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ロイヤルロード(上)  作者: Koko
3rd Stage
17/40

~友菜Side~



6月中旬を迎えたある日。



「シャンプーが切れたから、買って来てくれない?」



「え~」



「おこづかいあげるから」



「それならいいよ~」



お母さんにお使いを頼まれたあたしは、行きつけの薬局に自転車で向かっていた。



到着し、店内へと歩みを進める。



しばらく探していると、思いもよらぬ人物と遭遇した。



川越君だ!



「川越君、この前は助けてくれてありがとね」



「えっ?」



川越君は、人に話しかけられることは想定していなかったようで、驚きの表情を見せた。



「何を買いに来たの?」



「別になんだっていいだろ」



そう聞きながら、棚を見上げてみると…



ん?キャットフード?



「川越君、猫飼ってるの?」



「ああ」



「フフッ」



あまりのギャップに、思わず自然と笑いが込み上げて来た。



「バカにしてんのかよ…」



「ううん、意外だなと思って。1人暮らししてるって言ってたけど、マンションでペット買えるの?」



「一軒家だから飼える。それとほとんど家にいねえけど、お袋も一緒に暮らしてるから」



どうやら川越君の一人暮らしと言うのは、実質と言う意味だったようだ。



「そうだ!川越君、今から時間ある?」



「何だよ?」



「あたし、猫大好きなんだ。だから今から、猫を見せてくれない?」



「ハァ?面倒くさい」



「一生のお願いだよ!」



「こんなことの為に、一生のお願いなんて使うなよ…」



「いいでしょ。別に減るものじゃないんだし」



「…勝手にしろ」



「わ~い」



しつこく粘り続けたら、ついに川越君は根負けした。



こうして半ば強引にだけど、猫を見せてもらえることになった。



シャンプーを購入し、川越君の家に向かって歩き始めた。



初めて歩く場所なので、景色を見ながら歩く。



紫陽花が雨露に濡れて、きらびやかに咲き誇っている。



「……」



無口な川越君に、景色を堪能しているあたし。



2人揃って、無言のまま、隣を歩いた。



10分ぐらい歩いた所で、川越君が急に足を止めた。



「着いた」



そう言うと、あたしのことは無視して、家の中に入って行く。



「ちょっと待ってよ~」



ここまで押して来た自転車を止めさせてもらって、川越君の後に続いた。



門をくぐり抜け、敷地内に入る。



すご~い



こんな田舎に大豪邸があったなんて…



呆気に取られ、しばらくの間、ぼ~っと眺めていた。



「おい!置いてくぞ」



川越君の声で我に帰る。



「ごめ~ん」



少し歩いた所で、ようやく玄関にたどりついた。



そういえば、猫を見たいなんていいながら、実質、川越君の家にお邪魔するようなものだ。



しかも、1人暮らしだって言ってたし…



今更ながら緊張して来た。



「おまえ、ボケっとしすぎ。入らねえなら、鍵閉めるぞ」



「入るから~お邪魔しま~す」



中に入る。



大きいシャンデリアが真ん中に吊り下げられていて、廊下には有名な海外の画家が描いたであろう、絵画が並んでいた。



その雰囲気に圧倒されながら、川越君の後ろをついて行く。



「ニャー」



うん?



いきなり、猫の鳴き声。



どこからともなく、1匹の猫が姿を現した。



川越君の足元に絡みついている。



猫と一緒に歩き始めたあたし達。



たくさんの部屋を通り過ぎ、しばらくした所で、川越君は足を止めた。



ガチャ



川越君が鍵を開け、部屋に入る。



「お邪魔しま~す」



あたしも、川越君に続いた。



部屋の中にはソファとテレビとテーブルしかなくて、客人を迎え入れるためのだけの部屋のようだった。



「飲み物、持って来る」



「ありがとう」



川越君は部屋から出て行った。



猫とあたしだけが、部屋に取り残されていた。



猫は警戒するように、あたしから距離を取っている。



猫は目を合わせると、威嚇されていると勘違いするので、目を合わせてはいけない。



やがて警戒心が徐々に溶けて来たのか、猫の方からあたしにすり寄って来た。



カーペットに腰をおろし、受け入れ態勢を作る。



目を合わせないように気を付けながら、あごの下を軽く撫でてやる。



猫は気持ちよさそうにあたしに体を預けた。



これはもう完全に警戒心が溶けている証拠だ。



好きな時に近づいてきて、突然去っていく。



このツンデレ具合が、たまらなくかわいい。



ガチャ



ドアが開く。



お茶がテーブルの上に置かれた。



「ありがとう」



「ああ」



「そういえば、川越君、この子の名前は何て言うの?」



「ちび太」



「全然ちっちゃくないじゃん」



「人間から見たら、ちっちゃいだろう」



「そうだけど…ネーミングセンス無さすぎでしょ」



「うるせえよ」



「ちび太のこと、いつから飼い始めたの?」



そう言うと、川越君の表情が少し強張った気がした。



「1週間前ぐらい」



「へぇ~つい最近なんだ」



「こいつはさ、俺と一緒なんだよ」



「えっ?」



川越君はちび太を撫でながら、意外な言葉を発した。



「こいつは最近まで飼い主がいた捨て猫なんだよ」



「捨て猫?」



「雨の中、段ボールに入れられて、震えてた」



「かわいそう…」



「最初は食い物を与えるだけだったんだけど、いつの日か俺についてくるようになってさ」



「うん…」



「気づいたら、家で飼うようになってたって訳」



「そうなんだ。それで川越君と一緒って、どういう意味なの?」



「飼い主に捨てられたちび太と、親に捨てられた俺。似たようなものだろ?」



「……」



その言葉に、どう反応したらいいか分からなかった。



「お袋は今、愛人の家で暮らしてる」



「愛人…」



「親父を裏切って、元彼とヨリを戻したんだよ」



「……」



「でも離婚は成立してねえんだけどな。世間体の問題もあるし」



「世間体?」



「ああ。うちの親父、川越グループのトップだからな」



川越グループ



日本に住んでいる人なら、誰もが知っている超巨大グループだ。



住んでいる家からして、お金持ちだと思っていたけど、まさか、川越グループの御曹司だったとは…



「じゃあ川越君は、何でお母さんについてきたの?」



「はっ?」



「お母さんについて行っても、こういう状況になることは予想出来たはずなのに…」



「お袋に愛人がいるなんて知らなかったんだよ。まあ一番の要因は、親父と喧嘩したからだけど」



「喧嘩?」



「川越グループを継ぐ気が無いって言ったら、おまえも出て行けって言って追い出された。それで母親に無理やりここに連れてこられたんだよ」



「……」



「結局俺は、両親から見離された訳だ」



「……」



「しかも…」



「しかも?」



そう言った途端、また一段と表情が険しくなった。



「女に振られた」



「えっ?」



川越君の口から、女というワードが出てくるとは思わなかった。



「遠距離になるかもって伝えた途端、他の男に乗り換えたんだよ…」



川越君に、そんな過去があったなんて…



「人は簡単に人を裏切れる生き物なんだよ」



「それは違う!」



「違わねえだろ。お袋だって、"あいつ"だって…女は結局男を裏切るんだよ」



「そんなこと無い!」



「じゃあ、お前が女は裏切らないってことを、証明して見せてくれるのか?」



「えっ?」



一瞬、何を言われているか、理解出来なかった。



でも気づいたら、川越君があたしに迫って来ていた。



えっ?



何が起こってるの?



どんどん、あたし達の距離が縮まっていく。



ついに壁際に追い込まれ、逃げ場が無くなった。



そういえば、2人きりだったことを思いだした。



絶体絶命の大ピンチ。



色々なことを覚悟して、静かに目を閉じた。



「プッ」



おそるおそる、目を開ける。



川越君は、すでにあたしから距離を取っていた。



「えっ?何がどうなって、こんな展開に…」



「本当におまえって、見てて飽きねえやつだな」



まさか…からかわれた?



「女なんて嫌いって言ったじゃん!」



「おまえは女のカテゴリーに入ってねえよ」



あたしは女として見られて無いのか…



しばらくは、ショックから立ち直れそうになかった。



「川越君のバカ!深刻そうに話をするから、真剣に話を聞いてたのに…」



「悪かったよ」



「本当に悪かったって思ってる?」



「思ってねえ」



「もういい。川越君なんか知らない」



「男の家に、のこのこやってくるお前が悪いんだよ」



「だってそれはただ単に、猫が見たかったからで…」



「他の男なら、間違いなく食われてるぞ。おまえもうちょっと自覚を持てよ…」



「自覚を持つって、どういう意味なの?大ちゃんにもよく言われるけど、全然意味分かんないよ…」



「まあおまえのそういう純粋な所、嫌いじゃねえけどな」



これは褒められてるのか?



「あ…ありがとう」



一応お礼を言っておく。



「よく考えたら、何で俺おまえにこんなこと打ち明けてんだろ…」



「女のカテゴリーに入ってないあたしに、心を開いてくれたからだと思うよ」



「おまえ、俺がさっき言ったことを、根に持ってんのか?」



「もっといい女になって、川越君を見返してやるんだから!」



「あっそ」



このあともちび太とじゃれあいながら、しばらく会話を続けた。



日が傾き、そろそろ夕ご飯時になった。



「あたし、そろそろ帰るね」



「ああ」



「せめて玄関まで案内してよ。広すぎて迷っちゃうよ」



「めんどくせえ…」



川越君が、重い腰を上げる。



あたしとちび太は、川越君の後に続いた。



「じゃあ、明日学校でね」



「会わねえと思うけど」



「頭がいいのは分かったけど、ちゃんと授業出てよね」



「気が向いたらな」



「バイバイ」



「……」



あたしが手を振っても、無反応のまま家の中に戻っていった。



もう少し、愛想良くしてくれてもいいんだけどな…



川越君らしいと言えば、川越君らしいんだけど。



自転車に乗って、家に帰る。



「ただいま~」



「おかえり。ずいぶん長いおつかいだったのね」



「うん…ちょっと友達の家に行ってたから」



「それで、シャンプーは?」



「…しまった」



「えっ?」



「川越君の家に忘れた~」



「何やってんのよ…てか男の子の家に行ってたの?」



気が動転して、思わず川越君の名前を口走ってしまっていた。



「か…飼い猫を見せてもらいに行っただけだよ!」



「ふ~ん。その割には顔が赤いけど?」



「気のせいだよ。急いで自転車漕いできたからかな…」



「川越君ね~そういえば、聞いたことない名前ね」



「うん。今年転校してきた転校生なんだ。無口だけど優しい人なんだよ」



「大輔君も大変ね~次から次へライバルが出てきて」



「川越君もライバルなの?光ちゃんと、勇気君と、川越君を比べても、3人の共通点が見つからないよ…」



「はぁ~どうしてあたしから、こんな鈍感な娘が生まれたんだろ…」



「そんなの、あたしに聞かないでよ。てかあたし鈍感じゃないし」



「友菜のことを鈍感と呼ばないで、いったい誰を鈍感と呼ぶのよ…」



「知らないよ…」



あたしって、そんなに鈍感なのかな…



「今日はもう暗いから、明日にでも川越君の家からシャンプー取ってきてよね。それか学校に持ってきてもらう?」



「でも川越君の電話番号知らないし…あっ!」



「どうしたの?」



「塾の帰りに、他人の携帯からお母さんに電話を掛けた日あったでしょ?」



「そういえば、あったね。友菜が携帯を家に忘れた日のことでしょ?確か6月の初め頃だったわよね?」



「そうそう!その番号が、川越君の番号なんだよ」



「ふ~ん。その頃から川越君と親しかったんだ」



「まあね…」



「今調べてみたけど、残念ながら古すぎて履歴が消えてるわね」



「そっか…」



今日は疲れたけど、川越君の色々な一面が見れて嬉しかった。




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