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ムーラント・サーガ~めるひぇんに御座候~  作者: 皇川 義佐
第二章「赤い盾の貴公子」
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第八幕「三歳になりました」

 僕とティルがヴァルブルガに弟子入りして三年が過ぎた。


 大人になってからの三年というのは本当にあっという間だけれど、子どもの三年というのは実に長く、そして収穫も多い。


 まずこの三年で、僕とティルの魔法の腕前はメキメキと上達して、すでに師匠であるヴァルブルガを追い越してしまっていた。


 彼女は若い頃、冒険者をやっていて、黒教会に宗旨替えしたのもそのときのことであったらしい。


 まあ、十八歳のメイドのいう若い頃だから、どちらかというと幼い感じだったのだろうけれど、周囲からは一線級の実力者として一目置かれていたのだそうだ。


 そんなヴァルブルガのできない最上級魔法を、僕とティルがいくつもやってみせると、彼女は暗くよどんだ瞳でふさぎこんでしまったものだった。


 そのたびに、カルラが「うっ!」とあの彼女特有のかけ声で励ましていたのはなんとも可愛らしかった。


 まあ、カルラももう六歳だから、最近は「うっ!」って言ってくれないんだけどね。


 また聞きたいなって思ってしまうのはわがままなんだろうか。


 変化があったのはカルラだけではない。


 僕もティルも、ようやく三歳になったことで男女の違いがはっきりするようになっていた。


 僕は相変わらず白に近い金髪で、それを首のとこまで伸ばしているくらいの違いしかないのだけれど、ティルの方はウェーブのかかったワインレッドの髪とエメラルド色の瞳がますます強い魅力を放つようになって、将来絶対美人になるだろうとウワサされていた。


 そして、将来きっと父親に似て、いろんなことをしでかすのだろうとも言われていた。


 実際はすでにいろんなことをやらかしているのだけれどね。


 ティルの傍若無人っぷりは成長するに従って激しくなっていた。


 正直、もう僕からは彼女の前世が僕だなんて感覚はほとんどなくなってしまっていた。


 ティルはディートリント・フォン・ローテンシルデという人格になって独立しようとしている。


 それがこの三年間の僕の感想だった。


 彼女の変化が特に顕著だったのは、二人で必殺技の特訓をしようと話し合ったときだった。


 僕たちはラ・ムーに転生させてもらったとき、風魔法を必殺技にしてくれと事前に頼んでいたのだけれど、ティルは唐突に別の魔法を鍛えると言い出したのだ。


「風の魔法はマクシーに譲るわ。あたし、もっと面白いやつ見つけたから」


――ニヤリ。


 と、見ているこっちが嫌な予感に襲われる笑みを浮かべてティルは独自の魔法を開発してしまった。


「右からメラ、ティラ、カブ、そんでパトよ」


 ティルが自慢げに見せてきたのは、なんと召喚獣だった。


 いや、召喚っていうと語弊があるかな。よそから呼び寄せられたやつじゃなくて、ティルが魔法で作ってしまったやつだから、魔製獣と言った方が正確かもしれない。


 一匹目のメラは白い体毛に黒いぶちの雪ヒョウだった。ただし普通の雪ヒョウと違って、尻尾が若草色のコブラになっていた。キメラということで、メラという名前にしたらしい。


 二匹目のティラはすごくわかりやすくて、こいつはタイラント・レックスの赤ん坊だった。白亜紀最強ともうたわれ、映画でもしょっちゅう取り上げられていた恐竜界のドンである。


 三匹目のカブは、めちゃめちゃ巨大な芋虫だった。子牛と大差ないくらいでかい。頭のところが茶色くて、それ以外は白くてテカテカしていた。ティルがいうには、カブトムシの幼虫で、このあとヘラクレスオオカブトになるんだそうだ。節足動物がそんな大きくなってまともに動けるのか心配だったけれど、それは魔法ってことでどうにかなっているらしい。


 問題は四匹目のパトだった。


「ねえ、ティル、こいつなんなの?」


「なにって、見たまんまよ?」


「ヒットラエテクレン!」


 機械的な声を出して、赤いランプをテカテカさせていたのは遊園地のゴーカートサイズのパトカーだった。


 いったいどうやったら生物に混じってこんな無機物魔製獣ができあがるのか疑問だったけれど、こいつの問題点はそれだけではなかった。


「パト! 変形よ!」


 ティルが元気いっぱいに命令すると、パトはその小さな車体のフロントガラスを天空に向け、身体を真っ二つに引き裂くようにして人型に変形してしまったのだ。


 頭部はヘルメットを被った人間みたいになっていて、顔全体が白くて、目はオレンジ色だった。


「ブラーフ・シュパイヒャーン! パトロイガー!」


 決め台詞まであるらしい。


 ちなみに人型になったときのパトはだいたい120センチくらいだ。


 もうなんていうか、どこから突っ込んで良いかわからない。


 あきれ返る僕を尻目に、ティルは自信満々に言い放った。


「こいつら、まだ子どもなの。これからどんどんでかくなるわよ!」


 成長するんかい!


「まさか合体とかしないだろうね?」


 不安になったので訊いてみると、ティルは「はあ? 何言ってんの? あんた馬鹿?」という顔をしてきた。


「するに決まってんじゃん!」


「するんかい!」


 合体しちゃうのかよ!


 なに!? 魔法ってなんなの!? なんでもありなの!?


 もうそれ以上、僕に突っ込む気力は残されていなかった。


 そんなティルに比べれば微々たるものだけれど、僕もそれなりに成長した。


 まずグランツ・デア・シュトルムを連発できるようになった。


 そのことを知ったヴァルブルガは「坊ちゃま、それは連発するような魔法ではございません。というか普通できません」とすごく遠い目をして言ったものだった。


 あと呪文をいわなくても魔法が使えるように工夫した。無詠唱魔法ってやつだ。こっちは魔法の原理を知ると割と簡単だった。


 この世界の魔法は、空気中にある宿気(やどりぎ)という魔素に指令をだして、それによって自然界の法則を書き換えさせることで発動するのだけれど、このヤドリギは人間の三歳児くらいの知能がある粒子で、ようはこいつらに命令を理解させればどんな方法でもきちんと効果を発揮してくれるのだった。


 なので呪文を声ではなく文字にしてみたのだ。


 あらかじめ指先に光で文字を書く魔法をかけておいてから振れば、宙に光る呪文があらわれて、それを読み取ったヤドリギが魔法を発動させてくれるというやり方だ。


 簡単に説明したけれど、ヴァルブルガに言わせるとこの方法も普通の人では出来ないらしい。


「坊ちゃま、ヤドリギというのは意志を持った魔の粒子です。性格はきまぐれでわがままなお子ちゃま。ですから、魔力が高い人というのはこのヤドリギたちに感覚的に好かれている人のことを差します。好きな人のいうことはほいほい聞きますけど、嫌いな人のところにはそもそもさっぱり集まってきません。ですから、坊ちゃまのやり方も、坊ちゃまがヤドリギたちに特別好かれているから可能なのであって、他の人間がやってもそっぽを向かれて終わりです」


 つまり魔素・ヤドリギにモテモテでないと、魔法使いは大成しないのだそうだ。


 まあ、ある種のレリクス、神器を使えば、ヤドリギたちの好感度がぐっと上昇して高度な魔法が使えるようになるのだそうだけど、それでも無詠唱で最上級魔法を連発するのには至らないらしい。


 にしても魔力が高いってことが、魔素にモテることだとはね。


 てっきり体力と同じで身体の内側から湧いて来るものだと思っていたのだけれど、どうもこの世界の魔法は僕のイメージとはかなり違うらしい。


 ともかく、こんな感じで僕もティルも、0才から3才までの期間を有意義に消費できたのだった。


 しかし、なるべく目立たないようにしていたのだけれど、やっぱり大型魔法をぽんぽん出していた姿は人目についてしまっていたらしい。


 最近、ローテンシルデ家の双子はどこか普通じゃないと、領民の間で評判になってしまっているのだそうだ。


 僕らの父さん、突進公ジギスムントが久しぶりに城に帰ってきたのはそんなウワサが立ち始めた夏のことだった。


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