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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第三話「コンテスト開幕!」 5

 いつもなら行き交う人々で賑わっている筈の、昼間の店前通り。しかし、この日に限っては普段と違って薄暗く閑散としていた。


「うーん、今日は何だかまったりしますねっ」


 椅子の背もたれに体重を委ねるという極上の心地よさを味わいながら、私は夢見心地で呟いた。細めた視線に入り込む空はいつもと違ってほの暗い灰色に染まっている。少しだけ目を開くと、今にも雨をもたらしそうな雲が視界一杯に広がっていただけだと分かった。現在の天気は、どことなく哀愁を秘めたような曇り空。


「まったりなんて、冗談じゃないぞ」


 私の側に立っているドーサックさんが、売り物の配置を弄くりながら深い溜息をつく。


「これじゃ、今日は商売上がったりだ」


「でも、何でこんなに人がいないんですか?」


 私は背もたれから上半身を起こし、眠気に苛まれる眼を擦りながら周囲を見渡す。やはり買い物籠を手に提げている主婦達の数は疎らだ。客の掻き入れ時だというのに昼間から営業していない店もいくつかある。どう考えてもおかしかった。


 そんな私の疑問を、おじさんはあっさりと解決する。


「王都のどこかに、有名な曲芸師達の一座が来てるんだとよ」


「それを沢山の人達が見に行ってるんですか」


「そういう事になるな」


「良いなぁ、私も見に行きたいなぁ」


 期待のこもった眼差しを私はドーサックさんに送ってみる。しかし、全く効果無し。


「寝ぼけた事を言うな。仕事だ仕事」


「……はぁい」


 私は一つ盛大な背伸びをした後、ゆっくりと椅子から立ち上がった。






 結局、客の入りは一日中サッパリだった。今日は大して売り上げが伸びないと感じたらしいドーサックさんは早めの店仕舞いを告げ、その所為で私達は通常より少し早い時間帯に夕食を取る事となった。となると、おじさんが風呂に入るのも早くなるわけで。それはつまり、私がいつもよりもゆっくり入浴出来るという事だった。


「うーん、今日はゆったり入れるなぁ」


 嬉しさから独り言を呟きながら、私は湯船に体を沈ませる。途端、丁度良い温度の湯が私の身体を包み込んだ。通例としてこの家では私より先にドーサックさんが風呂に入るのだが、彼が結構な長風呂派なのである。早く就寝しないと次の日の朝がしんどくなってしまう事もあり、私はいつもそこそこに入浴を切り上げてしまっていたのだった。


「ふわぁ、ごくらくぅ……」


 体中に染み渡る心地よい感覚に、私は自然と息を吐いていた。一日の疲れが、瞬く間に消え去ってしまうかのようである。やっぱり、風呂は最高だと改めて感じた。当然、気持ちも段々とリラックスしていくのだが。


「……あ」


 一つの現実を私は思いだした。


――そういえば、コンテストの日までもう少しだなぁ。


 まだドーサックさんには話をしていない。いつかは言わなければならないと考えてはいたのだが、何となく話題を切り出し辛くつい先へ先へと延ばしてしまっていた。


 けれど、いよいよ時間は残り僅かだ。


――もう、しっかり話さなくちゃ。


 固く心に決意して、私は顔半分を湯船の中に埋めた。泡がぶくぶくと、私の目の前で弾けては消えていく。




「お風呂、上がりましたー」


「おう」


 居間に座っているドーサックさんに、寝間着に着替えた私は習慣となっている報告をする。おじさんは手に広げている新聞から視線を逸らさずに空返事をした。普段であれば私はそのまま自室に直行するのだが、今日に限ってはそういう訳にもいかない。意を決して、私は部屋の中へ踏み入り、テーブルを挟んだドーサックさんの真向かいに腰を下ろす。


「ん?」


 どうやら、おじさんもいつもと違う雰囲気を感じ取ったらしい。彼は新聞を畳んで卓上に置くと、神妙な面持ちで私を見つめ、おもむろに口を開いた。


「どうした?」


「……あの」


 私は一旦言葉を切り、深い深呼吸をした後、話を切り出した。もうすぐコンテストが開催される日がやってくる事。もしコンテストに優勝して王様に気に入られれば、城での生活が始まるという事。そうなると、もうここへは戻れなくなるという事。おじさんは口を挟む事なく、途中で何度もしどろもどろになってしまった私の説明に黙って耳を傾けていた。


「……そうか」


 全ての話を聞き終えた後、長い沈黙を保っていたドーサックさんはそう口を開いた。静かな口調だった。


「そういえば元々、お前はそのコンテストとやらに参加する為に俺んとこまで押し掛けてきたんだったな」


「いいえ、店番がどうしても必要だとの情報を受けたのでやってきました……ごめんなさい、冗談です」


 おじさんの目が次第につり上がっていったので、私はすかさず頭を下げた。彼は再び先ほどの様子を取り戻し、両目を瞑って言葉を続ける。


「まあ、最初は正直、とんだ厄介者を世話する羽目になったと思っていたが……お前はよく働いてくれたよ」


「え、えへへへへ。そんなに誉められると照れちゃいますよ……」


 どんなに笑っても、重い雰囲気は誤魔化せなかった。しばらく心が痛いくらいの沈黙が私とおじさんの周囲を包み込む。


 やがて、ドーサックさんがポツリと言った。




「……少し、昔話をさせてくれないか」

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