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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第一話「飛ばされて、異世界」 4

――ゴブ?


 その奇妙でヘンテコな鳴き声を聞いて、思わず私は頭の上にハテナマークを浮かべてしまう。何だろう、その典型的ゴブリンが発するみたいな言葉。そんな疑問を抱きつつ、私は声の方向を振り向く。想像に違わず、そこには二本足で立っていて、なおかつ背丈が低い小人のようなモンスターがいた。手には小さな棍棒が握られていて、体色は茶だ。


「あ、やっぱりゴブリンだぁ」


「その通りゴブよ」


「あははは」


「ゴブゴブ」




「……って、ええええええ!?」


 かなりズレたタイミングで、私は地面から五センチ程度飛び上がった。それだけ、私がこの状況を理解するのに時間がかかったのである。私が夏休みの貴重な時間を使って読みあさったファンタジー系小説達の知識に依れば、ゴブリンは下級の魔物で人を襲うものの、人間の勇者やら戦士には呆気なく蹴散らされるような存在だ。


「でも私、勇者みたいな大層な者じゃないよっ!」


 何となくロールプレイングゲームっぽい分析をすれば、目の前の相手はレベル五の勇者なら楽に倒せるような相手だろうと思った。しかし、たった今この世界にやってきた私は紛うことなきレベル一で、しかも職業は普通の中学生である。剣なんて持ってないし、皮の鎧もないし、皮の盾もない。初期装備はブラウスとスカートだ。多分、防御力は一すらアップしていない。今の私じゃ勝てっこないよ。ゲームオーバーどころか、人生終了だ。我が身の不憫さが辛くて辛くて、目頭が熱くなる。


――しかも、トロいしね。


 女神様の声が聞こえてきたような気がしたが、無視した。幻聴だと思っていないとやってられない。あ、涙出てきちゃった。でも私、女の子なんだもん。


「そこのナイスガールゴブ」


 私の内心の動揺を知ってか知らずか、ゴブリンは気さくに話しかけてきた。ていうか、ゴブリンって人と同じ言葉喋るんだ。混乱が重なって目が回っていくも、私は必死の思いで応答した。


「ち、違うよっ。私ナイスガールじゃないよっ。人違いだよっ」


「そんな事ないゴブ。とても可愛いゴブよ」


「うう、何か微妙な気分だけどありがとっ」


「その服装、キュートだゴブね。似合ってるゴブ」


「キュン、そんな事言われたの初めて」


「何か、悲しい事でもあったんゴブか?」


「うわあん、女神様が私の事、トロいトロいってすっごく苛めてきて」


「そうなんゴブか。酷い女神もいたものゴブね」


「まったくだよっ」


「でも、大丈夫ゴブよ。たとえトロくても、それも立派な個性ゴブ。きっと生かせる日が来るゴブ」


「うん、トロさを生かせるように、私頑張るよ」


 ほのぼのした会話を繰り広げているような気がするのは何でだろう。きっと文字通り気のせいだ。


「ところで、結婚しないゴブか?」


「うん……にゃっ!」


 危うく流されかけた思考を慌てて引き戻す事が出来たのは、急に背筋に冷水が浴びせられたような感覚が襲ってきてくれたおかげだった。


「だ、駄目だよっ。種族が違うよ!」


「何言ってるゴブか。愛に性別年齢種族職業学歴は全て関係ないゴブ」


「そ、それはそうかもしれないけどっ」


「じゃあ、何故躊躇うゴブか」


「そんな、いきなり結婚なんて無理だよ!」


 何だか怖くなって、私は即座に立ち上がると、


「ごめんなさいっ! さよならー!」


 と、彼に叫びながら猛ダッシュを開始した。五十メートル走のタイムは毎年最下位の座をキープし続けている私だけど、今ばかりは凄まじい速度を出せている気がする。気がするだけだけど。


「待つゴブー!」


「ひあっ!」


 後ろを振り返ると、先ほどのゴブリンが全力疾走で私を追いかけてきているのが目に入ってきた。私は彼を引き離そうと必死で足を動かす。


「これは純情な一目惚れなんだゴブー!」


「いきなり言われても困るよー!」


「じゃあまずは友達からゴブー!」


「無理だよ! だってなんか怖いもんっ!」


「人を見かけで判断するんゴブかー!」


「人じゃないもん!」


 よく分からない言い合いを続けつつ、私達は果ての見えないかに思われた追いかけっこを続ける。しかし、その終演は以外とアッサリしたものだった。


――あ、町だ!


 心の中で、私は歓喜の声を上げた。目の前に広がる草原の向こう側に、城を中心とした町が見え始めたのだ。あそこまで逃げ込めば、このゴブリンも入ってこれないだろう。後もう少しの辛抱と自らを奮い立たせ、私は挫けそうになる精神を必死の思いで繋ぎ止める。


「止まってくれゴブー!」


 しかし、彼の辞書に『諦める』という文字は無かったらしい。どこまでも執拗に私を追いかけてくる。


「止まれないのっ! 乙女の純情は誰にも止められやしないのっ!」


 もう頭の中が酸欠状態で、自らが何を喋っているかも分からないまま私は前へと進み続ける。


 そして。ついに私は町の中へと通ずる門をくぐり抜ける事に成功した。見張りと思われる甲冑の戦士二人が私を引いた視線で見つめていたけど、後ろからゴブリンの足音が聞こえなくなった喜びに比べれば些細なことだ。


――勝った。勝ったんだよ、お父さん、お母さん。だからプリン買ってきて。ヨーグルトも。ミカンゼリー付きで。




 次の瞬間、私は石造りの壁に盛大に激突し、顔面を襲う激痛と共に気を失った。

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