表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贈り物語り――モンテスキューに憧れて――  作者: 王道楽土
1章 『愚か者は、まじめさを盾にする』
5/22

  A-SIDE-2

入場券だけを購入し、駅構内へ入った。

3番線のホームへ向かう。

まだ時刻は22時前であり、帰路に就くであろうサラリーマンが多い。

すれ違う雑踏の雑音も意識から離れている。

集中すべきは数メートル先のロッカーにあるからだ。

ホームの端にある貸しロッカー周辺には誰もいない。

貸しロッカーは横殴りの雨や風によって全体的に錆びつき、汚れが目立っている。


ロッカー前で僕は立ち止まり、302のロッカー番号を探す。

すぐに見つかり鍵が閉まっているのは、302の今田さんが使用したロッカーだけであった。


メモの通りで追加料金は発生していない。

ズボンのポケットから鍵を取り出し、無心で鍵穴に差し込み回す。

不思議と緊張感はなく、使命感が上回っていたのかもしれない。

ガコンという金属音が鳴る。


ロッカーを開けると中には茶色のレザーバッグひとつだけ。

よく旅番組とかで使われるベタな鞄がひとつ置いてあった。

大きさは大きくも小さくもない、旅行鞄と想像すれば大体これくらいだろうという大きさ。

片手で取っ手を持ち、片手で底を支えながら引きだした。


ズシっとした重みがある。

重さの感覚に自信はないけど、2キロから4キロの間くらいか。

流石にこの場ですぐに開けるのは軽率すぎる。

ひとまず鞄を地面へ置き、ロッカー内に何か他のものがないか確認したが、ロッカーの中身は空っぽ。

それを確認した僕は片手で鞄を持ち上げ、どこで確かめるか考えながら踵を返しゆっくりと歩く。


右手に握った取っ手にグッと余計な力が入る。

鞄の開放場所を考慮しながら、少し進むと鼻をつく臭いがした。

さっきは気付かなかったが異臭の方向にはトイレがあった。

僕の足はそのままトイレの方へ自然と向かった。


「あそこで調べよう」


早く鞄の中を確認して、処分したいという当然の心理があった。


「うっ、くさいっ……」


男性トイレに入ったのはいいが、蒸し暑くアンモニアの悪臭が酷い。

反射的に鼻を左手で押さえた。

もう少しなんとかできないのだろうか。

田舎駅ならまだわかるけど、そこそこ大きな駅なのに。

しかし、これだけ悪衛生だと利用する人も少く、僕にしたら好都合なのかもしれない。

男性用トイレの中へ入ると誰もおらず、個室は使用していない。

一番奥の個室を開け、息を止めながら鍵を掛ける。


和式便器なんて久しぶりに見た。

こんなご時世に和式で悪臭漂わす便所も珍しい。

あまり電車のトイレを利用したことがない僕は、コンビニにあるトイレとの違いに驚いた。


はぁあと溜め息に似た息を吐き、鼻を使わず口で呼吸するようにする。


トイレの悪臭より問題は鞄の中身。

果たして僕に処理できるものが入っているのだろうか。

今田さんは気に入ったら持っていけとも言っていたが、そんなものがあるのだろうか。


鞄を地べたに置き、ゆっくりと金具のジッパーを開ける。

全開に開けても、まだ鞄は数センチしか開いていない。

中身は見えない状態。


ゆっくりと隙間に両手を入れ、ゆっくりと両手で鞄の口を広げる。


なんだこれは?


第一印象は疑問。

黒いビニール袋?

ゴミ袋? の中は視認できない。


そして紙切れが一枚、目に止った。


先にその紙切れを手に取る。

なにやら文字が書き込んである。今田さんが入れたかどうかは判断できない。

なぜなら手書きでなくワープロで印刷されたものであるから。


『ロッカーを開けた行動は駅構内の監視カメラで録画されている。鞄を持って歩く姿は駅構内の監視カメラで録画されている。ロッカーの鍵と扉には指紋が付いた。鞄には指紋が付いた。この紙にも指紋が付いた。ブツにも指紋が付いた。もう安易な行動はできない。あなたにこれを託す。』


虚を突かれた驚き。

中身より先に意表を突かれ混乱する。

なんだこれ。

意味が解るような解らないような。

文章は明らかに挑発的かつ挑戦的。

不安が僕を襲う。

とてつもない不安。

相手にしてはいけないものに手を出してしまったのだろうか。

これではミステリー小説にありがちな展開じゃないか。

そんなゲームを勝ち抜く自信なんて僕には微塵もない。


ひとつ紙切れの内容と違うのは、ブツに指紋が付いたという文言。

これが今田さんの意図するものなのか、または僕の知らない者から今田さんへ託されたものなのか。

こんな紙切れ一枚では意味がわからない。


黒い袋の中身。

これを確認しないと……。


中身を確認せず処分するのは危険だ。

紙切れの内容にもある、カメラや指紋が僕を投棄させない足枷となっている。

紙切れがなくとも、鞄の中身を確認せずに投棄するなど僕には到底できないけど……。

思い留まればよかった事なんて今まで多々ある。

これもまたそのひとつなのだろうかという思いがよぎる。

ジッパーを閉めてゴミ捨て場に投棄するか、警察に届けるか。

が、やっぱりそのままゴミ捨て場に投棄するなど僕には無理だ。

鞄に手をつけて中身も見ずに警察に行くのも無理だ。


怪文章の紙切れを鞄の中に戻し、意を決した僕は中身を確認する。


黒いビニール袋は端と端を結んであり締められている。

それを簡単に解いて中身を覗く。

二重になっていたらしく、同じ黒いビニール袋は団子結びされている。

それも解き中身を覗く。

光がうまくビニールの中に入りこまず、電灯の下に少しずらした。


それは一つというべきか、二つというべきなのか、目に焼きついたもの。


赤黒い液体に浸った肉塊。


――今田さんの言った贈り物とは両手首であった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

宜しければ感想や採点してやって下さい。

お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ