父
~和馬Side~
眠い…
石原の奴が、電車でずっと話しかけてくるから、ロクに眠れなかった…
「和馬~今日は楽しかったね」
さっきまで金魚すくいで負けて落ち込んでたくせに、立ち直りが無駄に早い。
そして、無駄にテンションが高い。
「眠い」
「会話が成り立ってない。楽しかったか聞いてるんだよ」
「まあな」
「スピリッツは、やっぱ最高だよな~」
「そうだな」
「ところでさ、和馬はどっちが本命?」
「はっ?」
「坂本と藤村のことだよ。うちの学年で創璧をなす2人の美人と仲がいいなんて、うらやましいぜ」
「別に仲良くねえよ…」
「女はめんどくせえとか言ってたけど、やっぱり和馬も普通の男の子なんだね」
「おまえの目は節穴か?」
「そんなことないし。藤村と並んで歩く姿も絵になるけど、ベンチに座る和馬と坂本は、どう見てもカップルにしか見えなかったぜ」
「あっそ」
「あっそじゃないよ!それでどっち?」
「どっちでもねえよ」
「じゃあ本命は、他にいるってことか!」
「いねえよ」
「ふ~ん。でも坂本はどうか分から無いけど、俺の勘だと、藤村は和馬の事を好きだと思うぜ」
「別に関係ねえし」
「じゃあ坂本が、和馬のこと好きだって言ったら?」
坂本が俺のことを?
そんな訳ねえ。
きっと、変わり者の俺に興味を抱いてるだけだろうし。
「そっか。和馬の本命は、坂本か」
「は?何も言ってねえだろ」
「何も言ってないからだよ」
「意味不明…おまえの頭は、いったいどうなってんだよ?」
「今、坂本のことを考えてたっしょ?」
「そんな訳ねえだろ」
「無意識はどうする事も出来ないんだよ、和馬君。自分の気持ちに素直になったら?」
確かに坂本は面白いし、見てて飽きねえ。
でも女のことは、まだ完全に信じきれない自分がいる。
「……」
「まあ俺には関係ないことだけどね。よ~し、俺も早く渡辺先生のことを忘れて、次の恋するぞ~」
「だからって、ライブ会場でナンパするなよ…」
「スピリッツ好きは、皆いい子に決まってるからね。そういえば、坂本もスピリッツ好きだって言ってたな」
「ふ~ん」
「内心、ちょっと嬉しいっしょ?」
「別に」
「またまた~今度は坂本も誘って、3人でライブ行けるといいな」
「そうだな」
その後、石原と別れ家の前まで来ると、田舎にそぐわない高級車が止まっていた。
嫌な予感しかしねえな…
不意にドアが開き、運転席から人が降りて来る。
「和馬様、お久しぶりでございます」
「服部、何の用だ?」
運転席から、親父の秘書の服部が、姿を見せる。
「それは、俺の口から言わせてもらう」
後部座席のドアが開き、川越グループの代表取締役、もとい親父が姿を現した。
親父が直々にここに来るのは、今回が初めてだ。
「お袋の様子でも見に来たのか?」
「違う。お前に用があって来た」
「何だよ?」
「お前、全然授業に出てないそうじゃないか」
「ハッ?それがどうしたんだよ?」
「おまえは、川越グループにいったいどれだけ泥を塗る気だ?」
「俺の勝手だろ」
「おまえがそんな態度なら、俺にも考えがある」
「……」
「今日から、お前の持ってるクレジットカードを、すべて使えなくする」
「チッ」
「どうする?」
「……授業に出ればいいんだろ」
「まったく…子供は黙って親の言うことを聞いてればいいんだよ」
「……」
「守らなかったら、どうなるか分かってるだろうな?」
「……ああ」
「じゃあな」
「和馬様、失礼いたします」
親父は、あっという間に姿を消した。
昔から親父のことが嫌いだった。
権力に物を言わせて、上から抑え込もうとするせこいやり方が許せなかった。
後を継ぐ気が無いと言って家を出たが、川越グループのトップに立つということ自体が嫌なわけではない。
大企業の一人息子という立場は理解してるつもりだし、人並みに経営に興味はある。
子供の時から英才教育を受けてきて、なんとなく親父の後を継ぐつもりでいた時期もあった。
でもいつの日からか、親父に反発するようになった。
ほとんど家に帰ってこないくせに、帰ってきたら口うるさく説教をするばかりで、親父にどこかに連れて行ってもらった記憶は全くない。
高校生にもなると、川越グループのトップを務める忙しさや大変さが少しは理解できるから、遊びに連れて行ったもらえなかったことを責めるつもりはまったく無いが、その当時の関係を引きずったまま、今に至り、俺と親父の関係は完全に冷え切ってしまっている。
良くないことだとは思っているが、いまさらどうすることも出来ねえ。
それにしても、面倒くせえことになった‥
自分で稼ぐ手段のない俺は、親父に従う以外の選択肢はなかった。




