泣き虫彼女
俺の彼女はよく泣く。
ケンカした時は特に、怒って、泣いて、喚いて、ふて腐れる。
俺が謝らないと絶叫するほど泣き続けることもある。
「だから言ってるじゃん。私なんか可愛くないし…」
モテる女ではないが、俺は可愛いと思っている。いくら説明しても理解できず泣く。
「家事とかできないし…」
料理はもちろん、掃除や洗濯も苦手で、オマケに女性らしい慎ましげな気配りもできない。自分には女子力がまるでないと嘆く。二人で分担し、これから覚えればいいと思うのだが。
「中退だし…」
彼女は中学校を卒業しないまま成人となり、就職やバイトもしていない。稼ぎは俺が頑張るつもりだ。
「私みたいな女は生きてちゃダメなんだよ…」
全てをあきらめ、生きる努力をしてみようとは考えない。彼女は頭の中であらゆるシミュレーションをし、どれも失敗の結末をたどる。何もできない自分に生きる価値なしと泣き続ける。
「面倒臭くねえ?女が泣くと一瞬で冷める」
友達は泣き虫な彼女に否定的だ。彼女は自分勝手で、俺を都合よく利用するため計算して泣いてるのだと助言する。甘えというより、依存、寄生して自分の思い通りに操作しようとしているのだと。
俺は頼られて嬉しい。彼女が泣くのは必死に生きようとしているからで、弱さを口にするのは、それを強さに変えたいのだと思う。
自分の胸の中に留め、我慢する強い女も魅力的だが、素直に、感情豊かに泣いてしまう彼女も好きだ。守ってやりたい。泣き虫彼女は俺に助けを求めている。俺を必要としてくれているのだから嬉しい。
泣き虫彼女が俺の存在理由だ。彼女のために俺は頑張れる。
「…俺はおまえの涙も好きだ」
そう伝えたらまた彼女は泣く。本当に泣き虫だなあ。抱きしめると拗ねたりもする。
「…私の何がいいの?」
「泣き虫なところ」
泣き虫な自分も許せないため、ムッとする彼女が笑ってくれるようになるまで、のんびり寄り添って行こう。
もし彼女に自信が芽生え、もう俺を必要としなくなっても、俺は彼女と居られた時間を自分の誇りにする。
次の彼女を探すとしても、やっぱり俺は泣き虫な彼女に惹かれるだろう。