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贈り物語り――モンテスキューに憧れて――  作者: 王道楽土
2章 『自由とは、法の許す限りにおいて行動する権利である』
15/22

  B-SIDE

 

目覚まし時計が16時を示すベルが鳴る。

相変わらず父は帰宅していない。

外で何をやっているのだろうか。

ここ数年は夜の街へ繰り出し、朝日が昇る前くらいに帰宅する。

仕事なのか遊びなのか何度も訊ねてみるも曖昧な返答しかしない。

どちらにせよ、わたしには言えない事情というやつなのだろうか。


なんだかんだと、父を思い心配はすれど、わたしの気持ちは変わらない。


バイトの準備をすませ、誰もいない自宅を出ようとしたら電話が鳴る。

正直でたくなかったけど、たまにバイトの店長から掛かってくる場合もあり嫌々受話器を取る。


「はい」


わたしは無愛想に名乗らず「はい」としか言わない。


「もしもしぃ。ああーよかったぁ出掛けてなくてぇ」


この甘ったるい声色は幸江だ。

幸江がわたしに電話など珍しい。


「幸江か? どうしたの」


「うんうん。スズメちん、昨日はごめんねぇ」


どうやら謝罪の電話らしい。

自覚はあったんだと少し関心する。


「もういいよ。それだけの為に電話してきたの?」


「それだけってわたしこれでも気にしてたのよぉ。お詫びじゃないけど今日家に泊まりに来ない?」


本命はそっちか。

幸江の実家に泊まるのはお詫びでなく、わたしからすれば苦行です。

強引な誘いに負けて、一度だけ泊まりに行ったけど一家団欒の食卓が耐えきれない苦痛だった。

幸せな家庭を嫌うわけではない。

家庭環境や父の職歴まで訊ねてきて、まるで娘をもらいに来た男性の気分を味わったからです。


「いや、いいよ。気疲れするし」


「両親はいないよぉ。今日と明日は旅行なの。だからおいでよぉ。昨日の続きを話したいし、わたし一人だと寂しいし二人でいようよぉ」


昨日の続きをしようとするこいつは絶対に反省していない。

ただ寂しい隙間を埋める為に、わたしをその中に押し込もうとしている。

だけど金貸しが訪ねて来る家より、綺麗な一軒家で一泊する方が遥かにましなのかもしれない。


「わかったよ。着替えだけ持っていけばいいかな?」


「うんうん。やったぁー。わたしは今日バイトないから、スズメちんが終わる頃に店前で待ってるねぇ。あがり22時だっけぇ?」


「うん、そうだよ。じゃ22時に店前で」


一泊くらいなら父に書き置きする必要もないか。

帰ってくるかもわからないし。

わたしは着替えや化粧用品をトートバックに詰め込んだ。


トートバックは白の無地で下部にデザインされているのは雀。

電線をイメージした黒いラインが一本引いていて、そのラインの上に黒い雀のシルエットが四匹仲良く並んでいる。

わたしの中学祝いにと、父がくれた鞄。

唯一まともな贈り物。このトートバック以外のプレゼントで喜んだ記憶がない。

だけども貰った当時は可愛くて喜んだけど、今となっては少し子供っぽくて恥ずかしい。

それでもお気に入り。


――因みに、店長がわたしへ命名したスズメとは全く関係がないです。

何故ならこのトートバックを店に持参するのは今日が初めてなのだから。


幸江の実家とはいえ、お出掛けするような気分は少し楽しい。

決して自分から行きたいとは言わないけど、誘われるのも悪くない。


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