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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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最終話「夕焼けに照らされながら」 3

「メルエッタちゃん! どうしたの!?」


 声を絞って張り上げたものの、メルエッタちゃんからの返答は無かった。自らの身体を辛うじて支えるだけの余裕すら失ったのか、彼女は地面に力無く横たわっている。苦悶の表情を浮かべている顔には冷や汗が張り付き、緑色の髪が乱れ掛かっていた。先ほどより、遙かに状態が悪化しているように見える。


「しっかりして、メルエッタちゃん!」


「彼女、魔法を使おうとしたのかい?」


 結界の外から、青年の声がした。


「残念だけど、それは不可能だよ。俺が彼女に渡した指輪にはもう一つの効果があってね。装着した者が魔術を発動しようとすると、強烈な魔力の逆流が起きるようになっているんだ」


「そんな……」


 私は言葉を失った。メルエッタちゃんの魔法が封じられたことに愕然としたのではなく、ナクトゥスさんが彼女に行った仕打ちに衝撃を受けたのだ。


 彼は、本気で私達を襲おうとしている。


――とにかく、私が何とかしなきゃ……!


 禁術と指輪のダブルパンチを食らったメルエッタちゃんを頼るわけにもいかない。絶えず続く魔力の吸引に気力を奪われながらも、私は辺りを三百六十度見渡して何処かに突破口はないかと探す。そうしているうち、残りの三隅にも『第一の術』に用いられた紙が設置してある事が分かった。そして、その全てが結界の『内』に存在している。どうにか一枚でも処理出来ないだろうか。


――私の魔法でアイスに変えれば……でも、魔力を吸われ続けて力が出ないよお……。


 禁術は確実に私の身体を蝕んでいた。身体を動かすだけならまだ何とかなるものの、とてもじゃないが魔法を使用出来るだけの力は残っていない。やはり、魔力を意識的に鍛えていない私は、日常的に魔術を扱っているメルエッタちゃんよりも、魔吸の進行が早かったのだろう。


 となると、紙らしく破り捨ててしまうのが最善の手段か。しかし、ナクトゥスさんの妨害は怖い。


――かくなる上は……必殺、トンデモダッシュ!


 私は首に掛けていた番重を地面に下ろすと、死力を尽くして駆け出した。自分の後方、店の壁に設置されてある一枚の紙に向かい、一直線に走る。幸い、ナクトゥスさんから何らかの攻撃を受けることはなく、無事に目標地点まで到達した。解読不能な文章の書かれている紙は怪しげなオーラを帯びているものの、それ以外は特に目立った変化もない。私は躊躇せずに紙を壁から引き剥がそうとする。しかし。


――と、取れない……!


 まるで、強力な接着剤で張り付けられているかのように、指先にどれだけ力を入れてもビクともしない。ならば裂いてしまおうと、次に中心を摘んで持ち上げようと試みたものの、今度は紙にあるまじき繊維の強固さを実感させられた。


「破ろうとしても無駄だよ」


 背中側から浴びせられた声に、ハッと振り返る。先ほどの位置から一歩も動かないまま、ナクトゥスさんは勝利を確信した笑みを口元にたたえていた。


「その紙自体にも、特殊な魔術を用いて強化処理を施してあるからね。素手でちぎるのはおろか、どんなに高価な剣でも真っ二つに切断するのは不可能だろうさ」


「そんな……」


 彼の言葉に愕然としながらも、僅かな望みを掛けて結界に触れてみる。だが、私達二人を覆っている光壁は私の指先を軽く弾いた。やはり、結界を形成している『第一の術』をどうにかしなければ、外には出られないらしい。


――どうしよう。胸まで、苦しくなって……。


 頭を悩ませているうち、とうとう体力の限界に近づいてきた。ただでさえ霧で悪くなっていた視界が更に掠れていき、手と足から力が抜けていく。堪えきれず、私はその場にしゃがみ、手を地面についた。


――このままじゃ、私、死んじゃうかも……。


「……心配しなくとも、命までは奪わないさ」


 俯き加減で呼吸を整えている私の耳に、青年の静かな声が届いてくる。その口調に、先ほどまでの狂気は微塵も感じられない。


「魔力をあらかた吸い終えたら、君達からは記憶を一通り消しておく。明日からは俺の事も忘れて、元通りの生活に戻れるよ。暫くは体の不調に悩まされるかもしれないけれど、日が経って魔力が回復すればじきに治まるさ」


「……ナクトゥスさん、こんな事はもう」


 呼びかけながら、残り僅かな気力を振り絞って、私は立ち上がり、頭を上げる。


「やめられないんだよ、ミズホちゃん。もう、引き返せないのさ」


 『通り魔』の顔には、悲しげな笑みが浮かんでいた。


「……さて、君との会話もそろそろお終いになるだろう。大丈夫、一度気絶してしまえば、もう何も苦しむ事はない。次に目を覚ます時には、君はきっと然るべき場所で安静に寝かせられている筈さ」


 彼が淡々とした口調で告げた瞬間。


「……あっ」


 意識が薄れていき、視界が真っ白に染まっていく。糸がプツンと切れてしまったかのように四肢が完全に脱力した。


――このままじゃ、立ってられな……。


 流石に、持ちこたえるだけの気力も尽きていた。自らの身体を支えられなくなった私は、そのまま背中から地面に崩れ落ちようと……。




「ミズホちゃん!」

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