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贈り物語り――モンテスキューに憧れて――  作者: 王道楽土
1章 『愚か者は、まじめさを盾にする』
6/22

  B-SIDE

「ありがとうございましたー」


「おーい、スズメ。休憩入っていいよ。賄いは自分で好きにやって」


「はーい店長。休憩入りまーす」


バイト先の店長をはじめ、皆わたしをスズメと呼ぶ。

命名したのはこの店の店長。

理由を訊ねると、「可愛いのに懐かないから」だと言った。

可愛いと言われるのは素直に嬉しい。

だけども懐かないは余計なお世話だ。(自覚はある。)


居酒屋『かっぱの皿』で働きだしてもう二年になる。

個人経営のこの店は常連のお客さんによって支えられているらしい。

店長の人柄と変わった風貌がうけているのだろうか。

金田一耕介が着帽しているようなお釜帽を被り、冬でも甚平を着用している。

不思議なことに誰も店長の名前を知らない。

そんな店長は、高校に通ってないわたしを雇ってくれて、賄い付きで時給900円は有難い。

その有難味も知らずに父は金を盗み初期投資と戯言をぬかす。

将来を見ずその日暮らしをしている人ですら、わたしは尊敬する。

だってその日を暮らそうとしているじゃないか。

父や義母はそういった概念すらなく日々を過ごしていた。

その日を暮らす金くらい稼いで欲しいと懇願しても無駄であった。

口約束は簡単に破り、ギャンブルや酒に溺れるという体たらく。

本気で殺意を数回抱いたくらいです。


「おつでぇーす。あれースズメちんまだ働くの?」


この女は幸江さちえといい、わたしにかまって欲しいらしくいつも話しかけてくる。

わたしをスズメちんと呼ぶのは彼女だけで、そのセンスはわたしにはよくわからない。

背は低く前髪が揃えられたおかっぱ。

童顔であるため少し幼い印象を与える。

座敷わらしを可愛くした感じなのかも。

しかしわたしはそれほど好意は抱いておらず、ただのバイト仲間という認識。


「店長に無理言って残業させてもらう事にしたの」


「えーなんで? 昨日給料貰ったばっかじゃん」


こうやってチクチクと突いてくるんだこの幸江という女は。

年齢が同じ17歳であるという共通点しかないような女なのに、現実を突き付けられている気分にいつもなる。


「ちょっとね。稼がないといけないからさ」


幸江の顔も見ず、わたしは賄いの焼きそばを咀嚼する。

わたしの反応に食いついたのか、対面の椅子に腰掛けた幸江を一瞥いちべつするとにやついていた。

それは浅ましい表情で問いかける。


「なになになにー? また父親がやらかしたとか?」


嬉しそうで何よりです。

わたしの焼きそばより美味しそうな顔をする幸江は、他人の不幸が楽しくて仕方ないのだろう。

幸江は勿論、高校に通っていている。

それが大方の常識なのだろうけど。

幸江が学校でわたしをネタにして馬鹿にしている姿が目に浮かぶ。

こんな妄想をするわたしはひねくれているのだろう。


でも、出会った頃はこんな娘じゃなかったんだけどな。

会話していても相手を思いやる感じがあったのに。

高校二年になった辺りから少し派手になり、夜遊びもするようになった。

高校に通うと周りに影響され、垢抜けていくのだろうか。

まあ、わたしにも問題があるからそれは仕方がないけど。

家庭の事情を幸江に話したという問題。


「そう。わたしの給料を全部盗んでもう使ったぽい」

 

「えーなにそれー! マジ最低ありえなーい」


ははは。

わたしの父は高校生の幸江にはマジ最低ありえないらしい。


「何に使ったのかスズメちん訊かなかったのぉ?」


「訊いたけど答えなかった。幸江、もういいよその話題は」


美味しい焼きそばが半減する。

幸江がいるから更に半減か。


「怖ーいスズメちん。怒ったのぉ?」


「怒ってない。苛々しているだけだよ」


本当に苛々している理由は眼前にいる幸江のせいだが、バイト仲間との亀裂は避けなければいけない。

問題を起こしてクビになるわけにはいかない。

生活が出来なくなる。

もう出来ていないか……。

駄目だ挫けそうな時に幸江を相手するのは本当に辛い。


「そんな苛々するなら殺しちゃえばいいのに」


「は?」


低能にもほどがある発言だ。

他人の親を殺せと躊躇ためらいもなく言う幸江はネジが飛んでいるの? 

よく見るといつもと様子が違う。

若干顔に赤みがかっている。

酒でも飲んだのかこいつ? 

そう言えば今日やたらと店長の秘蔵酒の話をしていた。


「あんたまさか店長の秘蔵酒――」


「そんなのどうだっていいのー! スズメちん殺しちゃいなよ。スズメちんを見てると切なくなるの。もっと楽しくして欲しい。邪魔者は消しちゃいなよ」


支離滅裂で滅茶苦茶だ。

わたしは幸江から哀れな目で接しられていて、父を殺せと言う。


「しつこいよ幸江。殺すなんて無理に決まってるでしょ」


「ふふふふふふ。ほらほらー。スズメちんの本音でたぁー」


不気味な笑みだ。

酔うと幸江はこうなるのか。

それにしても本音ってなんだ。


「本音って何よ」


「本当は父親を殺して消したいんじゃないのー?」


「いい加減にしないと怒るよ」


「だってさぁ。『殺すの無理』とかいう言い回ししないよ? 普通は殺さないと断言するもんだよぉ?」


迂闊だった。

1ミリも思った事が無いかと言われれば嘘になる。

だけど実行することなく思い留まった。

当たり前だ、あれでもわたしの父親だし。

生活が苦しくても父親なんだし。

父親らしいこと何もしてないけど父親なんだし。

父親ってなんだろう。


「保険でもかけて自殺したように殺しちゃえばいいんだよぉ」


休憩時間はあと15分くらい。

こんな酔っ払いの戯言に付き合って、休憩時間を削られるのか。

わたしは箸を置き、赤面した幸江を睨むように言った。


「いい幸江。まず生命保険を掛ける金がない。審査も通るかわからない。通ってもそこから免責期間ってのがあるの。その期間に自殺しても保険金は支払ってもらえない。わかった?」


わたしはテレビや本で得たあやふやな知識を披露した。

こんな失礼な会話をしてくる幸江なので、誤情報であろうとも問題ない。

娯楽と呼べるのかわからないけど、わたしは幼少期から時間を潰すのはテレビであり、図書館であった。

高校に通っていないわたしの大事な情報源でもあるのです。


幸江はキョトンとした表情で口を半開きにしている。

半開きの口癖はいつものことだけど。


「すごぉーい。スズメちん学校行ってないのに博学多才だね」


博学多才という四文字熟語を幸江が知っていた方がすごいよと心でつっこんだ。

それにしてもわたしを馬鹿にしているのか、褒めているのか。

純粋に両方なのだろうか。


「学校行ってないは余計。馬鹿な妄想話もおしまいね」


「そうだねぇ。人殺しなんて現実離れした話しても意味ないね。現実感のある話をしよっか」


まだ対話を継続させるんだ。

休憩などに使用しているこの倉庫部屋から、調理場を覗き見るも誰も来そうにない。

休憩時間を幸江に捧げる腹を決める。

これも仕事の一環と思えばいいのです。


「家出して悠々自適に一人暮らしするっていうのはどう?」


「未成年が賃貸物件をどう借りるの。借りれたとしても色々と費用がかかって数十万は必要でしょ。それこそ無理よ」


「そっかなぁ。水商売とかすればお金なんてすぐ貯まるじゃん。それにああゆう店って気に入れられたら賃貸物件も用意してくれるらしいよぉ」


赤面した頬っぺたを腫れた赤面にしてやろうかこいつ。

未成年であるわたしに水商売を勧めるとは。

いくら酔ってるとは言え、父親を殺せだの水商売やれだのと失礼で無礼すぎる。

バイト仲間でなければ確実に足が出ていた。


「あんたねえ、いい加減にしなさいよ。なんでわたしの将来を勝手に決めるのよ」


「だってスズメちん、将来設計なんてないじゃん。勉学するわけじゃないし、彼氏つくって遊ぶわけじゃないし。わたしの周りにそんな禁欲修行みたいな生活している子いないよぉ。なんだかんだ言ってダメな父親が好きで、自分のためじゃなく父親のために生きてるみたいな。そんなスズメちんがわたしは嫌なの!」


アルコールのせいか、充血した涙目で語る幸江はわたしの想いを代弁しているようだった。

将来のビジョンなんてものはない。

勉強して目指す職業はない。

勤勉し続けることで見つけるのかもしれないけど、現実を直視すればお金がないので無理。

言い寄ってくる男性はチャラチャラしていて、ヘラヘラとした表情からは性欲しか考えていないように見える。

そんな男性に一切魅力を感じない。

なんだかんだ言ってわたしは父が好きであり、父の面倒を見ている自分が好きなのかもしれない。


わたしが泣きそう。


「おーいスズメ。忙しくなってきたから休憩切り上げて手伝ってくれー」


「はい」


俯いた頭を上げ、わたしは店長に返事をした。


「また今度ゆっくり話そうねぇ。おつでぇーす」


調理場から響く店長の呼びだしで、幸江は忙しなく挨拶をして裏口から出て行く。

店長の秘蔵酒の件で後ろめたかったのだろう。

わたしは幸江――内心を抉るような内容――に返事できなかったのが後ろめたかった。

食べ残した焼きそばを捨てるのも後ろめたかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

宜しければ感想や採点してやって下さい。

お待ちしています。

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