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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
5th Stage
32/40

田舎

次の日



教室に入ると、川越君と石原君が、何か会話をしているのが見えた。



あきれ顔の川越君と、にやにや顔の石原君。



大方、昨日のことを追及されているのだろう。



声をかけようかどうか迷っていると、唯香が教室に入ってきた。



「おはよう、唯香」



「おはよう、友菜。ライブ楽しかった?」



「うん。やっぱり、生は迫力が違うよね」



「いいな~あたしも行きたかったな~」



「坂本~」



石原君が、あたしの前の席に移動してきた。



どうやら、ターゲットをあたしに変更したようだ。



「何?」



「昨日のデートどうだった?」



「えっ…デート?」



「藤村は知らなかったのか。昨日、和馬と坂本が2人でライブに行ったんだぜ」



「そうだったんだ…」



そっか…



唯香には言ってなかったっけ…



動揺している唯香に少し罪悪感を覚えた。



「それでどうなのよ?ちゅーとかしちゃった?」



唯香は急に明るくなったかと思うと、爆弾を投下してきた。



「ちゅ…ちゅーなんてしてないよ~唯香のバカ!」



「純情な友菜にはまだ早すぎたか~」



「からかわないでよ…」



キーンコーンカーンコーン



「詳しくはまた後でね~」



皆、自分の席に戻った。



「川越君、こっち来て」



次の休み時間、あたしは川越君を廊下に呼び出した。



「何?」



川越君は、眠そうに目をこすっている。



「昨日は、ありがとう」



「おう」



「それで、昨日の話なんだけど…」



「昨日の話?」



「田舎の良さをわからせてあげるって話」



「本気だったのかよ…」



「本気に決まってるじゃん!」



「その話、長くなりそうか?」



「えっ?」



ちらっと教室をのぞいてみると、すでに男子生徒の姿は無い。



しまった…



次の授業が体育ってことを、すっかり忘れてた…



「ごめん、詳しい話はまた今度ね」



「いったいどうするつもりだよ…とりあえず行くから」



「うん…」



タイミング悪かったな…



あたしも、早く着替えないと。



急いで教室に戻った。



いったん話が途切れると、切り出しにくいもので、あっという間に放課後を迎えてしまった。



「友菜、帰ろ~」



「うん」



唯香と話しながら、教科書をカバンにしまっている間に、川越君はあっさり帰ってしまった。



大ちゃんと耕太君は、野球部の集まりに行ってしまったので、今は陽菜と2人で帰っている。



「スピリッツのライブに行ったってだけでもうらやましいのに、川越君と行くとか、友菜、超幸せ者じゃん」



「そうだね」



「よし!決めた」



「何を?」



「川越君に告白する!」



「え…」



唯香の衝撃発言に、言葉が出てこない。



「恋愛は、自分からアクションを起こさないと始まらないし」



「振られるの怖くないの?」



「怖いよ。今まで告白なんてしたことないし。でもこのままズルズル行くと、あっという間に卒業を迎えそうだし、受験もあるからタイミングは今しかないかなって」



やっぱり、唯香でも告白は怖いんだ。



でも唯香の表情からは、やるぞという決意がにじみだしていた。



その後は、他愛のない話をして唯香と別れた。



[恋愛は、自分からアクションを起こさないと始まらない]



唯香のこの言葉が、強く印象に残った。



家に帰ったあたしは、家着に着替えると、ベットに座り、おもむろに携帯電話を取り出した。



[川越和馬]



ライブの日、連絡先を交換をしたので、あたしの電話帳には、川越君のデータが入っている。



緊張するな…



ふぅ~



いったん深呼吸をする。



そして、意を決して発信ボタンに手をかけた。



「えい!」



画面は、川越君への発信を告げている。



耳に電話を当て、川越君が電話に出てくれるのを待った。



「何だ?」



電話から川越君の声が聞こえてくる。



「も…もしもし、坂本友菜ですが…」



「知ってる」



「川越君は今日の夜、暇だったりする?」



「別に暇だけど。昼間の話の続きか?」



「うん。ちなみに川越君ってあたしの家知らないよね?」



「ああ」



「51号線は知ってる?」



「おう」



「51号線を海とは反対方向に行くと、交差点があるから、そこに来てほしいんだけど大丈夫かな?」



「わかった。今から行けばいいのか?」



「夜ご飯食べてから行きたいから、20時ぐらいでいいかな?」



「ああ」



「それじゃあね」



「おう」



緊張した…



その後、夜ご飯を食べて外出用の服に着替えなおしたら、30分前になった。



徒歩で行ける距離だけど、そろそろ家を出ようかな。



「ちょっと出かけてくる」



「こんな時間に?どこに行くの?」



案の定、お母さんから追及を受ける。



隠しても無駄だと判断したあたしは、正直に話すことにした。



「川越君と、ちょっと出かけてきます…」



夜に男の子と二人きりで出かけるって言ったら反対されるだろうな…



「ライブの次は、夜のデートとかやるわね~その調子よ、友菜」



「えっ…止めないの?」



「友菜は真面目だから、たまにはこういう経験もいいんじゃない?ママが友菜の年ぐらいの時は、朝帰りとか普通だったし」



朝帰りはダメでしょ…



「てか、何で神崎君とライブに行ったこと、知ってるの?」



バレないように、家を出たつもりなんだけど…



「友菜の机に、[川越君とデート(ハート)]って書かれた、手帳が置いてあったから」



「そんなこと書いてない!」



本当は川越君とライブって書いてたんだけど、見られちゃったんだ…



そういえば、手帳を広げたまま、家を出たっけ。



まあ悪い事をしてる訳じゃないから、バレてもいいか。



「それじゃ、行ってきます」



「お父さんにはうまく伝えておくから、楽しんできなさい」



「うん」



家を出て、集合場所に向かう。



あたりを見渡しても人はいないので、まだ川越君は来ていないようだ。



9月も下旬に差し掛かり、夜は少し肌寒い。



早く来てくれないかな…



その時、前方から1台のバイクが来て、あたしの前で止まった。



「悪い。ちょっと遅れた」



ヘルメットを取りながら、川越君はそう言った。



川越君、バイク乗れたんだ。



そういえば、家にお邪魔した時、バイクが置いてあったっけ。



「大丈夫だよ。それじゃ行こうか」



「ああ」



あたし達は、さらなる田舎へ向かって歩き始めた。



あたしも、こっちの方面に来るのは久しぶりだ。



「何だよ…このデコボコな道は…」



「小学校の通学路だよ」



「マジかよ。ていうか、何で目の前をバッタが飛んでるんだよ?そもそも田んぼの横に通学路があるとかありえねえし」



あまりに、驚きすぎたのだろうか。



珍しく川越君が、すらすらと喋っている。



でも懐かしいな。



小学生時代、光ちゃんと一緒にこの道を通って学校に行った。



その時と変わらない、豊かな自然に囲まれた通学路。



ただ隣にいるのが川越君というのが少し不思議な感覚だ。



家から学校に着くまで20分以上歩くけど、退屈に感じたことは一度もなかった。



やっぱり、田舎はいい。



あらためて、そう感じた。



「ここが、あたしの通ってた小学校だよ」



ようやく小学校に到着した時には、さすがに少し疲れていた。



「バイク置いていいか?」



「夜だし、駐輪場の端のほうに置いとけば大丈夫でしょ」



うちの小学校は簡単に敷地内に入れるようになっている。



ここの警備は大丈夫なのだろうか…



そう思いながら、駐輪場に向かって歩いていると、前のほうから人が歩いてくるのが見えた。



やばい!



怒られる…



でも前から歩いてくる人物に気付いた時、あたしは声を上げていた。



「あっ!山中先生!」



「うん?」



「全然変わってな~い。あたし、坂本友菜です。覚えてないですか?」



「坂本なのか?覚えてるぞ。大きくなったな」



「はい!」



「それで彼氏を連れて、何しに来たんだ?」



「か…彼氏じゃないんですけど…久々に小学校に来たくなって」



「そうなのか?俺は見回りがあるから行くけど、暗くて危ないから、校舎内には入るなよ」



「わかりました!」



山中先生は校舎内に入って行った。



「びっくりした…」



「怒られなくて良かったな」



「うん。シューマイ先生か~なつかしいな~」



「はっ?シューマイ?」



「山中先生のこと」



「意味わからん…顔の形がシューマイっぽいとかか?」



「ブ~」



「名前がシューマイ」



「ふふっ、山中シューマイとかあり得ないでしょ。ある意味惜しいけど」



「惜しい?」



「山中修一のシューと、彼女の舞花さんのマイでシューマイ先生だよ」



「フッ…なんつうネーミングセンスの無さだよ」



「でも、あたしが卒業する頃には、別れちゃったんだけどね…」



「何で教師の恋愛事情を、知ってんだよ…」



「自分で言ってたし」



「なんだそりゃ…」



シューマイ先生、また会えるといいな。



校舎内には入れないので、あたし達はグラウンドに向かっていた。



「あった!」



「まさかそこから入る気か?」



「もちろん!」



川越君は苦笑い。



あたしはネットの穴からグラウンドに入ろうとしていた。



よくここをくぐりぬけて、遊んでいたのを思い出す。



あの時は軽々通れたけど、今は大丈夫かな…



「よいしょ」



「坂本」



「何?今、集中してるからちょっと待って」



「パンツ見えるぞ」



「えっ…」



その時、あたしは、自分がスカートをはいていることを思い出した。



「キャ~、こっち見ないで~」



「見ねえよ…」



あたしは慌てて、スカートを手で押さえようとした。



でも振り返った瞬間、袖がネットに引っ掛かり、身動きが取れなくなってしまった。



「うそ~」



「何やってんだよ…」



「引っかかって取れないの」



「はぁ~」



「ため息ついてないで、助けてよ~」



「まったく…」



「たぶんカギかかってないから、グラウンドのほうに回り込んで引っ張って」



「じゃあ何でわざわざ穴をくぐろうとしたんだよ…」



「えっと…今でもくぐれるかなと思って」



「もういいや。ちょっと待ってろ」



「うん」



そう言うと、川越君はグラウンドに入って、あたしの前に回り込んだ。



「袖をなんとかしねえとな…」



川越君はあたしの袖を持って、確かめるようにしてみている。



服が破れないように、慎重にネットから服の袖を離してくれた。



「頭引っ込めろ」



「えっ?」



そう言うと、いきなり袖を持ったまま、グラウンドのほうに向かって引っ張り始めた。



「わわわ」



あたしはうつぶせの状態で、久々の小学校のグラウンドに足を踏み入れた。



「何で急に引っ張るのよ~」



「どうせおまえが一人で脱出しようとしたら、どっか引っ掛けるだろ?」



「確かに…でも急に引っ張るから、服がドロドロだよ~」



「それは悪かった」



「いいの。穴に入った時点で汚れるの覚悟してたし。まあどうせこれから汚れるし」



「はっ?」



「こっち来て」



川越君を、草の生えていないグラウンドの真ん中に誘導する。



「ここで、仰向けに寝転がってよ」



「何でだよ?」



「いいから、いいから」



川越君の肩を押して、仰向けに寝させ、あたしも隣に寝転がった。



「ほら見て!」



あたし達の目に映っているのは、遠くに輝く満天の星空。



「綺麗~」



「確かにな」



「ロマンチックでしょ?」



「そうだな」



「小学生の時、良くグラウンドで寝転んで、こうやって空を眺めてたな。昼だから青空だったけど、雲ひとつない快晴の日の空は吸い込まれそうな気がして、なんか不思議な気分になったのを覚えてるよ」



「どうせ昼寝してたんだろ?」



「良く分かったね」



「おまえの行動は、わかりやすいからな」



「川越君、変わったよね」



「はっ?別に変わってねえよ」



「変わったよ。転校してすぐの時なんて、誰も寄せ付けないオーラを発してたし」



「まあ女不信には、なってたかもな」



「今はどう?」



「今でも女は信じられねえ。でも…」



「でも?」



「おまえのことは、信じられる」



「えっ?」



川越君の発言にびっくりして、思わず川越君のほうを見る。



川越君もこっちを見ていて、至近距離で目があった。



「自分でもわかんねえよ。女はもう絶対信じねえって決めたはずなのに」



「うん」



「なあ、坂本」



「何?」



「俺は、前に進んでいけると思うか?」



「うん。もし道を逸れても、あたしが正しい方向に導いてあげるから」



弱気になっている川越君を見て、自然に出てきた言葉だった。



「そろそろ行こうぜ。動かねえと、体が冷えて風邪引きそうだし」



「うん…」



あたし達は、服についている砂を落としながら、立ち上がった。



[お前のことは、信じられる]



川越君がそう言った時、一瞬時が止まった気がした。



「何、ボ~っとしてんだよ」



「えっ?」



「おまえが案内してくれなきゃ、俺が動けねえんだけど…」



「そうだね。田舎巡りツアーはまだ始まったばかりだよ!」



「田舎巡りというより、お前の思い出巡りみたいになってねえか?」



「た…確かに。でも田舎めぐりと思い出巡りができて一石二鳥だよ」



「俺は別にここに思い出はねえんだけど…」



「細かいことは、気にしないの」



「まあいいけどよ…」



「歩いてたら、きっと面白いものが見つかるよ。ほら!懐かし~」



あたしは思わず駆け出した。



「鉄棒だよ。ところで川越君は、逆上がりを出来る子だった?」



「楽勝だな」



「あたしは苦手で最初はできなかったんだけど、ある日急にできるようになったんだよ。初めてできた時は、超感動したな~」



「俺は、初めてやった時に出来た」



「うらやましいな~ところで、逆上がりがうまく出来るようになるコツって知ってる?」



「知らねえ」



「失敗する子は皆、足を前に蹴り上げるけど、本当は鉄棒に体を巻きつけるように真上に蹴り上げるのがいいんだって」



「ふ~ん」



「なんか鉄棒の話をしてたら、久々にやりたくなってきた。今でも出来るかな?」



「出来ねえんじゃねえ?」



「あ~言ったな~絶対成功させてみせるんだから!」



あたしは、一番高い鉄棒の所に歩を進めた。



小学生の時は届かなかったけど、今はこれぐらいがちょうどいい。



「よし!」



あたしは気合を入れて鉄棒を握った。



「えい」



体を後ろに引いて、勢いをつけて地面を蹴った。



「う~ん」



あと少しの所で回りきれない。



いったん地面に着地をする。



「もうちょっとなのにな…」



「残念だったな」



「次は大丈夫!」



さっきよりも更に勢いをつける。



「それ!」



「危ねえ!」



川越君が声を上げる。



勢いをつけすぎたせいで、鉄棒から手が離れてしまって、地面に落ちてしまった。



「いてて…」



「大丈夫か?」



「うん」



「立てるか?」



「ありがとう」



川越君の手を借りて、あたしは立ち上がろうとした。



しかし…



「いった~い」



左足に力が入らず、立ち上がることが出来なかった。



「どうした?」



「う~ん…ちょっと左足をひねっちゃったみたい…」



「歩けるか?」



「けんけんでなら、歩けるよ」



「けんけんで、家まで帰れる訳ねえだろ…」



「どうしよう…」



「おんぶしてやるよ」



「えっ…子供じゃないんだし、恥ずかしいよ…」



「人なんていねえし。てかそんなこと言ってられる状況じゃねえだろ?」



「確かに…じゃあお言葉に甘えて」



あたしは周りを見て人がいないことを確認すると、川越君の背中に飛び乗った。



「よいしょっと」



「ちゃんと捕まってろよ?」



「うん。重くない?」



「重い」



「ひどい!」



「嘘に決まってるだろ」



「も~川越君は、いじわるなんだから…」



人におんぶしてもらうなんて、いつ以来だろうな。



川越君の背中は、広くて暖かい。



昔、お父さんの背中に乗っていた時の感覚と似ている気がする。



安心感と、心地良い揺れで、あたしの意識は遠のいていった。



……





~和馬Side~



スースー



「……」



こいつは、本当に男に対する危機感がねえよな…



俺の背中に乗っている坂本は、心地良さそうに夢の世界に旅立っている。



[あたしが、正しい方向に導いてあげるから]



坂本のこの言葉には、驚いた。



普段、やわらかい雰囲気の坂本が、凄く訴えかけるような目で言ってきた。



本当に、俺のことを考えて言ってくれたことが伝わってきた。



きっと坂本には、損得とか計算とか言う概念が無いのだろう。



財閥の息子として育ち、汚いこともたくさん知っている俺からすると、すごくうらやましい。



きっと、両親の愛情を一身に受けて、育ってきたのだろう。



俺とは正反対の、純粋無垢な坂本。



そんな坂本に、俺は興味を惹かれ始めてきているのかもしれない。



さてこの状況で、どうするのが最善なのか。



バイクを押しながら、坂本をおんぶすることはまず不可能だから、どっちにしても坂本を起こさなければならない。



でも、もう少し寝かせといてやるか。



俺は坂本を背中に背負いながら、駐輪場に向かって歩き始めた。



今日は満月。



「呑気に寝てると、狼に食べられるぞ」



届くはずもない独り言を言いながら、西園寺が目を覚ますのを待った。


……





~友菜Side~



「う~ん…あれ?」



あたしは違和感を感じながら、目を覚ました。



「宙に浮いてる~」



「やっと起きたか」



「川越君?そっか…おんぶしてもらったまま、寝ちゃったんだ…」



「人の背中で寝れるなんて、ある意味すげーわ」



「川越君のこと信頼してるから、全然問題ないよ」



「そりゃどーも。おまえ歩けねえし、帰るぞ」



「えっ…あたし、ここで置いて行かれちゃうの?」



「何でそうなる?俺はそんなに薄情者じゃねえよ…」



「でも川越君、バイクで帰るんでしょ?」



「後ろ、乗せてやるよ」



「予備のヘルメットはあるの?」



「おまえを乗せるかもしれねえから、一応持って来た」



「そうなんだ!でもあたしバイク乗ったこと無いから、ちょっと怖いよ…」



「大丈夫だ。ほら、ヘルメットかぶれよ」



「うん」



川越君からヘルメットを手渡された。



「ぶかぶか~」



「男用のだからな」



「前見えないよ~」



「じゃあバイクに乗ってから、かぶればいい」



「わかった」



先に川越君がバイクに乗り、あたしも川越君の後ろに腰を下ろして、ヘルメットをかぶった。



「乗れたか?」



「うん」



バイクの上は不安定で、ちょっと油断すると落ちそうになる。



どこを掴んでいいかわからなかったので、上着をちょこんと掴んだ。



「そんなんじゃ落ちるぞ。ちゃんと腰に手を回せって」



「うん」



それって、抱きつくような体制になるってことだよね?



川越君の腰に手を回すと、緊張が高まり、心臓の鼓動が制御不可能状態になった。



ドクドク



川越君に心臓の音を聞かれていると思うと恥ずかしくなり、あたしは自分の頭を川越君の背中にくっつけて、うつむいた。



うん?



心なしか、川越君の心臓の鼓動も少し速くなっている気がする。



気のせいかな?



「じゃあ、行くぞ」



「うん」



「ちゃんと掴まってろよ」



バイクは、エンジン音と共に動きだした。



「キャ~」



川越君は、すごいスピードで車道を走る。



初めは怖くて下を向いていたけど、次第に心地良くなってきた。



「気持ちいい~」



爽快感からテンションが上がってきて、思わず叫ぶ。



あたしはしばらくの間、初めてのバイクを堪能した。



目の前の信号が赤になり、バイクは徐々に減速していく。



そして止まった。



「寒くねえか?」



「うん。風が気持ちいいね」



「そうだな。ところでお前の家ってどこだ?」



「家までわざわざ来てもらうなんて、悪いよ…」



「待ち合わせに、歩いてこれるぐらいの距離なんだろ?」



「うん」



「じゃあ、送る」



「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」



「とりあえず、待ち合わせ場所の交差点まで行けばいいよな?」



「うん。よろしくお願いします」



信号が青になり、バイクは再び動き出した。



川越君、優しいな。



家までバイクで送ってくれるなんて、恋人同士みたい。



ねえ、川越君?



あたし、勘違いしちゃうよ…



「好き…」



あたしの声はバイクの音でかき消されて、川越君に届くことはないはず。



でも言葉に出すと、凄くドキドキした。



しばらく走って、待ち合わせの交差点に着く。



「ここから、どういけばいいんだ?」



「左に曲がって、二つ目の路地の角にある家だよ」



「わかった」



あたしの家はもうすぐだ。



もう少し一緒にいたいな…



でもあたしの願いもむなしく、家に着いてしまった。



「ここで合ってるか?」



「うん。今日は本当にありがとう」



「ああ」



「じゃあ、またね」



「おう」



またねと言ったものの、あたしの足は前に進まない。



「どうした?早く家に入れよ」



「川越君こそ、帰らないの?」



「おまえが家に入ったら、帰る」



「じゃあ、あたしは、川越君がいなくなったら、家に入る」



「それじゃあ、お互い永遠にこのままだぞ…何か言いたいことでもあるのか?」



「それは…」



別れるのが寂しい…



そうはっきり言えたら、どれだけ楽なのだろう。



「もうちょっと、バイクに乗っていたかったななんて…」



「そんなにバイクに乗るのが、楽しかったのか?」



「うん…」



「俺は別にかまわねえけど、時間を見てみろよ」



「時間?」



あたしはポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。



「もう10時だ…」



「もう遅いし、早く冷やさねえと、足の痛みがもっとひどくなるぞ」



「そうだね…」



「別にバイクぐらい、いつでも乗せてやるよ」



それって、また遊びに誘ってもいいってことだよね?



「わかった。じゃあ、今度こそ本当にバイバイ」



「ああ」



名残惜しさを感じつつも、あたしは家に入った。



「ただいま~」



「おかえり。友菜、どうしたの?泥だらけじゃない!足も引きずってるし…」



「ハハッ…小学校の鉄棒から落ちて、こうなっちゃった…」



「大丈夫なの?」



「うん。ちょっと痛いけど、冷やせば治ると思う」



「不幸中の幸いね。ところでその足でどうやって帰ってきたの?」



「川越君にバイクの後ろに乗せてもらったの」



「バイクで二人乗り?ラブラブね~」



「そんなことないよ…」



「川越君のこと、好きなの?」



お母さん、直球過ぎ…



「好きだよ」



「でもその様子だと、関係はまだ進展してないみたいね」



「うん…」



「友菜」



「何?」



「女は度胸。攻めて攻めて攻めまくるのよ」



「男は度胸、女は愛嬌じゃなかったっけ?」



「ことわざなんて、歴史上の出来事のようなものよ」



「歴史上の出来事…」



「事件は現場で起こってるのよ」



「ごめん、意味わかんない…」



「つまり、受け身じゃダメってこと」



「それはわかるよ」



「女の子にアプローチされて、嬉しくない男なんていないのよ」



「そうなの?」



「そうよ。あたしの娘なんだから、どんな男もイチコロよ」



「ハハッ…」



「とりあえず、風呂入ってきなさい」



「うん」



左足をお湯につけないようにしてお風呂に入った。



風呂場で、今日の反省会。



久々の小学校にテンションが上がって、はしゃぎすぎて、怪我しちゃって、川越君に迷惑かけちゃったな…



でもそのおかげで、川越君のバイクに乗せてもらえたし、結果オーライかも。



[バイクぐらい、いつでも乗せてやるよ]



川越君の言葉が頭を巡り、どこに連れて行ってもらおうかななんて、お風呂に入りながら考えていた。



お風呂からあがると、トイレから出てきたお父さんに遭遇した。



「友菜、帰ってたのか」



「うん」



「光太君に、勉強を教えてたんだろ?」



「えっ?」



「違うのか?」



どうやらお母さんは、お父さんに光ちゃんの家に、勉強を教えに行ったってことにしておいてくれたらしい。



「そ…そうだよ。光ちゃんの家に行ってたの」



「そうか。光太君も、志望校に受かるといいな」



「うん」



なんとかばれなかった様だ。



心配性のお父さんだから、こんな時間まで遊んでたって言ったら、外出禁止にされそうだし。



ごめんね、お父さん…



でもあたしの気持ちも分かって欲しい…



お母さんにケガの手当てをしてもらった後、川越君のことを想いながら、眠りについた。



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