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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第一話「森の小さな魔女」 10

「ひぎゃああああ!」


 絶叫し、慌てて下がろうとしたせいで姿勢が崩れ、柔らかい草の上に尻餅をついてしまう。そんな私を食らおうと、木の実の化け物はその口をあんぐりと開き、枝をしならせて私に襲いかかろうとした。しかし、その寸前で、


「はっ!」


 短くも力強い叫びと共に駆け出した青年の剣が、木の実の成っている枝を切り落とす。木の実はおぞましい中身をさらけ出したまま、私の足下にドサリと落ちた。


「ひゃっ」


 慌てて両足を引っ込めて、地に転がっている二つに割れた球体を凝視する。自分の心臓が強く脈打っていた。


「安心して、もう動かないよ」


 そんな私を落ち着かせたのは、クラールさんの穏やかな声だった。


「大丈夫? 怪我はないかい?」


「は、はい。平気です……」


 差し出された手を取り、私はよろよろと立ち上がる。まだ、さっきのショックで足に力が入らなかった。


「今のは普通の木じゃなくて、れっきとした魔物なんだよ。実のような部分が口になってて、外見に釣られた獣をパクリと食べてしまうんだ」


「ひ、ひえええ……」


 恐ろしさに震えながら、大木を見つめる。無数に伸ばされた枝々には、一本につき一個の実が必ず付いていた。あの一つ一つが、生き物を食らう為に発達した器官なのだと思うと、背筋がゾッとした。周囲に餌のない内は本性を現さず、微風を受けて静かに揺れているだけなのが、正体を知った後ではなおのこと不気味に思えた。


――もしクラールさんが気づいてくれなかったら……。


 私は今頃、グチャグチャになって化け物の体内に収まり、消化液に溶かされて吸収されるのを待つばかりになっていたことだろう。


「クラールさん、すみませんっ……さっき注意するよう言われたばかりなのに、早速迷惑をかけちゃって」


「いやいや、いいんだよ。君が無事で何よりさ。大体、女の子を危険な調査に誘ったのは僕の方だしね」


 肩を落として謝る私に対し、クラールさんは朗らかに笑って、


「……じゃ、とにかく先を急ごう。騒ぎを聞きつけて、魔物が集まってきたら危ないから」




「うーん、だいぶ奥まで来たけれど、何も見つからないなぁ」


「そうですね……もしかして、強力な魔物が出現したのって、ただの偶然だったのかも」


「いや、そう簡単には決めつけられないよ。変異種が短い期間に数十匹も現れるなんて、偶然にしてはあり得なさすぎる。勿論、絶対に起こりえないとはいえないけれど、それにしたって極々僅かな確率だろうから」


 そう言って、クラールさんは血に染まった刃の切っ先を眺める。つい先ほど、私達は野生の魔物に遭遇したばかりだったのだ。襲いかかってきたモンスターは今、青年の足下に腹部を斬り裂かれて横たわっている。


「そういえば、クラールさんの剣って少し変わってますよねっ」


 剣の点検をする彼の横顔を眺めながら、私は言った。


「何だか高価っぽい感じがしますし、包丁みたいに峰がありますし」


「ああ、これは特注なんだよ。名高い鍛冶職人に頼んで作らせたものなんだ」


 青年は愛用の武器を鞘に戻しながら言った。


「ほら……両方の側に刃が付いていると、相手を死なせないように倒すのが難しくなるじゃないか」


「えっ……じゃあ、クラールさんは相手のことも考えた武器を鍛冶職人さんに作らせたんですか?」


「それだけってわけじゃないけどね。理由の一つではあるよ」


 クラールさんは再び歩き始める。私も慌てて続き、彼と並んで歩調を合わせた。


「無闇に人を殺めたくないから。対話で解決出来れば、本当は一番良いんだろうけど。どうしても剣を交えなければならなくなった時、たとえ僕の命を狙う暗殺者が相手でも、なるべく命までは取らないようにしたいんだ」


「流石、クラールさんですねっ」


 青年の言葉に感激し、私は彼を見つめながら、


「何だか、王子みたいですごく格好いいと思います!」


「ははは。一応、王子なんだけど……」


「あっ、クラールさん」


 とあることに気が付いた私は、視界の一角に松明を突き出しながら言った。


「太陽の光があっちに見えますよっ」


「ん、この森に開けた場所があるなんて珍しいね」


 私の示す先に視線を向けたクラールさんは、驚いたように目を瞬かせた。


「行ってみようか、ミズホちゃん」


 木々の間から洩れてくる明かりを目印にして、私達は進んでいく。鬱蒼とした林から若緑色の草むらの中へ一歩を踏み出したとき、頭上から差し込んできた陽光を直に浴びて、私は強烈な眩しさにたまらず両目を瞑った。両手でひさしを作り、太陽が視界に入らないようにする。


 やがて、周囲の明るさに目が慣れ、顔を庇っていた覆いを外すと、若草色をした空間の中央に、森の奥地にあるには不自然な異物が存在していることに気が付く。


「これは……」


 横で、クラールさんが戸惑ったように呟く。


「小屋だね」


「……どこからどう見ても、小屋ですね」


 健康的な若草の生い茂る一帯の中心に、その建物は存在していた。屋根も壁も数多くの丸太で構成されていて、見た目はよくある山小屋のようだ。ただ、形状が正方形ではなく長方形なのが特徴的で、後方の部分は暫く経ってから増設されたような印象を受ける。

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