表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
87/103

第三話「禁術使いを突き止めろ!」 6

「よし、それじゃ私も作業手伝うよ。何をすればいいの?」


「あ、今は床に落ちている物を整理しているの。このままじゃ歩きにくいから」


 ネリエちゃんと共に、私は空き部屋の清掃を開始した。まず、散乱しているガラクタ類を部屋の隅っこに押し退けて、自分達の歩きやすい空間を作る。作業を進めていくうち、室内にはベッドや机など普通の家具も存在しているという事、ネリエちゃんが数枚の雑巾と箒とちりとり、それに水の入ったバケツやゴミを突っ込む袋を既に準備していたという事に気がついた。


 部屋の中があらかた片付き、部屋の内部が広々と感じられるようになった後、私達はそれぞれ別の仕事を始めた。私は濡れ雑巾を用いて窓拭き、ネリエちゃんは室内にうず高く塵や埃を箒とちりとりであらかた処理する。窓拭きを終えた私は部屋の一角に押し込まれたガラクタ類を雑巾で綺麗にする作業へと移り、箒を壁に立てかけたネリエちゃんは別の雑巾を手にとって床磨きを始めた。


 清掃を一心不乱に進めている間に、かなりの時間が経過したらしい。いつの間にか、換気の為に開かれている窓から人々の声が聞こえてくるようになり、城下町の方でも活気溢れる光景が見受けられるようになっている。集中力の欠如によりそれらの変化に気がついた涙目の私は、心中で叫んだ。


――掃除、全然終わらないよおおおお!


 幾ら何でも、部屋にひしめくガラクタが多すぎる。世界は既に昼間であるというのに、全体の十分の一ですら磨き終えていない。幾ら整理整頓に自信があるとはいっても、ここまで量があっては物理的に時間を浪費するのは明白だった。この部屋を完璧に清掃しようとするなら、優に夕方まで掛かってしまうだろう。外へ出掛ける暇など、作れそうにも無かった。


「……この調子じゃ、今日は会いに行けないかなぁ」


 私がヘンテコリンな置物を雑巾で磨きながら独り言を呟くと、


「会いに行けないって、さっきの話に出てきた女の子に?」


 床のシミを丁寧に拭き続けていたネリエちゃんが反応する。私はゆっくりと頷いた。


「うん、昨日の事があったし、どうしているか心配で」


「そうだよね、あんな目に遭った後なら」


 不意に、窓の外から大勢の叫びが聞こえてくる。どうやら、庭の方で何か起きているらしかった。やがて、彼らの織りなす喧噪が遠のき、辺りが再び静寂を取り戻した頃、


「……ミズホちゃん」


 意を決したように、メイドの少女が口を開いた。


「行ってきなよ。その子の所に」


「……え?」


 予想外の言葉に、思わずキョトンとしてしまう。一方、ネリエちゃんは蒼く澄み渡った瞳を迷っているように揺らしながら、ゆっくりと言葉を続ける。


「長く住んでいた土地から離れて……その女の子、やっぱり心細さを抱いてるんじゃないかな。それなのに無実の罪を着せられたりもしちゃって、きっと不安も強まっていると思う。その子、ミズホちゃんが一緒にいてあげたら、きっと頼もしく感じるよ」


「……でも、掃除をネリエちゃんだけに任せるのは」


「私のことは大丈夫」


 ネリエちゃんを案ずる私の声を遮り、彼女は微笑んだ。見る者を安心させるような、素朴で穏やかな微笑だった。


「きっとその子の方が、私よりミズホちゃんを必要としていると思うから。私には分かるの。それに、私一人でも、夜までにはじゅうぶん片づけられるよ」


「ネリエちゃん……」


 顔も分からぬ他人を気遣う彼女の優しさに、私は言葉に詰まる。そんな私を見て、ネリエちゃんは笑みを湛えたまま、首を縦に振った。その思いやりに満ちた表情に、私の中に芽生えた決心が揺るぎないものとなる。


「ありがとう。私、行ってくるよ。絶対、この事の埋め合わせはするからっ」


「城の人に見つからないようにね」


「うん」


 雑巾をバケツの縁に掛けて、部屋の入り口へと歩いていく。ノブに手を掛けてドアを開き、外へ出ようとしたその時。


――長く住んでいた土地から離れて……その女の子、やっぱり心細さを抱いてるんじゃないかな。


 少女の発言がふと脳裏を掠めた瞬間、一つのささやかな疑問がよぎった。


「そういえばさ、ネリエちゃん」


 足を止めて、私は彼女に呼びかける。


「ん、何?」


「ネリエちゃんは、どうしてここで働くようになったの?」


「……えっ?」


 それは何気ない好奇心からの問いだったのだが、どうしてだろう。ネリエちゃんは答えづらそうに口を噤んだ。


「確か、家族は遠い所に住んでるんだよね。やっぱり、可愛らしいメイド服に憧れたとか?」


「えっと……うん。そんな感じかな」


 ネリエちゃんは小さく笑いながら、


「ほら、急がないと。アデライザさんとかにバレちゃったら、また怒られちゃうよ」


 と、私を促す。


「あ……そうだね。それじゃ、行ってきますっ」


「行ってらっしゃい」


 ネリエちゃんに手をブンブンと振って、私は空き部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ