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デウス・エクス・マキナは必要ない  作者: 絃城 恭介
第一章・幻想~memory a fantasy~ 
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第一章・幻想 その五










◆◇◆◇◆◇










喫茶・こきりで食事を終えた俺たちは、遊園地に直行する電車に三人で並んで座っていた。右から奏龍、俺、希実香の順だ。


昔は奏龍も希実香もお互いに名前で呼び合っていたのに、今では何故か奏龍だけが希実香の名前を呼び、希実香は奏龍のことを苗字で呼んでいる。


俺にそれがいつから変わったのか分からない。おそらくだが中学時代に、あの二人と距離をとっていた時期に何かがあったのだろう。けど、本人達は何も言わないのできっと話すような事ではないのだろう。


あの頃の俺はそれどころではなかったから。



『次は~遊園地前~遊園地前でございます。次でお降りになるお方は右側のドアでお待ちください。なお、お荷物をお忘れの無いようにお願いします』



そこで、俺の思考を中断させるように電車にアナウンスが流れる。



「遼くん。次で降りるよー」



俺がそのアナウンスに気がついていないと思ったのか、希実香が俺の方を叩いている。



「あー、大丈夫だ希実香。ちゃんと聞こえてるからさ」

「だって遼くん、さっきから何も話さないからてっきり、また考え事でもしてると思ったんだけど………ゴメンね。次からは気をつけるね」

「いや、別に希実香が謝る事でも無いと思うんだけど……」



実際、希実香は俺のためにわざわざ肩を叩いてくれたんだし、感謝はしても謝られる事ではないと思う。


まあ、そんなところが希実香らしいって言えば希実香らしいんだけど。


俺はそんな感想を口には出さずに心の中にその言葉を留めておく。何故なら、直接伝えるのが気恥ずかしいからだ。



『遊園地前に停車致します、忘れ物の無いようにお願いします』



そこで、今度は先ほどとは違って遊園地前の駅に付いたことを知らせるアナウンスが流れた。俺はこのアナウンスを聞いて、たまにだが思う事がある。


それは、電車に流れるアナウンスって言葉は丁寧にしているが、どこか慇懃無礼に聞こえるという事だ。これだけはいくら考えても俺の主観でしかないので、これと言った答えが無いのが考え物だ。



「早く降りないと扉がしまっちゃうぞー」

「あ、やばっ!!」



既に電車から降りていた奏龍が、まだ電車の中に残っている俺に向かって軽く声を出している事に気がつき、俺は急いで電車を飛び降りる。



「今度は何を考えていたんだい?」

「いや、電車で流れるアナウンスについてちょっと考えてたんだよ」

「またどうしようもない事を………」



俺が奏龍の質問に答えると、奏龍だけではなく希実香にまで苦笑いをされてしまった。



「あはは……遼くんの考え事ってそんな程度の事ばっかりなんだ」

「いや、待て。それは誤解だ希実香!! いつもそんなくだらない事ばっかり考えているわけ無いだろ!?」

「あ、うん。分かってるよ……」



希実香……そういうことはキチンと相手の目を見て言わないと説得力が無いぞ。そして奏龍、何故そんな目で俺を見るんだ?



「ま、まあ、遼の考え事なんて今に始まった事じゃないしさ………取り合えず遊園地に入ろうよ」

「そ、そうね。今神くんの言うとおり早く中に入ろうね、遼くん」



ああ、これからは素直に思った事を口にするのはやめよう。そうだな『口は災いの元』とはよく言ったものだが、どちらかといえば『発言は災いの元』の方が俺には適しているような気がする。


だが、この場合に『正直者が馬鹿を見る』と言う言葉は適応されないのか、と言うことが疑問である。そもそも、俺が正直者に分類されるのかが疑問だからだ。


それはさておき、これ以上長々と考え事をしていたら二人に何を言われたものかがわからないので、そろそろやめるとしよう。



「りょーかい、分かったよ」



俺がそう答えると、二人は目と鼻の先にある遊園地の入り口に向かって歩き始める。若干だが歩くスピードに差があり、RPGで良く見る勇者ご一行のように縦の一ラインになって歩いているというのはシュールな光景だが……この際は気にしないで置こう。


しかし、俺が歩を進めるごとに遊園地の入り口付近に最近見た感じの人影が立っているように見える。


幻覚ではないかと目を擦ってみるが、やはりその人影は消えない。むしろ、こちらに気が付いたかのように手をぶんぶんと振っているようにも見える。



「なあ、奏龍……今日の参加者は三人だったよな?」



歩きながら先頭を歩いている奏龍に向かって、少し声色を下げて尋ねる。



「んー? だってホラ、チケットが折角四枚あるのに三人だけってなんか物足りなくない?」

「いや、言わんとしている事は理解できなくも無いが………俺の目が狂っているわけではないとすると、遊園地の入り口のところにいるのは羽も―――」



俺がそこまで言いかけたとき、ソイツは痺れを切らしたのかこちらに向かって走ってきていた。



「いまがみさん遅いですよー!!」

「やっぱり羽森結衣じゃねーかよ!!」

「あ、ささみやくんもいたですか」

「なんでお前がここにいるんだよ………」



俺に気が付いたように言う羽森結衣を見て、俺は意気消沈する。だってそうだろう? 出会った初日からあんな事があったんだから、学校ですら関わりたくないって言うのに、プライベートで関わりたい訳がないだろう?



「遼くん、知り合いなの?」



そんな俺の姿を見た希実香が、疑問系で尋ねてくる。


そういえば、羽森結衣が転校してきた日に希実香は学校を休んでたんだよな。だったら知らなくても無理はないか。



「ああ……できれば一生関わりたくなかった人類だよ」

「ほぉ、遼くんでもそういうタイプの子がいるんだ……ちょっと意外だなぁ」

「いや、アレはそういった括りではないんだ。もう、なんていうか……存在そのものが俺に対する悪意って言うか………」



希実香に何とか説明をしてみようと試みるが、どうにも上手く説明ができない。そもそも、どうして俺はこんなに必死に担って希実香に説明をしているんだろうか?


全く理解できない……と言うわけではないが理解したくない。



「あの、いまがみさん。質問してもいいですか?」

「どうしたの結衣ちゃん」

「あちらの長身の女性はどなたですか?」



そして、羽森結衣と奏龍も俺達と同じような会話をしているところを見ると、奏龍は何も伝えていないという事がわかる。


しかし、奏龍が羽森結衣を誘う確率が無いわけではなかった。よく考えてみれば、昨日の放課後にはメールアドレスを交換していたようだったし、朝には良く似た人物を見かけたし………



「はじめまして、私は羽森結衣といいます。よろしくお願いしますね」



と、そんなことを考えているうちに羽森結衣が希実香に手を差し出している。希実香はそれが自己紹介であることに気が付いたのか、差し出された手を握って同じように自己紹介をしている。



「私は絃城希実香って言うの。こちらこそよろしくね、えっと……」

「あ、お好きなように呼んでください。私はきみかさんと呼ばせてもらいますので」

「じゃあ、よろしくね結衣ちゃん」

「はいー!! よろしくです、きみかさん」



握った手をぶんぶんと振っている羽森結衣に、少し驚きながらもそれに合わせている希実香の姿。


何処からどう見ても中学生と高校生の構図に見えてしまうのは俺だけではないだろう。現に奏龍も俺に向かって耳打ちをしているくらいだ。



「ねぇ、こうしてみると希実香ちゃんがお姉さんで結衣ちゃんが三つしたくらいの妹に見えない?」

「ああ、俺もそう見えるから安心しろ。アレはどこからどう見ても中学生と高校生にしか見えない」



しかし、初めて羽森結衣に遭遇したあの日にファミレスで会話をしたときは、もう少しまともにアイツは話していた気がする。


だが、昨日といい今日といい、初めて遭遇した時の羽森結衣とはまるで別人のような話し方をしているということも事実だ。


しかし、その反面では性格そのものがほとんど変化していないように思う。この場合、初めて遭遇したときの羽森結衣という人物の印象は俺しか知らないので、奏龍や希美香に聞くことは出来ない。



「  え」



そして、本人に直接尋ねると言うことも出来ない。何故なら「なあ、お前って初めて会ったときと雰囲気変わってないか?」なんて聞いて見ろ。即座に笑われて終わるか、こいつ何言ってんだ的な目で見られるに決まっているからだ。



「まーた考えごとぉ?」



そこで、俺の耳に奏龍の声が聞こえてきた。どうやら、俺はまた長い間考えごとをしていたようだ。



「悪い、ちょっと思ったことがあってさ。もう大丈夫だから中に入ろうぜ」

「そうだね、そうした方が遼の考える暇もなくなるだろうし、早速入ろうか。けどさ、希美香ちゃんと結衣ちゃんは一体なにを話しているんだろうね?」



俺の返答に奏龍は同意とともに、ふと思いついたかのように希美香と羽森結衣のいる方向を指さしながら、質問を追加して尋ねてきた。



「さあな、女の子同士の会話って長引くモノなんだろ? まあ、確かに希美香があの羽森結衣とどんな会話をしているかってのは少し気になるけどよ」

「んー、確かに僕が知る限りでは女の子同士の会話って総じて長いものだけどさ………まあ、それはどうでもいいとしてさ。遼が希美香ちゃんの事だけを気に掛けているってのは、たった今、改めて確認ができたよ」



奏龍は自分で聞いてきたことをどうでもいいと言ったあげく、何故か最後に納得のいかない言葉をつけて俺にそんなことを言ってくる。



「自分で聞いてきたことをどうでもいいとか言うなよ。そもそも、どうしてそんな結論に至った?」

「ほうほう、自分では自覚していないって言う辺りが、遼らしいって言えば遼らしいんだけどね………はぁ、こう言った点では僕のほうがポイントは高いはずなんだけどなぁ」



前半の方は納得いかないが、奏龍が言っているのだからそうなのだろう。だが、後半の方にボソッと呟くように言った言葉の意味が理解できない。


「僕のほうがポイントが高い」とか言っているあたり、奏龍と俺の間で、知らぬ間に何らかの戦いが起こり、知らず知らずのうちに俺が勝利していたのだろう。


だが、全く以ってわからない。そもそも俺と奏龍が競うような事は、高校に入ってからと言うもの、殆ど無かったように思う。



「はぁ……希実香ちゃんもどうして………」

「希実香がどうかしたのか?」



俺が奏龍の呟くように漏らした言葉を聞き返すと、奏龍は妙に驚いているような表情をして言葉を返してきた



「い、いや、なんでもないよ。てっきり、また考え事でもしてるかと思ったんだけど、違ったみたいだ………もしかして全部、聞いていたりした?」

「全部って……俺が聞いたのは今の呟き程度だよ。そもそも、俺はドンだけ考え事してたんだか」



すると、俺の答えを聞いた奏龍はよかったと言うように胸を撫で下ろすと、いつもの調子に戻ったような口調で話を始める。



「おおよそ10分くらいは考えてたよ。けど、その間の僕はどれだけ心寂しかったと思うんだい?」

「いや………そんなこと知るかよ」



それに対し、俺は話さなくていいというように返すと、奏龍はそれさえ無視して話を始めた。



「遼は考え事して自分の世界に入っちゃうし、希実香ちゃんと結衣ちゃんは遊園地に入る前に会話に花を咲かせちゃうし……四人いるのに僕だけが何故かハブられている気分だったんだよ!?」



しかも、最後に至っては完全に言い掛かりだ。俺の場合は無視したくて無視していたわけではなく、完全に考え事をしていたために起きた偶然だ。



「さて、いつまでも遊園地に入らないってのも時間の無駄だな………奏龍、あの二人の会話を終わらせて中に入ろう」

「え、僕の話は無視? 無視なの?」



奏龍は自分の話を無視された事が気に食わないのか、俺にしつこく問いかけてくる。だから、俺もそれを一撃で黙らせるために言う



「そもそも、俺はさっきも同じことを言った気がするんだが?」

「うっ……」



俺がそういうと、奏龍は呻くように声を漏らすと黙ってしまった。どうやら、自覚はしていたようだ。



「そんじゃ、行きますか」

「うん……そうしよう」



意気消沈。そんな言葉が奏龍の頭上に降り注いでいるかのような錯覚を覚えるが、この際は気にしないで置こう。


そして、俺は少し離れたところで会話に花を咲かせている二人に向かって声を出した。



「希実香ー、羽森結衣ー!! そろそろ遊園地に入るぞー。話はそれからでも遅くないだろー?」



希実香は俺の声に気が付いたのか、羽森結衣に何かを言ってこちらに向かって走ってくる。同じくして、羽森結衣も希実香の後ろを追う様に走ってきている。



「どーして、私だけフルネームなんですかぁ!?」



だが、羽森結衣だけは何故か俺に向かって文句を言いながら走ってくる。しかし、そんなことで慌てる俺ではない。



「へっ?」



隣で未だに意気消沈状態の奏龍の腕を引っ張り、走ってくる羽森結衣のほうに軽く押す。



「あわわわっ、い、いまがみさん、危ないです!!」



すると、奏龍は咄嗟の事に身体は流され、羽森結衣は加速を止められずに奏龍に直撃する。


擬音で表現するなら”ごっつーん”なんていう表現がぴったりだな。



「イタタタタ……いきなり何するんだよぉ」

「だ、大丈夫ですか、いまがみさん!!」



だが、やはり予想通りと言うべきか、奏龍は転ぶ瞬間に羽森結衣の身体を包むように受け止め、身体にダメージを受けないように受身を取っていた。


それは、有段者であってもそう簡単には真似できないほどに綺麗な動き。洗礼された動きには美しさすら感じる。



「よし、なんだかんだ在ったけど全員揃ったし、入園しよう」

「遼くん、今のは奏――今神くんじゃ無かったら怪我してたかもしれないよ?」



一瞬だが、希実香が奏龍と名前で呼びかけたが、すぐに訂正して、俺を咎めるかのような目で見てくる。


俺は、そんな希実香の眼力に負け、しぶしぶになるが、コンクリートの地面に座る形になっている奏龍に手を貸す



「悪かったな、奏龍」

「本当に悪いと思ってるんだったらさ、一つ頼まれてくれない?」

「そこに居る羽森結衣についての頼まれごとならすべて拒否するぞ」



俺が真面目な顔をしてそういうと、羽森結衣がマシンガンのように言葉の雨を俺に降り注がせる。俺は涼しい顔をして、それを無視しながら奏龍の言葉に耳を貸す



「そうじゃないよ、頼みって言うのはね――――――」

「はあ? そんなことでいいのか?」

「その返答は了解ってことでいいのかな?」

「いや、良いも何も……本当にそんなことで良いのか?」



俺が再度聞き返すと、奏龍は首を縦に振るだけだった。



「りょーかい、確かに頼まれたよ」



俺がそう答えると、奏龍は俺の手を取り、静かに立ち上がった。



「よし、早速入ろうか」

「そうだな」



その短い会話の後、俺と希実香、そして奏龍と羽森結衣がペアになって遊園地に入園するのだった。


さて、今日はどんな一日になるのだろうか………









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