拒絶
~友菜Side~
昼休み
光ちゃんと智紀君は休み時間の内に早弁をして、バスケをするために体育館に向かって行った。
この学校には食堂があるけど、あたし達は弁当だから教室で食べる。
「「いただきま~す」」
「お~相変わらず、友菜のお母さんの料理おいしそうだね~」
「そうかな?」
「うん。何回か友菜の家でご飯食べさせてもらったことあるけど、どの料理もおいしかったもん」
確かにお母さんの料理の腕前は、かなりのものだと思う。
だからこそ、あたしが手伝うことがあまりないのだけど。
あたしの住んでいる舞亀市には、大学も専門学校もない。
だからもし大学や専門学校に行くとしたら、確実に1人暮らしをすることになるだろう。
そうすると、自炊をしなくちゃならない。
女子力アップにもなるし、料理の勉強もしなくちゃね。
「唯香は料理できるの?」
「ある程度はね。うち共働きだから、たまにあたしが料理作るんだ。しかも料理できる女の子はモテるって言うから、少し勉強もしてる」
「今度料理教えてね」
「うんいいよ。じゃあこれは前払いってことで」
「ああ~」
卵焼きを取られた。
「卵焼き好きなのに…」
「ごめんごめん。代わりにトマトあげるから許して」
「それって単に唯香がトマト嫌いなだけじゃん…」
「そんなの気にしな~い」
まああたしはトマトが好きだから、別にいいんだけど。
「う~ん、おいしい。卵焼きはやっぱり塩味だよね。うちの卵焼きは砂糖味だから、うらやましい~」
笑顔がはじける。
唯香のこの笑顔を見ると、まあいいやって思っちゃうんだよね。
「「ごちそうさま」」
しばらくして、2人仲良く完食した。
「よ~し、川越君探しにいくぞ~」
そう言って、唯香が立ち上がったその時…
ピーンポーンパーンポーン
[3年3組石原君、川越君、今すぐ職員室の渡辺の所まで来てください]
「あれ?今、川越君と石原君って言わなかった?」
「うん。渡辺先生の声だったから、間違いないよ」
「2人とも授業サボったから、呼びだされたのかな?」
「たぶんそうだろうね」
「じゃあ職員室に行ったら、2人に会えるのかな?」
「川越君には会えるかもしれないけど、石原君は屋上にいると思うから、放送は聞こえてないと思うな」
「でも食堂にいる可能性もあるんじゃない?」
「う~ん…2年の時はいつも4時間目のチャイムが鳴る前に食堂で食べてたから、もう屋上に戻ってると思うんだけど…」
「そっか。じゃあ食堂には石原君いないんだ」
「たぶんだけどね。だからとりあえずあたしは石原君を探しに屋上に行こうと思うんだけど、唯香も一緒に来る?」
「ううん。手分けした方が早いし、あたしの目的はあくまでも川越君だから。とりあえず職員室に寄って、川越君が来ないか見張ってるよ。さすがに先生に呼び出されたら来ると思うし」
「わかった。じゃああたしは屋上行ってくるね」
「いってらっしゃい。あたしも張り込みするぞ~」
「張り込みって…探偵じゃないんだから…」
こうして唯香は職員室に、あたしは屋上に向かって歩き出した。
階段を上がって屋上に到着した。
ドアを押してみる。
さびた鉄の鈍い音とともにゆっくりとドアは開かれた。
中に入る。
「ちょっと石原君。サボってないでちゃんと授業…」
しかし石原君の姿は無く、違う人物の人影があった。
川越君だ…
意外な人物の登場に動揺を隠しきれない。
「石原はいねえよ」
「そうなんだ…」
沈黙が流れる。
「川越君はどうしてここにいるの?」
「……」
「川越君はここで何をしているの?」
「おまえには関係ねえよ。放っておいてくれ」
「関係あるよ。あたし生徒会長だから、授業をさぼっている生徒は注意しなくちゃならないの。まだ転校初日なのに授業サボっちゃだめだよ」
「あんな授業受けても意味ねえよ」
「そういう問題じゃないでしょ?授業中はちゃんと教室にいなくちゃダメなの」
「……」
普段はめったに怒らないのだけれど、無視されたことで、堪忍袋の緒が切れてしまった。
「そんなに無視しなくてもいいでしょ?川越君がこの学校になじめるように、教室でも色々話しかけたりしてるのに」
「そのお節介が迷惑なんだよ。とにかく俺に構うな」
「もう話しかけないから、とにかく教室に戻ってよ」
「……」
キーンコーンカーンコーン
川越君を説得できないまま予鈴が鳴ってしまった。
何を言っても話を聞いてくれそうにない川越君を置いて教室に戻ることにした。
教室に戻ると、なぜか机にうつ伏せになっている石原君を見つけた。
「やっと授業受ける気になった?」
「……」
いつもならそんな訳あるかとつっこんでくるはずなのに、反応がない。
今日は人に無視されてしまう日なのだろうか…
「どうしたの?石原君」
「坂本は失恋したことあるか?」
「無いけど…」
「俺も、今日までは無かったんだ…」
「もしかして振られたの?」
「ストレートすぎるだろ…まあその通りなんだけど」
「あたしの知ってる人?」
「教えたくねえ」
「気になるよ~教えて」
体を揺すってみる。
「ちょ…くらくらするから止めろ。教えるから」
「うん」
石原君から手を離す。
「渡辺先生だよ…」
「え~渡辺先生!」
「ちょ…坂本…声が大きいって!」
あたしの声に驚いたのか、皆が一斉にこっちを見た。
「ごめん…あまりに衝撃的だったから。学校始まってから4日しか経ってないのに、もう好きになったの?」
「一目惚れだったんだよ。でも彼氏がいるからって遠まわしに振られた。ちょっと本気だったのに…」
「へぇ~渡辺先生、彼氏いるんだ。かわいいから、彼氏いてもおかしくないよね~」
「ちょっとは、なぐさめてくれよ」
「どんまい」
気持ちのこもっていない言葉をかける。
「はぁ~」
「はぁ~」
話が一段落すると、川越君のことを考えてしまって、石原君につられてため息をついてしまった。
「坂本も、ため息つくようなことがあったのか?」
「うん。川越君のことで少し悩んでるんだ…」
「え~和馬~!」
「ちょ…石原君…声が大きいよ」
また皆が一斉にこっちを向く。
「悪い悪い。まさか坂本の口から、和馬の名前が出てくるとは思わなくて」
「さっきから川越君のことを和馬って呼んでるけど、話したことあるの?」
「ああ。俺と和馬は親友なんだぜ」
「石原君が、勝手に言ってるだけでしょ…」
「まあな。でも友達になってくれるとは言ったし、普通に喋ってくれたぜ」
「そうなんだ…」
誰とでも、喋らないわけじゃないんだ…
やっぱり、あたしだけが嫌われてるのか…
「それで、和馬がどうしたんだよ?」
「うん。授業にちゃんと出てって言ったんだけど、授業なんて出ても意味無いとか言うし…しかもあたしが話しかけても、ほぼ無視されるんだ…」
「なるほどね。授業の方は、確かに和馬にとっては無意味だな」
「どうして?」
「だって、和馬が前に通ってた学校って、T大付属だぜ」
「えっ…T大付属~」
また叫んでしまった。
「だから無駄ってこと。後、無視されるのは、坂本が嫌われてるってよりは、女嫌いなだけだと思うぜ」
「そうなの?」
「うん。本人がそう言ってたし」
石原君の言葉に、少し救われた気がした。
「でも坂本が小林と杉山以外の男に自分から話しかけるなんて珍しいよな?まさか和馬に気があるとか?」
「そんなんじゃないよ…」
「な~んだ…面白くねえの」
石原君は、なぜかがっかりしていた。
ガラガラ
唯香が、教室に帰って来た。
当然、川越君を見つけられなかったので、表情には落胆の色が見える。
「友菜~川越君、職員室に来なかったよ…」
「屋上にいたから…」
「うそっ!教えてくれたら、良かったのに…」
「ごめん…川越君と喧嘩しちゃって、それどころじゃなかったから…」
「そっか…それなら仕方ないね。ごめんね…あたしのせいで、友菜に嫌な思いさせちゃって…」
「いいの。授業サボッてるのを注意して、喧嘩しただけだから、唯香は何も悪くないよ」
「友菜は優しいね」
「藤村はなんで和馬を探してたんだ?」
「川越君に一目惚れしたから、話かけようと思って」
「そういうことか。でも和馬は、女嫌いだぜ」
「女好きよりはいいよ。もし付き合えたら、一途なタイプだと思うし」
「なるほど。そういう考え方もあるんだね」
唯香の川越君に対する、ポジティブ思考は凄いな。
キーンコーンカーンコーン
「それじゃあ」
「うん」
唯香が、自分の席に戻った。
それと同時に、光ちゃんと智紀君もバスケから帰って来て、昼からの授業が始まった。
石原君は失恋のショックもあったのか、教室にずっといたけれど、予想通り、川越君が教室に帰ってくることは無かったのである。




