エピローグ
「友菜、大変だよ!」
「どうしたの?」
ある日、家でくつろいでいたら、突然、唯香から電話がかかって来た。
「川越君が東京に行っちゃう!」
「えっ…いつ?」
「今日」
「うそ…」
「石原君情報では、19時にここを出るらしいから、早く行かないと、会えないまま離れ離れになっちゃうよ。それでもいいの?」
「そんなの嫌だ…すぐ行く!」
「東舞駅からの新幹線に乗って、京都経由で東京に行くらしいよ」
「わかった。ありがとね」
ピッ
時計の針は18時30分を少し過ぎた所。
お母さんがいないから車では行けないけど、自転車を飛ばせば、なんとか間に合う時間だ。
和馬君、あたしに何も言ってくれなかった…
その事実にショックを受けつつも、急いで東舞駅に向かった。
こんな時に限って、天気は雨。
「雨のバカ~」
なぜか雨に文句を言いながら、自転車を走らせる。
15分ほどで駅に到着した。
まだ新幹線は出てないよね?
あたしは慌てて和馬君を探す。
皆、ずぶ濡れになったあたしを不思議そうな目で見てくる。
でもそんなことを気にしている場合ではない。
周りを見渡す。
いた!
改札の前に和馬君の姿。
「和馬君!」
あたしは和馬君の名前を呼びながら、走り出した。
「友菜…」
和馬君は驚きの表情を浮かべている。
あたしは脇目も振らず、和馬君の胸に飛び込んだ。
「おまえ、ずぶ濡れじゃねえか」
「行っちゃやだ!」
「はっ?」
「和馬君、東京に行っちゃうんでしょ?」
「行くけど…」
やっぱり本当だったんだ…
「どうして、何も言ってくれなかったの?」
「はっ?」
「今からキャンセルとかって、出来ないの?」
「ムチャ言うな。前々から決まってたし、無理だな」
「ひどい!」
「はっ?」
「それなら、あたしの告白を受け入れないでよ!」
「ちょっと待て!」
「これから、お互いのこと知っていこうねって、約束したじゃん!」
「落ち着け!」
「落ち着けないよ!幸せがもう終わっちゃうなんて嫌だよ…」
「だから、俺の話を聞けって!」
「嫌だ。聞きたくない!」
「最終手段だな…」
和馬君はあたしの手を引いて、人気の無い駐輪場の裏に連れて行った。
そして…
「んんッ」
あたしの肩を掴み、キスをして来た。
「どういうこと?これは惜別のキス?」
「いい加減にしろ」
「だって…」
「おまえは、何か勘違いをしている」
「勘違いも何も、東京に行っちゃうんでしょ…」
「ああ。1泊2日でな」
「やっぱり!ってあれ?1泊2日?」
「明日、株主総会があるんだよ。親父にも立場があるから、いくら仲が悪いとはいえ、どうしても行かなくちゃいけねえんだ。せっかくの休日なのに、遊べなくて悪いな」
「いいの。ハハッ…良かった…良かったよ~」
あたしは和馬君に抱きついた。
「まったく…おまえは俺がどうなると思ってたんだ?」
「東京に行ったまま、帰ってこないかと思って…」
「誰から聞いたんだよ…」
「唯香に聞いたんだけど…」
「藤村?」
「うん…」
「あいつにそんな話をした覚えはねえな…」
「そうだよね…そういえば、唯香は石原君から、出発する時間を聞いたって言ってたよ」
「犯人は石原か…どうせ電車にはもう間に合わねえし、文句でも言ってやらねえと、気が済まねえな」
「ごめんね…あたしのせいで電車に乗り遅れちゃって…それと勘違いして、暴言を吐いて、ごめんなさい…」
「友菜は悪くねえよ。どうせ明日の昼までに着けばいいし、今から新幹線の予約を取り直しても間に合うから、気にするな」
「うん。ありがとう」
あたしはホッと胸を撫で下ろした。
「ちょっと電話かけてもいいか?」
「うん」
和馬君は、どこかに電話をかけ始めた。
きっと石原君の所だろう。
♪♪
「えっ?」
人気の無いこの場所に、携帯音が鳴り響いた。
[ちょっと石原君!何で携帯、マナーにしてないのよ]
[プライベートでは普通、マナーにしねえだろ?]
[とにかく早く止めろって]
[帰りてえ…]
誰かいる?
和馬君が、音の鳴っていた方に歩いて行った。
あたしも後をついて行く。
「おまえら、何やってんだよ…」
「げっ…バレた…」
「ごめんね、川越君。どうしても智紀が来たいって言うから…」
「お…俺のせいにすんなよ!元はと言えば、石原が面白い物が見れるから、19時前に駅に来いって言ったんだよ」
「やっぱり、おまえか…」
「こんなことになるとは思ってなくて…ごめんな、坂本」
「うん…ビックリしたよ」
「坂本が勘違いに気付いたところで、ドッキリ大成功って言って、2人の前に出て行こうっていう作戦だったんだけど…」
「石原、絶交な」
「それはご勘弁を…まさか和馬さん、かなり怒ってらっしゃいます?」
「当たり前だ。おまえのせいで、電車に乗り遅れたんだから」
「俺、帰っていいか?」
1人だけ、まったく興味がなさそうだった光ちゃんが、言葉を発した。
「光太、俺達を見捨てるのか?」
「小林~助けてくれよ」
「おまえらが無理やり連れて来たんだろ?用が済んだなら帰る。友菜」
「何?」
「俺がおまえの自転車を押して帰ってやるから、コンビニで傘を買って帰るか、美雪さんに迎えに来てもらえよな。後、帰ったら、すぐ風呂入って暖まれよ。じゃないと風邪引くから」
「わかった。光ちゃん、ありがとね」
「ああ。それじゃ」
光ちゃんは帰って行った。
「さすが気が利く男だね~」
「過保護とも言うけどな…」
「いいな~あたしもあんな風に、女の子扱いされてみたいな~」
「俺がしてやろうか?」
「気持ち悪いから止めて」
「即答ですか…」
「それにしても、お熱いラブシーンを見ましたな~」
「うん。情熱的だったね!」
「言わないで~」
あの時は夢中だったから、何も感じなかったけど、よくよく考えると、唯香達に全部見られてたってことだよね?
そう考えると、一気に恥ずかしさがこみあげてきた。
「坂本、和馬ってキスうまいの?」
「えっ…そんなの分かんないよ…」
「石原、いいかげんにしねえと、マジで絶交するからな」
「ごめんなさい…和馬様、お許しを」
「まったく…」
「こら~川越~」
「今度は、おまえかよ…」
「友菜ちゃんの唇を2度も奪うなんて、絶対許さねえからな!」
「2回じゃなくて、4回だな」
「くぅ~一発殴らせろ~」
智紀君は、和馬君に向かって行った。
パシッ
「あら?」
智紀君のパンチは、あっさり片手で止められていた。
「ザコ」
そう言いながら、和馬君は遊園地のナンパ男を撃退した時のように、思いっきり智紀君の手を握った。
「やめろ!参った。ギブアップ!」
「……」
和馬君は、無言で智紀君の手を離した。
「イテテテッ、川越の握力、ハンパねえな…」
「だっさ~」
「うっせ~よ」
「川越君に、顔も身長も性格の良さも全部負けてるじゃん。おまけに、喧嘩も勝てないなんて、男としてどうしようもないね」
「男としてどうしようもなくても、好きな女に振り向いてもらえれば、それでいい」
「「えっ」」
あたしと石原君の声がハモる。
「ちょ…ちょっと!いきなり何を言ってんのよ!」
唯香が、真っ赤になって抗議している。
いつもなら、[あんたにそんなセリフ似合わないわよ]って言い返しそうな所なのに…
智紀君も、今まで見たことがないぐらい真剣な顔で、唯香を見てるし、2人とも様子が変だ。
「唯香、智紀君と何かあったの?」
おそるおそる唯香に訪ねてみる。
「別に何も無いよ…」
「友菜ちゃんに隠し事するのか?別に言ってもいいだろ」
「それはそうだけど…」
唯香は顔を赤くしながら、言い淀んでいる。
「気になる~何があったの?」
「そ…それは、また今度教えてあげるね。ほら智紀、帰るわよ」
「引っ張るなっての。友菜ちゃん、また明日学校でね」
「うん。智紀君、バイバイ」
「じゃあね、友菜」
「うん。また明日」
唯香と智紀君は仲良く?帰って行った。
「じゃあ俺もそろそろ…」
「おまえには、俺の説教タイムが残っている」
「ひぃ~和馬様~お許しを」
「石原君も反省してるみたいだし、許してあげたら?」
「仕方ねえな…今日の所は友菜に免じて、許してやるよ」
「和馬がこんなに女の子に甘い男だとは思わなかったよ」
「別に甘やかしてるつもりはない」
「そんなことないよ。和馬君、凄く優しいし、甘いと思うな」
「ノロケですか…これ以上ノロケ話を聞いてても、惨めになるだけだから、帰る」
「さっさと帰れ」
「このリア充め!」
捨て台詞を吐きながら、石原君は帰って行った。
「あいつは、何なんだよ…」
「石原君はきっと、和馬君に構って欲しいんだよ」
「男に好かれても、気持ち悪いだけだ」
「ハハッ…石原君が聞いたら、泣いちゃうよ?」
「そうだな」
「和馬君」
「何だ?」
「今日は一時的だとしても、近い内に東京に帰るとか無いよね?」
「ああ。卒業するまでは、帰らねえよ」
「良かった~」
「でも卒業したら、俺は東京に戻るかもしれない」
「うん…」
「遠距離になっても、仕方がないという覚悟が無いなら、今の内に辞めておいたほうがいいかもしれねえ。もう心音の時の様には、なりたくねえし」
「ううん。距離が離れていても、心が繋がっていれば、きっと大丈夫だよ!」
「そうだな」
「和馬君、これからも、末長くよろしくお願いします」
「何か、結婚の挨拶みてえだな」
「け…結婚?」
「今は無理だけど、将来的にはそういうことも考えていかなくちゃいけねえな」
「う…うん!」
人生山あり谷あり。
これから楽しいことだけじゃなくて、つらいことや苦しいこともたくさんあると思う。
でもどんな時でも、感謝の心を忘れずに[ありがとう]を言い続けたいと思う。
ありがとうは、人を元気にさせる魔法の言葉だから。
あたしと、和馬君の恋物語は、まだ始まったばかりだ。
ロイヤルロード(上) [完]




