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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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最終話「夕焼けに照らされながら」 5

「へぇ、ずっと見ていたにしては、表現が曖昧に聞こえますが?」


「陰に隠れて様子を伺っていたから、物音しか聞けなかったんだ」


 初めて、王子の浮かべている余裕に影がよぎった。


「仲間がいる可能性もあったからね。下手に動いて君に見つかるわけにもいかなかった。観察しているうちに作業を終えた君はすぐに走り出して、僕もその後を追わざるを得なかったから、確認する暇が無かったってわけさ」


 彼は肩を竦めた後、


「それから後の事は、君も知っているだろう?」


 と、王都を騒がせていた事件の真犯人に問いかける。


「そうですね……で、王子。話はそれだけですか?」


「いいや、言いたい事はもう一つある。速やかに降参してほしい」


 クラールさんの口調が真剣味を帯びる。表情もまた、険しい顔つきになっていた。


「今、城から増援の部隊が向かっている。この場所を包囲するように展開しているから、抵抗や逃走を図っても無駄だよ。今、投降すれば多少は罪も軽くなる。だから……」


「それはハッタリですね」


 ナクトゥスは一笑に付した。


「俺の様子を伺ってずっと息を潜め、仲間の存在を警戒し続けていたのなら、連絡を取るなんてリスクを犯せるわけがない」


「君を尾行している間に連絡したんだ」


「にしては、随分と到着が遅れている様子ですが? ここを一度離れてだいぶ時間が経ったのにも関わらず、国の重要人物である貴方を単独で行動させ続けているのも妙な話に思えますよ」


 ナクトゥスさんの指摘は、どうやら図星だったらしい。クラールさんの表情が更に強ばる。そして、私の心には一抹の不安がよぎり始めた。


――もしナクトゥスさんの指摘が当たってるなら、助けは絶対に来ないんだよね……。


 確かに彼の言う通り、要注意人物の監視で精一杯だったクラールさんに連絡を取る機会があったとも思えないし、偶然に兵士と出会ったにしても国の世継ぎが単独で行動しているのはおかしい。普通なら、どんなに本人が嫌がったとしても一人くらいは護衛を付けるだろう。


 つまり、この場は私とメルエッタちゃん、クラールさんの三人だけで切り抜けなければならないという事だ。


「どうやら、俺の予想は的中しているみたいですね。で、どうします?」


 ナクトゥスさんは挑発的な笑みを浮かべた。


「脅しは通用しないとなると、やはり力ずくですか?」


「……出来れば避けたいところだけど、君がどうしても連行を拒むというなら、致し方ないね」


 クラールさんはあくまで冷静な口調で言葉を返しつつ、


「ミズホちゃん、下がっていて」


 と、私の身体から手を離し、自らの愛剣を体の正面に構え、禁術使いと相対した。


「もう一度、言うよ。無駄な抵抗はよすんだ。出来ることなら、無闇な争いは避けたい」


「最終通告というわけですか。しかし、残念ながら聞けませんね」


 ナクトゥスさんはゆっくりと首を横に振り、右腕を軽く上げた。


「もし、力ずくで捕らえるというのなら……捕らえてみるがいい!」


 禁術使いの青年は、叫びながら右手を勢いよく前に突き出す。瞬間、禍禍しい黒い波動が彼の掌から撃ち出された。


「ひえっ!?」


「ミズホちゃん! メルエッタちゃんを抱えて逃げるんだ!」


 突然の攻撃に飛び上がる私に鋭い声で告げると、金髪の青年は一歩前に踏み出て剣を繰り出した。漆黒の波動は刃に斬り裂かれた瞬間、大気の中に消失していく。


――凄い……って、感嘆してる場合じゃないよっ!


 私は地面に倒れ呻いているメルエッタちゃんを起き上がらせると、彼女の身体を支えながらクラールさんの後方へと歩き始めた。


――早く、戦いに巻き込まれないよう離れないと……!


 私達が移動している間にも、二人の戦闘は続いていた。禁術使いは魔力によって生成した魔弾を撃ちまくり、若き王子は愛用の武器によって相手の攻撃を防ぎ、あるいは身をかわして攻撃を避け続けている。


 現状、どちらが優勢なのか私には判断がつかなかった。


 何となく分かっているのは、どちらも決め手に欠けた攻防を延々と続けているという事。


「このままじゃ埒が明かないか……なら、こういうのはどうかな!?」


 ナクトゥスさんが叫んだ瞬間、彼の胸元で紫のペンダントがいっそう強く光輝いたかと思うと、宝石から邪悪な煙のようなものが無数に溢れだし、それぞれが絡み合って数十本の細長い塊を形成する。それはまるで、闇の魔力で形作られた触手のように感じられた。


「さて、この攻撃をかわしきれるかお手並み拝見といきますよ……王子様!」


 無数の触手が一斉に勢いよく伸びて、目の前の標的に襲いかからんとする。


「……くっ!」


 歯を食いしばったクラールさんは後方にステップしつつ、片刃剣を巧みに操って迫りくる攻撃に対応した。しかし、先ほどまで放たれていた魔力の波動とは異なり、今度の攻撃は刃の直撃を食らっても呆気なく消失したりはしなかった。まるで、魔力で形成された触手自体が確かな実体を持っているかのように、金属製の武器と激しい打撃の応酬を繰り広げている。


 しかし、一本の剣と数十の触手ではどちらが有利か、深く考えずとも分かる。多数、それも四方八方から放たれる連撃の数々に、若き王子は更なる苦戦を強いられていた。一度に対応しなければならない触手の本数を減らす為に通りを素早く駆け回り、身を翻して打撃の直撃を回避し、避けきれない一、二本は愛用の武器で受け止める。


 流石は剣技に精通しているもクラールさんと言うべきか、圧倒的に不利な状況であるにも関わらず、彼は敵の猛攻を剣一本だけで退け続けていた。しかし、勝機の見えない防戦は、着実に青年の体力を消耗させていく。


 いつしか、若い王子の端正な顔には、焦りの色と幾筋もの汗がにじみ出ていた。そんな彼の神経を逆撫でするように、


「流石は一国の王子、身を守る術も心得ている様子……ですが、いつまでその悪足掻きが続くでしょうかね!?」


 禁術使いの余裕たっぷりな声が一帯に響きわたる。

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