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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
4th Stage
26/40

病院

病院に到着。



「すいません、坂本美雪の病室は、どこですか?」



「もしかして、友菜ちゃん?」



「はい、そうです」



「ずいぶん大きくなったのね」



「えっ?」



「子供の時の友菜ちゃんを、抱かせてもらったこともあるのよ」



「そうなんですか?」



「うん。友菜ちゃん、お母さんに似てきたね」



「そうですか?あまり自覚は無いんですけど…」



「そうなの?あっ…お母さんの病室は、202号室だよ」



「ありがとうございます」



少し会話をしたあと、お母さんの病室に向かった。



~202号室~



コンコン



「は~い」



中から聞き慣れた声が聞こえてくる。



声は元気そうだ。



「友菜だけど、入っていい?」



「いいわよ」



ガチャ



中に入る。



そこには点滴をつけてベットに寝ている、お母さんの姿があった。



「大丈夫か?」



あたしに続いて入ってきたお父さんがお母さんに声をかける。



「ええ。ピンピンしてるわよ」



明るい声でお母さんはそう答えた。



「良かった~着替え持ってきたから、置いとくね」



「ありがと」



「娘さんが、来てくれたのね」



「えっ」



いきなり隣のベットから、声が聞こえてきた。



声のするほうを見ると、60歳ぐらいのおばあちゃんが、ニコニコしながらこっちを見ていた。



「はい。坂本友菜です。よろしくお願いします」



「こちらこそよろしくね。美雪さんに似て可愛らしいわね」



「も~谷口さんったら、お世辞がうまいんだから」



「お世辞なんかじゃないわよ。旦那さんもダンディーね」



「ありがとうございます」



お父さんは苦笑いをしている。



「私にも孫がいるんだけど、やんちゃ坊主でね。友菜ちゃんみたいな、おしとやかな孫が欲しかったわ」



「そんなことないですよ。家ではわがままだし、あたしから見たら、まだまだお子様ですよ」



「あたし、もう高校3年生だよ」



「高校生だったの?大人っぽいから、てっきり大学生かと思ったわ」



「お母さんはあたしに意地悪するのが趣味なんですよ。ひどいと思いませんか?」



「そうね~それはきっと、美雪ちゃんのことが可愛くて仕方ないからよ」



「違いますよ~ただのストレス発散です」



その後も谷口さんといろいろな話をした。



「友菜、そろそろ帰ろうか」



「残念ね…」



「あたしも残念です。もう少しお話したかったんですけど…」



「ぜひ、また来てね」



「はい。失礼します」



病室を後にした。



「元気そうだったな」



「うん。でもこんなことがもう起こらないように、いままで以上にお母さんの手伝いをしなくちゃね」



「そうだな」



部屋を出て階段を降り、1階に戻って来た。



「友菜ちゃん、お疲れ様」



受付の所まで行くと、声を掛けられた。



「お疲れ様です」



「美雪さん、元気だったでしょ?」



「はい。安心しました」



「こんなことあたしが言うのも何だけど、美雪さんを支えてあげてね。最近疲れやすくなってきたみたいだし」



そんなの気づかなかった…



あたしは今年で18になる。



お母さんとは二回り違うから、誕生日が来たら42歳だ。



周りからよく若いと言われていたお母さんもいつのまにか40歳を過ぎていたんだね。



お母さんからいろんなことを教わって、お母さんみたいな仕事も家事もばっちりこなせるような人間になりたいな。



そんなことを思いながら、家に帰った。



翌日



「う~ん、一旦休憩」



イスから立ち上がり体を伸ばす。



朝から受験勉強に励んでいたけれど、息抜きをするために、病院に足を運ぶことにしよう。



今日はお父さんが仕事だから、自転車で病院に向かった。



コンコン



「は~い」



ガチャ



病室の中に入ると、お母さんの姿は無く、谷口さんがあたしを迎えてくれた。



「あれ?お母さんは?」



「今ちょうど検査に出たところなのよ」



「そうなんですか…」



「30分くらいしたら、帰ってくると思うわよ」



「わかりました。あたしここにいていいですか?」



「もちろんよ」



「それじゃお言葉に甘えて失礼します」



来客用のイスに腰掛けた。



「友菜ちゃんは高校生なのよね。何年生まれになるのかな?」



「平成元年です。西暦で言うと1989年ですね」



「あら~平成生まれなの?私も年をとったわね」



「いえいえ。まだまだお若いですよ」



「でももう今年で70になるのよ」



「本当ですか?てっきり60歳ぐらいだと思ってましたよ」



「ありがとね。友菜ちゃんは歴史に興味ある?」



「はい!」



「私が生まれた時は日中戦争の真っ最中でね、食べ物も無くて苦労したのよ」



「そうなんですか…」



「そのあと、すぐに第二次世界大戦が始まってね、私の父親も、戦争に行くことになったのよ」



谷口さんは当時を思いだしているのか、少ししんみりとしながら話を続けている。



「舞亀市の港からね、たくさんの人が戦争に借り出されて行った。帰ってこられないことを覚悟してね。でも当時は国を背負って戦争に行くことは名誉なことだったの」



「まさか谷口さんのお父さんも…」



「来る日も来る日も港で父の帰りを待ってたんだけど結局帰って来なかった」



「ヒック…」



その時の谷口さんの気持ちを考えると涙がこぼれて来てしまった。



「あらら…ごめんね、暗い話になっちゃったね」



「ヒック…だいじょぶ…です」



「あの時は確かにつらかったけど、今は孫の顔まで見ることが出来たし、生きてきて良かったと思うよ」



戦争は歴史上の話だと思ってたけど、実際直接話を聞くと現実にあった話なんだと感じさせられる。



幼い頃に父親を無くした谷口さんはきっとあたしには想像もつかないほどの苦労をしたと思う。



それを思うと、毎日何気なく過ごしている日々に感謝しなくちゃね。



色んな人に支えてもらっているあたしは、本当に幸せ者なんだなと実感した。



その後は谷口さんの学生時代のモテモテエピソードやバブルの時の伝説など色んなことを教えてもらった。



逆にあたしのほうも谷口さんのリクエストで、今若い子の間で流行っていることを話したりした。



「友菜ちゃん、看護師さんに興味は無いの?」



「えっ?」



話が一旦途切れた所で、唐突に谷口さんが言った。



「友菜ちゃんと話してると楽しいし、癒されるから看護師に向いてるんじゃないかと思ってね。やっぱり看護師のお母さんの血をひいてるだけあるよね」



「そうですかね?」



看護師の母を持つあたしにとって身近な職業ではある。



子供の頃、喘息持ちだったあたしはよく入院をしていた時期があった。



うちは共働きだから両親がなかなかお見舞いに来れなくて心細かったけど、看護師の人が本当によくしてくれたことを今でも覚えている。



あたしは色んな人と話をするのが好きだし、もしかしたら看護師に向いているのかもしれない。



「ちょっと言ってみただけだから、あまり真に受けなくてもいいのよ」



「いえ。真剣に考えてみます」



「本当に?お母さんもきっと喜んでくれるわよ」



ガラガラ



急にドアが開いたかと思うと、お母さんが部屋に入って来た。



「あら?友菜来てたの?」



「うん」



「話し声聞こえてたけど、谷口さんと何話してたのよ?」



「べ…別に」



「友菜ちゃんみたいな人が、看護師だったらいいのになって、話をしてたのよ」



「ちょっと、谷口さん…」



何となくだけど、まだお母さんには知られたくなかった。



「ふ~ん。それで、友菜はどう思ってんの?」



お母さんが真剣な顔をしている。



お母さんのこんな顔、久しぶりに見た。



「真剣に考えてみようと思ってる」



「そう。でも看護師の仕事は、楽しいことだけじゃないわよ。人の生死に関わってくる仕事だから、つらいこともたくさんある。その覚悟はしときなさいよ」



「うん」



「まあ友菜の人生だから、友菜が決めればいいのよ。でも中途半端はダメよ」



「わかった」



「あ~あ。こんなまじめな話してると仕事しているみたいで嫌ね。友菜、のど渇いたからコーヒー買ってきて」



「うん」



ガチャ



外に出る。



張りつめた空気から解放され、体を伸ばす。



いつもみたいに、おちゃらけた雰囲気になるのかなと思ってただけに、少し意表を突かれる形になった。



どうしよう…



将来にかかわることだから、もちろん1日で決められることではない。



今は、3年の夏休み。



このまま目標も無く大学に行って、大学でやりたいことを見つけることも、一つの手段かなと思う。



でも正直、目標もなく大学に行っても、仕事で役に立つことは、ほとんど学べないと思っている。



缶コーヒーを買って病室まで戻ると、中から話し声が聞こえてきた。



「ごめんね、美雪さん。友菜ちゃんが、看護師になったらいいのにっていう話を、本気にとるとは思わなかったのよ」



「あの子、あんまり冗談通じないですし…」



「本当に純粋な子ね」



「純粋だからこそ、壁にぶち当たった時に挫折してしまわないか、心配なんですよ。でも芯が強くて、人を思いやる心もある子だから、友菜は、看護師に向いているかもしれないですね」



「そうよね~」



「うちは共働きで、友菜には寂しい思いをさせてしまったと思います。でも文句ひとつ言わず、いつも笑顔なんです。本当に自慢の娘なんですよ。だからこそ、友菜には、幸せになってほしいと心から思うんです」



お母さんがあたしのことを、そんな風に見ていたとは思わなかった。



ポタッ



やばいよ…



思わず、嬉し涙がこぼれてきてしまった。



高校生にもなって1日に2回も泣くなんて、恥ずかしい…



ガチャ



「友菜?遅かったじゃ…」



「ごめんお母さん。用事を思い出したから、今日は帰るね。明日また来るから」



「ちょっと友菜!」



これ以上ここにいると大泣きしてしまいそうだったので、コーヒーだけ置いて出てきてしまった。



でもさっきの言葉は、本当に心に響いたな。



嬉しさから頬が緩みながら、時折涙が出て来るという、はたから見たら少し変な人と思われるような状況のまま家まで帰った。



3日後



今日はお母さんの退院の日。



あたしはある決意をして、病院に向かっていた。



コンコン



「は~い」



中からお母さんの声が聞こえてくる。



ガチャ



中に入ると荷物をまとめているお母さんと谷口さんの姿があった。



「友菜ちゃん、こんにちは」



「こんにちは~」



谷口さんとはお見舞いに行くうちに、ずいぶんと仲良くなった。



でも今日でお別れだ。



お母さんの退院は嬉しいことだけど、少し寂しくなるな…



「友菜、手伝って」



「うん。荷物片付いたら少し話があるんだ」



「まさかあたしが入院している間に、イケメンの彼氏が出来たとか?」



「違うよ~」



荷物を片付けると言っても、服ぐらいしか無いので、すぐに片付いた。



「私、席を外すね」



「待ってください。谷口さんにも聞いておいていただきたいんです」



「わかったわ」



2人がこっちを向く。



緊張するな…



「あたしは本気で、看護師を目指したいと思います。確かにきっかけは谷口さんの一言だったけど、3日間考えた結果、その思いはますます強くなってきました。だからどうか認めてください」



そう言って、あたしは頭を下げた。



「……」



しばらく沈黙が続いた後…



「友菜、顔をあげなさい」



おそるおそる顔を上げると…



ガバッ



「えっ…」



いきなりお母さんに抱きしめられた。



「やりたいことが見つかって良かったじゃない。応援するから頑張りなさい」



優しい口調でそう言ってくれた。



「お母さん~」



認めてもらえた嬉しさで、またもやあたしの涙線は、崩壊してしまった。



「おめでとう、友菜ちゃん」



谷口さんからも祝福の言葉をもらうことが出来た。



谷口さんには感謝してもしきれないな。



それから荷物をまとめ、退院の準備をするために、下に降りた。



しばらくして、泣き止んだあたしだったけど…



「友菜ちゃん、看護師目指して頑張ってね」



わざわざ1階まで見送りに来てくれた谷口さんの優しい言葉を聞いた瞬間、再び涙線が崩壊した。



「ヒック…」



「友菜ちゃんは泣き虫ね」



そう言いながら谷口さんの目からも一筋の涙が流れて来ていた。


谷口さんとがっちり握手を交わす。



「さよ~なら!」



何度も振り返りながら、姿が見えなくなるまで手を振り続けた。






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