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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第一話「森の小さな魔女」 4

 ドーサックさんの忠告をしっかりと守り、私は夜でもそれなりに人通りのある道を選んで帰った。途中、ぐでんぐでんに酔っぱらった戦士や、フードで顔をすっぽりと覆った見るからに怪しげな魔法使いなどに遭遇したりもしたが、周囲に兵士や街の人々もそれなりにいたせいか、襲われることはなかった。


 そんなこんなで何事も起こらないまま、私は城まで無事にたどり着いたのだった。


「あ、門番一号さんに二号さん」


 毎日のように城門を警備している銀の甲冑を身に纏った二人組に、私は片手を上げながら近付いていった。ちなみに、城を背にして門の左側に立っているのが門番一号、右側に立っているのが門番二号である。


「今日も夜遅くまで、お勤め御苦労様ですっ」


「誰が門番一号だ!」


「その変なあだ名で呼ぶな!」


 何が気に障ったのか、二人は顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。


「別に細かい事はいいじゃないですかっ。ニックネームで呼び合うのは親しき者同士という証ですしっ」


「俺達は別にお前と親しくないぞ」


「大体、俺達の方はあだ名で呼んでないし」


「そんな!」


 彼らの言葉に多大なショックを受け、私は仰け反りながら叫んだ。


「幾度となく私に無実の罪を着せて牢屋へとぶちこもうとした仲じゃないですか!」


「それ、別に親しい仲じゃねえだろ!」


「大体、全部お前が発端だったろうが!」


「違います! 私は決してやましい事はなにも」


「あー、もう黙れ!」


「とっとと中に入れ!」


「ぐすっ、ひどい……」


 涙目になりながら、ガックリとうなだれてトボトボと城の中へ入る。彼らはいつもこうなのである。何かと私を目の敵にして、ありもしない因縁をふっかけてくるのである。ううう、私の何がそんなに気に入らないんだろう。


「でも、挫けない……絶対に、門番一号さんとも門番二号さんとも、絶対に仲良くなってみせるんだからっ」


 自分の部屋までの通路を進みながら決意を新たにしていると、


「おっ。こんばんは、ミズホちゃん」


「ふえ?」


 不意に声を掛けられて顔を上げると、コックの着るような白い服を纏った小太りの男が、温厚な微笑を浮かべて向かいからやってきていた。


「あっ、ジョニールさん。こんばんはっ」


 相手が誰かに気づいた私は、挨拶をしながら勢いよく頭を下げる。ジョニールさんは城の料理長だ。前に私の出場したデザートコンテストの審査員を務めていた人でもある。


 料理長は城の食事全般に関する最高責任者なので、ジョニールさんは名目上、私の上司という事になる。ただ、私は菓子職人といっても王様に食後のデザートを献上する係というだけで、城の料理全般に関わっているわけでもない。その為、ジョニールさんから細やかな指示を下されることも殆どないので、彼の温厚な人柄も相まって、普段はあまり意識していなかったりする。


――仕事に関していえば、ジョニールさんより滅茶苦茶怖い人がいるしね……。


「ミズホちゃんは確か……今日は休みだったね。今、帰りなのかい」


「はい、そうですよっ」


「そっか……ちょうど良かった。ちょっと、頼まれてくれないか?」


「へ? 何をですかっ?」


「実はとある用事でメイドを大勢出払っていて、厨房の食器洗いの方がまだ終わっていないんだよ」


 と、ジョニールさんは困ったように頭を掻いた。


「今はネリエちゃんが一人でやってくれているんだけど」


「ネリエちゃんがですか?」


「うん。だからミズホちゃん、手伝いに行ってあげてくれないかい?」


「モチのロンですよっ!」


 彼の頼みを快諾し、私は元気に頷いた。


「任せて下さいっ!」


 私の返答を聞いたジョニールさんは、ホッとしたような笑みを浮かべた。


「ありがとう、本当に助かるよ」




「じゃ、超特急で厨房に向かいまああああす!」


「ちょ、ちょっと! 城の中で走ったら駄目だって!」




「あっ、ミズホちゃん」


 私が厨房に入っていくと、流し台で皿洗いに勤しんでいたメイドの少女が顔を上げた。肩に微かにかかっている黒髪が、彼女の動作に釣られてサラサラと揺れる。


「ネリエちゃん、こんばんは」


「こんばんは、ミズホちゃん」


 自分の名前を呼びながら近づいてくる私に、少女――ネリエちゃんは上品な微笑みを浮かべて挨拶を返してきた。性格の良さを表すような、優しげで可愛らしい顔立ちに浮かんだ笑顔に、私は自分の心がすうっと和んでいくのを感じる。


「こんな遅くにどうしたの? 厨房に何か用事?」


「ネリエちゃんを手伝いにきたんだよっ」


「え、そんな……悪いよ。ミズホちゃんは今日、休みなんでしょ?」


「気にしないでいいよっ。それに、二人でやればすぐ済むし」


 私はネリエちゃんの隣に並び、彼女の作業に加わった。皿を洗剤をつけたスポンジでゴシゴシと洗いながら、私はネリエちゃんに話しかける。


「ねえねえ、ネリエちゃんはメイドさんの仕事にもう慣れた?」


「うん、ちょっとだけなら……でも、覚えなきゃいけないことがまだ山ほどあるし、同じ作業でも他の人よりだいぶ時間が掛かっちゃうから……」


「そんな深刻にならなくても、きっと大丈夫だよっ。ネリエちゃんは、私なんかよりずっとしっかりしてるし」


 表情を少しだけ暗くさせながら言う彼女に、私は励ましの言葉を掛けた。

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