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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
5th Stage
37/40

遊園地

「凄~い!大きいね!」



あたしは、思わず感嘆の声を上げる。



東京の人の多さにびっくりしたけど、この遊園地も衝撃度では負けていない。



「国内最大級らしいな」



他人事のようにサラッと言う川越君は、まったく驚いていない様子。



「でも、全然タイっぽくないね」



「はっ?」



「タイランドって言う名前なのに」



そう言うと、川越君は得意の呆れ顔であたしを見た。



何か、変なこと言ったかな?



「おまえって、勉強できるんじゃなかったっけ?」



「まあ、苦手ではないけど…」



「英語は?」



「科目の中では、得意な方だよ」



「じゃあ、わかるだろ…」



「わからないよ~もしかして、食事する所でタイ料理が食べれるのかな?」



「そうかもな」



「あ~適当に言ってるでしょ?」



「その話、今は置いとこうぜ」



「えっ?」



「今は、遊園地を楽しむことに集中することのほうが大事だろ?」



「そうだね。どれから乗ろうかな~」



川越君の口ぶりからして、名前の由来を知っているらしい。



ちょっと気になるけど、川越君の言う通り、今は遊園地を楽しもう。



あたし達はゲートをくぐって、遊園地の中に入った。



まだオープン前ということもあって、おそらく、あたし達と同じように招待された人だけが来ていたため、どのアトラクションも待たなくても良さそうだ。



「あれに乗ろうよ!」



あたしが指差したのは、ジェットコースター。



やっぱり遊園地の定番といえば、ジェットコースターでしょ。



落差が結構あって、スリル満点で、凄く楽しそうだ。



「……」



川越君の反応が全くない。



「どうしたの?もしかしてジェットコースター苦手だったりする?」



「…そんなことねえ」



珍しく表情が顔に出ている。



苦手なのが丸分かりだ。



「フフッ」



「何で笑ってんだよ?」



「何でもないよ~」



いつもいじめられてばかりだから、仕返しのチャンス!



「じゃあ、乗ろっか」



「……」



ジェットコースターに向かうあたしに、無言で付いてくる川越君。



乗り場に着くと、ちょうど前の回の人達が行った所みたいで、誰も並んでいなかった。



「お疲れ様でした~」



しばらくして、前の回の人達が戻って来た。



[怖かったね!]



[ああ。俺、死んだかと思った…]



そんな会話を聞きながら、一番前の席に乗った。



「手すりに、しっかり捕まってて下さいね」



「は~い」



いよいよ、出発だ。



ちらっと川越君の方を見ると、手すりをがっちり掴んで、身動き一つしていない。



「フフッ」



貴重な川越君の姿に笑いながら、マシーンは頂上に向かっていく。



「ほら!川越君、見て!人が米粒みたいだね」



「そうだな」



川越君は、微動だにしないまま答えた。



絶対、下見てないでしょ…



そんなことを思いながら、やがてマシーンは頂上に到着した。



頂上で、数秒間平行に走った後…



「キャー」



皆の歓喜なのか恐怖なのか分からない悲鳴を聞きながら、マシーンは急降下していった。



何度かマシーンは上下を繰り返した後、無事に乗り場に戻ってきた。



従業員のお姉さんが、手すりを上げてくれて、自分でベルトをはずし、マシーンを降りた。



「川越君、大丈夫?」



その場から動こうとしない川越君に、声をかける。



「…平気だ」



そう言う川越君の表情は、少し引き攣っていた。



「立てる?」



あたしは、手を差し出した。



「悪いな」



川越君は、あたしの手を掴んで立ち上がった。



「ありがとうございました~」



従業員のお姉さんに見送られ、乗り場を後にした。



「川越君って、高い所が駄目なの?それとも、ジェットコースターが怖いの?」



次のアトラクションを探しながら、そう訪ねる。



「…高所恐怖症なんだよ」



「フフッ。またまた意外な一面だね」



「生まれつきだから、どうしようもねえ」



「確かにそうだね。次はどこ行こうか?」



「あそこなんていいんじゃね?」



「えっ?」



川越君が指を差したのは、見るからに怪しい雰囲気が漂っているお化け屋敷。



遊園地の定番といえば、定番なんだけど…



「ほ…他のにしない?」



「何でだ?」



「あんまり面白くなさそうだな~なんて…」



「ふ~ん」



そう言う川越君の目に、光が戻った。



やばい…



これは、獲物を見つけた時の目だ。



「さっきはお前の行きたい所に行ったんだから、次は俺の番だろ?」



「そうだね…」



「ここのお化け屋敷はすげ~怖いらしいから、どんなもんか見てみてえんだけどな」



「す…凄く怖いの?」



「それは、行ってからのお楽しみだな」



そう言うと、川越君はお化け屋敷の方に向かって歩き始めた。



「うう…いじわる~」



「別に、いじめてるつもりはねえけど?」



「あたしが、お化け屋敷を苦手なの知ってて、行こうって言ってるんでしょ?」



「苦手なんて聞いた覚えはねえけど?」



「あっ…」



「面白くなさそうじゃなかったのか?」



「川越君って、時々いじわるだよね」



「そんなことねえよ」



「あたしにいじわるして、楽しい?」



「楽しい」



即答した川越君。



「もういい。早く行って、さっさと出よう」



「フッ…やけくそだな」



「……」



あたしは川越君を追い抜いて、お化け屋敷に向かった。



お化け屋敷の前に立つと、中から子供が泣きながら出てきた。



その様子を見て、あたしの足は一歩も前に進まなくなった。



「子供が泣いてるのを見て、おじけづいたか?」



「そ…そんなことない」



「高3にもなって、お化け屋敷で泣いたら、恥ずかしいよな」



「子供じゃないから、泣かないもん!」



「楽しみだな」



あたし達は、お化け屋敷の建物内に足を踏み入れた。



「いらっしゃ~い」



ゾンビ?の格好をした人が、あたし達を迎えてくれた。



もう既に怖い。



「ごゆっくり~」



あたしは覚悟を決めて、暗闇に飛び込んだ。



「川越君、離れないでね」



「ビビリ過ぎ」



「だって~」



あたしは川越君の服の袖をつかみながら、慎重に歩を進めている。



「子供の人形がこっち見てるよ~」



「別にあんなの怖くねえだろ」



「怖いよ~もう嫌だ~」



スタートから1分ほどで、あたしはすでに瀕死状態だ。



ペチッ



「キャー」



いきなり頬に冷たい感触が走った。



「こんにゃくじゃねえか…っておい!待てよ」



あたしは早く出たい一心で、無意識の内にゴールに向かって走り出した。



気づいた時には、当然のことながら川越君はいなくて、一人ぼっちになっていた。



「怖いよ、川越君…」



あたしは涙目のまま、その場に座り込んだ。



しばらく経っても川越君は現れない。



もうダメだ…



諦めかけたその時!



「坂本か?」



あたしが今一番待ち望んでいた人の声。



「川越君」



「何、座り込んでんだよ…」



「怖かったよ~」



あたしは立ち上がり、川越君に抱きついた。



「ちょ…」



「寂しかった!」



「おまえが走って行ったんだろ…」



「寂しかったの!」



「分かったから、ちょっと落ち着け」



川越君はあたしの背中をさすってくれた。



「ヒック…」



あたしは安心感から、涙が溢れて来てしまった。



「マジで泣きやがった…」



「ヒック…」



「悪かったよ…」



「うん…」



「目つぶってろ」



「わかった…」



川越君は途中でリタイアする事の出来る扉まで、手を引いてくれた。



「もう目を開けていいぞ」



あたしはおそるおそる目を開くと、もう外に出てきていた。



「歩けるか?」



「うん…」



「とりあえず、ベンチに座ろうぜ」



あたし達は近くにあったベンチに腰掛けた。



しばらくすると、気分が落ち着いてきた。



「泣いちゃってゴメンね。川越君の服、濡らしちゃった…」



「別にいい。それより、何か飲むか?」



「自分で歩けるよ」



「いいから座ってろ」



「ありがとう。じゃあ、暖かい飲み物が飲みたいな。ちょっと冷えてきたし」



「ココアでいいか?」



「うん。お願いします」



泣かせてしまって、悪いと思ったのかな?



おあいこだから、気を使わなくてもいいのに…



しばらくベンチで座っていると…



「そこの可愛い君~」



「へっ?」



いきなり声を掛けられた。



あたしの前に男の子が立っている。



「1人でどうしたの?」



「えっと…飲み物を買いに行ってくれた友達を、待ってるんです」



「そんな友達なんか放っておいて、俺と遊びに行こうよ」



男の子があたしの腕を掴んだ。



「こ…困ります」



あたしは必死で抵抗する。



「いいから来いって」



男の子の力にかなうはずもなく、あたしは引っ張られて行った。



「おい、何やってんだよ」



「川越君!」



「友達って男かよ。この子が俺と遊びたいんだって」



「ちが…」



「俺の女に手を出すんじゃねえよ」



川越君は、あたしの腕を掴んでいた男の子の腕を凄い力で捻った。



「ちっ…」



男の子は川越君の手を振り払い、舌打ちをすると、去って行った。



「怪我、無かったか?」



「う…うん。助けてくれてありがとう」



「ああ。ココア買ってきた」



「ありがとう!それより…」



「何だ?」



「俺の女って言うのは…」



そう言いながら、自分の顔が赤くなるのを感じた。



「そう言ったほうが、手っ取り早く済むと思っただけだ」



「そ…そうだよね…」



「それとも、本当に俺の女になるか?」



「ちょ…え…あ…」



「冗談だ。小林の事が好きなんだろ?」



「光ちゃん?」



「ああ。違うのか?」



「違うよ…」



「そうか」



「川越君は…」



「何だ?」



「心音さんのことが、好き…なんでしょ?」



「それは過去の話だ。今は好きじゃねえよ」



そう言った川越君は、吹っ切れた表情をしていて、嘘をついているようには見えなかった。



2人でベンチに座って飲み物を飲んだ後、あたし達は再び歩き始めた。



「暗くなってきたね…」



「そうだな」



秋の日没は早い。



すでに太陽は、西に傾き始めていた。



遊園地の営業時間を考えても、乗れるのはあと1アトラクションくらいかな。



「川越君」



「何だ?」



「最後、あれに乗ろうよ」



「ああ」



観覧車を指差す。



あたしが描いたシナリオの、最終目的地だ。



告白といえば、観覧車。



ベタだけど、2人きりになれるシチュエーションを考えた時、最適の場所だ。



観覧車の乗り場に着くと、誰も並んでいなかった為、あっさり乗る事が出来た。



「いってらっしゃ~い」



従業員のお兄さんに見送られ、出発した。



ゆっくりと上がっていく観覧車の中で、あたしは話をどう切り出すか、ずっと考えていた。



緊張であたしの心臓は壊れそうだ。



「川越君!」



「坂本」



見事なまでに被った…



「先に言えよ」



「ううん。大事な話だから、川越君が先に話をして」



「わかった」



どんな話なのかな?



川越君が、真剣な表情であたしを見据える。



ドキドキ



「タイランドの意味、教えてやろうか?」



ガタッ



あたしは思わず、ずっこけた。



せっかくの雰囲気が台無しだ。



「もうちょっと、大事な話だと思ってたのに…」



「おまえが、勝手に勘違いしただけだろ」



「それで、どういう意味なの?」



「ネクタイの英訳ってわかるか?」



「Neck(首)とTie(結ぶ)でネクタイでしょ?」



「そうだ。タイランドのタイは国じゃなくて、ネクタイのタイと同じ結ぶという意味で使われている」



「なるほど~」



「これってどういう意味か分かるか?」



「ランドは土地だから…土地を結ぶ?どういう意味なんだろ…」



「さすが鈍感女」



「ひどい!真剣に考えてるのに…」



「タイランドは、デートに来た男女が、結ばれますようにと願いを込めて付けられた名前なんだよ」



「!!」



一瞬、時が止まった気がした。



タイランドという名前に、そんな意味が込められていたなんて、知らなかった…



「それで、おまえの話って何だ?」



「川越君の話にびっくりして、今まで考えてたこと全部忘れちゃった」



「フッ…何だよ、それは…」



少しの沈黙の後、あたしは意を決して言葉を切り出した。



「川越君」



「何だ?」



「あたし達が、タイランド神話の、記念すべき第1号になろっか」



「はっ?どういう…」











「川越君のことが好きです。あたしと付き合ってください」



あたしはそう言うと、川越君の唇にそっとキスを落とした。



「……」



「えっと…」



「……」



「何か反応をしてくれないと、困るんですけど…」



「…わかった」



川越君はそう言うと、あたしの唇にキスを落とした。



「あ…え…」



「俺も、おまえのことが好きだ」



「!!」



川越君が、今まで見たことがないような穏やかな表情で、あたしを見る。



あたしは驚きのあまり、言葉が出てこなかった。



「フッ…顔、真っ赤だぞ」



そう言う川越君の頬も、心なしか赤く染まっているように見えた。



「あ!」



「何だ?」



「後ろを振り返ってみてよ!」



「窓の外なんて、見たくねえ」



そういえば、川越君、高い所苦手だった…



「さっきまで、普通だったじゃん」



「ずっと、おまえの顔を見てたんだよ」



恥ずかしげなことを、あっさり言う川越君。



「そ…それは嬉しいんだけど…とにかく後ろ見てみてよ」



あたしは川越君の顔を掴むと、無理やり後ろに向けた。



「いて~よ。わかったから」



仕方なくといった感じで、川越君は体を後ろに向ける。



「綺麗だね~」



「そうだな」



西の空に浮かぶ夕日。



秋の夕日は、特に芸術的な美しさがある。



あたし達はしばらくの間、夕日に見入っていた。



「名前の由来通り、この遊園地でたくさんのカップルが誕生するといいね」



「ああ」



「そうしたら、皆に自慢できるよ。[あたし達、この遊園地で誕生した初めてのカップルなんです!]ってね」



「フッ、そうだな」



観覧車は、頂上に到着する。



夕日を背に、今度はどちらからともなく、キスを交わした。



やがて観覧車は地上に戻ってきた。



「楽しかったね~」



「そうだな」



「ここが、あたし達の思い出の地になるんだよ」



「ああ」



「あたし達、出会ってまだ半年しか経って無いから、お互い知らない所もまだまだ沢山あるけど、少しずつお互いを知っていこうね」



「ああ。俺も友菜のことが知っていきたいって思ってる」



「ゆ…ゆ…友菜~!」



「あれ?おまえの下の名前って、友菜じゃなかったっけ」



「そ…そうだけど…いきなり友菜って呼ばれたら、普通ビックリするよ」



「恋人なんだから、下の名前で呼ぶのは当然だろ?」



「は…恥ずかしいよ…」



「小林には、友菜って呼ばれてるじゃねえかよ」



「もしかして、川越君って光ちゃんに対抗意識抱いてる?」



「そんなことねえよ。それより友菜」



「は…はい!」



川越君に、友菜と呼ばれることに慣れていなくて、なぜか体が固まってしまう。



「俺はおまえのことを、友菜って呼んでるのに、おまえが俺のことを、川越君って呼ぶのはおかしくないか?」



「べ…別におかしくないと思うけど…」



「下の名前で、呼んでみろよ」



「えっ…」



「まさか、俺の下の名前を知らねえのか?」



「し…知ってるよ!」



「じゃあ、呼べるだろ?」



「ドS…」



「……」



立ち止まり、無言であたしを見据える、川越君。



言うしかないよね…



「か…か…」



「か?」



「か…そんなに見られると、恥ずかしいよ~」



「言ったら、視線をはずしてやるよ」



「か…か…かわごえかずまくん」



「何でフルネームなんだよ…下の名前だけでいい」



「頑張ったのに…か…か…和馬君…」



あたしは最後の力を振り絞り、言葉を発した。



「言えるじゃねえか」



かん…和馬君はそう言って、あたしの頭を撫でてくれた。



嬉し恥ずかしの、何とも言いがたい気分だ。



「あたし達の周り、誰もいないね」



「誰か見てる所で、頭撫でられっかよ…」



「ん?何か言った?」



「何も。閉園時間が近いから、客がいなくてもおかしくねえって言ったんだ」



「だ~れも触れない、ふ~たりだけの国だね」



「はっ?」



「スピリッツだよ~もしかして、分かんないの?」



「ロビンソンだろ?」



「うん」



「続きは?」



「続き?」



「こういうこと」



「えっ?」



ギュ



和馬君はそう言うと、あたしの手をそっと握った。



「!!」



「君の手を離さぬように…だろ?」



「うん…」



和馬君の意外な行動に、顔は真っ赤。頭はショート寸前だ。



和馬君って恋人に対して意外と甘々な行動を取ることに驚いた。



そういえば、和馬君の家に初めて行った時、まったく女の子扱いされなかったことを思い出した。



でも今思えば、あの時、初めてあたしに心を開いてくれたんだと思う。



和馬君の家に行くきっかけを与えてくれたちび太は、恋のキューピットだね。



ありがとう、ちび太。



あたし達は手を繋いだまま、タイランドを後にした。



その後、東京駅に戻り、夜行バスに乗った。



眠い目をこすりながら、目的の一つだったご当地パーキングエリアで、お土産をたくさん買った。



道中は他愛の無い会話がほとんどだっだけど、和馬君が隣にいてくれて話をするだけで、幸せを感じた。



東京にいけたこと自体も嬉しかったし、遊園地の乗り物も凄く楽しかった。



でも和馬君と恋人になれたことが、一番の思い出として記憶に残るだろう。



「ありがとう」



「何のありがとうだ?」



「フフッ」



「まあいいか」



もうすぐ舞亀市だ。



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