海
~友菜Side~
7月
ようやく梅雨の季節も抜け、晴れの日が続いている。
気温も上昇し、日差しが強くなって来たのを、肌で感じるようになった。
いよいよ、夏の到来である。
夏と言えば海。
あたし達の中でも、海の話題で盛り上がっていた。
「海、行きたいね~」
「俺も~夏のビーチは、女の子の宝石箱やで~」
「おまえ、誰だよ…」
「まあまあ。智紀君が、浮かれる気持ちもわかるよ。海って楽しいもんね」
「楽しむって言っても、おまえ、いつも浮き輪でプカプカ浮いてるだけだろ…」
何を隠そう、あたしはカナヅチなのだ。
でもあたしはプカプカ浮いてるだけでも、楽しいんだけどな…
「そういえば、友菜は水着持ってるの?」
「う~ん…高校に入学した時に買った水着を、おとつい試着してみたんだけど、サイズが合わなくなってたんだよね…」
「成長期なんだね。うらやましいな~」
あたしの体を見渡しながら、唯香が言った。
「おまえは高1の頃から、成長してねえんじゃねえの?」
「うっさいわ。1センチぐらいは伸びたし」
「1センチとか伸びたうちに入らねえし。おまえはいつまでたっても、チビのまんまだな」
恒例の喧嘩が始まった。
「別に人の成長なんて、人それぞれだから、気にすることないよ。小柄な唯香は女の子らしくて可愛いから、あたしはうらやましいよ」
「友菜、ありがとう」
唯香が抱きついてくる。
「友菜ちゃん、高校に入ってから、だいぶ背が伸びたんじゃない?」
「そうかな?」
「あたしもそう思う。だって最近抱きついた時の頭の位置が変わって、ふかふかなんだもん」
そう言うと唯香は、あたしの胸に強く頭を押しつけて来た。
「ちょっと、唯香!」
「いいじゃん。女の子同士なんだし、減るものじゃないでしょ?」
「もう…」
「極上の抱き心地だよ」
そう言いながら唯香は、なぜか光ちゃんの方を見た。
光ちゃんは、なぜか苦笑いをしている。
いつも毅然としている、光ちゃんには珍しいシーンだった。
放課後
あたしと唯香は水着を買いに行くために、イオンに向かっていた。
唯香は水着をいっぱい持っているけれど、毎年新しい水着を買っている。
唯香いわく、流行に乗り遅れたくないらしい。
エスカレーターで2階まであがり、ファッションフロアに到着する。
その中でひときわおしゃれな店に、あたし達は入った。
「いらっしゃいませ」
品の良い店員さんが、あたし達を迎えてくれた。
「すいません。水着を探してるんですけど、どこにありますか?」
「はい。ご案内いたします」
店の奥に足を進めると、その一角に水着がずらりと並んだコーナーがあった。
「友菜、ちなみに今年の流行色って何色なの?」
「今年の春夏のトレンドは、モダンでシャープなブルー。あとは女性らしいきれいで上品なピンクだね」
「青とピンクか~」
「お客様、よくご存じですね」
「はい。ファッションに興味があるので、雑誌を読んで、毎日欠かさずチェックしてるんです」
「なるほど。だからお詳しいのですね」
「はい」
「それで、唯香はどの色の水着を買うの?」
「う~ん…あたしにブルーはあんまり似合わないと思うから、ピンクかな」
「ピンクか~きっと似合うと思うよ」
可愛い唯香には、ぴったりな色だ。
「だからあたしの代わりと言っちゃ何だけど、友菜はブルーにしてみたら?まあ自分の好きな水着を買ったらいいと思うけどね」
「ブルーか…あたしに似合うかな?」
私服としてもあまり持っていない色だから少し不安になった。
「まあ友菜はスタイルいいから、何色来ても似合うんだろうけどね」
「ありがとう」
「じゃあさっそく片っ端から試着しますか」
そう言うと、何着かのピンク色の水着を抱えて、更衣室の方へと消えて行った。
あたしも選ぶとするか。
ブルーを中心に見て回ることにした。
数分後…
「友菜、友菜~」
試着室の方から唯香の声がする。
「どうしたの?」
試着室の方まで歩いて行って、返事をした。
「あたし、もう決めたからさ、友菜も見てくれる?」
「うん」
ガラガラ
試着室のカーテンが開く。
ピンクの水着を身に纏った唯香が、立っていた。
花柄の水着に、フリルとリボンがついていて、とてもかわいらしい。
「どう?似合う?」
「うん。すごく似合ってて、可愛いよ」
「ありがとう。ほら次は友菜の番だよ。一緒に選んであげる」
「お願いします」
あたしはあまりセンスが良くないから、友菜が一緒に選んでくれると助かるな。
2人であたしの水着選びを始めた。
「う~ん」
唯香は、なぜか自分の時以上に、真剣に悩んでいる。
そしておもむろに、一着の水着を手に取った。
「これなんてどう?」
唯香が手にしているのは、ブルーを基調とした、白のドット柄があしらわれている水着だった。
「おしゃれだし、すごくいいと思うんだけど…」
「けど?」
「ちょっと布地の部分が少ないような気が…」
「今時の高校生はこれぐらい普通だよ。絶対に似合うから着てみなって」
「うん…」
「楽しみだな~」
唯香に押し切られて、試着をすることになった。
さっそく試着室に入って、着替える。
着替え終わって、自分の姿を鏡で見てみると、そんなに悪くはない感じだった。
でも胸元が、ちょっと開き過ぎな気がするんだけどな…
人前で見せることを思うと、すごく恥ずかしい気持ちになった。
「着替え、終わった?」
外から唯香の声がする。
「う…うん」
あたしがそう答えると、心の準備をする時間もないまま、唯香が外からカーテンを開いた。
「ど…どうかな?」
「想像以上だわ…こんな姿でビーチを歩いてたらナンパされるだろうね。ねえ、店員さん」
「はい。とっても良くお似合いですよ」
「ありがとうございます」
「光太君が見たら、どんな反応するか楽しみだな~」
「光ちゃん?」
「何でもないよ~」
こうして無事に、水着を買うことが出来た。
水着を買ってから数日が経ち、週末を迎えた。
ブーブー
夜ごはんを食べ終えて、リビングでテレビを見ていると、携帯が鳴る。
着信:光ちゃん
「もしもし」
「俺だけど、日曜日暇か?」
「明日?特に用事は無いけど、どうしたの?」
「この前、海に行きたいって話をしてただろ?」
「うん」
「実は明日急に相手の都合で練習試合が中止になって、うちの学校のグラウンドもサッカー部が練習試合で使うから、練習も出来なくて、休みになったからさ、どうかと思って」
「あたしはOKだよ」
「そうか。車は母さんに頼んであるし、どうせ智紀は暇だろうから、あとは唯香ちゃんの都合だけ、聞いといてくれるか?」
「わかったよ」
「じゃあ頼むわ。もしOKなら友菜の家に10時集合って言っといてくれ」
「うん。確認取れたら、すぐ連絡するね」
「おう。じゃあな」
「バイバイ」
ピッ
電話を切った。
そのまま、唯香に電話を掛ける。
「もしもし」
「もしもし。急な話なんだけど、明日野球部が休みになったから、海に行かないかって光ちゃんに誘われたんだんだけど、唯香は明日、何か用事ある?」
「大丈夫だよ。せっかく新しい水着も買ったし、早く海に行きたかったんだ」
「良かった~それじゃあ、明日あたしの家に、10時に来てくれない?」
「分かった。明日が楽しみだね!」
「うん。あたしも楽しみだよ!」
「それじゃあ、また明日ね」
「バイバイ」
ピッ
唯香から、OKが出た。
光ちゃんに確認した所、智紀君も大丈夫だったようで、皆揃って行けることになった。
これから野球部の夏の大会が始まるし、受験もあって、皆で遊ぶことも少なくなってくると思うから、いい思い出が出来るといいな。
翌日
唯香があたしの家にやって来て、ゴールデンウィークの時と同じように、一緒に朝食を食べた。
「「いってきます」」
「いってらっしゃい」
朝食を食べた後、お母さんに見送られながら、家を出た。
その後、2人で光ちゃんの家に向かう。
ピーンポーン
ガチャ
「いらっしゃ~い、ようこそ我が家へ」
光ちゃんの家なのに、なぜか智紀君が迎えてくれた。
「お前の家じゃねえよ…」
そう言いながら、光ちゃんが後ろから姿を現した。
「おはよう。2人とも準備出来てる?」
「ばっちりさ」
「まあ男なんて、ほとんど荷物ねえけどな」
「それもそうだね」
「出発するか。母さん、友菜達が来たから車頼む」
「はいは~い」
こうして海に向かって、出発した。
「友菜ちゃん、どんな水着買ったの?」
車が走り出して、すぐに智紀君が聞いて来た。
「ブルーのドット柄の水着だよ」
「へぇ~意外な色を選んだんだね」
「うん。唯香によると、今年の流行色らしいから」
「そっか。友菜ちゃんには、ピンクの水着を着てもらいたかったな」
「唯香は、ピンクの水着にしたんだよ。可愛い水着だから、智紀君、見惚れちゃうかもよ~」
「こいつがピンクの水着を着ても、意味ねえんだよ…」
「悪かったわね」
「まあまあ」
「友菜の水着姿可愛いから、期待しててね。光太君」
「ハハッ…」
そういえば、光ちゃんにも水着姿を見られることになるのか…
ちょっぴり恥ずかしいな…
車を走らせること30分。
目的地に到着した。
「「ありがとうございました~」」
「皆、青春して来るのよ。今から親戚の家に行ってくるから、迎えが必要になったら連絡してね、光太」
「ああ」
おばさんは、近くにある親戚の家に向かったようだ。
車から降りて、海に向かう。
ビーチには、既にたくさんの人の姿があった。
泳いでいる人、サーフィンをしている人、日光浴をしている人。
皆それぞれが形は違えど、海を満喫している。
あたし達もレジャーシートを敷き、ビーチパラソルを立てて、場所を確保した。
後は水着に着替えて、海に入るだけだ。
「あの…着替えたいので、ちょっとあっちを向いてくれませんか?」
海辺の方を指差しながら、光ちゃんと智紀君に向けて言った。
「友菜ちゃん、服の下に水着を着てこなかったの?」
「着て来たけど…」
「あんたには、微妙な乙女心が分からないのかね?」
「よく分かんねえけど、友菜ちゃんがそういうなら、向こう向いててあげるよ」
「ありがとう」
「こっち振り返ったら殴るわよ」
「暴力女め。待ってらんねえから、先に泳いでこよ」
そう言うと智紀君は勢いよく服を脱いで、海に向かって走って行った。
「智紀君、準備運動もしないで海に入って、大丈夫なのかな?」
「あんなやつ、放っておいたらいいのよ。あたし達は今から着替えるから、光太君も先に泳いできていいよ」
「俺は今から友菜の浮き輪を、膨らませなくちゃならねえから」
「そっか」
「ごめんね…」
あたしは肺活量があまり無くて、浮き輪がなかなか膨らまないから、毎回光ちゃんに頼んでいるのだ。
「別にいいって。着替え終わったら、言えよ」
「うん」
あたし達は、さっそく着替え始めた。
着替えると言っても、下に水着を着ているからすぐに着替えられる。
「へ…変じゃないかな?」
「凄く似合ってるよ。海に入る時に髪が邪魔になりそうだからくくってあげようか?あと日焼け止めも塗らなきゃね」
「うん。お願い」
後ろで髪をくくってもらって、あたしの手の届かない所に、日焼け止めを塗ってもらった。
これで準備完了だ。
「光ちゃん、お待たせ」
あたしが声を掛けると、光ちゃんが振り返る。
光ちゃんも、すでに水着に着替えていた。
当然、上半身は裸で、割れている腹筋が目に飛び込んで来る。
ちょ…直視できないよ…
「どうよ、光太君?ビーチのアイドルが降臨したよ」
「ど…どうかな?」
「いいんじゃね」
そう言うと、あからさまに目を逸らされた。
ガーン…
「あれ~光太君、何で目を逸らすのかな?」
「似合ってないかな?」
「そういう問題じゃねえんだよ。ほら、これ着とけよ」
そう言うと、あたしに向かって、パーカーを投げて来た。
「光太君が照れるなんて、貴重な姿が見れたな」
唯香はなぜかご機嫌だ。
「海に入る時以外は、それ脱ぐなよ」
そう言うと、光ちゃんはあたし達を置いて海に行ってしまった。
「行っちゃった…」
「たまには光太君をからかうのも、楽しいね」
「光ちゃん、褒めてくれなかったな…」
「心の中では、大絶賛してるよ」
「そうなの?」
「あたしには光太君の気持ちが分かるよ。パーカーを友菜に渡したのが、何よりの証拠じゃない」
「それは、あたしの水着姿が見苦しいから、隠せってことじゃないの?」
「まあ友菜には、微妙な男心は分からないか…」
「??」
「とにかく、光太君も似合うって思ってくれてるから、大丈夫だよ」
「う…うん」
唯香は確信を持っている様子だから、信じたほうが、いいのだろう。
せっかくの海で、落ち込んでても仕方ないし。
「そうだ!友菜に聞きたいことがあったんだ」
「何?」
「川越君のことだよ」
「えっ…川越君?」
まさかこんな場所で、川越君の話題が出てくるとは思わなかったから少しびっくりした。
「ぶっちゃけ友菜は、川越君のことどう思ってるの?」
「どうって言われても…」
「好き?嫌い?」
「好きか嫌いかって言われたら好きだけど、どう思ってるかって聞かれても、正直自分の気持ちがよく分かんない…」
「そう言うと思った。今まで冗談っぽく言って来たけどさ、あたし本気で川越君のこと好きなんだ」
「うん…」
「だから、友菜の気持ちもはっきりと聞きたい」
唯香が真剣な表情であたしの答えを待っている。
「さっきも言ったけど、この感情が恋なのかどうかは分かんない。でも一緒にいて楽しいし、川越君の前だと素のままの自分でいられるんだ」
「なるほどね。LoveかLikeか、恋愛素人の友菜には分からないってことだね」
「ごめんね…唯香のことを応援するって、言ってたのに…」
「友菜、謝っちゃだめだよ。元々応援してっていうのも勝手な話だから。恋愛は自由なんだよ」
「うん」
「どっちが川越君と付き合うことになっても恨みっこなし!女の子同士の友情はこんなことでは崩れないでしょ?」
「まだどうなるか分からないけど、もちろんだよ!唯香があたしのこと許してくれるならだけど…」
「そんなこと言ったら、怒るよ?」
「怒っていいよ。怒るってことは、あたしのことをちゃんと考えてくれてるってことだから」
「ちくしょ~かわいいこと言ってくれるじゃないか。もう怒ったぞ。突撃~」
「うわぁ」
唯香が、いきなりあたしに向かって、突進してきた。
「素肌の方が、柔肌を直接感じられるからいいよね~弾力アップ!」
「ちょ…ちょっと!」
「あたしは、怒ってるんだからね。だからそれを受け止めるのが、友菜の使命なんだよ」
「怒って抱きついてくるって、矛盾してない?」
「矛盾してないよ~だ」
「2人とも、何やってんの?俺も混ぜて~」
智紀君が、休憩をするために帰って来たようだ。
「智紀は、こっち来るな~」
唯香が智紀君に向けて、パンチを繰り出す。
しかし智紀君は、野球で鍛えた反射神経でひらりとかわした。
そして、砂に足を取られ、踏ん張りのきかなくなった唯香は、体ごと智紀君に向かって飛び込んだ。
バタン
「うわぁ!」
「いってぇ…」
もつれるようにして、2人は倒れ込んだ。
「2人とも大丈夫?」
「大丈夫、ちょ…ちょっと智紀!ど…どこ触ってんのよ」
「ふ…不可抗力だ。てかおまえが勝手に俺に向かって来たんだろ。と…とにかく早くどけよ!」
「まったく…あんたがいきなり避けるから、悪いのよ」
「はぁ?普通避けるだろ。俺に責任を押し付けるなよな」
「うるさい!」
お互い顔を赤くして、いつも以上のテンションで言いあいをしている。
砂がクッションになったおかげで、どうやら2人共、怪我は無さそうだ。
「おまえら、いったい何やってんだよ…」
なかなか海に入らないあたし達の様子を見に来たのか、大ちゃんも戻って来た。
全身砂まみれのまま立っている2人に、憐みの視線を送っている。
「智紀がいきなり相撲するとか言いだして、あたしを巻き込んだの」
「ち…ちげえよ、勝手なこと言うな!」
「おまえ、やっぱ最低…」
「無実だ~」
グ~
智紀君が叫んだ後、いきなり、あたしのお腹が鳴った。
「ハハッ…」
朝ご飯、ちゃんと食べて来たのにな…
恥ずかしい…
「そういえば、結構いい時間だね」
時計の針は、12時を少し回った所を指していた。
「昼飯食いに行くか」
「うん」
海で食べる昼食と言えば、海の家。
だから、あえて弁当は用意してもらわずに、海の家で食べる予定になっていた。
唯香と智紀君が全身の砂を払い終わってから、4人で海の家に向かう。
歩いていると、周りの視線をちらほら感じた。
[ほら見ろよ!あの子超美人じゃん]
[ホントだ。すらっとしててスタイルもいいしな。でも隣の子も可愛いじゃん]
[そうだな。でも男連れだから、声かけらんねえよな]
声までは聞こえて来ないが、何か話をしているようだ。
「チャラ男達の視線ウザいわ~」
「唯香が可愛いから、皆注目してるんだよ」
「はぁ…」
光ちゃんは、ため息をつく。
「光太君、ドンマイ」
「??」
「友菜ちゃんは分からなくていいんだよ。それにしても、髪をアップにした友菜ちゃんは大人っぽくて、見惚れちゃうな」
「そうかな?ありがとう」
「美雪のことを、いやらしい目で見てんじゃないわよ」
「うなじがたまらんですな~」
「気持ちわる…」
「光太はうなじの魅力、分かるよな?」
「……」
「無視するな~」
…気を取り直して、歩いて行く。
あたし達を見つめる視線の中には、女の子からの視線もあった。
2人共、かっこいいもんね。
智紀君は手を振り返していたけれど、ほとんど無視されていた。
どうやら、大半が光ちゃんへの視線だったようだ。
やっぱり光ちゃんは、女の子からモテるんだなと再認識させられた。
こうして視線を浴びながら歩き、海の家に到着した。
「いらっしゃいませ~」
昼食時とあって、海の家は、たくさんの人で溢れかえっていた。
テーブルが空いていなかったので、しばらく待つことになった。
「皆、何食べる?」
「俺、焼きそば大盛りと、ラーメン」
「光ちゃん、そんなに食べられるの?」
「1個当たりの量が少ないから、これぐらい頼まないと足りねえんだよ」
育ち盛りはすごいな~
「俺、カレー大盛り~あとラムネ」
「スポーツやってる人間が、炭酸飲むなよ」
「そんなの、自由じゃん。外で飲むラムネは、最高においしいんだぜ」
「勝手にしろ…」
「唯香は、どうする?」
「たこ焼きと、かき氷のイチゴにする」
「友菜は、どうするの?」
「あたしもたこ焼き~。あと、かき氷のブルーハワイ味も頼もうかな」
「友菜の水着の色と一緒だね。てかブルーハワイって何なんだろうね?」
「昔やってた映画の名前が由来だって説が一番有力だけど、詳しくは分かってないみたい。ブルーハワイは普通カクテルのことを指すのだけれど、かき氷にお酒は入れられないから、かき氷のブルーハワイは柑橘系の味に仕上げてあるらしいよ」
「そうなんだ。でも柑橘系の味だったら、ブルーハワイって言うイメージじゃないよね…」
「確かにそうかも…」
柑橘系なら、オレンジ色にするといいのかな?
10分ぐらい待った後、テーブルが空いて、ようやく注文の番が回って来た。
皆それぞれ注文し、食べ物が出揃った。
「「いただきま~す」」
智紀君はのどが渇いていたのか、勢いよくラムネを飲み始めた。
「く~うめえ」
あっという間に、飲み干してしまった。
「何で海の家の食べる食べ物って、こんなにおいしく感じるんだろうね?」
「それは、水着の店員さんの愛情がこもっているからだよ」
「おまえ、アホだろ…」
「そうだよ。水着の店員さん見て鼻伸ばしちゃって…気持ち悪い」
「別にいいだろ。このぼったくりと思える値段設定は、水着の店員さんが、接客をするというサービス料なんだよ。そう思うと、この値段でも安いもんだぜ」
「じゃあサービスいらねえから、安くしろよ」
「そうだよ。水着で接客されても、女の子には何のメリットもないじゃん」
「逆に男の店員だったら、男にメリットねえし」
「そこんとこ、どう説明してくれるのよ?」
「2人で俺に集中攻撃してくんなよ。何も言い返せねえじゃないか…」
「海の家は、需要と供給のバランスを考えると、圧倒的に需要の方が多いから、この値段設定でも飛ぶように売れるんだよ。それに仮設費用がかかるうえ、夏の間だけの短期契約だから、どうしても値段を高くせざるを得ないんだ」
「冷静な解説ありがとうございます…」
こんな会話をしながら、食事を終えて、海の家を後にして、元の場所まで戻って来た。
「それじゃ泳ぎに行くとしますか」
「智紀!あたしと勝負しなさい」
「はぁ?何でおまえと勝負しなきゃならねえんだよ」
「へぇ~逃げるんだ。じゃあ、あんたの負けってことでいいわね?」
「そこまで言うなら勝負してやるよ。俺、結構泳ぎに自信あるから、どうせおまえの負けだけどな」
「あたしもスイミングに通ってたんだから、素人になんかに負けないわよ」
そう言うと2人して海に向かって走っていった。
あたしと光ちゃんだけが取り残された。
「光ちゃんは泳ぎに行かないの?」
「さっき充分泳いだし、飯食ってすぐになんて泳ぎたくねえから、ここで日光浴でもしとくわ。荷物も見とかなきゃならねえし」
「そっか。あたしはまだ海入ってないから、行ってくるね」
「ああ。おまえロクに泳げねえんだから、あまり沖まで行くなよ」
「大丈夫。水面にプカプカ浮いてるだけだから」
「とにかく気をつけろよ」
「うん。行ってきます」
あたしも海に向かった。
唯香と智紀君は沖のほうで競争しているようだ。
まず軽く準備体操をしてから水に足をつける。
「冷た~い」
日光によって火照った体には心地良い冷たさだった。
いよいよ海に入る。
慎重に歩いて行き、浮き輪に体を預けながら、水面に浮かんだ。
体は波の動きに合わせて、ゆらゆらと揺れている。
「♪♪」
あまりに心地良くて、自然と鼻歌を歌ってしまっていた。
天気は快晴。
海から見る雲ひとつない青空もまた格別のものだ。
しばらく時間も忘れ、のんびりと過ごしていた。
……
ふと我に帰って周りを見渡してみると、だいぶ沖のほうまで流されていることに気がついた。
足を付けてみようと試みたけれど、もう足がつかない所まで来てしまっていた。
どうしよう…
その時、いきなり大きな波が押し寄せて来た。
「うわぁ~」
足を付けようとジタバタしていたため、波にのまれ、バランスを崩して、浮き輪を手から離してしまった。
泳げないため、必然的に犬かきをして何とか溺れないように努力する。
しかし体力的に長くは続かず、しばらくすると頭まで水に浸かってしまった。
ゴーグルを付けていなかったので、目も開けられず、ただひたすら水を掻くことしか出来なかった。
水を飲んでしまって、呼吸もままならない。
どうしよう…
まだやり残したことが、たくさんあったのにな…
なぜか、そんなことが頭をよぎった。
その時!
突如強い力で、下から体を持ち上げられた。
「ゴホゴホッ」
下から支えてもらうことにより、水面に顔を出すことが出来て、ようやく息をすることが出来た。
「友菜!大丈夫か?」
聞き慣れた声。
目を開けるとあたしが一番頼りにしている、見慣れた姿がそこにはあった。
「光ちゃ~ん」
恐怖から解放されて、思わず涙が出て来てしまった。
もたれかかるようにして、光ちゃんに体を預ける。
「大丈夫なんだな?」
「うん。少しだけ水は飲んじゃったけど、体は大丈夫だよ」
「まったく…おまえは本当に世話の掛かるやつだな」
「ごめんね…」
「あれほど沖のほうに行かないように気をつけろって言ったのに…」
「うん…反省してます」
「うとうとしてて、ふと海の方見たら、おまえ沖に流されてるんだぜ。しかも溺れかけてるし…マジ焦ったっての」
「助けてくれて、本当にありがとう」
「ああ。海岸まで戻るぞ」
「うん」
大ちゃんに手を引っ張ってもらって、何とか海岸までたどりついた。
陸に上がり歩いていると、唯香と智紀君が駆け寄って来た。
「光太君とラブラブで、泳ぎのレッスンしてたの?」
「友菜が溺れてたから、助けに行ってた」
「えっ!そうだったんだ…それで、友菜は大丈夫なの?」
「うん。光ちゃんがすぐに助けに来てくれたから、今はまったく平気だよ」
「良かったね、友菜ちゃん。ちゃんと光太王子に感謝するんだよ」
「光ちゃん、ありがとう。光ちゃんは、あたしの大好きな王子様だよ」
「ああ」
「そういえば、唯香と智紀君の勝負は、どっちが勝ったの?」
「あたしが勝ったに決まってるじゃない。素人相手に負けてられないよ」
「おまえがフライングしたから、この勝負は無効だ~」
「結局、あたしの圧勝だったんだから、ぐちぐち文句言わないの。罰ゲームを、受けてもらうわよ」
「くっそ~」
どうやら、今回は唯香が勝利したようだ。
後日、智紀君の罰ゲームが行われた。
内容は、おでこにバカと書いたまま、一日を過ごすというものだった。
クラスメイトはもちろんのこと、渡辺先生や他のクラスの人までも、笑いの渦に巻き込んでいた。
「くっそ~この屈辱、一生忘れねえからな」
智紀君は唯香に向かって、嘆いていた。
「ほ~ほっほ」
唯香は満足そうな笑みを浮かべながら、一日中智紀君を観察していたのである。




