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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第三話「禁術使いを突き止めろ!」 1

 突然にやってきた兵士達。連れ去られたメルエッタちゃん。出来事の理由も知らされないまま、私達は暫くその場に突っ立っていた。


 やがて、何事かと目を光らせていた人混みが興味を失って散らばり、ざわめいていた一帯が静けさを取り戻し始めた頃。


「ダーリン、いつまで寝てるのよ!」


 私達の中でいち早く立ち直ったナインシィさんの叫び声が、再び人々の注目を果物屋の前に吸い寄せた。


「ほら、しっかり立って!」


「う……」


 地面に崩れ落ちたままのドーサックさんの手を取り、彼女は強引に彼を起き上がらせようとする。しかし、兵士の拳を諸に食らったのが相当に堪えたのか、彼は膝をついた体勢から立ち上がらない。


「早く立って!」


「そうは言ってもよ……ハニー、まだ痛みが残ってるんだ」


「情けないこと言わない!」


 苦しげな声で呻く夫を、妻は容赦なく一喝した。


「メルエッタちゃんがさらわれたのよ!? 暢気に休んでなんかいられないでしょう!」


 何時になく、彼女は激情のこもった口調で、なおもまくし立てながらドーサックさんを急かす。


「ぐっ……分かった、分かったから揺さぶるのは止めてくれよハニー」


「早くメルエッタちゃんを追いかけないと! グズグズしてたら、手遅れになっちゃうわよ!」


「ナインシィさん、追いかけるって……」


 私は会話に割り込んだ。


「二人で、城に行くんですか?」


「ええ、あの子を取り戻しに行く」


 ナインシィさんの語調には、只ならぬ決意が込められていた。


「メルエッタちゃんは悪い事をするような子じゃない。どんな理由で連行されたのか知らないけれど、きっと濡れ衣に決まっているわ」


「お前、本当に何も事情を知らないのか?」


 腹の辺りをさすりながら、ドーサックさんが私に訊ねてくる。


「分からないです……クラールさんにもちゃんと話は通してもらってますし」


 大体、事情も知らされず連行されていくのはおかしい。森での一件について話を聞きたいのなら、私達に対して理由を隠し立てする必要もないだろう。ある意味、メルエッタちゃんは王子の客人のような立場なのだから、その事実を認識していれば、幾ら兵士達でもあんな失礼な真似は出来ない筈だ。


「やっぱり、直接こちらから出向いて話を聞くべきね」


 自分の主張を自らで肯定するように、ナインシィさんは何度も頷く。


「こうしてダーリン、早く!」


「ま、待ってくれ。俺も付いていくのか?」


「当たり前じゃない。女一人で城に行っても、門前払いされるだけで、取り合ってはもらえないわよ」


「今の俺が一緒に行っても、そんな変わらないと思うんだが……」


「変わらなくないわよ。ダーリンがいたら、多少は強引な手段が取れるじゃない」


 まるで殴り込みを掛けるような物言いである。しかし、それだけ頭に血が上っているという事なのだろう。


「いや、しかしだな……正直、この体じゃ何の役にも」


「何を甘いこと言ってるのよ!」


 夫の煮えきらない態度に、妻がまたしても怒鳴る。しかし、通りの人達は夫婦の諍いを傍らから眺めているものの、積極的に彼らを諫めようとする雰囲気は感じられなかった。むしろ、またか、とでも言いたげな視線を二人に送っている。


――もしかして、この二人の喧嘩は日常茶飯事だったりするのかな……?


 私が内心で呟いている間にも、ナインシィさんの言葉は続く。


「メルエッタちゃんはもう私達の子供みたいなものなのよ!? 私達じゃなくて、いったい誰があの子を助けられるっていうの!?」


 そして、妻の訴えは、遂に夫の気持ちを動かしたらしい。


「……そうだな」


 ドーサックさんは地面に膝をついたまま、しかし重々しく頷き、


「あの子の助けになれるのは、俺達だけしかいないものな」


 と、遅延とした動作ながらも立ち上った。


「あの、私も行きますっ」


「ううん、ミズホちゃん。気持ちは有り難いけれど、私達だけで行くわ」


 勢い勇んで声を上げたものの、ナインシィさんは小さく首を振る。


「その代わり、一つお願いを聞いてほしいの」


「頼み……何でしょうか」


 熱い正義感が、心の中に広がっていく。メルエッタちゃんを助けるためなら、どんな事でもするつもりだった。


「時間が経てば手遅れになるかもしれないし、私達は今からすぐに出発しようと思うわ。店を畳む時間も惜しいの」


 彼女は未だ足下のふらついている夫の身体を支えながら言った。


「だから、私達が帰ってくるまで、店をお願い出来ないかしら」


「任せて下さいっ!」


 私は自らの胸をドンと叩き、彼女の頼みを了承した。

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