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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第二話「走って、走って、自分の道」 3

「まあまあ、二人とも」


 謎の青年が諫めるように兵士達へ声を掛けた。


「そんなにカリカリしなくても良いじゃないか」


「し、しかし……」


「この者は身分を偽って城内へ……」


「もしかすると、少し冗談を言ったつもりだったんじゃないかな?」


 全くその通りですっ。


「んんんん、んんんんんんんっ」


「ほら、本人もこう言ってるし」


「い、いや。自分には何を喚いているのかよく理解出来ないのですが」


「『ん』しか言ってないじゃないですか」


「とにかく、だ」


 ほんの少しだけ、青年は語尾を強めた。威圧的な物言いではなく、兵士達をやんわりと諭すような語調だ。


「年頃の女性に、このような乱暴な振る舞いはよそうじゃないか」


「で、ですが」


「この者が何故、城内に入り込もうとしたのかも不明ですし」


「うーん、デザートコンテストに参加申請を出しにきた、という理由が妥当に思えるけど」


「んんっ」


 私は精一杯首を縦に振りまくった。


「ほら、彼女も同意の言葉を発してるよ」


 青年と思しきは人物はフフッと笑い声を漏らしたようだった。


「僕の推測は正しかったみたいだね」


「だからなんで理解出来るんですか」


「というか、動作から判断するのが自然のような気が」


「じゃあ、その子はすぐに解放するんだ。いいね? 僕は今から用事に出掛けてくるから」


 カツカツカツ。足音がだんだん遠ざかっていく。しばらくして門番二人が同時に溜息をつき、ピカピカに磨きあげられているっぽい感触のする床に私を下ろした。するすると体を縛っていた縄が解けていき、私は晴れて自由の身となった。視界も真っ暗じゃなくなったので、ようやく私は自分が今どこにいるかを理解する事が出来た。どうやらここは、城の玄関ホールらしい。天井に吊り下げられた豪華なシャンデリアやら、見るからに高そうな画家が描いたような絵やら、高級そうな戦士の像やら、何だか凄い所っぽい装飾があちこちに施されている。兵士達はどちらも渋い顔つきをしていたが、


「あの方に免じて、今回の事は大目にみておいてやろう」


「だが、くれぐれもここで騒動を起こさないようにな」


 私に念を押した後、二人は門の外へと歩いていった。どうやら、いつもの任務に戻るらしい。一方、私は胸の内に染み渡る歓喜に両手を握りしめた。


――私を助けてくれた城の人、どうもありがとうっ。


 心の中で顔も分からない青年にお礼を言い、私は広いホールを歩いていく。


「えっと、どこに行けばコンテストに参加出来るんだろう……あ、あそこかな」


 『第二十五回デザートコンテスト参加申請所』と書かれた紙が張り付けてある木製長机を見つけ、私はそこに向かう。机には鉛筆と消しゴム、それに重ねられた用紙等があった。


「なんか現代的だなぁ。思ってたのと違う」


「そりゃ当たり前だろ、現代なんだから」


 椅子に座っている髭を生やした兵士が私の独り言に応答した。それなりに地位のある人なのだろうか。着ている鎧が門番の二人よりはがっしりとしていて、どこか貫禄のある顔つきをしている。


「お嬢ちゃん、コンテスト出場希望かい」


「はい、ええと、そうです」


「じゃあ、これに名前書いて」


「は、はい」


 差し出された用紙に鉛筆で自らの名前を書く。漢字を使うべきか英語を使うべきか迷ったのだが、私の握っている鉛筆は自然とこの世界の文字を書いていた。どうやら女神様の言った通り、私の思考は色々とこの世界に順応しているらしい。


 そのまま兵士から事務的に命じられるままに、私は作業を続けた。


「よし、これで申請は終了だ」


 彼は私から受け取った書類の束を机にポンポンと打ちつけて整える。うわあ、何だか学校の先生っぽい。そんな感想を抱きながら、私は一つ訊ねなければならない事があったのを思い出した。


「あの、一ついいですか?」


「ん、なんだ?」


「材料費は貰えないんですか?」


「……は?」


 呆気に取られた目つきで、受付の兵士は私を凝視した。


「お前、馬鹿か?」


「いや、だってっ」


 私は慌てて訴えた。


「材料が無かったらお菓子作れませんし」


「どこの世界にわざわざ材料費払う料理大会の主催者がいるんだよ」


「多分、どこかの世界にはいますっ」


「そういう問題じゃないだろ。とにかく、材料費なんてものは出ない。お金は自分で稼げ。事前に参加費だって払わなければならないんだ。ていうか払えよ、今すぐ」


「そこを何とかっ」


「俺に言われても困るんだよ」


 心底から面倒そうに頬を掻く兵士。私は直感した。この場を切り抜ける為には、最早ごり押ししかないと。


「お願いしますっ。百円でもいいんですっ」


 何気なく発した言葉に、兵士は何故か硬直した。


「な、ヒャクエンだと」


「はい、百円でも構いません」


「おい、少しは声を潜めろ」


「え、あ、はい」


 どうしてそんな事を言われたのか分からなかったのだが、取りあえず私は指示に従う。兵士はひそひそ声で念を押すように訊ねてきた。


「もう一度聞くが、本当にヒャクエンでも構わないのか」


「はい、百円でもいいんです」


「そうか、なら」


 兵士はニヤリと笑った後、頷いた。




「取りあえず、外へ行こうか」

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