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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第一話「飛ばされて、異世界」 8

「ううっ……二人がかりでおもいっきり蹴りつけるなんて。見張りさん達ヒドいよっ」


 未だズキズキと痛む背中をさすりながら、私はまたもや大粒の涙を垂れ流しながら街の中を彷徨いていた。帰る場所も無ければ、行く当ても無い。さしずめ今の私は流浪の未成年、つまりは住所不定の無職者である。頼るべき国家機関にすら見放され、天涯孤独の身と成り果てた私は一体どうやって生計を立てていけば良いのか。朝刊配りでもするか、それとも牛乳配達か。究極の二択に悩んで悩んで悩んだ挙げ句、そもそもホニャララ新聞とかホニャララ乳業が果たしてこの世界に存在しているのかという疑問にたどり着いた。近くを通りがかった買い物帰りの筋肉ムキムキ女戦士さんに訊ねたところ、やっぱり存在しないらしかった。考えた分、時間の無駄だったらしい。


「それにしても、どうしたんだい? そんなに困った顔してさ」


 何だか気さくそうに訊ねてきてくれた女戦士さんに、職を探している旨を伝えると、彼女は有益な情報を私に話してくれた。酒場に行けば、若い女ならいくらでも就職先を見つけられるらしい。


「渡る世界も鬼ばかりじゃ無かったんだっ」


 私は意気揚々に鼻歌を目指しながら、親切な女戦士さんに指示された道をスキップで進んでいく。やがて、彼女から教えてもらった店を見つけ、私は喜々としてその中に入っていった。


「すみませんっ! お仕事下さ……」


 途端、店内の入り口付近で私は戦慄した。理由は簡単で、酒場にたむろっている様々な職業の男達が私に対して怖いくらいの視線を浴びせまくってきたからである。その異様な雰囲気に、私はすっかり呑まれてしまったのだ。


 そして、痛いくらいの沈黙が数十秒くらい続いた後。彼らは一斉に私の元へ我先にと群がってきた。


「ちょうど浮気相手が欲しいところだったんだ!」


「ちょうどメイド募集中なんだ!」


「俺のご主人様になってくれ!」


「結婚を前提に、是非とも俺のパーティーに入ってくれないか!?」


「ママと呼ばせてくだちゃい!」


「ふ、踏みつけ! 踏みつけはお願い出来るかな!? 罵ってくれるだけでも良いから!」


「い、い、いやあああああ!」


 踏みつけをお願いしにきた屈強そうなムキムキ格闘家に顔面蹴りを繰り出し、その反動を使って私は一気に酒場を飛び出た。とにかく走りまくった。あの場所から少しでも遠くに離れたかった。自然と両目から涙がこぼれ落ちていた。何だか、ここに来てから私ずっと泣いてばかりだな、そんな事をふと思うと、とても感傷的な気分になった。




――私が渡った異世界は、変態に溢れていました。




「もっと! もっと蹴りつけてくれ!」


「ひあっ!?」


 背筋がゾクッとするような大声に振り向くと、あのムキムキ格闘家が顔をぶくぶくと腫らしながら私を追走していた。


「なんで追いかけてきてるんですかっ!」


「君が好きだからさ!」


「怖いです! 近寄らないで下さい!」


「そういう罵声もイイよ」


「とにかく来ないでえええええ!」


 夕焼け空が次第に暗くなり、太陽が完全に世界から隠れきってしまうまで、私と彼の追いかけっこは続いた。






 気がつくと夜空にはまん丸いお月様が昇っていて、私は人気のない墓場に立ち尽くしていた。


「あれ? 私って今まで何してたんだろ?」


 酒場を飛び出し、変質者に付きまとわれて絶叫しながら疾走したのは覚えているのだが、それ以後の記憶が綺麗さっぱり頭から抜け落ちている。ふと靴の下に奇妙な感触を覚え視線を下に向けると、私はズタボロで時折ピクピクと痙攣している奇妙な物体を踏んづけている事に気がついた。


「何だろう、コレ」


 私は困惑して首を捻り、しばらく物体の正体について考えていたが、


「でも、まあいいや」


 何だかどうでもよくなったので、私はそのズタボロ物体を行き交う人々の邪魔にならないよう道の隅っこに引きずった後、恐らく街の方へと続いているであろう道を歩いていく事にした。


「ほ、放置もイイ……」


 後ろの方から何か聞こえた気もするが、墓場には人の姿が全く見えなかったので、多分空耳だろうと思う。




 数分ほど道を歩いていくと、私はようやく活気ある街道へと戻る事が出来た。安堵の気持ちが胸にじわじわと広がっていくが、同時に憂鬱感も増大していく。リラックスした事で、心が空腹を訴えてきたのである。グリュリュと盛大に鳴り始めたお腹を両手で押さえ、私は盛大な溜息と共に今日何度目かもしれない涙をボタボタ地面に垂らした。


「ううっ……お腹減ったよお……」


 無一文なので、当然ながら食べ物を買えない。しょうがないので、私は通りすがりの人々にお恵みを請う事にした。


「ぎぶみい、ちょこれえと」


「ぎぶみい、しゅうくりいむ」


「ぎぶみい、えくれあ」


「ぎぶみい、まくのうちべんとう」


「ぎぶみい、りとるらぶ」




 しかし誰一人として、私の言葉に応じて立ち止まってはくれなかった。あ、一人だけヤンチャそうな男の子が私に芋虫を投げつけてきたっけ。でも、流石にコレは芋は芋でも食べられないのではないかと思った。


「……うう、どうしてこの世界に慈悲ある人は皆無なんですかっ」


 近くの民家の庭に芋虫さんを放しながら、私は号泣した。芋虫さんはお礼を言うかのように体を一度強くくねらせた後、草むらの中へと消えていった。

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