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ムーラント・サーガ~めるひぇんに御座候~  作者: 皇川 義佐
第二章「赤い盾の貴公子」
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第一幕「ゆとり転生」

 たっのしいなっ! 


 たっのしいなっ!


 人生とっても、たっのしいなっ!!


 今日も営業先の社長にきっれらっれたっ!


 本社で先輩おかんむりっ!


 だーから、ゆっとりは使えないっ!


 どうにか一流大学出たけれどっ!


 世の中不況の真っ最中っ!


 教授が勧めてくれた大手商社っ!


 (わら)をもつかむ思いで受けてみりゃっ!


 業界ナンバー1だって!


 こいつはラッキー、やってみよっ!


 人付き合いは苦手だけどっ!


 やってりゃそのうち慣れるさとっ!


 営業マンになっりましてっ!


 知ーってしまった日本社会っ!


 お客にきっれられっ!


 先輩にきっれられっ!


 同期の可愛い子ちゃんは課長と浮気っ!


 業界ナンバー1だってっ!


 業界自体が落ち目でしてっ!


 明日をもしれぬ、ブラック企業っ!


 人生ほんとにたっのしいなっ!


「……ほんと、楽しいよね、人生……」


 横断歩道を踊りながら渡ったところでどっと疲れがきて、僕は電柱さんに寄りかかった。


 いや、まったくまいったね。


 あれだけ必死こいて受験勉強して、いい大学入ってちゃんと卒業したのに、就職してみたら涙涙の日々ですよ、みなさん。


 失敗失敗、また失敗。


 失敗したから取り返そうと無理をして、そいつが原因でまた失敗。


 取引先から嫌われ、先輩からは舌打ちされ、それで気持ちが荒んでまた失敗。


 気になるあの子はイケイケ上司と危ない火遊びですってよ、奥さん。


「まったく、ゆとりゆとりってどいつもこいつもさあ……」


 僕はゆとりなんて名前じゃないですよ、みなさん。


 じゃあ、あなたたちはなんなんです?


 卒業式に学校の窓ガラス割って、盗んだバイクで走り出してた世代がそんなに偉いんですか?


「ほんと……グスッ……まったく……エグッ……ゆとりじゃないもん……毎日毎日、一生懸命がんばってんだもん……みんなより早く出社して、帰るのだって一番最後だもん……どうしてうまくできないんだって……無茶振りしてんのそっちだもん……」


 でも弱音は吐いちゃいけないんです。


 うまくできない僕が悪いのですから。


 同期のみんなはちゃんとできているのですから。


 その同期ももう八割は辞めちゃいましたけど、残ってる人たちはちゃんとやれているのですから。


 だから僕が悪いのです。


 そこの幼稚園児、こんな悪い僕を見てはいけないよ。


 ほらほら、お母さんも見ちゃいけませんって言ってるでしょ。


 人を指さしちゃいけないんですよ。


 ちゃんと手に職つけて生きていくんですよ。


 工場スタッフなんていいんじゃないでしょうか?


 だって相手、機械ですし。


 人間みたいに理不尽なこと言わないでしょ、機械って。


 そんなことをぼんやり考えていたら、後ろから小学生の自転車が突っ込んできましたよ。


 でも、甘いですね。


 アクション系のゲームをやりこんで子ども時代をすごした僕に、そのスピードはとろすぎます。


 あくびがでますね、まったく。


 ひょいとかわして道路へ着地ですよ。

 

 信号、赤ですよ。


 僕を避けて、走っていた乗用車が電柱さんにゴッツンコですよ。


 窓から突き出た腕、あらぬほうに曲がっちゃってるんですけど。


 あ、え、これって僕のせい?


 もしかしてやっちゃった?


 会社にバレたらどうしよう。


 もしかしてクビですか?


 いやいや、違う違う。


 なに自分本位なこと考えてるんだ。


 すぐに警察、いや救急車だ。


 こういうとき救急車を呼ばないと蝶ネクタイの少年探偵に犯人だと疑われてしまう。


 いや犯人、僕ですけど。


 疑いようもなく真犯人は僕です。


 だから僕が責任持たなくちゃいけないのです。


 あわてて背広の内ポケットからマキモノを取り出します。


「もしもしっ! きゅーきゅー……!」


 そこまで言ったところで身体が宙を飛んでいました。


 視界の端に、トラックの車体がうつります。


 あ、いまチラッと運転席が見えました。


 運転手さん、思いっきりよそ見してますね。


 いったい何を見てるのかと思ったら電柱さんに突っ込んだ乗用車でした。


 はい、完全に僕の自業自得ですね。


 分かってます。


 全部全部、僕が悪いのです。

 

 二十二年生きてきて、いまはっきり理解しました。


 僕は生まれてくるべきではなかったのです。


 お父さん、お母さん、ごめんなさい。


 巻き込んでしまった人たち、ごめんなさい。


 謝って許されることではないですが、謝ることしかできません。


 だってもう、僕は死んでしまうのですから。


 失敗を失敗のまま置き去りにして、何もしないで一人世界からとんずらしてしまう卑怯者なのですから。


「……どちくしょーが……」


 最後につぶやいたのは自分への悪態で、目尻からこぼれたのは悔し涙でした。


 こうして僕、福田大輔は、二十二年の生涯に幕を閉じたのです。


ちょっと短かったですね。

というわけで、マクシミリアン篇スタートです。

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