年上彼女
~友菜Side~
川越君と初めてまともに会話してから、数日が経ったある日。
いつもより早く学校に着いたあたしは、皆が来るのを待っていた。
すると…
バンッ
ドアがすごい音を立てながら、開いた。
ドアの方を見ると、よく見知った顔がそこには立っていた。
「友菜~友菜~」
「おはよう、唯香。そんなに慌ててどうしたの?」
「川越君が…川越君が~」
どうやら、ものすごく興奮している様子。
「ちょ…とりあえず落ち着いて…」
「ごめんごめん…」
「それで何があったの?」
「あたし、今日寝坊して、ダッシュで学校まで来たんだけど、その途中の曲がり角で人とぶつかっちゃったんだよね。急いでるのにと思いながら、ぶつかった人を見てみたら、なんと川越君だったんだよ」
「えっ…大丈夫だったの?」
「軽くぶつかっただけだから、全然大丈夫!ぶつかった瞬間、あたしだけが転んじゃったんだけどさ、その時にすごくいい声で[大丈夫か]って言ってくれたんだよ。間近でみたら超~かっこいいの」
「ハハッ…」
「朝から王子様に出会えて、超ラッキーだよ」
「良かったね」
「うん。今日1日、頑張れそうな気がする」
ぶつかった2人の姿を想像してみる。
ハートマークで川越君を見つめる唯香と、気だるそうに、唯香に大丈夫かと声を掛ける川越君。
2人の温度差を想像すると面白くて、思わず口角が緩むのを感じた。
「そういえば、川越君の話をしてるのに、友菜、楽しそうだね」
「えっ?」
「前は川越君の話をしても、あまり楽しそうじゃなかったのに…川越君となんかあったの?」
「たぶんね…」
「なぬ~あたしの知らぬ間にそんなことがあったなんて…まさか優愛があたしの恋のライバルになるなんて思わなかったよ…」
「何でそうなるの…少しの間、世間話をしただけなんだけど…」
「いくら友菜といえども、川越君だけは譲れないよ」
テンションがあがっている唯香には、あたしの話など少しも耳に入っていないようだ。
「だから、好きとかじゃ…」
「でも友菜は話をしただけで、あたしは身体同士の接触があったから、1接触分あたしのほうがリードだね」
「身体同士の接触って…」
「そういえば起き上がるときに、川越君、あたしの腕を握ってくれったっけ。だからぶつかった時と合わせて2接触だ!」
「2接触って日本語、初めて聞いたよ…」
「……」
唯香は川越君が握ってくれたという右腕を押さえながら、自分の世界に入ってしまった。
その後も1日中、唯香は上の空だったのである。
翌日
バンッ
今日もすごい勢いで、ドアが開く。
デジャヴ?
昨日の再現VTRのような形で、今日も1日がスタートした。
「友菜~友菜~」
「おはよう、唯香。今日はどうしたの?」
「川越君が…川越君が~」
「えっ…今日も川越君とぶつかったの?」
「さすがに、2日連続でぶつかるなんて偶然ありえないよ…まあ、昨日川越君とぶつかった曲がり角で、数分間待ち伏せしてたけど」
「ハハッ…それで、今日は何があったの?」
「今日じゃなくて昨日なんだけど、新しい春物の服が欲しくて、ユニクロに行ったんだけどさ」
「うん」
「その帰り道に、川越君を見つけたんだよ」
「そうなんだ」
「1日に2度も会えるなんて、もうこれは運命だと思ったんだけど…」
急に唯香のテンションが下がる。
「川越君、すごく美人な年上の女の人と一緒に歩いてたんだ…」
「そっか…」
「それでさ、あたしは気づかれないように後をつけたんだよ」
「それ、ストーカーだよ…」
「ストーカーじゃなくて追跡なの。とにかくそのまましばらく追いかけてると、2人はこの辺で1番高いと言われてる、高級フランス料理店に入って行ったんだよ」
「すごいね…」
「きっとその人は、川越君の彼女なんだよ。だってただの友達と、高級フランス料理店に入っていくなんて普通ありえないでしょ?」
「そうだよね…」
「同じ高校生相手だったら負けるつもりは無いけど、さすがにブランド物を身に纏っている大人の女性には勝てる気がしないな…」
「確かに…」
「もうあたしショックでさ、一気に天国から地獄に叩き落された気分だよ…」
そっか…
川越君、彼女いるんだ…
えっ…
何で、気になるんだろう…
「もしかして、川越君のお姉さんだったっていう可能性は、無いの?」
「川越君に姉はいないから、違うね」
「何でそんなこと、唯香が知ってるの…」
「それは、まあ…裏情報だよ。でもそう言われて見れば、川越君と少し顔が似てたような…」
「そうなの?」
「そうだ!きっと川越君の従兄弟に違いない。それなら、2人で食事して帰っても、不思議じゃないし」
「筋は通ってるけど…」
「従兄弟のお姉さんは、バリバリのキャリアウーマンでお金持ち。久しぶりの再会を祝して、フランス料理をご馳走することになった。こんな設定はどう?」
「どうって言われても…」
「従兄弟に違いない。従兄弟に違いない…従兄弟に違いない!」
こうして、今日も唯香は、自分の世界へと羽ばたいて行ったのである。




