再会
生徒会室は1階にある。
文化部の部室棟の突き当たりだ。
「唯香、早く~」
「生徒会長のあんたが階段を走ってどうすんの…危ないよ」
「大丈夫だって」
そう言いながら、曲がり角に差し掛かった。
その時!
ドン
左から歩いてきた男の子と、ぶつかってしまった。
「ごめんなさい…大丈夫ですか?」
「は…はい」
良かった…
ぶつかった男の子を見る。
なぜか顔を赤くして、うつむいている。
そういえば、この子どこかで見たことがあるような…
あっ、思い出した!
野球部の2年生の子だ!
「君、野球部だよね?」
「は…はい」
「やっぱり!お名前は?」
「す…すいません…失礼します」
そう言うと、逃げるように、猛スピードで去って行った。
「ほら、言わんこっちゃ無いでしょ。だから危ないって言ったのに」
「うん…でも怪我無くて良かった~」
「友菜は本当危なっかしいよね」
「よし!気を取り直して、生徒会室に行こう」
「ちょっとは反省しなさいよ…」
生徒会室の前に到着した。
ガラガラ
「失礼しま~す」
案の定、人の姿はなかった。
思ったよりも、中は広々としている。
3人で使うには、十分すぎる大きさだ。
近くの椅子に腰掛ける。
もうちょっとしたら、会計の子も来るだろう。
「智紀のやつ、相変わらずうるさいよね。文句ばっか言ってくるし」
「智紀君は、唯香にかまってもらいたいから、ちょっかいを出すんだよ」
「今年もあいつの相手しなきゃならないのか。めんどくさいな…」
実は唯香と智紀君は、高校に入ってから、3年連続で同じクラス。
さすが運命共同体だ。
そんな話をしていると…
ガラガラ
大きな音と共に、勢い良くドアが開かれた。
「遅れてすいません!」
そこに現れたのは、眼鏡をかけたおとなしそうな子だった。
「友菜先輩ですよね?お久しぶりです。僕のこと、覚えてませんか?」
「えっ?」
「昔、近所に住んでた松島勇気です」
松島勇気…
勇気君!
「思い出した!勇気君、久しぶりだね。眼鏡かけてたから、一瞬誰だかわかんなかったよ!」
「友菜、知り合いなの?」
「うん。昔、光ちゃんも含めて、良く3人で遊んでたんだけど、勇気君が小学校4年生の時に引っ越しちゃって…いきなりいなくなっちゃったから、連絡先もわかんなくて、それっきり会ってなかったんだよね」
「あの時は、すいませんでした…」
「いつ、こっちに帰ってきたの?」
「今年の1月に、帰ってきたんです」
「そうなの?じゃあ、声掛けてくれたら良かったのに」
「忘れられてたらと考えると、勇気が沸かなくて…」
「そっか~まあ今日こうして会えたから良かったよ!」
「はい。そういえば、光太先輩は元気ですか?」
「元気だよ~幼なじみとして、今も仲良くやってるよ」
「そうですか。やっぱり、"幼なじみ"なんですね…」
「うん?」
「いえ、何でもありません」
「そういえば、まだあいさつしてなかったよね。あたしは、副会長の藤村唯香。よろしくね」
「会計の松島勇気です。よろしくお願いします」
2人は、がっちり握手を交わした。
「勇気君、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
あたし達も、握手を交わす。
「とりあえず、今日は顔合わせだけの予定だったんだけど、何か言いたいことある人~」
「何もな~い。いいんじゃない、そんなに焦ることもないだろうし」
「そうですね」
「これから本格的に活動するってことで…今日は解散!」
「先輩方は、これからどうされるんですか?」
「光ちゃんと帰る約束をしてるから、野球部の練習が終わるまで待ってるかな」
「あたしは友菜の付き添いで、一緒に待ってるよ」
「そうなんですか。じゃあ僕は、吹奏楽部に行ってきますね」
「勇気君、吹奏楽部に入ってたの?」
「はい」
「そうなんだ。頑張って来てね」
「ありがとうございます。それでは、お先に失礼します。」
「「ばいば~い」」
勇気君は生徒会室を後にした。
「結構イケメンじゃん。幼なじみの勇気君」
「勇気君のこと気に入ったの?」
「うーん…イケメンだけど、かわいい弟系じゃん。あたしはもっとザ・肉食系って感じのほうが、タイプなんだよね」
「そうなんだ」
「あたしじゃなくて、問題は友菜のほうでしょ?」
「あたし?」
「光太君に、ライバルが出現しちゃったか。光太君もこれから大変だよね」
「なんで、そこで光ちゃんが出てくるの?」
「これだから友菜は…友菜は勉強できるけど、恋愛の偏差値はかなり低いよね」
「ひどいよ~唯香」
「あんたは、もうちょっと、恋の勉強をしなさい」
「でもあたし、唯香みたいにモテないし…」
「まあいいや…本人が気付かないと意味無いし」
「ちょっと~教えてよ~」
「ほら、早くグラウンドに行くよ」
「待ってよ~」
グラウンドに到着。
マウンド上には、光ちゃんが立っている。
どうやら紅白戦が行われているようだ。
あたし達の通う東舞高校は、ごく普通の公立高校である。
光ちゃんや智紀君達が来るまでは、万年1回戦敗退のチームだったそうだ。
しかし光ちゃんと智紀君の大活躍もあり、昨年の秋の府大会で、ベスト4まで躍進を遂げたのである。
「集合~」
光ちゃんの声が響く。
どうやら、今からミーティングが始まるようだ。
「もうすぐ練習終わりそうだね」
「光ちゃんに、勇気君のことを話さなきゃ!」
ミーティングが終わり、各自バラバラに歩き出した。
光ちゃんに近づいて、声を掛けようとしたその時!
「光太先輩、お疲れ様です!」
突然、光ちゃんに話しかける声が聞こえてきた。
マネージャーかな?
そのまま、喋り始めてしまった。
「またあいつ、光太君に話しかけてるよ…」
「唯香、あの子のこと知ってるの?」
「何で知らないのよ…あの子は2年の清水飛鳥。光太君が好きで、マネージャーになったってうわさの子よ」
「へぇ~そうなんだ」
「そうなんだ~じゃないでしょ…」
清水さんは、楽しそうに光ちゃんと話しをしている。
「ほらっ!早く光太君を呼ばないと」
「えっ…でも邪魔しちゃ悪いし」
「もう友菜はこれだから…お~い、光太君~」
唯香が大声で、光ちゃんを呼んでいる。
光ちゃんは気づいたみたいで、清水さんとの話を終わらせて、こっちに向かって歩いてきた。
「光ちゃん、お疲れ様~話の途中じゃなかったの?」
「別にたいした話じゃねえから」
「お~待っててくれたのか」
智紀君もあたし達に気づいたみたいで、こちらにやってきた。
「あんたなんて待ってないわよ。光太君を待ってる、友菜の付き添い」
「まあいいや、早く帰ろうぜ」
「じゃあ、帰ろうか」
「光太、清水さんと何を話してたんだよ?」
「別にいいだろ」
「あたし、あの女嫌いだな。性格が悪いって評判だし」
「そう?いい子そうに見えるんだけど…」
「友菜は、ほんと人に対して好き嫌いがないよね。まあそれが、友菜のいい所なんだけど」
話をしている内に、いつもの分かれ道にたどり着いた。
「ばいばい」
「また明日~」
2人と別れ、あたし達だけになった。
「そういえば、会計の奴どんな奴だった?」
「聞いてよ~昔、近所に松島勇気君っていたでしょ?」
「松島勇気?懐かしい名前だな。昔良く一緒に遊んだよな」
「なんとその勇気君が会計の子だったの!びっくりしたよ!」
「あいつ、こっちに帰ってきてたのか?」
「今年の1月に、帰ってきてたみたい」
「そうか。でも1回も勇気の姿を見てねえな」
「今は違うところに住んでいるから、会わなかったみたい。でもまた3人で遊ぼうね」
「そうだな」
「良かったよ。光ちゃんが心配したような変な人じゃなくて」
「まだわかんね~だろ。あいつが引っ越してから7年もたってるんだし」
「メガネ掛けてたから、見た目は少しおしゃれになってたけど、優しい雰囲気は昔と全然変わらなかったよ」
「雰囲気だけじゃなくて、7年前と気持ちも変わってなかったとしたら、俺としては見知らぬやつよりも、タチが悪いかもな…」
「気持ち?」
「お前は気にしなくていいんだよ」
「そういえば、野球部のマネージャーさん、清水さんって言うんだね」
「ああ」
「清水さんっていい子だよね?」
「まあ野球のことをちゃんとわかってマネージャーやってくれてるから、そういう意味ではいい子なんじゃねえの」
「そうだよね。何で唯香は、あんなに悪く言うんだろうね?」
「さあな」
「光ちゃんと清水さんって仲良しなの?」
「別にそうでもねえよ」
「そっか。もし清水さんに告白されたら、付き合っちゃうの?」
「…お前には、関係のない話だろ」
「関係ないってひどいよ…そんな言い方をしなくてもいいじゃん!」
「そんな話はしたくねえんだよ。じゃあな」
「えっ…ちょっと待って!」
バタン
光ちゃんは、話を一方的に切り上げて、家の中に入って行ってしまった。
光ちゃん怒ってたな…
しばらく、呆然と光ちゃんの家の玄関を眺めていた。
「ただいま…」
沈んだ気持ちのまま、玄関の扉を開ける。
「おかえり、友菜。学校どうだった?」
「うん。光ちゃんも唯香も智紀君も、一緒のクラスだったよ」
「良かったじゃない!でもその割には、あまり嬉しそうじゃないわね」
「嬉しかったよ。でも帰りに、光ちゃんと喧嘩しちゃったんだ…」
「あらら…原因は何だったの?」
「清水さんって言う野球部のマネージャーをしている子がいるんだけど、光ちゃんと仲良さそうに話してたから、もし告白されたら清水さんと付き合っちゃうの?って聞いたの。そしたらおまえには関係ないって言われて、あたしを置いて、自分の家に帰っちゃったんだよね…」
「なるほどね…これはどっちが悪いとかじゃないんだけど、光太君の気持ちも少しは分かるな」
「そっか…」
「例えば、逆の立場に立って考えてみるのよ」
「逆?」
「友菜が男の子と一緒に話してて、それを光太君に見られてたとするでしょ」
「うん」
「その男の子と付き合うのって光太君に聞かれたら、友菜はどう思う?」
「う~ん…うまく言えないけど、ちょっと寂しいかも…」
「光太君も、そんな気持ちになったんじゃない?」
「そうなのかな?明日、光ちゃんにちゃんと謝ってみる」
「うん。きっと光太君も許してくれるよ」
階段を上がって、自分の部屋に戻った。
[友菜は鈍感だから、光太君も報われないわよね…いつになったら、光太君の気持ちに気付くのかしら…]
お母さんの独り言が、あたしの耳に届くことは無かった。
部屋でのんびり雑誌を読んでいると、ご飯の時間になった。
下に降りると、香ばしい香りが広がっていた。
今日の夕食は、どうやらカレーのようだ。
「いただきま~す」
「いただきます」
「お父さん、お母さん。昔、近所に住んでた、松島勇気君って覚えてる?」
「もちろん覚えてるわよ!懐かしい。勇気君が引っ越した後、友菜ずっと泣いてたわよね」
「勇気君がどうかしたのか?」
「うん。勇気君がこっちに戻ってきてて、今日会ったの!」
「良かったわね!」
「うん!でも眼鏡かけてて、最初に会った時、誰だかわかんなかったよ」
「あの時から7年経つのか。時が過ぎるのは早いわね」
でも勇気君と7年ぶりに会ったのにもかかわらず、違和感なく話すことが出来たから良かった。
「ごちそうさま」
自分の分の洗い物を済ませ、部屋に戻る。
塾の宿題をやって、お風呂に入った。
「お父さん、お母さん。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
「おやすみ、友菜」
ベットに入って、考え事をする。
今日は、ジェットコースターのような1日だったな…
クラス発表
唯香と光ちゃんと智紀君と同じクラスになることが出来て、凄く嬉しかった。
渡辺先生も面白い先生で、学校生活が楽しくなりそうな予感がする。
生徒会
勇気君と7年ぶりに再会することが出来て、凄く嬉しかった。
帰り道
光ちゃんと喧嘩した…
光ちゃんのことなら何でも分かってるつもりだったけど、あたしの知らない光ちゃんの想いがあるのだと知った。
今日は良いこともあったけど、悪いこともあった。
でも占いで12位っていうほど、悪くはなかったような気がする。
言葉って難しい…
そう痛感した1日だった。