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デウス・エクス・マキナは必要ない  作者: 絃城 恭介
第一章・幻想~memory a fantasy~ 
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第一章・幻想 その四









◆◇◆◇◆◇











日曜日の午前9時30分に俺は目を覚ました。昨日は涼香姉さんや由岐と話をしたりしたが、それなりに早く寝ていたために二度寝をしようとも思わないくらいに寝覚めが良かった。


奏龍との約束の時間までは約1時間ほどの余裕がある。しかし、外出用の服を選び、着替えてから身だしなみを整える時間に、移動の時間を考えると全然時間に余裕などありゃしない。


クローゼットから適当に上下の服を選びそれに着替える。そして、自室を飛び出し洗面所に向かう。その途中に由岐とすれ違ったが「おはよう」とだけ言ってやり過ごそうとした。


だが、由岐は俺に何かを尋ねたかったのか俺の手をいつの間にか掴んでいる。この状況では話を聞いたほうが早いと俺は考え、おとなしく由岐に尋ねる



「どうしたんだ?」



すると、由岐は掴んでいた手を放して言葉を放つ。



「お兄ちゃん。今日の朝ごはんは食べていくの?」



現在は朝といえる時間だが、今食べると昼食を満足に食べられない事を考慮し、由岐に食べないという事を手短に伝える。


由岐はその答えを聞くと少し不満そうではあったが、俺の手を離してくれた。


俺はそのまま洗面所に入り、寝癖の付いた髪を整える。前髪は水だけで何とか直す事ができたが、横髪がどうしても跳ねてしまうために仕方なくスプレーをかけて落ち着かせる。


そのほかにある程度の部分をチェックし、俺は家を後にした。


駅までは歩いて十五分。残りの時間は約20分あるが何故か早歩きになってしまうのは分かって貰えないだろうか? 遅れるくらいなら多少疲れてでも早くつきたいと思うはずだ。


その途中で見覚えのある格好をした誰かに良く似た姿をした誰かが声を出して歩いているのを偶然見かけてしまったが、俺は気付かれないようにその場をそうそうに歩き去る。


残り10分。喫茶・こきりまではあと約3分、時間的には約五分前に到着できるはずなのでどうやら遅刻せずに済んだようだ。


そこから歩くスピードを少し落とし、いつもの自分のペースで歩く。少しだけだが息が荒くなっていたのでその合間に呼吸を整える。


そんなことをしているうちに、無事に喫茶・こきりの前に俺は到着していた。



「ふぅ、予定外の時間ジャストだな………奏龍は―――っと。なんだ、先に中に入ってるのか」



店の入り口に当たる扉を開くと入店者が来たと言う事を伝えるベルがなる。俺はテーブル席に座っている奏龍のところにゆっくりと歩いて向かう。


すると、店に入ってきた俺に気が付いたのか奏龍はにっこりと笑いながらテーブル席の前まで来た俺に言う。



「うん、時間通りだね遼」

「なんだよ、そのいつも俺が遅れてくるような言い方はさ?」

「実際に三回に一回くらいは遅れてくるでしょ」



悪気は無いと言ったふうに奏龍は何故か三つあったコーヒーのうちの一つを俺に差し出す。


俺はコーヒーを受け取りそのまま口に運ぶ。まだ熱いくらいなのでおそらく、たった今出されたコーヒーなのだろう。


下手をしたら冷めたコーヒーを飲む事になっていただろう。コレは奏龍からの「遅刻をしてもいいことはないよ」と言う無言の忠告なのだろう。



「……悪かったな。でも、今日は遅刻して無いだろ?」

「そうだねー。確かに今日は遅刻して無いけどねー。それと実はね、今日はもう一人この時間に此処で待ち合わせをしている娘がいるんだー」

「……それがどうかしたのか?」



俺は再びコーヒーを口に運びながら奏龍の言葉に疑問系で返す。奏龍が俺以外の誰かをこの場に誘う事はあまり珍しい事ではないし、むしろいつもの事である。


それだけに俺としては疑問しか出ないわけだ。



「いや、どうかしたのかってね……普通は嫌なものじゃない? 誘った相手以外に誰かが居るのってさー」

「いや、そもそも結構な頻度でそういうことがあるからそれが普通だと思っていたよ」



だったら初めから呼ぶなよ……と、素直に言えるはずもなく、俺は別段気にすることでも無いだろうといった風に返すと奏龍はつまらなそうな顔になった。



「まあ、でもいいかなぁ。今回は僕が誘ったんじゃなくて相手から頼んできたんだし~」



と、ついさっきつまらなそうな顔に変わった奏龍の顔がニヤケ面に変化する。奏龍がこういった顔をする時には大まかに分けて二つの理由がある。


一つ、それは俺が驚くであろうこと。二つ、間違いなく俺が何らかのリアクションを取るであろう事だ。


選択肢に俺の行動しかないのは考え物だが、長年の友人であるためにそこの所は寛容にもなってしまう。


その時、再び入店者を伝えるためのベルが鳴った。



「お、きたきたっ。こっちだよ~」



奏龍はその音を心待ちにしていたといった風に喜んでいるかのように、新たなる入店者に手を振って此処にいると言う事を教えた。


俺は奏龍の姿を見ながら、今回は誰を誘ったのかと言うことを推測する。今までの大半はクラスメイトの誰かであったため、今回もおそらくクラスメイトの誰かであろう。


そこで、嫌な予感を覚えたために俺はついつい奏龍に尋ねてしまう



「ま、まさかだとは思うが羽森結衣じゃないだろうな……?」

「まっさかー、流石に結衣ちゃんは誘ってないよ。あ、でもその反応的には今度誘ってみるのも面白いかもねー」

「全力でやめてくれ………」



嫌な予感が外れたために、体から力がぬけてテーブルに突っ伏す形で前のめりに倒れこむ。例えるなら”ぐでーん”と言った言葉が最適だろう



「あ、おはようございます今神くん。それと遼くん、おはよう」



その時、先ほど店内に入ってきた人物が俺達の座るテーブルの前にきて挨拶をしてきた。その声は昨日、学校を休んでいたために聞く事のできなかった彼女の声であった



「あ、あれー? なんで僕は名前じゃないのかな」

「おはようございます、今神くん」

「まぁ、別に呼びたくないならそれで良いんだけどね……トホホ」



そういえば、どうして彼女は昨日学校を休んでいたのだろう? もし、風邪を引いて休んでいたのならば無理をしてここに来ているのではないだろうか。



「あの、遼くん?」

「あ、ゴメンね。ほら遼、ちゃんと挨拶は返さないとダメだろ?」



だが、今の彼女の表情などを見る限りは調子は悪いようには見えない。だったら、いつも通りに接するのが一番だろう。



「あ、悪い。ちょっと考えちまってさ………おはよう、希実香」

「あっ、別に遼くんが謝る事はないよ。だって、今神くんが遼くんに教えていなかったのが悪いんだもん」



そう言って、希実香は奏龍を指差してにっこりと微笑んでいる。


今思えば、今までも希実香は一度も俺の事を責める事はなかった気がする。やっぱり、希実香には昔からずっと苦労をかけているんだな。



「えっ、僕のせいですか!? りょ~、希実香ちゃんに説明してよ~……このままだと一方的に僕が悪いみたいじゃないか~」



まあ、苦労の原因を作っているのは紛れもなく奏龍なんだろうけどさ。でも、俺と奏龍と希実香の三人が揃ってやっとあの頃の話ができる。


紛れも無い、幼少の頃から俺を支えてきてくれたこの二人となら。



「けどな、奏龍。サプライズって言う点では楽しみを覚えているのは確かだけどよ………希実香が来るって時くらいは教えて欲しいって結構頼んでると思うんだが?」

「うっ……で、でもさ、希実香ちゃんだからこそサプライズとしては最高だと思うんだよ」



先ほどまで俺の目を直視して頼んでいたはずの奏龍だが、現在は必死に目を合わせないように目を泳がせている。


まあ、確かに奏龍が言うように、俺にとっては希実香が俺達と一緒にぶらつくというのは極上なサプライズに変わりは無いから然程気にはしていないのも事実なんだが……



「まあ、別に良いけどよ……希実香、こうして毎回予定を組んでくれるのは奏龍なんだ。だからこれくらいは大目に見てやらないか?」

「私は別に遼くんがそれでいいって言うならそれでいいんだ。よかったね今神くん」



希実香はそう言って俺の隣の席に座ると、奏龍から謝罪の代わりのように差し出されたコーヒーを受け取り、自然な動作で一口だけ口に含むとテーブルに置いた。



「それじゃあ、今日の計画なんだけど――――」



そこで、先ほどまで重い空気を作っていた張本人である奏龍がその空気を破壊して今日の計画について話し始めた。



「実はね、今日は遊園地に行こうかと思っています」



そう言って、長財布の中から四枚のチケット……おそらく遊園地のチケットを俺と希実香に一枚ずつ奏龍は配る。



「お、おい。流石に全額奢りなんてお前に悪いだろ……」



しかし、俺はそのチケットの裏に書いている金額(8600円)を見てチケットを奏龍に返そうとした。


だが、奏龍はそれを問題ないと言ったふうに俺に持たせなおすと言うのだ。



「ん、それならご心配なく~。コレは前から送っていた懸賞で当たった、いわばタダで手に入ったものだからさ!!」

「今神くんって昔からこういうのに良く当たるよねー。なにか秘訣でもあるの?」



希実香は疑問に思ったのか、奏龍に期待を込めて質問をしている。良ければ自分もやってみようかと言う表情をしながら。



「うーんとね、これと言った事はしてないよ。多分だけどさ、地道に送り続ける事がいいんだろうね」

「地道……か。うん、参考にならなかったけどありがとうね。」

「希実香ちゃん……そこは嘘でもいいから参考になったって言って欲しかったなー」



希実香の笑顔と奏龍の微妙な表情。だったら俺は今、どんな顔をしているんだろうか?


二人の表情を見て笑っているだろうか? それとも、何かを考えている難しい表情をしているだろうか………まあ、別にそんなことはどうでもいいことだけどさ



「俺はお前の計画に賛成だけどよ、希実香はどうなんだ?」



俺は奏龍に向かってそう言った後、希実香にもどうだろうかと尋ねる。



「私も別に大丈夫だよ遼くん」



すると、やはりと言うべきか希実香はあっさりとOKを出した。


そこで俺は時間を確認する。時計を見ると既に12時を時計の針は示していた。然程長い間話していた気はしなかったのだが、どうやら結構時間が経っていたようだ。



「じゃあ、昼食は現地で取る? それとも此処で食べていくかい?」



奏龍は俺と希実香を見ながらそう尋ねる。


俺としては朝を抜いているので此処で食べたいという気持ちはあるが、別に我慢できないほどでもない。だから希実香の答えを先に聞くために希実香を見る。



「じゃあ、時間もちょうどお昼時だから混む前に此処で食べたいな」



希実香は奏龍にそういうと、奏龍は俺を見る。俺は別にそれでかまわないとアイコンタクトを送ると、奏龍は言う



「じゃあ、此処で食べて行くってことで決まりということに決まりました~。各自品物を決めたら僕に教えてねー」



そう言って、奏龍は三人で見れるようにお品書きを広げるのだった。




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