表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔を倒す旅  作者: シュン
始まりの時
4/4

二日連続の戦闘

 ここは地面がコンクリートで出来ている町、名はない。

 外部と交流する余裕が、この町にはないからだ。だから名前など必要がない。

 大きな一本の道の脇にはさまざまな店が並び、早朝の今でもそこそこ盛り上がっている。

 たまに背中に大剣を背負っている金髪の大男や、腰に剣を下げている細身の少年。

 弓を片手で持っている少女などがいる。瞳の色は、さまざまだ。

 真の瞳の色は珍しく、闇を象徴する色なので、不吉とも言われやすい。

 この魔獣狩り達に共通していることは、ただ一つ。銃器を誰も持っていない。

 政府がすべて管理しているからだ。

 守護隊以外には持たせてもらえない。

 最も、魔獣や、魔人に銃は通用しないし、魔気を自由自在に使えるのなら、必要はないのだが。

 この町に、魔獣などが攻めて来ないのは、町を覆うほどの大きな見えない、魔気を使ったシールドが張られているからだ。

 これがある限り、魔獣達は攻めて来られない。

 町の人も、「町民証明書」というカードがない限り、外に出られないし、入れない。

 真は、徹夜で歩いてここまで来た。顔には疲労の色が見える。

 背中で寝ている子供を背負って。少女の首には......白いマフラー。

 魔獣狩りの『賞金受取所』は、この町にある。どんな建物か、一言で言い表せば、無駄にでかい建物。

 そしてここから少し離れたところに、真達の暮らす廃墟がある。

 あの崩れかけのビルの回りには、誰もいないが、少し離れると、そこは無法地帯。

 毎日血が流れているが、ここに住んでいる人には無縁の空間だ。

 真がたまに盗むのも、そこにいる人間からだ。

 元々誰かの物を盗んだんだから、盗まれて当然、罰を受けるべきだと真は思っている。

 思っているだけで、罰を与えようとはしないが。

 しかし、生活も厳しいので、ありがたく、ならず者から貴重品を頂戴している。

 そこで手抜きの商売している者も少なくなく、貸し出しの風呂もその一つだ。

 生活用品の多くは、この町で手に入れた。


「東さん、金下さい。」


 真は、『賞金受取所』の受け付けにいる東に用件だけ伝える。


「倒した証拠は?」


「はい。」


 真は千夢を片手で支え、もう片方の手で、一つの袋を置く。

 中にあるのは見るだけで気分が悪くなる弱ゴブリンの緑の心臓。

 気絶していたゴブリンの胸をナイフで裂き、取った物だ。

 東は中を確認すると、真との間にある机に、小包を置いた。


「はい、今回の報酬よ。」


 真は片手で器用に小包を開け、中身を確認する。


「......ま、ゴブリンの弱いの三匹なら、これくらいだよな。」


「当然。君にはまだまだ働いて貰うからね~。」


 ぽつりと呟いた真に東が反応する。

 微笑を浮かべ、真は軽い小包を、ズボンのポケットに入れ、


「じゃ、また。」


「うん、またよろしく~」


 軽い挨拶をすると、無駄に大きい建物を出た。

 途端に照りつける、眩しい太陽の日差しに目を細める。


「すっかり明るくなったな......」


 あの後、千夢が寝てから真は作業を開始した。

 まず、自分の足を枕にして寝ている千夢の頭をそっと地面に置き、首にマフラーを巻いた。

 その後、気絶ゴブリンの心臓を抉り取った。勿論、手袋をして。

 素手で触っても、毒はないが、普通の神経を持つ者なら触りたいとは思わない。

 それを予め貰っていた剥ぎ取り用の袋に入れた。

 少し気分は悪かったが、袋自体は汚くはないので、ズボンのポケットに入れた。

 そして、寝ている千夢を背負い、歩きだした。


 そして、現在に至る。


(眠い......)


 早く寝たかった。



***



「し~んくん!」


 布団にも入らず、コンクリートの床の上で力尽き、眠っていた真に聞こえた窓の外からの声。

 千夢はしっかり布団で寝ている。

 壊れかけの時計に目をやると、時刻は七時。

 まだ帰ってきてから一時間しか経っていない。

 身体はかなり冷え、眠気もかなり大きい。当然、起きる気にはなれない。

 真は再び眠りに就いた......


「真くん!」


「うわっ」


 突然真横で聞こえた大声。

 それが東だと理解するのに、数十秒要した。

 東は床に座っている。

 さらに「どうして東さんがここにいるのか」という思考に移すのに数十秒。

 それが「扉の鍵を閉めなかった」

ということに気付くのに、さらに数十秒掛かった。


「真くん?」


 全く動かずに、自分を見つめている真を不思議に思ったのか、東が声を掛ける。


「あ、いや......なんですか?」


 脳が半分を起こされた真が聞く。


「今夜、また仕事が入ったっていうことを伝えに。」


「............」


 絶句した。あの宝石を使っただけでこの疲労なのに、今夜の内にもう一戦あるかと思うと。

 まず、二日連続で依頼を入れること事態考えられない。

......この人、頭おかしいのか?


「えーっと。やらないと駄目ですか?」


「うん。」


 東は即答する。


「相手は?」


(インセクト)の魔人」


 東は淡々と、即答する。


「......何時(いつ)?」


「昼丁度。」


 東は即答する。

 真が言う言葉が分かっているのだ。二年は一緒にいる。

 その時間だけで、東は大体真の言うことが把握出来ていた。

 この会話など特に。真を何度無理矢理起こしたか、数えきれないし、覚えていない。


「じゃあなんか武器ください。」


「はい。」


 と、すごい速度でポケットに手を突っ込み、真に投げる。

真が見事にキャッチしたのは、宝石の填まった金色のリング。

 宝石からは、不気味なオーラを感じさせる。

 色は、闇を具現化したような、黒。自分と同じだなぁ、と、呑気に思った。


「なんの能力ですか。」



 東は今までのふざけた雰囲気を一瞬で消し、真面目な顔で一言。


「さあ?」


「さあって......もういいです。前使ってたやつ持っていきますから。寝かせてください。」


 どこから仕入れたのかも気になったが、寝る、それが今の真の願いだった。


「わかった。じゃあ昼に起こしに来るからねー、またねー。」


 妙にテンションの高い東が、ビルを出ていくのを窓からしっかりと確認すると、真は再び深い眠りに就く。



***



「綺麗なところだね。」


 目の前で胸を踊らせ、軽い足取りで進む千夢が言う。首には白いマフラー。


「......そうだな」


 後ろを重い足取りで歩く真が同意する。

 昨日とは違い、背中には、大きなリュックサックがある。中に入っているのは、バリア付き虫かご。

 目の前には透明な川が流れているが、魚は一匹もいない。

 細い木の葉の間から差し込まれる日光は、とても綺麗に見える。

 森の下は、芝生で、踏む感触がとても気持ちいい。日の当たっていない場所まで生い茂っている。

 神秘という言葉がとても似合う森だった。まるで、精霊でもいそうな。

 昨日と違って今日の場所は近いため、暗くならない内に目的地にたどり着くことができた。早速、狩りを始めている。

 虫の魔人は、とても小さく、背中に生える羽で空を飛ぶ。

 可愛らしい見た目をしているが、魔気による攻撃は凄まじい。

 以前、新人の魔獣狩りが、この魔人を狩ろうとしたところ、骨だけの上半身が、あとで見つかった。

 小さいといっても魔人は魔人。人肉も喰らう。

 特に、飢えている時の狂暴性は凄まじい。


「はぁ......」


 このため息には二つの意味がある。

 一つは、昨日の疲れが全然取れていないということ。

 傷は手当てしたが、マジックリングによる魔気と生命力の回復には丸一日掛かる。

 まだ半日ちょっとしか経っていない。疲れがとれないのは当然だ。

 もう一つは、魔人のこと。

 身体は小さく、ちょこまかと動く標的をどうするか。

 今回のは、まだ弱いほうらしいが、小さい標的に、どうやって攻撃うを当てればいいのか。

 勿論、真にそんな技術はない。

 青の炎は一発でも当たれば倒せるが、その一発が当たらないのでは、意味がない。

 しかも、今回は「捕獲」だ。殺してはいけない。

 千夢に頼るしかない、歩く内、真はそう考えるようになっていった。

 ポケットの中の黒の宝石のリングを頼ってみようとも思ったが、あの禍々しいオーラを思い出すと、そんんな考えはすぐに消えた。

 今の真の武器は、右手の中指に填めてある、空色のリング。

 いつも使っている、肉体強化の力が込められている。魔気を流し込めば、すぐに発動する。

 このリングは、魔気と生命力、どちらも使うことが出来る。生命力を使うと、魔気を使用したときの倍以上の効果が得られるらしい。

 真は魔気しか使ったことがないが。

 左手の中指には火炎弾のリング。

 こちらの説明は簡単。

 一撃必殺の威力を持つ。


「真ー、早くー」


 千夢はここに来てから、ずっと走り回っている。

 綺麗な森に来れたのが嬉しいのか、明るい内に来れたのが嬉しいのか。多分どちらもあるだろう。


「あんまりはしゃぐな。そろそろ気を引き締めろよ。」


 真は、少し強く言う。


 ここは狩り場。少しの気の緩みが死へと直結する。のだが、千夢の気は緩みすぎている。

 真の言葉も聞く耳を持たず、本当に危ない状況だ。

 だが、真は怒ろうとはしない。

 まあ多分大丈夫だろ、と思っているからだ。

 死んでしまったら、しょうがない、という意識もある。

 まだたった二日しか一緒にいない。

 生きてほしい、一緒にいてほしいという意識は真の中では起こっていなかった。

 死なれたくないわけじゃない。

 ただ、全力で守れるかどうかと聞かれると、「はい」とは言えない。

 前にも、一人の子供を助けようとして、死んだ。

 真が全力を尽くしても、守りきれなかった。

 今回もそうなるだろう、心のどこかで諦めていた。


(所詮、人間は死ぬ生き物なんだ......)


 子供の頃に比べると、これでも考え方は少しましなのかもしれない。



 希望も、絶望もなかった、

 あの頃よりは。



「真ー! ここになにかいるよー」

 

 千夢が指差しているのは木の根っこ。真は千夢の声で現実に戻る。

 木はとても細く、少しの衝撃を加えただけで折れてしまいそうだ。

 よく見てみると、地面との間に空洞があるらしい。虫の魔人には、丁度いい空間だ。

 真は黙って千夢を手招きする。


「なにー?」


 千夢は緊張という感情を一切見せずに、駆け寄ってきた。

 内心、ため息を吐きつつ、真はリュックを下ろし、中から虫かごを取り出す。

 透明で、上に四角いふたが付いているだけの、簡単な作りだ。

 中に入れても窒息しないのか? という疑問が頭を過ったが、どうでもいい。


「はい、これ持っとけ。」


 真はリュックから出した透明の箱を千夢に渡す。


「これなに?」


「虫かご。いいか、俺が虫の注意を引き付けるから、その隙に後ろからそれで捕まえてくれ。いけるか?」


「うん!」


 千夢は元気良く返事をする。


「じゃああの木の後ろで隠れといて。」


 真が指差す木に、千夢は嬉しそうに走っていった。

―なにが嬉しいのだろう?―真は疑問を胸に抱きながら、なにかいるらしい木の根に近づく。

 一歩一歩、慎重に、ゆっくりと近づき......肉体強化の指輪に魔気を流し込むと同時に、木の根を思い切り蹴った。

 虫の魔人には魔気の感知能力があるらしい。

 なら、一気にやるしかない。

 木は大きく揺れただけで、倒れる様子は微塵もない。

 直後に後ろに跳躍し、左手に填めたリングを木に向け、撃つ。

 昨日より小さい青い火の玉は、一直線に飛んでいく。痛みは小さく、それほど消耗していないようだ。

 昨日よりも大分力を抑えたから、当然なのだが。

 木に火が当たる直前、木の根から飛び出してきた虫の魔人、三匹が、炎を強烈な風の塊で消した。

 三匹共、全部同じ姿だった。

 小さな緑の服を着て、アゲハ蝶のような綺麗な羽が生え、肉眼でギリギリ確認できた髪は、金。

 三匹共、こちらに怯えているようだ。

 吹き荒れる風は、真の元にまで届き、足を止めさせる。


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 三匹の魔人が、人間の言葉で、雄叫びを上げ、同時に手の平を真に向ける。

 すると、巨大な風の塊が魔人達の手から放たれた。

 真を軽く越す大きさ。とても小さな魔人の手から放たれたとは思えない大きさだ。

 火が消されたのも、この空気の塊だった。

 真は足に力を込め、横に飛び退く。

 間一髪で避けることができた。

 だが、真の身体は風によって吹き飛ばされ、受け身も取れずに、だが頭だけは守る。

 身体に衝撃が走った。


「ぐ......」


 身体は痛むが、特に重大な怪我はない。すぐに身体を起こし、魔人に目をやると、まだこちらに腕を構えている。

 三匹の手を一ヶ所に集めた姿勢で固まっている。

 すぐに、第二撃目が撃ち出された。

 風の塊は、一直線にこちらに飛んでくる。

 真はその塊に向かって、自分が持てる限りのすべての力を使って、打ち出した。

 大きな青い炎の塊が魔人に向かって飛んでいく。

 炎は、風の塊をまるで吸収するかのように消し去り、自らの炎を増した。

 呆然と魔人達はその炎の玉を見つめている。その顔には、諦めが見られた。

 目全まで青い炎が迫った時、急に勢いが衰え、みるみるうちに縮小し、消えた。

 安堵する暇もなく、次には、地面に叩きつけられていた。

 魔人達は、それを誰がやったか確認する暇もなく、激しい痛みの中、意識を失った。


「真ー! やったよ!」


 千夢は虫かごをぶんぶん回しながら喜んでいる。

 ふぅ、とため息を吐き、真は、リュックを持って、魔人達のほうに近づいていく。


「とりあえず、今叩き落とした三匹を虫かごに入れろ。」


 千夢は素直に、言われた通りにする。

 片手で魔人を握り、投げ込む。

 まるで、虫を扱うかのように。

 千夢に掴まれた魔人の最後の一匹が呻く。

 千夢は虫かごに入れる前に、呻いた魔人をよく見てみた。

 清楚な顔立ちで、緑の瞳を持っている。

 とても悪い生き物には思えなかった。

 しかし、彼女達はもう誰かが助けない限り、元の生活には戻れない。

 品物として、生きていくのだ。

 それを、千夢は知らなかった。


「真ー。なんでこの子達掴まえるの?」


 真は分かっている。だが、それを言うわけにもいかない。子供には、そんな残酷な話は話したくなかった。

 自分達が、人身売買、ではないかも知れないが、それに近いことをやっているなんて。


「依頼だから、で十分か?」


 無表情でそう言うと、千夢から受け取った虫かごをリュックに入れ、チャックを閉めた。

 千夢はなにも言わない。それが答えだった。

 妙に大人びた千夢の表情に、内心驚きつつも、言葉を繋いだ。


「はぁ......俺だって知らないよ。」


「嘘でしょ?」


 真が千夢を見た時、さっきまでの楽しそうな表情は、完全に失せていた。


「......売られるんだよ。多分な。」


 今の千夢には、もう誤魔化しは聞かない。

 観念したように、真は言う。


「なんで?」


 心底分からない、といった様子で、千夢は言う。


「金になるから、だろうな。」

 

 明確な理由はそれしかないだろう。

 他にも「魔人の存在は悪だから、倒さないといけない」とか言うが、この魔人達は人間を襲っていない。

 ただの言い訳、金に飢えた汚い人間の。

 

「......逃がしてやれないの?」


「ああ。今は金がないから無理だ。」


「............」


 千夢は何も言えなかった。

 ―人間は、欲の為にはなんでもする生き物なの?―

 子供らしくない、人間を見下すような気持ち。

 もう、話す気すらなくなった。

 

 長い、沈黙。


「今日はここで過ごす。千夢、適当に木を持ってきてくれ。」


「うん。」


 憂鬱な顔で、千夢はそう言った。


「ちょっと......待っててね。」


 無理に力のない笑みを顔に浮かべ、千夢は走っていった。

 真は今の笑みの意味が分からなかった。

 自分の胸の内を知られたくないのか、心配してほしくないのか。

 でも、今の真が、人を心配出来るのか。

 答えは否、出来るはずがない。

 真の心はそれほどまでに冷めきっていた。


「はぁ......Gさん。分かるんだろ? 出てきてくれ。」


 今日何度目かのため息を吐いた後、虚空に向かってポツリと呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ