報告
[まもなく、東舞駅に到着いたします。長らくのご乗車、お疲れ様でした]
あたし達は、丸一日ぶりに舞亀市に舞い戻ってきた。
「う~ん、空気が美味しいね」
「そうか?俺には分からねえな」
「何より落ち着く。それが一番だよ」
「そうだな」
「これから、どうしよっか?」
「長旅で疲れてるだろうから、家に帰って寝た方がいいんじゃねえか?」
「うん…」
日曜だし、今日も一緒にいたいと思ったんだけどな…
でもバスだから、深く眠れなかったし、疲れているのも事実。
「じゃあ、また明日学校でね」
「じゃあな…っておい待て」
踵を返したところで、和馬君に肩をガッシリ掴まれた。
「和馬君のノリツッコミ、初めてだ~」
「こんなの、ノリツッコミって言わねえよ」
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねえ。俺を彼女を家まで送らない甲斐性無しにさせる気か?」
「えっ…送ってくれるの?」
「当たり前だ」
「ありがとう。お母さんに電話かけてくるね」
「ああ」
プルルル
ガチャ
「もしもし」
「友菜だよ。えっと…和馬君が家まで送ってくれるので、迎えは大丈夫です」
「和馬君?」
「あ…神崎君のことです…」
「もしかして、うまくいった?」
「うん!告白OKもらえたよ!」
「でかした!さすが、我が娘。帰って来たら、話聞かせてよ~」
「うん!じゃあね」
ピッ
「お待たせ~」
「じゃあ、行くか」
「うん!」
和馬君は駐輪場から、バイクを取って来た。
「荷物があるから、乗るのは無理そうだな」
「あ~あ。せっかく、和馬君のバイクに乗れるチャンスだったのにな…」
「恋人なんだから、いつでも乗せてやるよ」
「フフッ、ありがとう」
そんな甘い会話を繰り広げながら、家の近くまでやって来た。
「あ!」
あたしは、声を上げる。
「光ちゃん!」
家から出ようとしていた、光ちゃんを発見した。
「おう。友菜…と川越」
「どこ行くの?」
「ランニングだよ。大学で野球続けるし、体力落とすわけには行かねえからな」
「さすが、光ちゃんだね」
「おまえらこそ、こんな朝早くから何してんだよ?」
「それは…」
「フッ…まあ、なんとなく想像はつくけどな」
「あの…光ちゃん」
「何だ?」
「あたしと和馬君は、お付き合いすることになりました」
お互い幼なじみに戻ろうと決めたとはいえ、少し気まずくて、うつむきながら言った。
「おめでとう」
「えっ?」
祝福の言葉が返ってくるとは思ってなくて、ビックリしながら、顔を上げた。
「友菜、今幸せか?」
「うん!」
「それなら、俺が言うことは何も無い。俺は友菜が幸せになってくれたら、それでいいと思ってるから」
「こうじゃん…ありがどう」
あたしは感動して、涙が出てきてしまった。
「もう俺は、友菜の涙を拭いてやれねえ。友菜の涙を拭いてやる役目は、お前に任せたからな、川越」
「ああ」
「でもおまえが友菜のことを悲しませたら、絶対許さねえから」
「わかってる」
「美雪のこと、頼んだぞ」
「ああ」
2人は握手を交わした。
「じゃあ、俺は行くから」
「光ちゃん、また明日学校でね」
「またな」
光ちゃんは軽快に走り去っていった。
「本当にすぐ泣くよな…」
「仕方ないじゃん!感動したんだもん」
「小林の奴、俺の手を思いっきり握りやがった…」
「光ちゃん、いい人でしょ~あたしの自慢の幼なじみなんだから」
「まあな…」
「それにしても、男の友情っていいよね」
「そうか?」
「うん。和馬君と光ちゃんって、あまりしゃべるイメージが無かったんだけど、仲良かったんだね」
「はっ?おまえには、そう見えたのか?」
「うん。がっちり握手してたじゃん」
「さすが、鈍感」
「鈍感じゃないってば~」
「俺の事を、少なくとも味方とは思ってねえだろうな」
「そうなの?」
「大事な幼なじみを、他の男に取られたわけだからな」
「そっか…」
「友菜の中で、小林がどれくらい大切な存在なのかわかるから、小林と話すなとは言わねえ。今まで通り、幼なじみとして仲良くするのは、別にいいから」
「うん。ありがとう」
「ただ浮気はするなよ?」
「大丈夫。和馬君が一番だから」
「あらあら。朝早くから、お熱いですのね」
「お母さん!」
「川越君、いや…和馬君と呼んだほうがいいのかしら?」
「お母さんは、川越君でいいよ!」
「お母さんにヤキモチ妬くなんて、かっこ悪いわよ」
「ヤキモチなんか、妬いてない!」
「フフッ」
お母さんは笑った後、和馬君のほうを見る。
「川越君」
「はい」
「友菜は、鈍感で、天然で、抜けた所もある子だけど、純粋で、思いやりがあって、素直で、優しい娘です」
「はい」
「友菜のこと、よろしくお願いします」
お母さんはそう言って頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
和馬君もお母さんと同じように、頭を下げた。
「お母さん~」
「また泣いてるし…」
「だって~」
「もう1個忘れてたわ。泣き虫よ」
「知ってます。さっきも泣いてたし、昨日はお化け屋敷で泣いてましたね」
「ちょっと、和馬君!」
「あら~友菜、高校生にもなって、まだお化け怖いの?」
「怖いものは、仕方ないじゃん!」
「フフッ、友菜は子供ね~」
お母さんは不気味な笑いを浮かべている。
「お母さん、気持ち悪い」
「ひどいわ。恩人に向かって」
「恩人?」
「遊園地に行く前に、[明日、どんな格好で行けばいいかわかんないよ~]ってあたしに泣きついて来たのはどこの誰よ?」
「うっ…」
「友菜に初めての彼氏が出来て嬉しいわ~お母さんのファッションセンスと、メイク技術のおかげだけど」
「そういうことにしておくよ…」
次の日、昼休みを利用して、皆にも付き合うことになった事を報告した。
「良かったね、友菜!おめでとう!」
「唯香、ありがとう!」
「こら川越!俺の友菜ちゃんを返せ!」
「いつからお前のものになったんだよ…」
「和馬~いつの間に、坂本とそんな仲になったんだよ?」
「おとついだよな?」
「うん」
「アイコンタクトなんかしちゃって。川越~俺は認めないぞ」
「おまえは、ちょっと黙ってろ」
「ハハッ…」
「もうキスとかしちゃったの?」
「き…き…キス?」
「動揺しすぎ。それじゃあ、肯定してるようなもんだろうが」
「冗談のつもりだったんだけど…本当にしたの?」
「ああ」
「川越!俺はおまえを許さねえ」
「だから、しゃべるなっての」
「想像つかねえな。和馬から?」
「友菜」
「「え~~」」
3人の視線が、一気にこっちを向く。
「川越君が友菜って呼んでる~」
「何か違和感あるな」
「友菜って呼ぶな~」
「智紀、うるさい。あたしは、友菜を、自分からキスするようなハレンチな女の子に育てた覚えはありません」
「ハハッ…」
「それは冗談として…川越君、友菜のことをよろしくお願いします」
「ああ」
「俺…」
「「黙れ」」
「まだ何も言ってねえよ…」
物語は、いよいよフィナーレを迎える。




