇気君が会計だったの!びっくりしたよ!」






マジかよ…






「あいつ、こっちに帰ってきてたのか?」






「今年の1月に帰ってきてたみたい」






「そうか。でも1回も勇気の姿見てねえな」






「今は違うところに住んでいるから、会わなかったみたい。でもまた3人で遊ぼうね」






「そうだな」






「良かったよ。光ちゃんが心配したような変な人じゃなくて」






「まだわかんねえだろ。あいつが引っ越してから7年もたってるんだし」






周りの環境で、人は大きく変化するもんだからな。






「メガネ掛けてたから、見た目は少しおしゃれになってたけど、優しい雰囲気は、昔と全然変わらなかったよ」






「雰囲気だけじゃなくて、7年前と気持ちも変わってなかったとしたら、俺としては見知らぬやつよりも、タチが悪いかもな」






「気持ち?」






「お前は気にしなくていいんだよ」






ずっと3人で遊んでいたから、勇気の気持ちも手に取るように分かる。






勇気も俺と同じで、昔から友菜のことが好きだった。






お互い、友菜が好きなことを分かっていて、子供ながらに意識をしていた。






しかしこの対決は、勇気の引っ越しという呆気ない幕切れを迎えた。






この時、勇気に言われたことが、今でも頭に残っている。






「光太君、僕引っ越すことになったんだ」






「そうなんだ…寂しくなるね」






「友菜ちゃんには、引越しのこと言わないでね?」






「何で?」






「もし友菜ちゃんに引き留められたら、親にわがまま言っちゃいそうだから…」






「友菜ちゃんに、気持ち伝えなくてもいいの?」






「うん。今告白しても、友菜ちゃんを困らせちゃうし」






「そっか…」






「光太君も、友菜ちゃんのこと好きなんでしょ?」






「うん」






「そうだよね…僕は引っ越しちゃうから、僕の代わりに、光太君が友菜ちゃんを幸せにしてあげてね」






「うん。約束するよ」






「でもいつか戻ってきた時に、光太君と友菜ちゃんの関係が変わってなかったら、僕が友菜ちゃんをもらっちゃうからね」






「わかった。帰ってきたら、また遊ぼうね」






「うん。ばいばい」






そう言って、勇気はこの町を去った。






あれから7年…






当然、俺達の関係は変わっていない。






勇気は、まだ友菜のことを、好きなのだろうか…






「そういえば、野球部のマネージャーさん、清水さんって言うんだね」






「ああ」






やはり友菜は、清水のことが気になっているようだ。






「清水さんっていい子だよね?」






「まあ野球のことをちゃんとわかってマネージャーやってくれてるから、そういう意味ではいい子なんじゃねえの」






「そうだよね。何で唯香は、あんなに悪く言うんだろうね?」






「さあな」






唯香ちゃんは、清水みたいに計算高い女は嫌いなんだろう。






「光ちゃんと清水さんは仲良いの?」






「別にそうでもねえよ」






「もし清水さんに告白されたら、付き合っちゃうの?」






いつもなら、友菜の鈍感と思いながら、軽く流すのだが、勇気の登場に動揺していた俺は、おもわず冷たく返してしまった。






「おまえには、関係のない話だろ」






「関係ないってひどいよ…そんな言い方をしなくてもいいじゃん!」






涙目で俺の方を見てくる友菜に対して、素直に謝れば良かったのだが、意地っ張りな俺は、引くに引けなくなってしまった。






「そんな話はしたくねえんだよ。じゃあな」






そう言って、家の中に入ってしまった。






バタン






「はぁ…俺、何やってんだろう…」






喧嘩なんて、したくなかったのに…






「ただいま」






「おかえり、光太。今年は友菜ちゃんと一緒のクラスになれた?」






「ああ」






「ちょっと、光太。どうしたのよ?」






母さんの声を無視して、自分の部屋に戻った。






さっきのは、どう考えても俺が悪い。






友菜は、俺が何で怒ったのか分かってないだろうな…






唯香ちゃん、智紀、母さんまでもが、俺の恋を応援してくれている。






必ず恋を実らせてみせる。






友菜にきちんと謝って、清水には友菜が好きだって気持ちをちゃんと伝える。






そう決意した1日だった。



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