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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
4th Stage
25/40

夏休み

~友菜Side~



8月



夏真っ盛り。



夏は暑く、冬は寒いという両極端な舞亀市。



あたしの家の冷房は、絶賛フル稼動中だ。



例年の夏休みは、皆でプールに行ったり、花火をしたりしていた。



だけど、今年に限っては、あたしと光ちゃんのことや、受験のこともあって、8月に入った今でも、皆で集まることはなかった。



大ちゃんは、野球の強い大学に一般入試で入るために、猛勉強中らしい。



「友菜、ご飯よ」



「は~い」



今は勉強を中断して、昼食を食べようとしている所。



ピッ



何気なしにテレビを付けると、高校野球がやっていた。



つい先日まで、光ちゃん達もここに立ってたんだよね。



そう思うと、あらためて凄いことを成し遂げたんだなと思った。



光ちゃんも、おそらくこの試合を見ているのだろう。



去年までは、よく一緒に見てたのにな…



少しむなしい気分になって、チャンネルを変えた。



「高校野球、見ないの?」



「見始めると、ずっと見たくなっちゃうから」



「そっか。一応、受験生の自覚はあるのね」



「当たり前でしょ」



少し寂しい気持ちを抱えながら、昼食を取った。



「ごちそうさま」



食べ終えて食器を洗い、少しくつろぐことにした。



「今年はずっと家にいるわね。勉強するのはいいことだけど、たまには息抜きしないと気が滅入るわよ?」



「分かってるよ…」



その時、携帯が鳴った。



着信:唯香



「もしもし」



「もしもし。受験勉強、はかどってる?」



「うーん、ぼちぼちかな」



「そっか」



「唯香はどう?」



「あたしもぼちぼちかな」



唯香はファッションデザイナーを目指して、ファッション関係の専門学校に行くらしい。



「突然だけど、息抜きにどっか遊びに行かない?」



「いいよ。ちょうどあたしも遊びに行きたいと思ってたからさ。どこ行く?」



「新しく出来た雑貨屋さんに行ってみない?」



「そういえば、前から行きたいって言ってたけど、行けてなかったよね。じゃあそうしよっか」



「うん。じゃあ、あたしが唯香の家に行くね」



「分かった。待ってるね」



「それじゃ、またあとで」



「ばいばい」



ピッ



「唯香ちゃん?」



「うん。これから、新しく出来た雑貨屋さんに行くことになったんだ」



「お母さんは今日夜勤だから、カギを持って行ってね」



「今日も仕事?最近忙しすぎない?」



「1人辞めちゃったから、人手が足りないのよ」



お母さんは看護師として働いている。



夜勤もあって、生活が不規則になりがちだ。



でもあたしを養うために、頑張って働いてくれている。



いつか、ちゃんとした形で親孝行をして、恩返ししなきゃ。



そんなことを考えながら、陽菜の家に向かった。



ピーンポーン



「は~い」



中から、声が聞こえて来た。



ガチャ



「友菜ちゃん、いらっしゃい」



「こんにちは」



唯香のお母さんが、あたしを出迎えてくれた。



「ごめんね、友菜ちゃん。唯香、まだ準備が出来てないみたいなの」



「分かりました」



少しの間、玄関先で待つことになった。



「唯香~早くしなさい。友菜ちゃん来てるわよ」



「今行く~」



ダッダッダッ



凄い勢いで階段を下りる音がしたかと思うと、唯香がやって来た。



「階段はゆっくり降りなさいって、言ってるでしょ?」



「はいはい。ごめんね、待たせちゃって」



「大丈夫だよ」



「いってくる」



「いってきます」



「いってらっしゃい。早く帰ってくるのよ」



「はいはい」



唯香の家を出た。



「なんか今日の服装、気合が入ってるね」



今日の陽菜は、ピンクのキャミソールに白のミニスカートという格好だった。



「当たり前じゃん。友菜と、久々のデートなんだから」



「ハハッ…それにしても、そのスカート短くない?」



「これぐらい普通でしょ。女性は見られることを意識することで、綺麗になれるの」



「なるほど~勉強になります」



そんな話をしながら、雑貨屋さんに向かった。



近くに自転車を止めて、店の中に入る。



「いらっしゃいませ~」



アルバイトらしき高校生ぐらいの女の子が、あたし達を迎えてくれた。



「これ、可愛い~」



唯香が花柄のヘアピンを手に取りながら、声をあげた。



他にも店内には、女の子向けの可愛い小物から、日用品まで、色々揃っている。



一通り見て回り、あたしはハート形の携帯ストラップを購入した。



光ちゃんと距離を置くって決めた時に、ボーリング場でもらった織姫の携帯ストラップは外してしまったから、その代役だ。



もし光ちゃんと仲直りが出来たら、もう1回、織姫のストラップを付けようと思っているけど、今はお休み。



一方の唯香は、買い物かごいっぱいに、たくさんの物を入れている。



レジで商品を購入して、店を後にした。



「大量に買ったね」



「重い~」



「片方持ってあげるよ」



「ありがと~」



袋を片方ずつ持ちながら、自転車置き場まで歩いた。



帰り道



「あっ」



河川敷の横を通り過ぎようとした時、声を上げながらいきなり唯香が急ブレーキを掛けた。



あたしも慌てて急ブレーキをかける。



「いきなり止まったりしたら、危ないよ」



「ごめんごめん」



「どうかしたの?」



「ほら!あそこにいる人を見て。もしかして、川越君じゃない?」



えっ…川越君?



唯香の指差す方を見ると、男の人が猫を連れて歩いている。



川越君かどうか確信は持てなかったけど、連れている猫を見てピンと来た。



「ちび太だ!」



「ちび太?それって確か川越君の飼い猫の名前だよね?てことは、やっぱり川越君なんだね」



「うん。おそらく」



「川越君と猫ってミスマッチだけど、そこがまたいい」



「どうする?神崎君に声を掛けてみる?」



「あ…あたしは遠くから見てるだけで、充分だから」



「せっかく会えたんだし、あたしが声掛けて来る。川越君、別に怖くないよ」



最近あまり話せてなかったから、このまま帰るのも何かもったいない気がした。



「怖いとかじゃなくて…」



「それじゃあ行って来る。お~い、川越君」



「待ってよ~」



階段を降りて、川越君の所に向かった。



あたしの声に気づいて、川越君がこっちを見た。



川越君は、びっくりしたような表情を浮かべている。



「こ…こんにちは」



「こんな所で、何してるんだよ?」



「買い物帰りに川越君を見つけたから、降りて来たんだよ。川越君こそこんな所で何してるの?」



「見て分かんねえのかよ。こいつの散歩だよ」



「猫の散歩って珍しいね」



「食い過ぎですぐ太るから、定期的に散歩させないと、ダメなんだよ」



「そっか。リードとか付けなくて大丈夫なの?」



「こいつ人見知りで、ずっと俺の後を付いてくるから問題ない」



「なるほどね~」



確かに川越君の家に行った時、あたしも最初は警戒されてたもんね。



その時のことを覚えててくれたのか、しばらくするとあたしの足元にすり寄って来た。



あたしがちび太に触ろうとかがむと、唯香もあたしに合わせるようにかがんだ。



川越君と話を始めてから、唯香はずっとあたしの影に隠れている。



何か、話すきっかけを作ってあげたいな。



「紹介したことなかったよね。同じクラスの藤村唯香ちゃん。あたしの親友だよ」



あたしは唯香を立たせて、川越君の前に押し出した。



「ちょ…ちょっと、友菜…」



唯香はあたしを振り返りながら、困惑の表情を浮かべている。



そんな唯香に、あたしは拳を握って頑張れという意志を伝えた。



そうすると、仕方なくといった感じで、唯香が再び川越君の方を見た。



「……」



「……」



会話が無い…



[唯香。何か喋りなよ]



[無理だよ…川越君、あたしのこと睨んでるし]



[そう見えてるだけだから、大丈夫だって]



[うん…]



あたしが励ますと、唯香は一回息を吐いた。



そして…



「は…初めまして。藤村唯香と申します。よろしくお願いします」



なぜか、深く頭を下げながら言った。



「初めましてじゃねえだろ」



「もしかして、ぶつかった時のこと覚えてくれてたんですか?」



「あの時は悪かったな」



「とんでもないです。こちらこそ、ごめんなさい」



唯香は終始低姿勢で、川越君と接している。



いつもツンツンしてる唯香も可愛いけど、おしとやかな唯香も可愛いな。



智紀君に、見せてあげたいぐらいだよ。



「同い年なのに、敬語とかうっとうしいから辞めろ」



「わかり…わかったです」



「……」



「分かった」



「フフッ」



「なに笑ってんだよ?」



「そうだよ。人がいっぱいいっぱいだってのに、笑うなんてひどいよ」



「ごめんごめん。普段の唯香とあまりにも違うから、何か面白くて」



「そうなのか?」



「うん。普段の唯香は、強気なキャラなんだよ」



「ふーん」



「ちょっと友菜!川越君に本性バラさなくてもいいでしょ?」



「でも仲良くなっていくためには、素の自分で人と接することが重要なんだよ」



「そうだけど…」



「そういうおまえは、どうなんだよ?」



「えっ?」



「素の自分で人と接してるのか?」



「うーん…」



あらためて、そう言われてみると難しい。



光ちゃん相手だと、何でも頼りきりで甘えてしまう所があって、どちらかというと受け身だ。



川越君相手だと、川越君が無口なこともあるけど、どちらかというとこっちから自発的に、行動を起こしている。



どっちが本当の自分?



そう自問してみたけど、答えは見つからなかった。



その後もちび太と遊びながら、色んな話をした。



ちび太は、なぜか唯香にはあまりなつかなかったんだけど…



初めは緊張していた唯香も、あたしが間に入りながら、話をしているうちに、少しずつ川越君と話せるようになっていった。



しばらく話した後、川越君は帰って行った。



「川越君と、初めてまともに話せたよ!感動したよ~」



唯香が興奮気味に、あたしに話しかけて来る。



「良かったね」



「うん!」



その後、唯香の家にお邪魔して、遊ぶことになった。



唯香は終始ハイテンションで、ずっと川越君の話をしていた。



「ばいばい」



「また誘ってね」



「うん」



こうして唯香の家を後にした。



「ただいま~」



「……」



そういえば、お母さんは夜勤だったことを忘れていた。



部屋で雑誌を読みながら、お父さんの帰りを待った。



……



「ただいま」



「おかえり」



7時を少し過ぎた頃、お父さんが仕事から帰って来た。



帰ってくるなり、テレビを付けて野球を見始めた。



あたしも、お父さんと一緒にご飯を食べながら、野球を見ていると、突然家の電話が鳴った。



どうせまた塾関係の営業電話だろうな。



3年生になってから、急にかかってくるようになった。



あの人達は、いったいどうやって電話番号を見つけて来るのだろうか…



「もしもし。坂本さんのお宅ですか?」



「はい」



やっぱり塾関係かな…



しかし次に出てきた言葉は意外な言葉だった。



「私、舞亀市民病院の小谷と言いますが、美雪さんの娘さんですか?」



お母さんが働いてる病院からの電話だった。



「はい。友菜です」



「落ち着いて聞いてね。友菜ちゃんのお母さんが、倒れちゃったの」



思いもよらぬ事態に、頭が真っ白になった。



「えっ…お母さんは大丈夫なんですか?」



「うん。検査したけど異常は見つからなかったから、2~3日もすれば良くなると思うよ」



「良かった…」



「でも念のため入院してもらうことになったから、着替えとか持ってきてもらえるとありがたいんだけど、大丈夫かな?」



「はい。すぐに伺います」



「それじゃ待ってるわね」



「失礼します」



ガチャ



「誰からだったんだ?」



お父さんはあたしの様子が気になったようで、テレビから視線をはずして話しかけて来た。



「お母さんの病院の人だった。お母さんが、倒れちゃんだって。でも検査で異常はなかったみたいだし、大丈夫みたいだよ」



「そうか。不幸中の幸いだな」



「うん。でも念のため入院するらしいから、今から病院に行こうよ」



「ああ」



お母さんの着替えを準備して、車で病院に向かった。



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