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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第四話「珍しき果実を求めて」 10

 しばらく、私はじっと戦いの成り行きを見守っていた。しかし、どうやら状況は芳しくないらしかった。


――わわわっ、体の大きさが違いすぎるよっ。


 流石に自身の身長と同程度の棍棒を受け止める事は出来ないと自覚しているのか、クラールさんは相手の攻撃を避けるばかりでなかなか攻撃に転じる事が出来ない様子だった。しかし、無理もないだろう。大木のような森トロールからすれば、細身の青年は小枝のようなものの筈だ。もし、そのガッシリとした手に一度捕まってしまえば、そのままポッキリと折られてしまうか、もの凄い握力で握りつぶされてしまうに違いない。その光景を想像してしまい、私は首をブンブンと振って嫌なイメージを脳内からしっしと追い出す。


――でも、クラールさんは負けないよっ。絶対に敵をやっつけてくれる筈っ。


 その時だった。攻撃の隙をついて、クラールさんは敵の懐に飛び込んだ。そしてそのまま、素早い一薙。閃光の如き斬撃は見事に巨体の腹を裂いた。瞬間、怒りと痛みの入り交じった唸り声が森中に響きわたる。


――やったっ!


 私は心の中でガッツポーズをした。あれだけ勢いのある渾身の一撃を食らえば、いくら図体のデカい魔物でもひとたまりもないだろうと考えたからだ。


 けれど。次の瞬間、私は我が目を疑った。


――あれっ、効いてない。


 巨体は少し仰け反ったばかりで、その足場はちっとも揺らがない。斬り裂かれた腹部から少なくない量の血が流れているものの、森トロールは大して痛がる素振りも見せなかった。むしろ、憤怒の形相を自らに傷をつけた人間へと向けている。そういえば、と私は以前に読んだファンタジー小説の知識を思い出した。その作品中だと、トロールは自然治癒力に優れ、人間なら致命傷となりうる怪我を負ったとしてもすぐに治してしまうモンスターだった。目の前にいる魔物が物語の中と全く同じ生物なのかは分からないが、同じような特徴を持っているのは間違いないだろう。何せ、女神様から授けられた仕組みの分からない翻訳能力を通して、私の耳には『トロール』という名前で聞こえているのだから。


 とにかく、クラールさんにとって圧倒的に不味い状況なのは明白だった。いくら彼が剣技に優れた男だとしても、人間の身では遠からず疲弊しきってしまう。一方で、敵の方は持久戦を得意中の得意とする生き物だ。時間が経てば経つ程、自ずと彼の方が不利になっていってしまう。


――せめて、私も戦えればいいのに……。


 胸の中にどうしようもない無力感が押し寄せてきて、自然に握られていた私の両手に力がこもる。しかし、どんなに頑張ったとしても、今の私では必死に戦っている彼の足手まといになってしまうだけだろう。


――これが物語の中だったらなぁ。


 か弱い自分を情けなく感じながら、私は心の中で溜息をついた。以前、数千万という敵の大群を相手に、前線で死闘を繰り広げる英雄を、遙か遠い彼方から癒しの力で援護する囚われのお姫様のお話を読んだ事がある。屈強な戦士と知恵のある魔術師という組み合わせは、古今東西の様々なファンタジーで使われているポピュラーな様式だ。けれども生憎、どこにでもいそうな普通の女の子である私は魔法なんて使えな……。




――使える?




「あああああああーっ!」


 とんでもない事を閃いた私は思わず立ち上がりながら絶叫していた。足下にいたミューちゃんがビクッと体を奮わせてこちらを見上げてくる。どうして私は、こんな簡単な方法を思いつかなかったのだろう。


 一方、死闘を繰り広げていた両者もまた、私の大声に気づいた様子だった。


「ミズホちゃん!? 何やってるんだ!」


 血相を変えたクラールさんは私に振り向き、彼に似合わないような焦りを滲ませた口調で怒鳴るように叫んでくる。だが、森トロールの行動はその鈍重そうな体格とは裏腹に素早かった。


「早く隠れ……クッ!」


 彼の言葉は自身に向け振り下ろされた棍棒によって遮られる。クラールさんがとっさに身を翻して攻撃を回避した隙をついて、敵は棍棒を握りしめていない方の拳を勢いよく振り上げた。多分、ろくな武器も持っていない丸腰の私を見て、素手でも簡単に捻り潰せそうだと直感したのだろう。


「逃げろ! そのままじゃ殺されるぞ!」


 クラールさんのいつになく狼狽えた大声が耳に届いてくる。足元からミューちゃんが小走りで走り去っていくのも分かった。けれど、私は彼の指示には従わず、その場に踏みとどまって近づいてくる巨人を真正面から見据える。今の私には秘策があった。たとえ強靱な肉体を持った魔物であっても、瞬時に無力化出来てしまうような、強力な秘策が。


 やがて、充分に私との距離を詰めたトロールは耳をつんざくような雄叫びと共に、振り上げた腕に一層の力を込める。


 今まさにその拳が叩き落とされようとしたまさにその瞬間、私は敵を指さしながら両目を閉じ、頭の中に緑色をした巨人の姿を思い描きながら、強く念じたのだった。




 あの、合い言葉と共に。




――アイスに、なあれっ!

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