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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第二話「走って、走って、自分の道」 2

「うわ、また来たのか」


「二度と来るなと言っただろ」


「そんな言い方あんまりですっ」


 場所は変わって、城の正門前。私は昨日と同じく城を警護している、何だか冴えない風貌のろくに出世も出来なそうな安月給っぽい門番二人組と相対していた。


「……それで、今日は何だ」


「俺達は暇じゃないんだ。大した用でもないなら、とっとと帰れ」


「う、ううっ……」


 あまりに冷淡な言いぐさに、私の心は深く傷ついた。ただコンテストに参加したくてやってきただけなのに、どうしてここまで言われなければならないのか。やはり兵士という職業柄、ストレスでも溜まっているに違いない。だからこんなに心がやさぐれてしまっているのだろうか。上司にこき使われているだろうし。現に二日連続で門番なんかやらされてるし。そう考えると、二人がちょっぴり不憫になってきた気もする。


――よしっ。こうなったら冗談の一つでも言って、二人の心を和ませてあげよう。


 福因福果、善因善果、因果応報。情けは人の為ならずとも言うし、正しい行いは必ず自分に返ってくる。私の冗談で二人の心を解してあげられれば、きっと彼らは私を快く城内まで通してくれる筈だ。正しい事をする時特有の穏やかな気分で、私は口を開いた。




「こう見えても私、王子様の婚約者なんですよっ」




 途端に、衛兵達の顔が急激に青ざめた。ここまでは予定通り。落として上げるのが好感度アップの秘訣である。


「え、あの、それは本当に事なのでしょうか?」


「嘘ではないでしょうね?」


「二人とも、ひかえおろっ!」


 時代劇の真似事で声高に叫ぶと、二人はすぐに額を地面にぶつけんばかりの勢いで土下座した。


「も、申し訳ございません!」


「昨日からのご無礼、どうかお許しを!」


 お偉い老人になったみたいで、私は結構気分が良くなった。ついつい口元がニヤケてしまう。


「えへへ、くるしゅうないっ」


「そ、それでは……」


「許して、頂けますか?」


「勿論だぞよっ」


「あ、ありがとうございます!」


「お慈悲が身に染み渡ります!」


「じゃあ、ここ通っても良い?」


「え、ええ!」


「どうぞどうぞ!」


 慌てて兵士達は立ち上がると両脇に素早く退き、私に対して身振りで門を通るよう促す。私は軽く一礼して、その門を堂々とした足取りでくぐった。そのまま城内へ足を向けようとした所で、まだネタばらしをしていなかった事を思い出し、足を止めて振り向く。まだ何か、とばかりに畏まっている二人に対し、私はニッコリと笑顔を浮かべて口を開いた。




「あ、ちなみにさっきの話は冗談ですよっ」




 言葉を発して、数十秒後。


――ビキッ。


 まるで血管が浮き出るような効果音と共に、銀色の兜にいつの間にか怒りマークが出現している二人の衛兵が、私の腕を両方からガッチリと掴んだ。


「ひゃ、ひゃあっ!?」


 突然の事に、私は驚いて手足をジタバタさせるも、流石に現役の兵隊の力には叶わなかった。


「この不届き者め!」


「あろう事か、王子の婚約者と偽って城に潜入しようとするとは!」


「そ、そんなっ。私はただ、ちょっとした冗談のつもりで」


「黙れ!」


「お前の身柄はただ今より拘束する」


 言うが早いか、二人はどこからともなく取り出したロープで私の体をグルグル巻きにし始めた。


「きゃっ、やめっ、んんっ、んー!」


 声を上げようにも、口にまで縄を巻かれて言葉を発する事さえ封じられてしまう。そうこうしているうちに目をロープで覆われ、視界まで奪われてしまった。


 芋虫のように身をくねらせる動きしか出来なくなった私を、兵士達は軽々とかつぎ上げる。


「んんんっ! んっ! んんーっ!」


 抗議しようにも、くぐもった声しか出ない。それにも関わらず二人は私の意を察したらしく、


「自業自得だ!」


「お前を今から城の牢屋に連行する!」


 と叫んだ後、どこかへと歩き始める。すぐにギイッという音がしたので、私は気がついた。今、私は城の中に入っている。つまり、当初の目的は達成されたのだ。


――でも、こんな格好なら意味ないよっ。


 動きを封じられているので、当然の事ながら参加申請に行ける筈もない。しかも、牢屋に入れられるとかなんとか物騒な事を聞いた。このままでは最悪、処刑も有り得るような気がする。でも、たかが冗談一つ言ったくらいで牢屋行きなんて、ちょっと心が狭すぎるよっ。


「んんっ!」


「ええい、動くな!」


「じっとしてろ!」


「どうしたんだい、君たち」


 ふと、誰かが二人に呼びかけた。その穏やかで温かみのこもった口調に、私は声を上げるのを止める。私を担いでいる兵士達の体が強ばった事に気がついたからだ。声の響きからして、まだ若い青年だろうと思った。


「は、ははっ。実はこの者が王子の婚約者を騙り、城内に侵入しようとしたのです」


「今から牢屋にぶち込む所です」


「へえ、そうなのか」


 相手はひどく驚いている様子だった。何となく会話に聞き耳を立てながら、私の心に一つの考えが浮かぶ。ひょっとすると、この人なら私の無罪を信じてくれるかもしれない。


 私は意を決して、呼びかけた。




「んんんっん! んんんっん! んんんっんんんっんんんっんー!」


「ええい! やかましいぞ!」


「少し黙ってろ!」

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