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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
5th Stage
34/40

坂本家

坂本家に入ると、スリッパの音が近づいて来て、一人の女性が姿を現した。



「おかえり~友菜、おっ!君が、噂の川越君か~」



「初めまして、川越です」



「超イケメンじゃん!美雪の母の美雪です。よろしく~」



「よろしくお願いします」



「後ろに連れてるのは…猫?」



「うん。サプライズゲストだよ」



「川越君の家で、飼ってる猫なのかな?」



「はい」



「今日一晩、この子も一緒に泊めてあげたいんだけど、大丈夫かな?」



「ええ。猫は好きだし、大歓迎よ」



「やった~」



「さあ上がって、上がって」



「おじゃまします」



玄関にはなぜかカメがいて、俺を迎えてくれた。



「ごめんね。お母さんがうるさくて」



「別にいい。おまえは、母親似なんだな」



「そうかな?」



「ああ。性格は似てねえみたいだけど」



「飲み物を用意するから、先に部屋で待ってて。あたしの部屋は、階段を上がって、すぐの部屋だから」



「分かった」



坂本はリビングに入って行き、俺は坂本の部屋に向かう。



ちび太も俺の後に続いた。



ガチャ



ドアを開けると、まずグランドピアノが目に飛び込んできた。



部屋の中に入ると、白で統一された家具の周りに、様々な種類のぬいぐるみが所狭しと置かれていて、いかにも女らしい部屋といった印象を受けた。



そして部屋の中央には、コタツが置かれていた。



コタツがある家、初めて見たな。



田舎では当たり前なのだろうか。



「ニャ~」



ちび太はコタツの中に入って、出てこなくなってしまった。



これが猫はコタツで丸くなるってやつか。



そんなことを思いながら、俺の興味はコタツからグランドピアノに移った。



なつかしいな。



たしなみという名目で、色んな事をやらされたが、ピアノは割と好きだった。



音域の広さから作り出される無限の世界に魅力を感じていた。



高校に入ってからも、時々気分転換でピアノを弾いていたが、こっちに来てからはピアノが無いこともあって、弾く事が無くなっていたのだ。



俺の体は自然とピアノに向かって行った。



椅子に座り、鍵盤に手をかけ、演奏を始めた。



楽譜を見なくても、勝手に手が動く。



俺のお気に入りの一曲。



ベートーヴェン交響曲第7番。



舞踏の賛歌と呼ばれ、今なお愛され続けている名曲。



軽快なリズムから生み出されるリズミカルな曲調が印象的で、一度耳に入ったら頭から離れなくなるほどの、強烈なイメージが残る曲だ。



自分の世界に入っていた俺は、坂本が戻ってきていたことにまったく気付かなかった。



弾き終わった瞬間、隣から拍手が聞こえてきて、坂本の存在に気付いた。



「ピアノすごく上手だね!あたし感動しちゃった」



「そりゃどうも」



「飲み物持って来たよ。あともうすぐご飯ができるってお母さんが言ってた」



「わかった。じゃあ呼ばれるまで、おまえが弾いてみてくれよ」



「え…あたし川越君みたいにうまく弾けないし、恥ずかしいよ~」



「いいから。どうせ暇だし」



「そうだけど…」



坂本は渋々ピアノの椅子に腰かける。



「あんまりじろじろ見ないでよ。緊張しちゃうから」



「別にどうしようと俺の勝手だ」



「ううっ…いじわる!」



坂本は俺に文句を言った後、ピアノに向き直り、深呼吸をしてから演奏を始めた。



……



「……」



「何か感想は?」



「もっとマシな選曲できなかったのか?」



「だって、ねこふんじゃったが、一番自信あったんだもん!」



「まあ、ちゃんと弾けてたな」



「あ~バカにしてるでしょ?」



「してねえよ。ピアノが上達するためには、目隠しして練習するといいらしいぜ」



「目隠し?そんなの絶対に無理だよ~」



「そんなことねえよ」



俺は坂本と入れ替わりでイスに座ると、目を閉じてスピリッツの曲の冒頭を演奏した。



「凄い…凄すぎる…」



「おまえも弾いてみろよ。ねこふんじゃったでいいから」



「そうだよね…何事も挑戦だよね…」



不安気にそう言いながら、坂本がイスに座り、目を閉じた。



「全然わかんないよ~ラはどこ?」



坂本は手をバタバタさせている。



「ここ」



俺は坂本の腕を掴んで、ラの所まで誘導した。



「か…川越君…近いよ…」



「でもこのままじゃ、永久に曲が始まらねえだろ」



「友菜、川越君~ご飯よ。降りてらっしゃい」



その時、坂本の母親の声が聞こえてきた。



「ご…ご飯できたみたいだね」



「そうだな」



坂本は目を開け、イスから立ち上がった。



「ところで、ちび太は?」



「こたつの中」



「そうなんだ。お~いちび太~」



坂本はこたつ布団をめくった。



「すごい!本当に猫はこたつで丸くなるんだね。かわいい~」



「そういえば、こいつのご飯用意するの忘れてたわ…」



「どうしよう…猫ってキャットフード以外に何を食べるの?」



「俺も良く知らねえけど、魚とかじゃねえの?」



「煮干しならあるんだけどな…」



「塩分が多い人間の食べ物は、あまり良くないらしい」



「そっか。じゃあ今は我慢してもらって、後でキャットフードを買いに行こっか」



「そうだな」



「ごめんね、ちび太。先にご飯食べてくるね」



「ニャ~」



「じゃあ、下に降りよっか」



「ああ」



俺達は坂本の部屋を出て、1階に向かった。



「お父さん、おかえり」



「ただいま」



下に降りると、坂本の父親らしき人がいた。



「その人は?」



「川越君。同じクラスの人だよ」



「イケメンでしょ?」



「川越です。友菜さんにはいつもお世話になっています」



そう言って頭を下げた。



「川越君、礼儀正しいのね~育ちの良さが出てるわ」



「お父さん、川越君を泊めてあげたいんだけど、いいかな?」



「…分かった」



警戒されている様子。



まあ当然だろうな。



父親にすれば、大事な一人娘が、いきなりどこの馬の骨ともわからない男を連れて来たのだから。



「挨拶はそれぐらいにして、早くご飯食べようよ。お腹ペコペコだよ~」



「そうね。川越君の席は、友菜の隣だからね」



「分かりました」



手を洗って、言われた席に座る。



「いただきま~す」



坂本はよっぽどお腹が空いていたのか、目の前のハンバーグにがっついた。



「友菜、行儀悪いわよ。神崎君を見てみなさい」



ナイフとフォークを使って食べている俺を見て、どうやら行儀が悪いことに気がついたようだ。



坂本はあからさまに落ち込んでいる。



「しまった…いつもの癖が…」



「豪快に食べる女の子は、可愛いと思いますよ」



坂本が不憫に思えてきて、思わずフォローを入れていた。



「ホント?」



坂本は、目を輝かせて俺のほうを見ている。



そんなやり取りを見て、ニヤけている母親に気付いている様子は全く無い。



「川越君って本当いい子よね~友菜、このままじゃ、川越君と釣り合わないわよ」



「そうだよね…もっと女の子らしくしなきゃ…」



また落ち込む、坂本。



本当に感情の起伏が激しくて、面白い。



「ところで、ベートーベンを弾いてたのって、川越君?」



「そうです」



「凄く上手ね~友菜とは、比べ物にならないわね」



「どうせ、あたしはヘタですよ~」



「クラシック、好きなのか?」



坂本の父親が食いついた。



「はい。幼少期からピアノを習ってましたので、その影響で好きになりました」



「そうか。友菜にもクラシックを弾けるようになって欲しくて、ピアノを習わせたんだが、全然興味を示さなくてな。ジャニーだのなんだのって、そんなんばっかり弾いてるんだよ」



「別にいいじゃん!」



「君とは気が合いそうだな。ゆっくり話しをしようじゃないか」



「はい。よろしくお願いします」



坂本の父親は意外と話しやすくて、音楽の話や、政治の話などで盛り上がった。



坂本の父親の俺に対するフィルターが外れたのを感じた。



「ごちそうさまでした~」



ご飯をおかわりしながら、一番に食べ終えた坂本。



前から思ってたけど、良く食うよな。



「ごちそうさまでした」



「お粗末さまでした。口には合ったかな?」



「はい。凄く美味しかったです」



「良かったわ。また食べにいらっしゃい」



「ありがとうございます」



「川越君の分の食器洗っておくから、先に上に上がってて」



「悪いな」



「いいの。川越君はお客様なんだから」



「じゃあ頼んだ」



「うん」



坂本の言葉に甘えて、先に坂本の部屋に戻った。



しばらくして、坂本が洗い物を終えて、部屋に戻ってきた。



「お…お待たせ~」



「遅かったな」



「ちょ…ちょっとね…」



坂本はなぜか挙動不審だ。



手を後ろに回して、何かを隠しているように見える。



「何を持ってんだよ?」



「な…何も持ってないよ」



「ふ~ん。じゃあ手を前に出してみろよ」



「……」



しばらく沈黙が続いた。



「川越君!」



「何だ?」



坂本がいきなり大声を挙げた。



そして頭を下げながら、手を俺の前に突き出した。



「あたしと一緒に遊園地に行って下さい!」



目の前に現れたのは、遊園地のチケットらしき物。



「このチケット、どうしたんだよ?」



「お母さんが同僚の人からもらったんだけど、行かないから、あたしにくれるって」



「そうか」



「それで、一緒に行ってくれる?」



坂本は不安そうに、上目遣いで俺を見ている。



「行く」



「良かった~断られたら、どうしようかと思ってたよ」



「それで、何て所なんだよ?」



「東京にあるタイランドって所だよ。何か国の名前みたいで、面白いよね~」



タイランド?



どっかで聞いたことあるような…



「その遊園地、川越グループが今度新しくオープンする遊園地じゃねえか…」



「うそ~凄い偶然だね」



「そうだな」



「じゃあ川越君は、アトラクションに乗ったことあるの?」



「まだオープンしてねえんだから、乗れねえよ」



「本当だ。[オープン前の遊園地のアトラクションに乗れるチャンス]って書いてある」



「もうすぐオープンのはずだから、近いうちに行かないといけねえんじゃねえの?」



「うん。今週の土曜日だって」



「わかった。予定空けておく」



「楽しみだね♪」



「そうだな」



こうして坂本と遊園地に行くことになった。



「じゃあ今から、計画を立てなきゃね」



「その前に忘れてることがあるだろ?」



坂本の頭の中には?マークが浮かんでいる。



本当に猪突猛進というか、一つのことに集中すると、周りが見えなくなるタイプなんだな。



俺はさりげなくこたつの布団をめくった。



「あ!ちび太のご飯忘れてた~ごめんね、ちび太」



「買いに行くぞ」



「うん」



階段を下りて、外に出た。



坂本は母親に外に出ることを伝えているようだ。



「お待たせ~」



「ああ」



「近くの薬局でいいかな?」



「そうだな」



「そういえば、薬局で川越君に会ったことあったよね」



「ああ」



「あの時、川越君がキャットフード買ってて、初めて川越君の家にお邪魔したんだよね」



「そんなこともあったな」



「あれから、ずいぶん仲良くなったね」



「そうかもな」



「あの時は、こんなに仲良くなれるとは思ってなかったよ」



「そうだな」



「あたしと仲良くしてくれて、ありがとう」



「別にお礼を言われる筋合いはない」



「そっか。でもありがとう」



坂本がこっちを見て、ひたすらお礼を言っている。



相変わらず良く分からねえが、感謝されて悪い気はしなかった。



キャットフードを買って、坂本家に戻ってきた。



「ちび太、ご飯買って来たよ」



「ニャ~」



坂本がちび太に話しかけた瞬間、ちび太は布団から出てきた。



こいつ、まさか人間の言葉がわかるのか?



下から皿を借りてきて、キャットフードを皿に盛ると、ちび太はすごい勢いで食べ始めた。



「いい食べっぷりだね~ちび太。よっぽどお腹すいてたんだね」



「おまえと一緒だな」



「えっ?」



「ハンバーグをいきなり箸で刺して、かぶりつくやつ、初めて見たわ」



「でも豪快に食べる女の子、好きなんでしょ?」



「そんなの嘘に決まってんだろ。建前だ」



「ガーン…それにしても川越君、あたしの両親の前では別人みたいだったよね?口調も丁寧だったし」」



「別に普通だ」



「嘘だ~あたしには意地悪ばっかりで、フォローしてくれるなんて、今まで無かったじゃん」



「じゃあ両親の前で、意地悪されたかったのか?」



「そんなこと言ってない。ただ本当に育ちがいいんだなと思って…」



「気にすることねえよ」



「えっ?」



「おまえは、おまえのままでいい」



「うん…」



「もしおまえが自分で自分を否定したなら、それは親のことを否定したのと一緒の意味になるんだぞ。それでもいいのか?」



「良くないよ。だってお母さんもお父さんも大好きだもん!」



「じゃあ育ちとか、そんなことは気にするな」



「うん。ありがとう」



会話が途切れ、しばらく沈黙が続いた。



ザー



「あれ?」



異変に気づいた坂本は、窓を開けた。



「先にキャットフードを買いに行って良かった~大雨だよ」



「そうだな」



今日は、雨が降る予報じゃなかったはずなんだが…



まあ天気予報なんて、アテにならねえな。



「友菜~お風呂に入りなさい」



「わかった~」



下から、坂本の母親の声が聞こえてきた。



「川越君、先に入る?」



「別にいい。先に入って来い」



「うん。じゃあ行って来るね」



行って来るねと言った後、なかなか行こうとしない坂本。



「どうした?」



「あの…下着を出したいんですけど…」



「ああ」



「ああじゃなくて、川越君が見てたら、出せないよ…」



「別に気にしねえから、早く行ってこいよ」



「あたしが気にするんだよ~少しの間、コタツに潜ってて」



「しょうがねえな…」



俺がコタツに潜っている間に、坂本は準備をして、部屋を出て行った。



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