始まり
~和馬Side~
焼け付くような暑さ。
今日は、今年に入ってから、最も暑い日になった。
屋上は日差しが強かったので、俺は日陰のある場所を探す。
しばらく歩いて、体育館裏の日陰になっている草むらを見つけた。
体育館裏と言っても、体育館からは大分離れていて、音はほとんど聞こえてこない。
もちろん授業中だから、人の気配も感じられない。
コンクリートの上で横になり、やがて意識は遠のいていった。
……
「どうしよう…」
誰かがそう発したのと同時に、俺は意識を取り戻した。
ちらっと目を開けると…
「またこいつか…」
坂本の姿があった。
その姿を確認すると、再び目を閉じた。
話し掛けられても、面倒なだけだし…
そもそも何でこいつは、こんな所にいるんだ?
その答えは、すぐに明らかになった。
「あの…すいません」
「あたし2年の秋山花梨って言います。突然手紙で呼び出してしまってすいません。来ていただいて、ありがとうございます」
「はい」
どうやら女に呼び出されて、ここに来たようだった。
「突然ですが、坂本先輩って好きな人いますか?」
「い…いないよ」
「良かった~それなら…」
「ごめん!女の子と付き合うって言うのは想像できないんだ…」
ハッ?
誰も告白なんてしてねえだろ…
「あれ?」
「へっ?」
「何の話ですか?」
「えっと…女の子と付き合うのは想像できないっていう話?」
「あたしが聞きたかったのは、智紀先輩のことが好きかどうかってことだったんですけど…」
「えっ…智紀君?」
案の定勘違いだったようで、ちらっと目を開けると、坂本は自分の勘違いに気がついたのか、完全に放心状態に陥っていた。
「あたし、吹奏楽部で初めて野球の応援に行った時に、智紀先輩に一目惚れしたんです。それで前に智紀先輩を見かけた時、坂本先輩と仲良さそうに2人で話をしてたので、ちょっと心配になって…でも好きじゃ無いのなら良かったです」
「そっか…あはは~」
「智紀先輩に、あたしのことはまだ言わないでくださいね。仲良くなるきっかけは、自分で作りたいと思ってますから」
「う…うん」
「それでは、失礼します」
はぁ…
坂本の深いため息が聞こえてきた。
「そういえば、近くに川越君がいるんだった…まさか全部聞かれてた?聞かれてたとしたら、ものすごく恥ずかしいな…」
いきなり坂本が、独り言を喋り始めた。
俺に話しかけている様子でも無いから、きっと無意識の内に、心の声が漏れてしまっているんだろう。
「プッ」
不覚にも思わず吹き出してしまった。
その瞬間、坂本は我に返ったようで、意を決したように俺に近づいてきた。
「あ…あの~」
「………」
「今の話、全部聞いてた?」
「女の子と付きあうなんて、想像出来ないから」
「えっ?」
「お前が言ったんだろ。何驚いてんだよ」
なぜか無意識の内に、突っ込んでしまっていた。
「あたしに対して、初めてまともに会話してくれたことに驚いてるんだよ」
「変な奴」
「ハハハッ」
坂本は、なぜか大爆笑し始めた。
本当に意味不明な女だ…
「何がおかしいんだよ?」
「川越君がしまったって顔をしたのが面白くて」
「おまえ、俺を何だと思ってんだよ…」
「愛想悪い冷徹人間」
「ひどい言われようだな…てか冷徹人間って何だよ」
「何だと言われると難しいんだけど、初めて川越君を見た時、そう感じたんだよ」
「やっぱり変な奴」
「変な奴じゃないよ。あたしから見たら、川越君のほうがよっぽど変だよ」
「おまえのほうが変」
「川越君!」
「おまえ!」
「おまえじゃない。坂本友菜だよ」
「知ってる」
「覚えててくれたんだ~嬉しいな」
坂本のペースに乗せられて、思わずムキになってしまっていた。
「おまえは、いったい何なんだよ?」
「坂本友菜だよ」
「だから、分かってるっての」
「じゃあ、いったい何が聞きたいの?」
「何で、俺にそこまで構うんだ?」
正直不気味だ。
俺に恋愛感情があって、近づいて来る女は、たくさんいた。
でも坂本には、一切そんな空気は感じられない。
「自分でも、分かんないよ!」
返ってきた答えは、またもや意味不明のものだった。
「ハァ?」
「と…とにかく教室に…」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。
「チャイムが鳴ったぞ。生徒会長さんよ」
「……」
動揺しているのが、目に見えてわかった。
こいつはきっと、隠し事の出来ないタイプだろうな…
「早く教室に…」
「残る」
坂本から返ってきたのは、予想外のものだった。
「ハァ?」
「ここに残る」
「生徒会長が、授業をサボっていいのかよ?」
「不良生徒の更生も、生徒会長の仕事だから、これはサボリじゃないの」
「俺は不良じゃねえよ」
「そうだね。T大付属だもんね」
「ハッ?何でおまえが、それを知ってんだよ?」
「石原君から聞いた」
「ちっ…石原の野郎。しゃべりやがって」
「仲いいんだ?」
「別に仲良くねえよ。あいつが勝手に話しかけて来るだけだ」
「またまた~照れ隠ししなくてもいいんだよ」
「違うっての。まったく石原といいおまえといい、この学校は俺のペースを乱す変な奴ばっかだな」
「変な奴ばっかりじゃないよ。神崎君にはこの学校のことを好きになって欲しいな。田舎は、都会よりも優しくて暖かな心を持った人が多いんだよ」
「話が完全にずれてきてんだけど…どっから田舎の人のほうが優しいって話が出て来たんだよ…」
「あれ?」
「変な奴…」
その後も、話を続ける坂本。
「唯香がしんちゃんのモノマネを披露してくれたんだけど、全然似てなかったの」
「ふ~ん」
「そしたらね、智紀君が[俺のほうが似てる]って言って、モノモネをやったんだけど、智紀君もあんまり似てなくって」
「……」
「そしたら、光ちゃんがボソっと[ぞ~さん]って言って、その言い方が、一番そっくりだったから、あたし大爆笑しちゃったよ」
唯香?智紀君?光ちゃん?
せめて人物説明ぐらいしろよ…
こんな調子で、喋るだけ喋った後…
「あたし、そろそろ教室に戻るね」
「………」
「それじゃあね」
坂本は去って行った。
今思えば、これが始まりだった。
この後、2人の関係は徐々に変化していく…




