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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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最終話「夕焼けに照らされながら」 1

 沈みかける太陽の放つ最後の残り火に彩られた通りは、しんと静まり返っている。在りし日は都らしい賑やかな活気に包まれていたのかもしれないが、今では無人の廃家が連なるばかり。道は哀愁を誘うほどに広々としていて、吹き付けてくる風は心なしか肌寒く感じられる。


 そんな寂れきった道の中心で、衝撃的な宣言を発した青年は陰りを増した夕焼けを一心に浴び、口元に微笑を浮かべて私達の前に佇んでいた。


「そんな……冗談ですよね?」


 動揺で混乱する中、私は一縷の望みを自らの問いかけに託す。しかし、


「俺が冗談を言っているように見えるかい」


 彼――ナクトゥスさんは笑みを絶やさないまま、私の願望を即座に切り捨てた。


「信じられないかもしれないけれどね。ミズホちゃん、これは現実だよ」


「でも……ナクトゥスさんは自分の事、旅の詩人だって」


「危ないわ、下がって」


「メルエッタちゃん……?」


 小さな魔女は私の言葉を遮っただけでなく、ほっそりとした腕を伸ばして動きも制してくる。そして、自身は一歩前に進み出て、青年と相対した。私の前に出された彼女の右腕の先には、彼から貰った指輪が填められている。


「どうやら、本当みたいね」


 強ばった面持ちの彼女は低い声で言う。


「なるほど……君の方はどうやら、この状況を冷静に捉えられているらしい」


「まあね……ところで」


 と、メルエッタちゃんは自分の右手の甲を掲げる。黄色の宝石が、彼女の指で輝いていた。


「アタシ達の居場所を正確に掴めたのは、ひょっとしてこの指輪のお陰だったりするの?」


「へぇ、頭も切れるんだね」


 ナクオゥスさんの漆黒の瞳が、笑うように細められる。


「お察しの通り、それに魔力を吹き込んだのは俺だよ。そのマジックアイテムは絶えず魔力を発して、装着している者の位置を俺に教えてくれるようになっているのさ」


「だから、さっき私達の所まで走ってこれたんですか……」


 要するに、電力ではなく魔力で動作する発信機のようなものなのだろうと、私は頭の中で予測をつけた。


「そういう事さ。尤も、その指輪には、別の細工も施してあるんだけどね」


「……別の細工?」


 意味心な言葉に、私は首を傾げてしまう。メルエッタちゃんはというと、顔に緊張を浮かべて自らの右手に左手を走らせた。しかし、


「おっと、外そうとしても無駄だよ」


 ナクトゥスさんの言葉通り、彼女がどれだけ力を入れて抜き取ろうとしても、指輪はビクともしていなかった。


「……どうして」


「一度装備したら、外れなくなる呪いも掛けてあるんだ。かなり強力な術だから、幾ら魔術士の君でも、容易には解除出来ないだろう」


 額に冷や汗を浮かべて焦るメルエッタちゃんに、彼は得意げに解説した。


「……ナクトゥスさん、どうして」


「どうして、こんな事をするのか、かい?」


 私の言を途中で遮り、ナクトゥスさんは小さく笑って、


「大勢の人々から魔力を奪い、貯蓄する為さ。これを使ってね」


 と、胸元の装飾品を指し示す。


「このペンダントもね、その指輪と同様にマジックアイテムなのさ。とはいっても、効果は段違い。こちらの方は本当に、過去の偉大な賢者がその強大な魔力を費やして完成させた代物だからね。ま、賢者とはいえ、世界には大罪人としてその名を刻まれている魔術士なんだけれど……ほら、ここを見てくれよ」


 彼のほっそりとした指先が示す先では、紫色の宝石が妖しげな輝きを周囲に発散していた。


「強烈に光っているだろう? これは、宝石の帯びた魔力による変化なのさ。このペンダントには膨大な魔力を貯蓄することが出来るんだ。そして、蓄積させた魔力を引き出して特殊な術を発動させることも出来る。勿論、それには卓越した技量が必要だけどね。俺も、この道具を扱いこなすには相当の時間を費やしたよ」


 どうだい、素晴らしい道具だろう。そう誇らしげに言ったナクトゥスさんの笑顔には、明らかに狂気の感情が混じり始めていた。


「このペンダントがある限り、俺は人々から魔力を奪う度に強くなることが出来る。強くなれば、出来ないことなんてなくなる。それが、俺がこの都で通り魔と化していた理由さ。平和ボケしていると評判のトロスベリア王国なら、いとも簡単に目標を達成し続けられると思ったからね。どうだい、これで返答になっただろう?」


「……違いますっ」


 無意識のうちに、自分の両手が握りしめられていた。けれど、それは決して、目の前の彼に対する怒りの感情から来た動作ではなかった。


「私が言いたかったのは、そんな事じゃなくて」


 震える声で、頭の中で纏まらない言の葉を懸命に紡いでいく。


「どうして……どうしてなんですかっ!?」


 私は感情の奔流に任せて、叫んだ。いきなり大声を上げた私に、ナクトゥスさんは戸惑ったように目を瞬かせる。


「どうして、ナクトゥスさんがそんな事、しなくちゃならないんですか!?」


「……ミズホちゃん」


 静かに私の名を呟いた青年の漆黒の瞳が、僅かに揺れた……ような気がした。


「ナクトゥスさんは気さくで明るくて、優しい人です。こんな事をするような人じゃないって……私、ちゃんと知ってます。それなのに、どうして」


「……君は、明るく生きているね」


 不意に、彼が寂しげな口調で呟いた。

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