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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第二話「走って、走って、自分の道」 8

「みなさ~ん、美味しい果物はいかがですか~!」


 正午前の暖かな日差しの中、私は首からフルーツの沢山乗った紐付き番重を下げて町の広場を歩き回っていた。ドーサックさんが用事もなく店番をこなせる休日という事もあって、今日の仕事は街頭での品物販売なのである。狙い目は勿論、憩いの場所で穏やかな時間を楽しんでいる親子連れや恋人達だ。傍目から見ればのどかな世界でも、商人の視点ではこれ以上ないくらいの稼ぎ時である。あっちにもこっちにも、商売敵がうようよしていた。ついでにペットのスカンクを連れた飼い主達もぞろぞろいた。


 焼きたてのパンを売っているポニーテール娘に、お酒を売っているショートカット娘に、プリンやヨーグルト等を売っているロングヘアー娘、売り子はほとんど娘だらけだ。かく言う私も娘である。中には既に友達となった子もいるが、プライベートと仕事は別腹だ。ライバル達だけではなく、屋台を構えている男達にも負けてはいられない。


 その為には、元気の良い客の呼び込みが必要不可欠だ。


「美味しい果物ありますよおおおおおお!」


 私は笑顔で叫びながら、広場を縦横無尽に疾走しまくった。




 あれから一時間くらい経った頃。私はたまたま目に留まった木製の青いベンチに腰掛けていた。


「うーん、疲れたなぁ」


 額に浮かんだ汗をハンカチで拭った後、私は番重の中身を確認した。先ほどまでの営業で、残りのフルーツは三分の一といったくらいだ。まずまずの売り上げだろう。もう少し広場を巡回したら、一度店に戻って、品物を補充しよう。お腹も少し空いてきた事だし。


「よいしょっと……ふぅ」


 私は番重を自分の隣に置いて、ベンチに体を預け一息つく。自然と目線が上に向いて、私の視界は昼下がりの青空で一杯となった。太陽のもたらす暖かな日差し、空をフワフワ漂っている白い雲、歌うようにさえずり合いながら飛び回っている二羽の小鳥。穏やかな風景を何となくぼうっと眺めていると、私の瞼は次第に重くなっていった。


――ダメ、品物を早く売ってしまわないと……。


 パンや酒、それに加工品のデザートと違って、フルーツは生物だ。程度の違いこそあれ、日中に曝していたらいつかは腐ってしまう。


――あ。


 しかし、眠気に苛まれた思考の中、私はある一つの事実を思い出した。


――私の使っているのって魔法のかかった番重なんだっけ。


 そう。私の隣に放置してある番重は私達の世界のそれと外見上ほとんど同一の物だが、れっきとした魔術用品である。何と、中に入れた物の鮮度を保つという素晴らしい魔法がかかっているのだ。ただ、長年の間ずっと使っていると魔法の効力が薄れていって、最終的には普通の道具に戻ってしまうらしい。


――じゃあ、五分くらい眠ってもいいよね。


 それくらい休んでも、神様から罰は当たらないだろう。ちょこっとだけ休むつもりで、唯一の不安材料を解消した私はすんなりと両目を瞑り。


「ちょっといいかい?」


 耳に入ってきた問いかけに、すぐさま脳を覚まさせられた。ハッとしてベンチから飛び起きて、声のした方を向く。そこには一人の青年が立っていた。年は十代後半から二十代前半くらいだろうか。小綺麗な衣装に身を包んでいて、一般人ではない事は目に見えて明らかだ。腰に剣を納めた鞘をつけている事から考えると、貴族か旅の剣士だろうか。背丈は同年代の標準より少し高く、体格は少し細めといった感じだ。


――それにしても、格好いい人だなぁ。


 私は青年の顔を惚れ惚れとして見つめてしまった。顔立ちは優しげで凛々しく、いざという時に凄く頼りになりそうな印象を受ける。眉はキリリとしていて、蒼く輝く両目は澄み渡っていた。髪は輝かんばかりの金髪で、肌は色白。ほっそりした腕だが筋肉は引き締まっていて、体はしっかりと鍛えているらしい。


「あの、君?」


「は、はい」


 もう一度呼びかけられ、我に返った私は慌てて立ち上がり、口を開いた。


「何の御用でしょうか……ひあっ!?」


 たちまち、私は赤面した。何しろ、目の前の青年がいきなり私の顔を覗き込んできたからだ。眼前にある端正な表情から、清涼感溢れる甘い匂いが漂う。香水だろうか。とにかく、格好いい青年に近寄られ、私の頭は超絶パニック状態に陥ってしまったのだった。首が熱い、顔も熱い、頭の天辺も熱い。きっと私の頭上にはモヤモヤとした湯気が立ちこめている事だろう。


「え、あ、う」


「やっぱり、思った通りだ」


「ふ、にゃ……へっ?」


 声にならない声を出している私から下がり、青年は明るい口調で独り言のように呟いた。意味が分からず目を瞬かせる私に対し、彼は自らを指し示しながら、


「ほら、僕の声。どこかで聞き覚えがないかい?」


 と、歌うような口調で訊ねてくる。私は質問に首を傾げ、しばらく考え込んだ。


――言われてみれば、確かに聞き覚えがあるような気がする。でもどこで……あっ!


「どうやら、気がついたみたいだね」


 私が表情を変化させた事で察しがついたのか、彼は嬉しそうに口を開いた。


「ここにこうしているって事は、牢屋送りにはならないで済んだんだね。本当に良かった」




 そう。目の前にいる青年は、前に城で私を釈放するように兵士へ告げた男だったのだ。

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