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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第一話「飛ばされて、異世界」 9

 ちょっとした善行をした気分になって、少しだけ気分が晴れ晴れするも、やはり空腹感は誤魔化せない。歩くだけのエネルギーもとうとう枯渇してしまい、私は公園の入り口でついにうつ伏せで倒れてしまった。石で出来ている地面に強く頭をぶつける。途端、頭の中に火花が散った。うう、痛いよう。


――あっ、良い事思いついた。


 その時、火花バチバチの私の脳内に一つの名案が浮かんできた。このままずっと地に伏していれば、誰か親切な人が私を拾ってくれるかもしれない。名付けて『おぺれーしょん・行き倒れを見捨てると良心の呵責がちょこっとあるぞ』だ。早速、私はスリープモードになり、さっき立案した作戦を実行に移す。




「ねえねえ、見て見て。あそこに誰か倒れてるよ」


「あ、本当だ」


「何か変な格好だねえ」


「じゃ、行こうか」




「お、誰か倒れてるぜ」


「死んでるんじゃねえか?」


「ま、俺達には関係ねえけど」


「まあな。行くか」




「あ、誰か倒れてるわね」


「そうみたいですね。旅の方でしょうか?」


「アタシ結構、好みのタイプかも。家に連れ込んで襲っちゃう? 二人がかりで」


「そんな事しちゃマズいですよ。それに私、先輩一筋ですし……ねー、早く行きましょうよお」




「あれっ? 誰か倒れてるよっ?」


「本当だっ」


「早く助けなきゃっ!」


「空腹みたいだし、ご飯もあげないとっ!」


「ママー、どうしてあの人、こんな所に倒れて一人でブツブツ呟いてるの?」


「しっ、見ちゃいけません」




 どうやら、この世界の住人はそんなに優しくないみたいである。


――行き交う人のヒソヒソ声、世間無常の響きがいっぱい……グスッ。


 人知れず、私は大粒の涙を流した。いや、大勢の人々が行き交う場所ではあるんだけれども。


 でも、そろそろ冗談じゃなくヤバいような気がして仕方がない。何しろ、元の世界でアイスクリームを食して以来、何も口にしていないのである。


――ああ、アイスクリームまた食べたいなあ。でも、この世界にはアイスクリーム無いんだろうなあ。自由にアイスクリームを作れる魔法とか唱えられたらなあ。


 そこまで考えて、私はハタと気がついて、もの凄い速度で上半身を起こした。


「唱えられるじゃない!」


 周囲の人々の視線が矢のように鋭く体中に突き刺さろうとしたが、私の身体を包み込む幸福感バリアの前には無力同然だった。そう、今の私には女神様から授かったアイスクリームの魔法がある。それを使えば、すぐに現在抱いている飢餓感を脱する事が容易な筈だ。


「確か材料が必要なんだよね……あ、コレで良いや」


 私は近くに落ちていた灰色の小石を拾った。選んだというよりも、手の届く範囲にあった物体がこれしか無かった為である。栄養不足による気怠さで移動するのが面倒だったのだ。


「えっと……どう使えばいいんだろ。願えばOKなのかな?」


 私は小首を傾げながらも、目を閉じて強く念じる。


――アイスになあれっ!


 私が心の中で呟いたその瞬間、真っ暗闇の筈の視界に目映い光が飛び込んできたと同時に、右手に握りしめていた小石が奇妙に変化するのを感じ取る。光が収まった後、私は恐る恐る目を開いた。持っていた筈の小石は既になく、私はその代わりにコーンの部分を手にしていた。そして勿論の如く、その上には灰色のアイスクリームが盛られていた。尤も、使った材料が小さかった為か、量は少なかったけれど。この際それはどうでもいい。食料を調達出来たという事が重要なのである。


「やったっ! アイスクリーム頂きまーす!」


 初めて毒舌女神に感謝しながら、私は口をあんぐりと開けて目の前のスイーツを頬張ろうとした。




――頬張ろうと、した。




「ぐぎぎ……ごが」


 硬かった。第一印象はコレである。アイスクリームっぽい形状をしているのに、まるで石をそのまま食っているように硬い。どうやら、元の物質の性質はそのまま適用されるらしい。


「……ってそんなの何となく察する事が出来るじゃないっ! 私のバカバカバカァ!」


「何であの人、自分で自分の事を貶してるの? それも大声で。しかも公園の入り口で」


「きっと、頭が変な人なんだよ。近寄ると危ない」


 通りがかったカップルの会話が耳に入り、私は大きな精神的ダメージを食らった。どうやら幸福感バリアがいつの間にか消失していたらしい。


「まさか、コーンの部分まで石みたいじゃないよね」


 疑心暗鬼になりつつ、私は問題の部分を少しかじる。そして、少しホッとした。コーンの部分は普通の味だ。ここの生成に関しては材料が関係ないらしい。その時、とある案が脳裏を駆け巡った。


「あ、それならコーンだけ食べればいいんだ」


 我ながら最高の閃きである。自分に感心しながら、私は残ったアイス部分をその辺にポイ捨てし、また新たな小石を拾って、


「アイスになあれっ!」


 しかし、全く反応が無い。


「あれ、どうして……?」


 私は先ほどよりも大きく首を傾げたのだが、やがてある事実に思い当たった。


「あっ!」


 小さな叫び声を上げた私の脳内に、毒舌な女神様が最後に告げた言葉がそっくりそのまま再生された。




――あ、そうだ。コーンの部分は特別サービスで無料付け足し出来るようにしておきます。ただし、自分で一度でも口付けてしまった場合は、前のアイスの九割を食べきった後でないと、百時間の間は別の物体をアイスには出来ません。それじゃ、頑張って下さいね。

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