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贈り物語り――モンテスキューに憧れて――  作者: 王道楽土
3章 『偉大なことを成し遂げる人は、つねに大胆な冒険者である』
22/22

2 A-SIDE-1


しばらく無言のドライブ。

僕は久しぶりの運転に集中していて、話しかける余裕はなかった。

彼女はトートバックを膝の上に置き、ずっと車窓から景色を眺めている。

このままでは香川県まで無言が続きそうなので、信号待ちを見計らって肩の力を抜き彼女に訊いてみた。


「先に服を見るんだっけ? 僕、あまり洋服の店とか知らないのだけどスズメさん行きたい店とか知ってる店とかあるの?」


「わたし知らないよ。どこでもいいんだけど……」


知らないのはこの地域の在住者ではないのか、それともただ単に店を知らないのだろうか。

それにどこでもいいと言われるのが一番困る。

それはセンスを問われているような試されている気分に陥るからだ。


「ううん……この車にナビ付いてないし、僕の携帯電話は止められててネットに繋がらないしどうしよう……」


「だったらパスタ食べに行こ。パスタ屋ドンべエって店あるでしょ?」


パスタ屋ドンベエなど僕はまったくもって知らない。

聞いた事すらなかった。

チェーン店であればネットを閲覧している最中にでも引っ掛かるのだろうけど、個人店や暖簾分けの小さい店ならわからない。


「ごめん。その店、僕知らないや」


「えっ! 本当に知らないの?」


「うん。そんなに有名なの?」


「有名ってどころじゃ……あっ。やっぱいいです。ファミレスでいいです」


「え? ファミレスでいいの?」


彼女は「うん」と言っただけで、ますます訳がわからない。

まあ、僕が外食するタイプではないのでそういった情報に疎いだけなのだろう。

ファミレスであれば国道沿いに走っていればいずれ見つかるだろう。


――うーん。

なんともちぐはぐな会話だな。

彼女が何かを秘密にしているのは確実なのだけど、どうも言動にブレがあるというか、ズレがあるというか。


「スズメさんあそこでいい?」


「うん。ごめんね、店を変えたりテンション上がったり下がったりで。普段こうじゃないんだけどな……なんか勇君の前じゃ上手く話せない」


前髪を弄りながら耳が少し赤くなっているのに、本人は気付いているのだろうか。

恋愛経験のない僕ですらその仕草を知っている。

好意を抱いている女子の仕草であり、それを垣間見た男子も同じように赤面するというのを。


――お互い赤くしながら、ファミレスの駐車場へ入っていった。


鞄をしっかり持ちだし、車を降りた。

緊張の連続で肩がパンパンだ。

教習所ぶりの運転。

初めて女性とドライブ。

初めて好意を抱かれていそうな感じ。

無意識に力が入るのも無理はないはずだ。


肩をグリグリと回して筋肉をほぐす。


「運転ありがとね」


思ったより小さな手が僕の肩をやさしく交互に揉む。

僕は後ろを振り返ることなく、立ち止まり彼女の手を見つめた。

もういいよという言葉を何度も呑みこみ、彼女が自らやめてくれるのを待つ。

でも彼女はやめる雰囲気はなく揉み続ける。

肩がほんわかと熱を帯び、僕の心中も熱くなった頃に手は止まった。


「やっぱり勇君肩こりさんだね」


「あ、ありがとうね……やっぱりってどうして?」


「緊張すると肩が上がる癖があるんじゃないかなと思って」


「ああ、なるほど」


確かにそんな癖があるのかもしれない。

自分では気付かないものだな。


「肩が大分ほぐれたよ。ありがとうねスズメさん」


「……うん」


照れた返事をすると、彼女は先にファミレスへ入って行った。

こんな調子で香川県まで続けば、二人はどうなってしまうのだろう。

これもゲーム内であったとしても、僕は今とても幸せであり気分は上々だ。


浮き足で入店すると、彼女はすでに席の案内をされていた。

急ぎ足に変え僕も席に腰を下ろした。


メニューに目を通すも、喫茶店で食べてからそんなに時間は経っていない。

彼女も同じかと思えば、パスタを注文していた。

よく食べれるなとは思ったが、口にはださず僕はドリンクだけを注文した。


「ちょっとトイレ行ってくるね」


「いってらっしゃい」


トートバッグを大事そうに彼女が席を立った時であった。


――縦に並んだ前の席の男と目が合う。


その瞬間に記憶が蘇る。


知っている。

僕はこの男を知っている。


それは小学校の同級生だ。


5年生と6年生の2年同じクラスだった田嶋洋介たじまようすけ

クラスに必ず一人はいる、陽気で笑いをとる存在。

しかも顔は整っていて、成績も上位であった人気者。

常にみんなを笑わそうと授業妨害すれすれの自己主張に僕はうんざりしていた人物。


ここで声を掛けたところで、相手は僕のことなど忘れているだろう。

僕がすぐに気付いたのは理由がある。それは田嶋の顔に特徴があるからだ。


――頬に古傷がある。


整った顔に、まるでヤクザ映画のような傷が頬にあるのだ。

確か田嶋が小学5年生の時に親と海釣りに行った時の事故。

投げ釣りだったらしく、回りを確認しなかった親が遠投すると針が田嶋の頬に引っ掛かり、そのまま頬肉を剥ぎ取る怪我をした。


当時話題になっていたので、周りと馴染んでいない僕でも知っていた。


「…………」


「…………」


何故か僕は田嶋を見つめ続けていたが、田嶋の方が先に目線を逸らした。

どうやら僕を誰かわかっていないようだ。

そもそも小学生時代に会話すらした記憶もないので、僕に気付いていても無視したのかもしれないけど。


田嶋はひとりで来店しているみたいで、小学生の時と雰囲気は少し違う。

20歳になれば当たり前なのかもしれないけど。

昔より暗いイメージがする――落ち込んでいる印象というより、生気がない遠い目をしていた。


あれだけ人気者であった田嶋でも、大人になればこれだけ雰囲気が変わるものなのか。

人の事は言えないけど、彼にも彼なりの人生で色々あるのだろう。


「ただいま」


「おかえり」


トイレから帰ってきた彼女により、田嶋との視界は遮られた。

特に報告することでもないだろうと、彼女には田嶋の存在は伝えなかった。

言ったところで、「へー」で終わるだろうし、エピソードがあるわけでもないので。


ドリンクや料理が運び出され、彼女は無言で食事をする。

彼女が食べる動作で少し前屈みになると、僅かな時間だけ田嶋の虚ろな表情が現れる。


「あの……勇君」


「はい?」


「食べる行為をずっと見られるのって恥ずかしいんだけど」


「うわっ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。スズメさんの後ろの席の人。小学校の同級生っぽいんだよ」


「えっ!?」


彼女は田嶋を確認する為に、頭だけ覗きこむように見遣った。

一目見るとすぐに僕の方へ視界を戻した。


「イケ面だね」


「う、うん」


なんだろうこの表現できない感情は。

イケ面だと肯定はしたものの、やりきれない残滓の気持ち。

田嶋の内面が変わっていようと、外見は今でもイケ面である。

第三者の異性から見れば好印象を与えて当たり前のはずだ。


――なのに。

気に食わない。


どうやら僕は田嶋の外見や内面が気に食わないのでなく、彼女があっさりと外見を認めたのが気に入らないみたいだ。

これが俗に言う『やきもち』というやつなのか。

僕ってつくづく小さい男だ。

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