高梨くんのクリスマス事情
ある日の掃除中、友達から頼まれた。
『高梨くん!お願いがあるんだけどね?先輩をクリスマスイルミネーションに誘いたいんだ!手伝ってほしいな?』
僕の名前は高梨 輝。友達……、鎌倉 文音は、気になる先輩をクリスマスイルミネーションに誘いたいということで、僕に頼み込んできた。
僕の両親がイルミネーション系統の仕事についており、チケットやら何やらを貰ってきてはくれないだろうか……。というお願いであった。
僕はそれほど恋愛というのには興味がないが、相談に乗れるならということで、手伝う形になったのだった。
文音は瞳を潤ませ、上目遣いでお礼をのべると、掃除が終わったのか、僕を置いてきぼりにして、部活へと向かっていった。
文音が片付けていかなかった箒を片付けて、僕は生徒会室へと足を運ぶのだった。
生徒会室の扉を開け、挨拶をすると、一際目立つ先輩がいた。窓際で椅子に腰掛けて、スマートホンを片手に弄る。
茶髪の天然パーマが風に靡いて、ふわふわと動く。そして、こちらを振り向くと僕を見るとにこりと笑った。
その先輩こそが、文音が気になる先輩で───……。
「やぁ、高梨くん」
「……どうも……」
──……僕の嫌いな先輩、高山先輩だった。文音には悪いがこんな先輩のどこがいいんだろうと、思ってしまうほど、僕にとって印象が悪い。
僕は元々、中学のときに生徒会長だったため、推薦でこの学校に入学した。流れ的に、生徒会に入る形になってしまったので、入会の手続きを行っている最中、突然高山先輩が現れたのだ。
第一印象は、優しげな先輩だなぁと思い、挨拶を交わす。すると先輩は、ボソッと呟いた。その言葉に、僕の思っていた印象が変わることになったのだ……。
『君が厚狭川第一中学の生徒会長だった人か……。楽しみにしてるよ?』
その言葉を聞いた僕は、悪寒が背中を走り抜け、寒気がした。
──あぁ、この人は僕の苦手な人に追加されたな……。
直感的に感じて、僕はこの先輩が嫌いになったのだった。
……話は戻るが、どうして文音はこの人のことが気になるんだろうと、不思議に思ってしまう。
恋愛事情は難しかった。
「高山先輩、お願いがあるんですけど、嵐公園で24日に行われるクリスマスイルミネーションのチケットがあるんですが、僕の友達と行ってきてはくれませんか?」
「……え?」
我ながら直球すぎた。こうでもしないと、先輩は行ってはくれないだろうと思ったのだ。
「……友達って女の子?」
「はい」
「んー……。高梨くんはその子といかないのかい?」
「彼女に頼まれましたので」
「……うん、いいよ」
「ありがとうございます。では、僕は先生に呼び出しをくらったので、会議は先に始めていても結構ですよ、会長」
「……はいはい……」
ひとまずお礼を言った僕は、荷物をおいて、シャーペンを胸ポケットのなかに入れて、生物準備室に向かおうとした。
「あぁ、待って!高梨くん」
「……はい」
急に呼び止められ、振り向くことはせず、背中を向けて話を聞くことにした。
「その女の子のことが気になるなら、君が誘えばいいんじゃないか?なぁんて……ね?」
──分かってますよ、先輩。それくらいは……。
心の中でそう呟き、扉を閉めて生物準備室に足を進めた。
何で先輩が僕の気持ちを知っているのだろうか。確かに僕も気になっている人がいる。それは文音である。
あるきっかけで気になってしまった。本当にそれだけだった。だから、文音にお願いをされたとき、敗北感に駆られ、絶望的だと思った。
そんなことを思っていると、いつの間にか生物準備室にたどり着いていて、ノックを3回したあと、先生の話をききにいったのだった。
……30分後、話は終わり、生徒会室に戻ってきた僕は、がらりと扉を開けて、失礼しますと言って指定席に座った。まだ会議は始まっていなかったらしく、会長……高山先輩が僕を見たあとに会議を始めた。
───そこから2時間たった。
長い会議は、ついに終わりを迎え、僕は時間が来たので文音が待つ自転車小屋に向かう。
息を切らして走っていくと、笑顔な文音を自転車小屋で発見した。
「ごめん、遅くなって……」
「大丈夫だよっ!会議が長びいたって私はいつでも待ってるよ!」
「文音……、ありがとう」
僕は文音にお礼を言うと、やっぱり文音が好きなんだって実感する。
文音は『どうしたの?』と聞いてきたから、僕は『何でもないよ』と答えた。
駅についた。僕と文音はいつもここで別れている。文音は、電車で、僕はこのまま自転車で自宅に帰る──いつもの流れだった。そのはずだった。
「──高梨くん!」
自宅に帰ろうとした僕を引き留めた文音は、スカートを握りしめこういう。
「先輩!どうだった?」
──……やっぱり……。そのことだよね……。
文音は先輩のことで頭が一杯のようだ。僕の気も知らないで……。
「先輩?うん、大丈夫みたいだよ?」
「本当!?」
文音はきらきらとした笑顔で聞き返してきた。その笑顔に僕の心が痛んでしまう。
「ありがと!じゃ、電車来ちゃうからまた明日ね!」
「ばいばい」
そういうと、文音は手を振って別れの挨拶をした。僕は緩く手を振って返すと、そのまま自転車をこいで、今度こそ自宅へと戻るのだった。
──23日。
朝早くから、文音からラインが来ていた。僕は寝ぼけながらそれを確認する。
『文音:明日のために服を買いにいくんだ!先輩に告白する!』
──……え?先輩に告白する……?見間違いじゃないよね?
僕はスマートホンを両手に握りしめながら、返信を送る。
『高梨:そっか!頑張れ!僕も応援してるよ?』
──嘘をついた。本当は応援なんてしていない。自分の都合のいい方向にいってほしいと思っている嫌なやつだ。
『文音:ありがと!さすが高梨くんだね!私のことわかってる!んじゃ、またね?』
文音の言葉が、一々胸に突き刺さる。痛い。
『高梨:またね!』
話は途切れ、僕は起き上がっていた身をベッドの上に倒し、はぁとため息をついた。
このまま行ったら文音は先輩のものになってしまう。誰かから聞いたことがある。“男の嫉妬はみっともない。醜い。”って……。僕は今まさにその状況に過ぎなかった。
どうしたら文音に告白出来るんだろう。文音は本当に先輩が好きだ。見ていてわかる。僕には、文音を幸せにできる資格なんてない……。いや、恋に資格なんて必要ない。資格が必要だったら、僕は完璧負けとなる。
「……よしっ」
文音に告白しよう……。クリスマスイブのあの夜、あの場所で……。
───嵐公園で……。
―――24日、クリスマスイヴ当日、嵐公園にて……。
嵐公園中心部に近づくにつれて、多くの人がクリスマスツリーを見ようと、賑わっていた。その中で、リア充にもみくちゃにされそうにもなりながら、ポツンとベンチに座っている一人の男子―――僕がいた。僕は、文音の様子を影からジッと覗っていた。
文音は、僕なんか気づいていないようで……いや、気づいていたら僕のこの作戦はなかったことになるだろう。兎に角、高山先輩がやってくるまで待ってみよう。
ただいまの時刻は、午後8時30分。イルミネーションは夜のほうが綺麗だと、僕が言ったことを鵜呑みにした文音は、僕に待ち合わせ時刻まで教えてきて、嫌味?とさえも感じている。
すると、遠くのほうから、格好良い服装の男の人が文音に向かって歩いて来るのを見つけた。高山先輩だ。
「やぁ、待ったかな?」
「いえ、待ってませんよ?今来たところです」
「そう?寒かったらいつでも言っていいんだよ?右手はいつでもあいてるからさ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
仲睦まじく、会話している。―――僕は、こんな時間に何をしているんだろう。クリスマスイヴだってのに、彼女もいないし、彼女を作りたいけど、僕の片思いの相手は今にさえ崩れていきそうな勢いだっていうのに……。
僕がそう考えていると、二人はどこかへ行ってしまうようだ。僕は、バレてしまわないように、二人の後をつけていった。その様子をほくそ笑むように見つめる視線なんか知らないで――――……。
「あっち行ってみましょう?」
「いいね、そうしようか」
「はい!」
僕の気なんか知らないで―――。
「ほら、君にピッタリの可愛いものがあるよ?」
「本当ですね!でも、ほかのもありそうなんでほかのところも見てみましょう?」
「いいね」
僕は、いつにのまにか高山先輩に嫉妬していたようだ。誰かが言ってたっけ。男の嫉妬はみっともないって。誰だったかなぁ。思い出せないようだ。
二人が気にしていた店内を歩き回っていると、文音に似て可愛いキーホルダーを見つけた。文音は確かこういうのが好きだったね。最後のチャンスだと思って、これを買ってあげよう。そう思った僕は、ウサギのキーホルダーを買った。
いつの間にか10時になっていたようで、高山先輩は帰らなければいけないようだ。その時、文音は高山先輩を引き留めて、告白をしようと試みた。ここから先は、僕は気持ちが悪くなってしまうから、何も聞こえないように、何も見えないように耳と目を強く塞いだ。だから、どういう結果になったなんてわからない。
目を開けてみると、いつの間にか終わっていたようで、高山先輩はもうこの場にはいなかった。僕は、まだそこにぼーっと立っている文音に向かって歩き出した。
「文音――……」
文音は僕の声に気付いたようで、僕のほうに体を向けた。その表情は、悲しんでいるもなく、喜んでいるのもなく、無表情に近かった。
「文音……?」
「あぁ……高梨くん……」
僕は感じた。あの人はこの純粋な文音を振ったんだって。振ってしまったからこんな表情をしてしまっているんだって。許せなかった。僕の大好きな文音を振り回すような行動をとって、文音の気持ちを誘導する真似なんかとって……許せることではなかった。
「文音?あの人に何かされたの?何かされたなら僕に話して?僕は今まで文音のことずっと見てきた。ずっと、好――――」
「待って。言わないで」
「なんで……」
「あの人は悪くない」
「どうして??あの人は文音をこんな表情にさせて、許されることじゃないよ?」
「だから、待ってってば!」
「――――っ?」
僕は落ち着きを持っていなかった。ただ、高山先輩に嫉妬していたんだ。
「話す、話すよ。ここじゃなんだから、あそこのベンチに行こう?」
そういって指さしたのは、僕が最初に座っていたあのベンチだった。
「うん……」
ベンチに一人分のスペースを作って空けると、文音は話し出した。
「実はね。高山先輩のこと、好きじゃなくてね?相談に乗ってもらっていたの。どうやったら気になっている男の子を振り向かせることができるのかって。ほら、高山先輩って百戦錬磨って感じがするじゃない?だから、高梨くんに内緒で相談に乗ってもらっていたの」
「どうして、僕じゃなかったの?」
「そ、それは……」
文音は黙ってしまった。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのか?僕はそんなことを思いながら、文音の話に耳を傾けていた。
「それは、私、高梨君のことが好きだから」
「え?」
唐突に言われた言葉に、僕は理解ができなかった。怖かったんだと思う。でも――――。
「あぁーあ。先に言われちゃった。てか、さっき言いそうなのを文音が止めたよね」
「ごめんね?私から言いたかったもの」
「大丈夫だよ。じゃあ。僕からもいうね」
初めていう、最初で最後の告白。僕の初恋。
「僕も、文音のことが好きです。付き合ってください!」
もちろん、返事は「いいよ」だった。
僕と文音は、静かにクリスマスイルミネーションを眺めていたのだった。
後日談だが、高山先輩に嫉妬していた僕は、高山先輩にお礼を言うと同時に嫉妬してしまったことに対して謝っておいた。高山先輩は、「いいよ」なんて言ってしまったが、絶対心の中ではほくそ笑むことだろう。最後に文音から聞いたことだが、僕が後をつけていたのはバレバレだったらしい。
僕のあげたウサギのキーホルダーは、文音はスマホに大事につけている。そのことに気が付いた僕は、にやにやとしていた。
今更だけど、僕は文音に恋をしてよかったって思う。いままで恋愛なんてわからなかったし、文音に出会ってから本当に楽しい人生が送れてきて、これからももっと楽しい人生が送れることに期待するのだった。
―Fin―