プロローグ
どこだか分からない廃墟の壁に体重を預けた幼い少年は「絶望」という二文字が相応しい世界に住んでいた。
いつ襲ってくるか分からない魔人への恐怖と政府から渡されるほんの少しの食料で暮らす空腹の日々。
未来に希望などなかった。なぜ生きているかも分からない。
ふと自分はどうやって死ぬんだろう? と思った。
空腹か、殺されるか、この寒さか。
......馬鹿みたいだ。
短く白い息を吐き、灰色の空を見上げる。
空からは冷たくてふわふわとした白い雪が、目の前にある瓦礫に降り積もる。
髪を手で払うと、頭に積もっていた雪が落ちた。
身体は凍ったように冷たく、だんだん感覚がなくなっていくが、もう動く元気もない。
大体、動いたところでなにも変わらない。
帰る家はない。暮らしていた家から追い出されたからだ。理由は食料不足。
政府は一家族に同じ分の食料を渡す。家族が一人だろうと、四人だろうと、渡す数は同じだ。だったら、家族は少ないほうがいい。
雑用として働いていた少年は、すぐに追い出された。その家で暮らすという理由で働いていたからだ。
政府は、同じ家で住んでいる者を家族と見なす。
大きく肺から空気を押し出す。
口から出た白い息が、横にたなびき、消えていく。
少年はゆっくりと目蓋を閉じた。
「少年よ、生きたいか? それとも死にたいか?」
どこからか、不意に聞こえた男の声。
「......誰?」
目を細く開け、声の正体を確かめようとする。だが、誰もいない。前にあるのは瓦礫だけだ。
風が強くなり、雪が激しく降り始めた。
「生きたいか、死にたいか。どちらか答えろ。」
暴風に混じって、冷酷な、低い男の声。少年は考える。
未来がない未来を選ぶか、未来がある未来を選ぶか。
今、そんなことはどうでもよかった。
男の質問に答えない間も、風は強まっていく。
「......生きたければ、この短刀を取れ。」
少年の前で短い刀、ナイフが雪に深々と刺さる。どこにでもあるただのナイフだ。
「............」
少年は黙って震える小さな手で短刀を引き抜いた。




