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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
4th Stage
30/40

受験

9月



夏の残暑が残る一方、夜が長くなり、秋の気配も見せ始めるこの時期。



あたしはというと、9月10日に行われる推薦入試に向けて、最後の追い込みをかけていた。



「もうこんな時間!早くお風呂入って寝よっと」



あれから、光ちゃんとの関係も良好で、勉強は大変だけど、心身共に充実した日々を送っている。



翌朝



「おっす、友菜」



「おはよう、光ちゃん」



光ちゃんが野球部を引退してから、前よりも一緒に登校することが多くなった。



「そういえば、もうすぐ推薦入試があるんだっけ?」



「うん」



「月並みなことしか言えねえけど、頑張れよな」



「ありがとう」



「そういえば、どこの看護学校受けるんだ?」



「京都市にある、赤十字看護学校だよ」



「京都か…」



「うん。光ちゃんは、東京だよね?」



「受かればの話だけどな」



「寂しいけど、光ちゃんも頑張ってね」



「おう」



「離れても、あたし達の絆は崩れないよね?」



「心配するな。暇を見つけて会いに行ってやるよ」



「本当?あたしも会いに行っちゃうよ~」



「友菜の場合、迷子になりそうだけどな」



「そんなことないもん!」



京都と東京



距離にして、500km以上離れている。



やっぱり、こうやってゆっくり話せる機会も減っちゃうのかな…



でも、あたしと光ちゃんなら、大丈夫だよね?



未来のことはわからないけど、いつまでも仲良しでいたいな。



光ちゃんだけじゃない。



唯香や智紀君、そして川越君も…



皆が、それぞれの道を歩んでいく。



出会いがあれば別れもあるというけれど、友人だけではなく、人生のほとんどを過ごしたこの街を離れることも寂しい。



そして忘れてはならないのが、この町を出るということは、両親と離れ離れになってしまうという事実。



今までは、両親に頼りきった生活を送っていた。



無口だけど存在感のあるお父さんと、厳しさの中に優しさがあるお母さん。



一人娘のあたしを、愛情を込めて育ててくれた。



時には喧嘩をすることもあったけど、お父さんもお母さんも大好きで、感謝してもしきれないほど感謝の気持ちが溢れてくる。



離れ離れになっちゃうからこそ、今のうちにたくさんの思い出を作っておかないとね。



でも思いで作りの前に、まずは目の前の受験に集中しないといけないな。



そう改めて決意した1日だった。



そして時は過ぎ、あっという間に受験当日。



平日だったので、公欠を取って、試験会場まで向かう。



昨日は日曜日だったので、4人で集まり、ささやかな壮行会を開いてもらって、皆からパワーをもらった。



電車とバスを乗り継ぎ、人の多さに圧倒されながらも、なんとか会場にたどりつくことができた。



初めは学科試験からなので、受験番号の書かれた席に着席し、試験開始を待った。



キーンコーンカーンコーン



「それでは、解答を始めてください」



勉強の成果もあって、スムーズに回答することが出来た。



次は面接。



「あたしは人と話をするのが好きで、昔入院してた時に看護師の方にすごく良くしていただいたこともあり、私も看護師になって、人を元気づけられる人間になりたいと思い、志望させていただきました」



志望動機を聞かれ、今の自分の思いをすべて、試験監督にぶつけた。



こうして面接も終了し、あたしの推薦入試は無事終了したのである。



「この後、どうしようかな…」



本当は公欠を取っているのだから、このまま帰ったほうがいいのだけれど、せっかく京都市内まで来たからには、行ってみたい場所があった。



バスに乗って向かった先は…



「ここが清水寺か…」



田舎に住んでいるとはいえ、一応京都人のあたしとしては、世界遺産である清水寺に行ってみたかった。



まずは本堂でお参りをする。



「受験に合格しますように!皆といつまでも仲良くいられますように」



心を込めて、神様にお願いをした。



そしていよいよメイン会場へ。



「ここが清水の舞台か…」



清水の舞台から飛び降りるつもりでという格言があるけど、ビル4階建ての高さがあるそうで、とてもそんな度胸は無いな。



昔は飛び降りる人が続出したそうで、今では柵が張られている。



「すご~い。めっちゃいい景色~」



清水の舞台上から見る京都市街は絶景で、ここに来られて良かったなと心から思った。



観光を終え、電車とバスを乗り継ぎ、舞亀市に戻ってきた。



「試験、どうだった?」



お母さんが駅まで迎えに来てくれた。



「うん。自分なりには出来たと思うよ」



「受かってるといいわね」



「うん!」



一週間後



家に帰ってくると、合否通知が家に届いていた。



今日、合否通知が来ることは知っていたので、皆がわざわざ家まで来てくれている。



「いよいよだね!」



「何かあたしまで、緊張するよ~」



「じゃあ、開けるよ」



ビリッ



封筒を開けると、B5サイズの紙が入っていた。



資料が入っていないということは、まさか…



不安に包まれながら、おそるおそる封筒を開いてみる。



そこには…



[合格通知 坂本友菜様]



と書かれていた。



「や…」



「やったよ、友菜~」



「うわ~」



あたしよりも先に唯香が反応して、あたしの胸に飛び込んできた。



合格通知がぐちゃぐちゃになっちゃうよ…



でも自分のことのように喜んでくれている唯香の姿に感動を覚えた。



「やったね!友菜ちゃん」



「ありがとう、智紀君」



パシッ



智紀君とハイタッチを交わす。



「良く頑張ったな」



そう言いながら、あたしの頭をポンポンしてくれる光ちゃん。



光ちゃんの優しさに、あたしの涙腺はついに崩壊した。



「よがっだよ~こうじゃ~ん。ふふっ」



「笑うか泣くか、どっちかにしろよ…」



「今日は盛大にパーティーだ!」



「「お~」」



「さすがあたしの娘だわ。おめでとう」



「やったな。友菜」



その後、両親も交えてパーティーが行われ、夜遅くまで盛り上がった。



翌日



学校に着くと、どこから情報が回ったのかわからないけど、クラスメイト達からお祝いの言葉をたくさんもらった。



「良かったな」



これは重い頭を一瞬だけ挙げて、ちゃんとあたしのほうを向いて言った、川越君のセリフだ。



「ありがとう!」



そう返すと、川越君はフッと一瞬頬を緩めた後、再び夢の世界へと旅立っていった。



放課後



あたしは、最も感謝を伝えたい人の元へ向かっていた。



玄関を開けると、漂ってくる消毒液の香り。



ここは病院である。



~202号室~



久々にこの場所にやってきた。



ガラガラ



扉を開けた瞬間、笑い声と一緒にナース服姿のお母さんとそして…



「友菜ちゃん、久しぶりね。聞いたわよ!合格おめでとう」



「ありがとうございます!」



あたしが、看護師を目指すきっかけになった小谷さん。



どうしても、直接小谷さんにお礼が言いたくて病院を訪れたのだ。



「これで、親子で看護師決定だね」



「まだ学校に入るだけで、これからですから」



一瞬、親の表情になったお母さん。



「口ではそんなこと言って、本当は朝一番に今まで私が見た中の一番の笑顔で、あたしの所に来たのよ」



「ちょっと小谷さん!バラさないで下さいよ…」



「フフッ」



でもお母さんの言っていることは確かだ。



まだまだスタートラインに立ったばかり。



これからが本番だ。



「そういえば、小谷さん、明日退院なのよ」



「本当ですか!」



「そうなのよ。最近体の調子が良くってね。もしかしたら、友菜ちゃんのおかげかもね」



「あたし、何もしてないですけど…でも凄く嬉しいです!」



「ありがとね」



翌日



小谷さんの退院の日。



学校が終わった後、あたしは再び病院を訪れていた。



「退院、おめでとうございます」



「ありがとう」



小谷さんの人望の厚さなのか、たくさんの患者さんが下まで降りてきて、小谷さんの退院を祝ってくれている。



「友菜ちゃんに出会えて、本当に良かったよ」



「あたしもです!ううっ」



「友菜ちゃんは、ほんと泣き虫ね」



「うれじなびだだがらいいんでず!」



「友菜ちゃんのナース服姿を見るまでは、生きなくちゃね」



「いづまでもながいぎじでぐだざい」



「ありがと」



顔を上げると、小谷さんも泣いていた。



しばらく時間が過ぎ、ひとしきり泣いたら、すっきりして自然と笑顔になった。



「やっぱり友菜ちゃんは、笑ってるほうが可愛いわね」



あたしは、小谷さんとの会話が面白くて笑っていると、孫を見るような目で可愛いと言ってくれた小谷さん。



あたしの話に、真剣に耳を傾けてくれた小谷さん。



短い間だったけど、小谷さんと出会えたことは、凄くいい人生経験になった。



小谷さんと出会えたのは、ママが偶然体調を崩してしまって、偶然同じ病室になったからで、ものすごく低い確率の中、あたし達は出会った。



そして、人生を左右する進路についてのきっかけを得た。



これだから、人生は面白い。



「友菜ちゃん、また会おうね」



「はい!でも病室で再会するのは無しにしてくださいね」



「じゃあ私を、結婚式にでも招待してくれるかしら?」



「話飛びすぎですよ~いったい何年後の話なんですか…」



「フフッ」



「ハハハッ」



最後は皆で笑った。



家族の方が、迎えに来てくれた車に乗り込む小谷さん。



「今度こそ、本当にお別れね」



「はい…」



「小谷さん、お元気で」



「美雪さんも、体調管理に気をつけるのよ。皆さんもお元気で」



助手席の窓が閉まり、やがて車は発進した。



「「さよ~なら~」」



車が見えなくなるまで、皆で手を振り続けた。



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