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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第二話「走って、走って、自分の道」 5

 城を後にした私は仕事を探して三千歩くらい町中を歩き回っていた。時刻は恐らくおやつの三時くらいだろう。買い物カゴを手にぶら下げた主婦の姿が一番多くなる時間帯だ。


「これ、目玉が濁ってるじゃない。半額にしなさいよ。いや、むしろ七割引ね」


「いや、そんな無茶言うなよ」


――こういう風景は、私の世界とあんまり変わんないなぁ。


 小太りの厳つい顔をした中年女性が凄い剣幕で魚屋の細い主人に値引きの圧力を掛けているのを横目で眺めながら側を歩く。右を向いても左を向いても店だらけの通りだ。パン屋、雑貨屋、洗濯屋、洋服屋、その他諸々。


「……って、あれ?」


 ある事に気がつき、私はふと立ち止まる。何となく、ここ周辺の店のラインナップがかなり庶民的な感じがした。戦士御用達といった感じの重厚な武具を並べてある店も無し、怪しげな魔道グッズを売ってそうな暗い雰囲気のテントも無し、死んだ人間を有料で生き返らせますという明らかにカルトっぽい教会も無し。この界隈には健全で素朴な店ばかりだ。この場所はひょっとすると、この都に住んでいる人達がよく訪れるような通りなのかもしれない。


――となれば、アタシにも就職のチャンスがあるかも!


 今までは変に畏まった態度を強制されるような店ばかりで一般人の私には荷が重かったが、地域密着型の店舗なら話は別だ。過去に中学で実施されたたこ焼き屋の職場体験で、商店街での接客経験はある。しかもその時は親の知り合いや友人達がよく訪れてくれた為に、店の売り上げが一パーセントほど上昇したのだ。実績はある。


「どこか雇ってくれないかなぁ」


 周りをキョロキョロと見回して、人手不足で困っていそうな所を探す。しかし全く見当たらない。あんまりに成果が出ないので溜息をついた、まさにその時である。


「ほら、代金は五百七十リズだ」


「ほいよ。しっかし、ドーサックさんよ。一人で配達までこなすのは大変じゃないか?」


「おいおい、俺はまだまだ老いぼれってわけじゃないぜ」


「ハハハ、そりゃそうだよな。けど、店番くらいは雇ったらどうだい?」


「まあ考えてはいるが……何分、人が見つかんなくてなぁ」


「そっか……実は俺、ちょっとドーサックさんの事が心配でさ。まだ落ち込んでいるんじゃないかって」


「ふん、お前みたいな若造に心配される程、落ちぶれちゃおらん」


 私の高性能な耳がかなり有益な情報を感知した。推定百メートル程先での会話だ。


「きたきたきたああああああ!」


 嬉しさのあまり絶叫しながら、私は一秒も掛からずに目標の前まで爆走する。急停止した途端、店に並べられた色とりどりの果物と、口や顎の下に真っ黒な髭を生やした厳ついおじさんと普通の青年が唖然とした表情でこちらを凝視している姿が目に映る。どうやらここは果物屋さんらしい。そして店の主人は恐らくおじさんの方だ。


「お、おい」


 我に返った様子の店主が若干引き気味の眼差しで私を身ながら口を開いた。


「お前、一体何なんだ」


「えへへ、大した者ではありません」


 私は不敵な笑みを浮かべ、両手を腰に当てた。


「通りすがりの無職です」


「胸張って言うな」


「ふにゃっ」


 頭を軽く拳骨で殴られ、私は両手で痛む部分を押さえた。


「大体……」


 彼は眉をひそめて、私の身体を頭の天辺から靴の爪先まで眺め回した。


「まだ子供じゃねえか」


「そ、そんな……」


 私は恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じながら、か細い声でおじさんに懇願した。


「そんなに舐め回すように見ないで下さい……」


「なっ!」


 彼は顔を真っ赤にして、


「誰がお前みたいな小娘をそんな目で見るか!」


 と、勢いよく私を怒鳴りつけてくる。隣の八百屋の主人と買い物客のお婆さんが何事かといった様子でこっちを向いた。青年は店主から果物の入った袋を受け取った状態で未だ硬直状態である。


「果物屋さん、どうか落ち着いて下さいっ」


「落ち着いてられるか! 冷やかしなら帰れ!」


「いいえっ、それは誤解です。私は冷やかしにきたんじゃなくて、ここで働きたいと思ってるんです」


「はぁ?」


 おじさんは訝しげに私を睨みつけ、


「悪いが、お前みたいなガキに手伝ってもらわなくちゃならない程、俺は困ってないんだ」


「さっき聞きましたよ。店番とかを任せる人、なかなか見つからないそうじゃないですか」


 果物屋の主人は図星を突かれたような顔つきになり、


「ど、どうしてそれを」


「ふふふ、さっき会話を盗み聞きしました」


 ここがターニングポイントと直感した私は、一気に彼の心を押そうと真剣な口調で訴えた。


「確かに、私は果物屋としては素人です。でも、熱意だけは人一倍あります。果物だって大好きです。すぐに上手くこなせるようになれるかは自信がないですけど、店番だって荷物運びだって昼食の準備だって店前の箒掃きだって、どんな仕事も精一杯頑張ります。絶対に手を抜いたりはしません。だからお願いです。この店で働かせて下さい!」




 おじさんの瞳が、少しだけ動揺しているように揺らめいた。

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